【第1話~第2話より】青年の愛する国の王、頭を悩ませる。
※この話は主人公とは別の視点の物語です。本編ではありませんので、本編を続けてお読みになる方はこのまま[次の話]を押して頂ければ幸いです。
儂の名前はグライン=ガルギニアン=ラーキレイス。ラーキレイス王国の4代目国王じゃ。
儂は国王に即位以降、いや、この世に生を受けてから最大の危機を迎えておる。
原因は、いや、元凶は一人の若者じゃ。
儂が彼を知ったのは、彼が起こした1つの事件がきっかけじゃった。
儂はいつも通り、魔王軍の侵攻と他国との国交について執務室で悶々としておった時じゃった。
「陛下! 早急にご相談したい案件が!!」
「なんじゃ! ノックもせんで、騒々しい!」
「も、申し訳ございません! ですが!」
無礼にも執務室に飛び込んできた王国騎士に、政で頭を悩ませていた儂は彼を一喝した。
何やらまた頭を悩ませてくれる案件が飛び込んできたのじゃろうと儂は溜息をついた。
「はー。なんじゃ。普段冷静なお主がそこまで焦っているということは、余程の案件なのじゃろ?」
「はっ。それが、その……」
「なんじゃ。はっきりせんのう」
儂はますます、きな臭い面倒事じゃろうと思った。
王国騎士は呼吸を整えると、儂に進言した。
「申し上げます陛下。陛下は王都西部に広がる大平原に唯一そびえ立つ山。『ゴバ山』をご存知でしょうか?」
「山があるのは知っておるが、そのような名前じゃったかのう。最近物忘れがますます酷くなってかなわん」
「いえ、山があることをご存知でしたら問題ありません。……先程、そのゴバ山の山頂が『斬られました』」
「斬られた?」
何を言っておるのだろうかこの王国騎士は。
「虚言や空想では御座いません。ある、ある一人の少年によって、山頂の一部が『細切れ』になったのです」
「山の一部を『細切れ』にしたじゃと。お伽話や神話じゃないだろうに。にわかに信じられん」
「無理はありません陛下。しかし、私も報告を受け、真偽を確かめるために、件の山を実際に見に向かいましたところ……、ものの見事に、何かしらの人為的な、いや、驚異的な力によって、山頂の一部が欠損しておりました」
「…………真か」
「はっ。王国騎士の名に賭けて」
この者がここまで言うからには、本当の事なのじゃろう。
まさか、本当にそのようなことをやってのける輩がいるとは。
しかし、
「お主、斬ったのは『少年』と申したか」
「はっ。齢12歳の少年です」
「なんじゃその者は、魔人、いや神の子とでも言うのか」
「いえ、身元を調べた部下の報告によりますと、王都南区の鍛冶屋の次男坊。つまり、平民です。人族で、亜人族でもありません」
「平民……、祖先に英雄、もしくは大魔導師と呼ばれた者でもおるのか?」
「そこまでは調べきれておりませんが、南区は元々建国以来からの居住者が多い区域。そのような出自の者が入れば、王国騎士団情報室が見落とすはずがありません」
「……そうか」
平民出で、祖先にも英雄や大魔導師と呼ばれる者もなく、魔人でも亜人でもない。
ただの少年。
その少年が、神話だけで語られるような力を持ち合わせている。
これが『異常』と呼ばず、なんと呼べばよいのか。
しかし、待つのじゃ儂よ。
その少年の力。昨今活性化されている魔王軍の侵攻や細かいことにいちいち五月蝿く突っかかってくる他国に対して、……使える。
使えるではないか!
「ふぁっふぁっふぁ! なんと、なんと!? 急いで騎士団長を呼べ! なんとしてもその少年を他国に渡してはならん!」
「はっ! しかし、陛下、かの少年が他国に渡る心配はまずありえません」
「む? なに? 心配はない? どういうことじゃ?」
「その前に陛下。もう一つお聞きしたいことが」
「なんじゃ。申してみよ」
「その少年。王都民の間では有名な者らしく。2年前、王都南部の大森林が、大伐採されたのをお覚えですか?」
「うむ。覚えているに決まっておる。あのせいで、森の民たちと戦争になるところじゃったんじゃ」
「あの件もその少年が原因とのことです」
「……なん、じゃ、と」
僅か一日で大森林の10分の1が伐採されたという、あの忌まわしき事件の主犯が少年じゃと?
道理で冒険者ギルドからの報告が空を掴むような曖昧さだったわけじゃ。
「陛下。そして、かの少年にはこの様な噂があります」
「なんじゃ。申してみよ」
「『エフト修行中。危険立入禁止。細切れ注意!!』と」
「どういうことじゃ?」
「言葉の通りです陛下。その少年。エフトに近づく者は、人であろうが、魔物であろうが、近づくもの全て『細切れ』になるだけなのです」
「近づけば細切れになるだけ……だ、と」
そのような馬鹿げた話聞いたことがない。
近づくだけで命を断つだけではなく、『細切れ』になるなど。
しかも、それが12の少年。
……扱いきれるか? いや、無理じゃろう。そのような世の理を無視する存在。扱いきれるはずがない。
「はぁー。もうよい下がれ。儂は頭が痛い。騎士団長にはお主から報告せい」
「はぁ。あ、いや、はっ! それでは失礼致します!」
そう言い残して、王国騎士は部屋を出て行った。
そのような扱いきれない爆弾が、この王国内に存在する。
それだけで、十分な脅威であり、そして、想像を超える力に対する打開策など思いつくはずもなく、やはり儂の頭を悩ませる案件となったのじゃった。
「むしろ、他国に渡した方がいいかのう……」
あれから3年。
エフトと呼ばれる少年の名は、王都だけではなく、王城並びに他国にもその名が広まったのじゃが、名だけが広まるだけで、儂の頭を悩ますような事件は起こさなかったので、あまり気にもせんかった。
しかも、幸いにも他国には『ラーキレイス王国の守護剣』『王の懐刀』など、儂に都合の良いように広まり、他国との国交問題は緩和されたのじゃった。
そして、今日は王国騎士団の入団試験の日。
儂は毎年恒例のこの行事が、例年通り何事も無く終わるとそう思っておった。
騎士団長からその『偉大なる不吉な名』を聞くまでは。
「陛下。例の少年、いや、今は青年ですか。……あのエフトが本日の入団試験に現れました」
「――なんじゃと!? どういうことじゃ!?」
「はっ。以前よりエフトは、我が王国の王国騎士になるために、『修行』……、我々からすれば『奇行』を行なっていたようです」
「馬鹿者!? なぜ、そのことを蔑ろにしたのじゃ!?」
「陛下。お言葉ですが、冒険者ギルドで言うところのSSランクの依頼に当たる西の大平原に巣食う『古の緑竜』を一撃で屠る者が、一生を遊んで暮らせる稼ぎが出来る者が、一定給の王国騎士になろうなどと、誰が予想出来るでしょうか」
「……む、確かに」
高給の王国騎士といえど、『竜を狩る者』に比べれば、それは雀の涙ほどの賃金じゃ。出来る者がそちらにならないなど、『ごく一般的な平民の感性』を持つ者ならば、どちらを選ぶかなぞ、明白。
しかし、エフトという青年はそうはしなかったということじゃな……。
「ふぅー。頭が痛いわい」
「どうされますか?」
「どうもこうもないわい。エフトという青年。王国騎士にさせるしかないじゃろう」
「正気ですか!?」
「これ、不敬じゃぞバルキルト。まあ、それほどお主も動揺しておるのじゃろうから不問とするが」
「も、申し訳ございません」
「よいよい。考えてもみるんじゃ。エフトという者は、あの『馬鹿げた力』を身につけるほど、我がラーキレイス王国の王国騎士になりたかったのじゃろう。もし、それがなれんかったとすればどうなる?」
儂は一息ついて続けた。
「……儂には『最悪な事態』が起こるとしか想像できん。ならばじゃ。扱いきれるとは思わんが、例えどれほどの『バカ馬』だとしても、握れる『手綱』があるとないとでは、大きく違うとは思わんか?」
「はっ! 陛下の仰る通りでございます」
「それに、エフトという名は、今や幸か不幸か我が王国の『防壁』とまで成長した。ならば、それを裏付ける『証拠』を与えれば、他国も我が王国に強気な態度はもう見せられまい」
「聡明なるご判断。カイン=バルキルト。感服したしました」
「うむ。本日の入団試験に関してはお主に一任する。では『くれぐれも』良きに計らえ!」
「はっ!」
騎士団長はそう応答すると儂の前をあとにした。
それはそうとしても、
「はぁ~。不幸じゃぁ~」
国王陛下は決して、良い王様ではありませんが、彼の選択が国を救いました(笑)
タグを確認していただくと、分かりますが、「主人公以外シリアス」なので、「青年を取り巻く人々の物語」は若干シリアス調になっております。
一応本編である主人公視点では描かれない世界設定を表現する意味合いも含んで書いております。
まあ、プロットやら設定は書きながらの後付なので、絶対どこかで矛盾が生じると思いますが、何卒寛大なご配慮をお願い致します。