【第3話】王国騎士試験開始、青年は剣を構える。
僕の名前はエフト。王国騎士を志す15歳です。
ついに、この時がやってきました。王国騎士試験が始まります。
先ほど受付をして、城内に入った僕ら受験者は、城内の庭を通り抜けて、西側にある訓練場と騎士様たちが呼んでいた場所に案内されました。
皆さん緊張しているのか顔は強ばっていて、脂汗をかいている人も少なくありませんでした。
しかし、皆さん頻繁に僕の方を見るのは何故でしょうか?
試験内容が受験者同士の対戦形式だった場合、ここにいる皆さん全員がライバルということになるので、そのために観察をしているのでしょうか?
これは一目を置かれているということでしょうか。皆さん僕より強そうなので、恐縮してしまいます。
「これより! 第123回ラーキレイス王国騎士団入団試験を始める!」
そんなことを思っていると、王国騎士様が訓練場に来られて、そう告げられました。
僕はそれを聞くと、一層自分が緊張しているのが分かりました。
「試験を始める前に、国王陛下からお言葉を賜る! 全員姿勢を正し、拝聴せよ!」
その言葉を聞いて僕は姿勢を正し直しました。
そして、国王陛下が僕らの前にいらっしゃいました。
「我が名誉ある騎士団へ入団を希望する諸君。我は4代目ラーキレイス王国国王、グライン=ガルギニアン=ラーキレイスである。皆王国騎士を望むならば、その名に恥じぬ健闘を期待する」
国王陛下はそうおっしゃいますと、すぐにご退席されました。
僕は、国王陛下に、そして国王陛下が築き上げられたこの王国にお仕えするためにも頑張ろうと思いました。
「それでは試験を始める! これより試験内容について、王国騎士団団長から諸君らに告げていただく」
司会を務められている王国騎士様がそう言うと、壮年の凛々しい王国騎士様が前に出られました。あの人が騎士団長様のようです。
「私は国王陛下から恐れ多くも騎士団長の役職を賜っているカイン=バルキルトである! 今年の試験内容は『受験者同士のトーナメント形式』とする!」
「うわああああああ!そんなああああ!」
「嘘だろ! なあ! 嘘って言ってくれよ!」
「\(^o^)/オワタアアアアアアアア!」
騎士団長様がそう告げられると、皆さん絶望に満ちた様子で叫ばれました。
僕も同じ気持ちです。
トーナメント形式ということは、合格者は一人ということになるのですから、例年に比べとても難しい内容なのですから。
しかし、騎士団長様は「オホン!」と一回息を吐き出されて、
「……予定であったが、先ほど国王陛下から、今年の受験者の数が例年に比べて少ないことと、王国騎士になるまでは諸君らも守るべき国民であるという寛大なご配慮により」
そして、騎士団長様は大きく息を吸われておっしゃられました。
「今年の試験内容は『若手王国騎士と受験者』による『1対1の対戦形式』と変更することになった!! 勝利すれば晴れて王国騎士の一員として迎える! 諸君奮闘せよ!」
「うおおおおおお! ありがてえ! ありがてえ!」
「国王陛下ああああ! 一生ついていきます!」
「国王陛下バンザあああああイ!」
「「「バンザああああイ! バンザああああイ!」」」」
騎士団長様がそう告げられると、皆さん歓喜乱舞といった様子で喜びました。
何故でしょうか。若手とはいっても厳しい王国騎士試験を乗り越えた精鋭中の精鋭である騎士様たちと戦うのですから、僕としては先ほどよりも厳しい試験内容に愕然としているのに。
受験者の皆さんが喜ばれる一方で、
「そんなああああ! 陛下ああああご無体なあああ!」
「非道い! 非道すぎる! こんなのってないよ!」
「我が生涯に一片の悔い、無いわけあるかああああ!」
何故か王国騎士様たちが絶叫されていました。
もしかしたら、受付で噂されてました『人間災害』や『山斬り』と呼ばれる人がこの会場にいるからでしょうか?
しかし、僕にそんな心配をしている余裕はありません。
今は王国最強と呼ばれる王国騎士団に所属する王国騎士様と戦うために集中しなくては。
「……なお、これより生けに……えではなく、諸君らと対戦する王国騎士を選定するため、もうしばらく待たれよ!」
そう言って、王国騎士様たちは訓練場より出て行かれました。
訓練場にいる皆さんは先ほどとは打って変わって、やる気や希望に満ちた表情をされていました。
もしかしたら、皆さん僕と一緒で憧れている王国騎士様と手合わせ出来る事を喜んでいるのでしようか。
僕もそう考えると、何だかとても嬉しくなり、より一層身が引き締まりました。
そうして、騎士団入団試験は始まりました。
受付順で名前が呼ばれ、王国騎士様と受験者の試合が行われました。
僕の前の試合を見て、やはり王国騎士様はお強いと思いました。
今のところ15人の試合が終わり、そのうち勝利されたのは一人でした。
勝利された人は家名があったので、おそらく名だたる貴族様なのでしょう。
そして、僕は自分の番が近づくにつれて、高鳴る鼓動を感じながら、自分の番を待ちました。
「それでは最後の受験者に移る。受験者番号48番! エフト!……殿」
「はい!」
僕は自分の名前を呼ばれて元気よく返事をしました。
そして、緊張して震える手をギュッと握りしめ直して、訓練場の真ん中まで向かいました。
「対しては! 第122期王国騎士団従騎士アランキー!!」
そう呼ばれた王国騎士様は目の前の訓練場の入場門から来られました。
全身甲冑のお姿で、ゆらりゆらりと歩き、まるで死に場を探している食屍鬼のように入ってこられた。
僕が憧れた王国騎士様とは程遠いお姿に、僕は少しガッカリした気持ちになりました。
ですが、すぐに僕は思いました。
これは試されているのではないかと。
よくよく考えれば、先ほどの試合をされていた王国騎士様は皆、格下の受験者に対して真剣に誠実に戦っておられました。
では、なぜ目の前の王国騎士様はそうではないのか。
これはきっと僕があまり頭が良くないことを敏感に察知されて、見た目で判断するようならば即刻斬り捨てると試されておられるのだと。
よくよく見れば、目の前の王国騎士様は闘志や殺気を完全に押し殺し、ゆらりゆらりと揺れているお姿も、まるで川を流れる木の葉のように自然な様子。
これが、王国騎士団内でのみに継承され、名前だけは広まり、しかしその技能は門外不出の奥義の1つである『流水』ではないでしょうか。
僕は少し前の自分が恥ずかしくて仕方ありませんでした。
「それでは、試合を開始する! 両者構え!」
僕は心気を改める気持ちで、用意された木刀を構えて、目の前の騎士様に告げました。
「よろしくお願い致します! 僕がこれまで培ってきた『修業の成果』を、僕の持てる『全ての力』を、『余すところなく』この試合で『発揮』させて頂きます!」
「――――!! ――ヒュウ!!」
僕がそう言うと、目の前の王国騎士様はビンと体を震わせました。
僕の思いが伝わったのでしょう。
そして、審判を務められる王国騎士様が手を振り下ろし――
「始めええ!!」
そう告げられた瞬間、僕は木刀を構えながら、踏み込、「ガシャンッ!」
…………もうとした時に、目の前の王国騎士様が倒れてしまいました。
「待てッ!」
審判の王国騎士様が試合を止めて、倒れた王国騎士様を見に行かれました。
そして、倒れた王国騎士様の兜を外されて様子を伺い、言いました。
「なっ――し、死んで、る。い、いや! 微かだが息をしている! 救護班急げ!!」
審判の王国騎士様がそう言うと、救護服を来た人たちが急いで駆けつけられました。
僕は何が起こったのかさっぱり分かりませんでした。
審判の王国騎士様は立ち上がると僕の方向にある右腕を挙げられて、
「し、勝者! エフト殿!」
とおっしゃられました。
僕はその言葉に呆然としましたが、すぐに気を持ち直して、自分が何をしたわけでも無いのに、勝ったなんて言われることを疑問に思いました。
「お待ちください! 失礼ながら申し上げます! 今の試合、僕は何もしておりません! この様な結果では、納得できません! 何卒! 何卒もう一度再戦をお願い致します!」
僕がそう言うと、審判の王国騎士様は『青ざめた顔』をされました。
「し、しかし」と青ざめた顔の王国騎士様はおっしゃられました。
その時、「待たれよ!」という声が僕に掛けられました。
そうおっしゃったのは、王国騎士団長様でした。
「さ、先ほどの試合、見事な……うむ、その、……そ、そう! 見事な『気当て』であった! よってこれ以上の犠牲、ではなく! これ以上の試合は不必要と判断する!」
「『気当て』……ですか? しかし、団長様。僕はそのようなことをした覚えはございません」
「う、うむ。つ、つまり貴殿はまだ自覚して『気当て』は出来ないということか。な、ならば今後、騎士団に入り、その技の研鑽に努めるのだ。貴殿のような者に将来を期待し、伸ばすのもまた騎士団の責務である!」
なんということでしょう。
偶然出来てしまった『気当て』という自覚のない技で勝利したことを責めるのではなく、むしろその技の研鑽に努めよとおっしゃってくださり、しかも、僕のような未熟な若輩者の将来を期待するとおっしゃって下さいました。
僕は王国騎士団長様のお言葉に感激し、胸が熱くなりました。
僕はすぐに片膝をその場で地について、頭を垂れて進言しました。
「ありがたきお言葉! このエフト! 心身ともに王国のために捧げることを誓います!」
「う、うむ。分かってくれたなら良いのだ。では! これにて第123期ラーキレイス王国騎士団入団試験を終了とする! 受験者総勢48名! 合格者は5名! 合格者は明朝より、叙任式及び配属が通達される。決して遅れることのないように! 以上解散!」
「はっ!」
王国騎士団長様はそう告げられた後、急いで訓練場を出て行かれました。他の王国騎士様も同様に出て行かれました。
きっと先ほど倒れられた騎士様のご様態を心配されているのでしょう。
僕も見に行きたかったいのですが、残られた王国騎士様にそのことを尋ねたら、
「う、むむ。あっ! し、勝者が敗者を気遣うなど、敗者にとって不名誉の他ならない。今日のところは即刻帰られよ!」
と言われました。
ああ、なんて失礼なことを聞いてしまったのか。
僕は恥ずかしい思いを抱きながら、城を後にしました。
しかし、城を出た後に、湧き上がる思いが溢れ返っていました。
それはもちろん。この十年間の修業の成果が実り、そして、なによりも長年憧れていた王国騎士になれたという喜びです。
胸の高揚がとれません。しかし、それが緊張していた時とは違い、今はとても、そう、とても心地が良いです。
その日、僕が家に帰り、合格したことを家族に伝えると、全員が涙を浮かべて喜んでくれ「おめでとうエフト」と言ってくれました。僕もみんなに釣られて大泣きしてしまいました。
父は「よくやったぞエフト! 本当に! 本当によくやった!」と僕の肩をバンバン叩きながら喜んでくれて。
母は「おめでとうエフト。良かったわね。ずうっと夢見てきた王国騎士になれて、本当におめでとう」と心から僕の夢がかなったことを喜んでくれて。
兄は「いいかエフト。お前の夢は叶ったが、でもここからがスタートなんだからな。頑張れよ。お前は自慢の弟だ」と僕を鼓舞してくれて。
妹は「お兄ちゃん。良かったね……グスッ。本当に良かったね」と僕の泣くぐらい嬉しい気持ちが伝わったのか、ずっと泣きながら喜んでくれました。
僕はその日、自分の寝床に横になりながら思いました。
これから王国騎士として、家族を、国王陛下を、国民を、そして国を守れるような、あの日見た王国騎士様のような、素晴らしい王国騎士になろうと心に誓いました。
この小説は作中の人々の思い込みに支えられています。
作中の騎士団長のセリフを、かの有名なファ◯タのCMの校長先生みたく、「……の!はずでしたがあ!!」ってしたかったけど、ちょっとネタに走り過ぎちゃうかと思って止めました。
私はちょっとした小ネタを入れるのが大好きなので、入れたかったという気持ちだけここに書かせて頂きました。
※9月22日追記
作中のエフトの一人称が「私」なっていましたが、正確には「僕」ですので、全て改変しました。丁寧な言葉遣いをするエフトなので、ついつい「私」と書いてしまうことがありますので、他の話でそういったものを見つけた際はご報告頂ければ幸いです。もちろんそうならないように努めます。