【第7話】魔法を覚えるべく、青年は手立てを探す。
僕の名前はエフト。今はただのエフトです。
僕は今、妹も通うラーキレイス王国立フィリアセレス学園の校舎の前に立っています。
なぜ僕が学園にいるかというと、魔法を習いに来たからです。
今朝、イーファ様から一ヶ月以内に魔法を使えるようになれば、専属騎士に戻ってもいいという、ありがたきお言葉を頂きました。
ならば一刻も早く魔法を習得し、イーファ様の専属騎士として恥にならぬように努めるのが、恩返しというものではないかと僕は思います。
そして、魔法のみならず、何かを学ぶのならば、学校に行くのが一番いい方法だと思いました。
僕はまずは、学園の来賓用の昇降口に行き、受付で名前を名乗りました。
何故か受付の先生は、僕の名前を聞いた途端に『青ざめた顔』をされた後に、椅子が倒れるほど勢い良く立ち上がり、急いでどこかに行っていましました。
しばらく待っていると、パタパタとした音が近づいて来て、息を切らした受付の先生と以前お会いした事のある学園長先生がいらっしゃいました。
学園長先生は真ん中分けの黒髪を少し振り乱され、鼻の上にちょこんと掛けられた丸メガネが少し左側にズレていて、まだ目尻に皺があるぐらいで、僕の両親と同じぐらいのお歳のように見えましたが、何やら少しお疲れのご様子に見えます。
「お、お待たせいたしました。ハァ、ハァ、ほ、本日はどのようなご用件で?」
「いつも妹がお世話になっております! 本日はお願いがあり参りました!」
「お、お願いですか? そうですか……取り敢えずこのようなところではなんですし、こちらへ」
「はい! 突然の来訪に関わらず申し訳ございません」
僕は学園長先生に案内して頂き、綺麗なソファーが向かい合わせになっている部屋に来ました。
学園長先生に促されてソファーに座らせてもらうと、腰を包み込むようにフワフワとした感触がしました。
「そ、それでお願いとは何でしょうか?」
学園長先生は何やら落ち着かない様子でそう僕に聞かれました。
「はい。僕に、僕に魔法を教えて下さい!」
僕はそう言って頭を下げます。
顔を上げると学園長先生は何やら不思議そうなお顔をされていました。
「魔法を……、習いたいということですか?」
「はい!」
学園長先生は少し安堵されたご様子で言葉を続けられました。
「しかし、本学園への入学は、来年の春まで待っていただくことになりますが?」
「いえ、入学希望ではなく、実は――」
僕は学園長先生に、イーファ様の専属騎士を解任され、その後国王陛下とイーファ様のご厚意で一ヶ月以内に魔法を覚えれば、専属騎士に復帰できることを伝えました。
一通り僕が話し終えると、学園長先生は「フゥー」と、先ほどまでの緊張感のある表情から一転、生気の薄い顔と云えばいいのか、影のある険しい顔と云えばいいのか、とても複雑なお顔になりました。
「……お話は分かりました。しかし、当学園の生徒でないあなたに魔法を教えることは出来ません」
「え!?」
「現在全ての教員は授業を受け持っていますし、学級にも空きはありません。第一、学園以外の方に教えるのは当学園の規則上無理なのですよ」
学園長先生は淡々とそうおっしゃいます。
「そ、そんな……。お願い致します!ご無理を承知でお願いします! お金が必要なら冒険者をやっていた時に稼いだものがありますので払えます! 何卒お願い出来ないでしょうか?」
僕はなんとかご指導頂けないか食い下がりました。
「チッしつこい」
「え?」
「……いえ、なんでも。とにかく無理なものは無理です。もし魔法を学びたいのでしたら、冒険者ギルドにでも行って、家庭教師を雇えばいいのではないでしょうか? きっと集団指導の学園より丁寧に教えて下さいますよ」
「家庭教師……ですか」
「ええ。ですから、この度のご用件については引き受けることは出来ませんので、お引取りを」
そうおっしゃった学園長先生はニコリと笑顔を浮かべられましたが、何故か僕はそのお顔を見て寂しい気持ちになりました。
「…………はい。お忙しいところ、大変失礼致しました。ありがとう、ございました」
「ええ、では。出口までは分かりますよね?」
「あ、はい」
「そうですか。それでは、また何かありましたら、お越しください。もちろんこの様なご用件は受けられませんが」
「はい。失礼致しました」
僕は残念な気持ちになりつつ、部屋を後にして学園を出ました。
しかし、落ち込んでもいられません。
学園長先生からご助言頂いたように、冒険者ギルドで家庭教師の依頼を出しましょう!
僕は以前お世話になった冒険者ギルドにやって来ました。
ついこの間までお世話になっていたで、通い慣れた古巣とでも云うのでしょうか。何回も通ったギルドの開き戸を開けて中に入りました。
「ようこそラーキレイス王国冒険者ギルド………………へ?」
「あ、お久しぶりですお姉さん。復職されたんですね」
ギルドに入ってそこにいたのは、僕が初めて依頼を受けた時に受付をされていたお姉さんでした。
初めての依頼をしている時に急に倒れられて、その後、ご迷惑をお掛けしたことを謝ろうと定期的に他の受付の方にお姉さんについて聞いていたのですが、自宅療養中とか、長期休暇中とか、産休中とか、育児休暇中とか、介護休暇中とかで、かれこれ五年ぶりぐらいにお会いしました。
驚いた顔をされていますが、血色は良くお元気そうでなにより……あ、『青ざめた顔』になられました。
「ど、どうして、王国騎士になったって、聞いてたのに」
「あ、それが――」
僕は先程学園長先生と同じ内容を伝えました。
すると、僕が話をしている途中からお姉さんは体が震え始め、次第にその揺れは大きくなっているように見えました。何故でしょうか? もしかして、まだあまりお体が優れていないのでしょうか?
僕が話し終わると、お姉さんは恐る恐るといったご様子で僕に聞いてきました。
「つ、つまり、魔法を教えてくれる人を募集したいってこと?」
「はい。その通りです」
「もし、仮になんだけど、そのまま魔法を覚えられないで一ヶ月過ぎたらどうするの?」
「え? ……それはとても残念ですが、王国騎士を辞めざるを得ないと思います」
「い、いえ、その後どうするのかを聞きたいのだけど……」
「?? そうですね。考えてないですけど、一度家を出た身としては家に戻るのもおかしいので、……多分また冒険者になりますね。その時はよろしくお願いします!」
「――あ、ひゅ~ん」
僕がそう答えると、お姉さんは突然立ち眩みがしたのか倒れてしまいました。
「大変だ! また『カーナさん』が倒れたぞ!」
「くそう! うちのギルド一、二を争う美人が!」
「カーナさんが戻ってくるまで何年待ったと思ってるんだ!」
「そんなことより! 早く介抱を!」
「大丈夫だ! こんな事もあろうかと、『森喰い』が入ってきた時にパーティメンバーに頼んで、教会の治療師を呼びに行ってもらったぜ!」
「グッジョブ!」
お姉さんが倒れると同時に、それまで、ギルドの中にあるテーブルで静かに座っておられた冒険者さんたちが一斉に立ち上がり、動かれました。
あ、お姉さんの名前はカーナさんって言うんですね。
その後、カーナさんは冒険者の人が連れて来られた教会の治療師様に介抱され、冒険者の人たちに見守られながら、ギルドから運び出されました。
僕は体調が悪いのに、無理をしてでも職務を全うするカーナさんのその姿勢に敬服致しました。
カーナさんが介抱されている間、僕はというと、これまで僕の担当をして下さっていたギルド職員の人が、カーナさんの代わりに、僕の家庭教師募集の依頼の手続きをして下さいました。
僕は一言感謝を述べた後に、カーナさんのお見舞いに行こうと思い、それを告げて行こうとしたら、
「「「悪化するからやめてくれ!!」」」
ギルド職員の人だけでなく、他の冒険者の人たちも一斉にそうおっしゃいました。
一瞬僕は驚きましたが、考えてみれば体調を崩されたばかりのカーナさんにお会いするのは、負担になるでしょうし、皆さんのおっしゃったことはまさにその通りでしょう。
配慮の足りない行動をしようとして恥ずかしい限りです。
僕はそのままギルドを後にして、実家に足を運びました。
取り敢えず万が一のことを考えて、家族にはちゃんと報告しようと思います。
家に戻ると、まず始めに母が夕飯の支度をしていました。
母は僕が家に帰ってきたことに少し驚いた様子でしたが、すぐに「お帰りなさいエフト。どうかしたの?」と優しい言葉を掛けてくれました。
その優しい言葉で、少し僕の胸がチクリと痛みましたが、僕は注いでもらったお茶を啜りながら、王国騎士になってからこれまでのことを話しました。
僕が話し終えると、母は「エフトは魔法が使えなくたって十分強いのに! 私の自慢の息子を、姫様ったらひどいわ!」と怒りました。
僕は母のその言葉に嬉しい気持ちになりましたが、国王陛下とイーファ様が僕のことを思って、専属騎士に復帰する機会を下さったことをもう一度説明しました。
それを聞いて、母は「本当にそうかしら? うーん」と言っていましたが、最後にはちゃんと分かってくれました。
そして、僕がもしかしたら王国騎士を辞めることになってしまうかもしれないことを伝えると、今度は母は僕に怒りました。
「まだやってもいないことを悪い方に考えてどうするの! あなたは私達が幾ら怒ったって王国騎士になるためのあの修行をやめなかったでしょう! そのやる気を今出さないでどうするの!」
「僕だってやる気がないわけじゃないです! ……でも、もしかしたら」
「なら頑張りなさい。あなたの頑張りはこれまであなたを裏切ったの? 違うでしょう? あなたが本当にイーファ姫様の専属騎士に戻って、王国騎士を続けたいならやれるだけのことをやりなさい。それで駄目だったなら私はエフトを責めたりしないわ。でもこうやって弱音を吐きながらやった結果だったら私はエフト、あなたをまた叱るわ」
母の言葉は今の僕にとってとても厳しく、同時にとても心強い言葉でした。
僕は残ったお茶を一気に飲み干して、立ち上がりました。
「分かりました! これまで通り全力を出して一心に頑張ります!」
「いいえエフト。あなたは全力を出してはいけないわ」
「え? でも今……」
「いい? 私が言ったあなたの頑張りというのは、全力を出して我武者羅に修行をすることじゃないのよ。あなたが王国騎士になるという夢を信じて挫けずに続けたその頑張りのことを言っているの。普通の人が5歳の頃に抱いた夢を純粋に信じて諦めずに進むことがどれだけ難しいかを知りなさい。それはとても難しいけど、とても素敵なことなのよ」
「…………夢を信じる、ですか?」
「そう。それがあなたが持っている一番素敵な所なのよ」
僕は母の言葉を聞いて、すぐにその言葉の中に意味する全てを理解することが出来ません。
でも、なんとなくスッキリしました。
「ありがとうございます。何だかスッキリしました」
「ええ。なら行きなさいエフト。お父さん、エドルフとエイナには私から上手く言っておくわ」
「はい!」
僕は軽くなった足を前に前にと出して玄関を開きます。
そして、なんだか晴れた気持ちになり自然と声が出ました。
「行ってきます!」
僕は元気よくそう言って家を後にしました。
そして、誰のためでもなく、何よりも自分が魔法が出来ないということが悔しいことを思い浮かべ、そのために出来る事をやろうと決意しました。
大変お待たせ致しました。
ようやく次話投稿です。
この前の話を投稿した後にすぐ体調を崩し(まあ運良く仕事が休みの日だったから良かったんですが^^;)、仕事が上半期の総括やら、うんたらかんたらで忙しく、そして極めつけに資格試験が重なったので、全然書けませんでしたorz
しかし、ゆっくりとまた他の作者様の作品を読むことが出来たので、私にはこのぐらいのペースが丁度いいのかも知れませんねやっぱり^^;
さて、今回のお話ですが、本編なのに若干シリアス?が入ってしまいましたが、これはちょっと順風満帆なエフト君に試練を課そうという私の個人的な考えの元そうしています。第7話の時点で色々とエフトがハチャメチャやってくれるのではないかと期待していた方々には大変申し訳ございませんでした。
まぁでも最終的には爆笑は難しくてもスッキリ爆走ぐらいにはなる予定ですので、長い目で待って頂けると幸いです。
お知らせ①
ついこの前大見得を切って投稿の仕方についてアレコレしましたが、システム上の面で、そのやり方だと無理があったことが7話を投稿しようとして気づいたので、結局「青年を取り巻く人々の物語」の話を本編の合間合間に挟むことと致しました。
大変ご迷惑をお掛け致しました。
お知らせ②
兼ねてよりタイトルの改題について、ご感想等に返答しましたが、この度今後の物語の進展も少しだけ考慮に入れて何個かタイトル案を作りましたので、ご意見頂ければ幸いです。
◯王道系タイトル案
・王国騎士物語~素振りから始まる救いの物語~
・超無自覚青年エフト
◯最近のライトノベルチックなタイトル案
・まずは素振りから!~無自覚勘違い男が征く~
・僕が素振りをするとみんなが青ざめる
◯現タイトルの問題点を改善?したもの
・努力で最強になった青年の物語
◯悪ふざけしすぎたタイトル案
・まずは素振りから! 「「「やめて!!」」」
・ものすごくおおきく振りかぶって
・天元突破騎士エフト
・超化物語
・とある修行の超絶素振
・アウトブレイク・スイング
・あの日見た青年の名前を知らない者を僕達は知らない。
・進撃の斬撃
・日曜異世界劇場「エフト」
……タイトル案を考えすぎて、頭がパーンして、途中から悪ふざけのタイトルしか思い浮かばなくなりましたorz
上記のタイトルを見て、これなんかいいんじゃないとか、これはこうしたほうがみたいなご意見があれば教えて頂けると助かります。
11月までにはなんとか改題まで持っていければいいなあと考えていますので、改題の方はもうしばしお待ち頂ければ幸いです。
それではまた浄土~♪(この古いネタ分かる人いるかな……)