【第2話】王国騎士試験当日、青年は気を引き締めて受付に向かう。
僕の名前はエフト。ラーキレイス王国の王国騎士に憧れる15歳です。
僕は今とても緊張をしています。
何故ならこの10年間の修業の成果が今日試されるからです。
ラーキレイス王国騎士団入団試験
王国騎士になるための唯一の方法で、年に一回開催され、15歳以上で王国民ならば誰でも受けることが出来ますが、生涯に一回しか受けられなく、毎年試験内容が変わるというとても難しい試験なのです。
今僕は王城の城門の前にいます。
僕のような平民では一生入ることの出来ない王城ですが、この試験の時だけは、城門が開かれ、受験をする人なら入ることが出来るのです。
王城に入ることをこの10年間で何十回、何百回と夢に見てきました。
先程から僕の心臓はドクンドクンと鼓動が速く、呼吸もいつもより苦しく感じます。でも緊張と同時に、ワクワクとした気持ちも僕は感じていました。
城門の前には例年通り、たくさんの受験者が集まっています。
でも僕のように若い受験者は全然いません。
何せ、一生に一回しか受けられないのですから、皆さん自分を鍛えてから満を持して受けるのでしょう。
僕も早く憧れの王国騎士になりたいという気持ちはありますが、まだまだ自分が王国騎士に見合う実力があるかというと自信はありません。最初は僕ももう少し納得行くまで修行をしてから受けようと思っていたのですが、そのことを家族に相談した時に、
父が「まだ、試験を…受けない……だ……と、な、なにを言ってるんだエフト! お前なら『もう十分』大丈夫だ! もっと自分に自信を持つんだ!」
母が「そうよ! あんな修行……じゃなくて、あんなに一生懸命修行をしたのだから、大丈夫よ! エフトなら王国騎士になれるわ!」
兄が「そ、そうだぞ。俺の目から見たらエフトは十分素質があると思う。じ、自信を持つんだ!」
妹が「お兄ちゃんが騎士様になれないなんてありえないよ! 頑張って!」
と、とても励ましてくれたので、受検する決意をしたのですが、やはり不安は不安です。
「これよりラーキレイス王国騎士団入団試験の受付を開始する!一人ひとり、名前と年齢、性別と出身地を受付の者に告げて、入城を開始せよ!」
僕がそんなことを思っていると、受付が始まりました。
僕を含めた受験者は、列を作って、自分の番を待ちます。その列の中で僕は先頭から大体50人目ぐらいのところに並ぶことが出来ました。毎年国中から受験者が集まるので、僕の後ろには長い長い人の列が出来ていました。聞いた話によると、一番受験者が多かった年は城門から中央広場まで約3000人程の列が出来たそうです。
毎年、その列を見ていた僕は、早くあの中に入りたいと何度もそう思ったものです。そう考えると、今年は受験者が多いように思います。恐らく2000人はいるでしょう。
まだかまだかと自分の番を待っていますと、先ほどまでの緊張が、むしろ高揚に変わっていくように思いました。
「次の者!一番右の受付に向かえ!」
「は、はい!」
ついに僕の番が来ました!
僕は指示通りに一番右の受付の前まで行きました。
「では、名前、年齢、性別、出身地を述べよ」
「はい! 名前はエフト! 年齢は15歳です! 性別は男です! 出身地は王都南区です!」
僕は元気よく自分の事を受付の人に話しました。
すると、ポロッと受付の人が手に持っていた羽ペンを落としてしまいました。
僕がその羽ペンを拾おうとすると、
「おお、お、お前、今、名をなんといった?」
「え? は、はい! 名はエフトと申します!」
もう一度僕が元気よくそう言うと、周りがすごく騒がしくなりました。
「あ、あの噂は本当だったのか!?」
噂? 噂とは何のことでしょうか?
そんなことを僕が思っていると、受験者の列からも色々な話し声が聞こえてきました。
「あ、あいつが『細切れ』で有名な……」
「『人間災害』が試験を受けるなんて聞いてねえぞ!?」
何やら物騒な言葉が聞こえてきます。
「なんで『山斬り』がこんなところにいるんだよ!?」
「お、俺聞いたことあるぞ!『森喰い』が王国騎士を目指してる話を!」
「なんで今年なんだよ!! この日のために腕を磨いてきたのに!?」
そんな凄そうな人が今年試験を受けるなんて……、これは一層気を引き締めないと!
「いや、待て。『絶対細断』があんなに華奢な体つきのはずがない!」
「た、確かに。とてもあんな体つきじゃ『奥義・空斬飛翔烈震剣』が繰り出せるとは思えん」
「た、ただの同名か?」
華奢な体つき? 僕以外皆さん体が大きい人ばかりに見えますが、もしかして反対側の向こうの受付にいるのでしょうか?
「おい! そこのチビ!」
僕が周りが騒がしくなったのを不思議に思っていると、僕の方に向かって、僕の二回りも体が大きく、すごい筋肉を身に纏った男性が近づいてきました。
すごく迫力のある人で、僕は少し怖くなりました。
「は、はい。なんでしょうか?」
「あーん? ……へっ。やっぱりただのガキじゃねえか。ビビらせやがって」
「え? はあ、よくわかりませんが、すみません」
僕はこの怖い男性に理由はわかりませんでしたが、謝りました。
「おい。列を乱すな。早く列に戻れ」
すると、王国騎士様の一人が、この男性に列に戻るように言いました。
「うっせえな! 分かってるよ!」
男性は乱暴な言葉で、王国騎士様を押し退かしました。
むっ、僕たちの国を守って下さる王国騎士様になんて無礼な態度を取るんだこの人は。
「待って下さい!」
「あん? なんだチビか」
「王国騎士様に向かって無礼な態度。謝って下さい!」
「てめえ、誰にむかってもの言ってんのかわかってんのか?」
男性は目つきを鋭くして、また僕の方に近づいてきます。
しかし、先ほどの態度に僕は怒っていました。
「王国騎士様はこの国にとって無くてはならない存在。そんな人になんて態度ですか! あなたも王国騎士を目指すのでしたら、恥ずかしいと思わないのですか!?」
「大人しく見逃してやったのに、てめえ覚悟しやがれ!」
男性はそう怒鳴って、右手を握りしめながら、拳を振りかぶりました。
僕はそれを見て怖くなり、目を瞑りながら、『力一杯』両手で男性を『押し』ました。
「…………?」
男性を押した後しばらくして、妙に静かだったので、恐る恐る目を開けると、そこに男性はいませんでした。
僕は、男性が考え直して、列に戻ってくれたのだと思い、安心しました。
「一体何が起きたんだ!? いきなりあいつが消えたぞ!?」
「お、俺はギリギリみ、見たぞ! 信じられないが、すごい速さで飛んでいったのを!」
「う、嘘だろ。これがほ、本当の『人間大砲』!? 本物のバケモノ――!?」
また、周りが騒がしくなりました。一体どういうことでしょうか?
すると、列にいた男性の一人が透き通る声で言いました。
「おい。マジかよ。もし、試験内容が受験者同士の対人戦だったら」
その言葉で周りがまた静かになりました。
「対人戦……」
「バトルロワイヤルって年もあったよな……」
「チームを分けて団体戦ってのもあったような……」
「もし、武器ありの試合形式だったら……」
「…………」
「「「無理だろおおおおおおおおおおお!!!」」」
「俺は今年は諦めるぞおおお!」
「おうちに帰るううううう!」
「ていうかあいつが王国騎士になったら、もし俺がなれても……うああああああ!!」
「もう王国騎士になんてならねえよ!田舎で畑耕していたほうがましだああああ!!」
「うああああああああああ!!逃げろおおおおおお!!」
何故か皆さん、昔兄が教えてくれた『青ざめた顔』をして、列を崩して走ってどこかへ行ってしまいました。
「嫌だあああ! まだ死にたくない! 戻らしてくれええ!」
僕の後ろからそんな声がしたので、何事かと思い振り返ると、僕より先に受付を済ませた受験者さんが、王国騎士様に体を止められながら叫んでいました。
きっと、一生に一度しか受けられない王国騎士試験に不安になったのでしょう。僕もその気持ちがすごく分かります。
僕はそんな同じ不安を抱える彼を、僕が家族に励まされたように励まそうと思い、彼に近づきました。
「あなたも受験者ですよね。あなたの不安よく分かります。でも大丈夫です。さあ、『一緒に』頑張りましょう!」
僕はそうやって彼を励ますと、彼は何故かそのまま目を白目にして、口から泡を吹いて倒れてしまいました。
僕は慌てて、王国騎士様に彼を救護室に運ばせてもらえないか頼みました。
しかし、王国騎士様は「いや、我々が彼を運ぶので! お前、いや、あなた様は試験に集中して下さい! お願いだから!」と言って、彼を担いで城内へ運んでいきました。ああ、なんと優しく、なんて思いやりに溢れた方だろうと僕は思いました。やはり、王国騎士様は僕が憧れた通りの素晴らしい方ばかりだと感動しました。
でも、何故騎士様は表情が引きつっていたのでしょうか?
「…………、受験者総勢48名。以上で受付を終了する」
受付の王国騎士様がそう言って、皆さんいそいそと片付けを始めました。
今年は随分受験者が少ないなーと思いましたが、もしかしたら今年はそれだけ試験が難しいのかも知れないと思い、僕は気を引き締め直して城門を生まれて初めて通り、そして、生まれて初めて城の中へと入って行きました。
ラーキレイス王国騎士団入団試験受験者48(略称:LKE48)