少年は『奇妙』と出会う
初めて投稿します。みなさん、読んでください。
悪い予感はなんとなくしていた。
乙女座は下から数えた方が早く、いざ学校に登校しようとしたら、自転車がパンクしていた。歩いて登校しようとしたら、犬の糞があともう少しで頭にかかりそうになった。
悪い予感をしないのは鈍感な人だ。
彼は、阿満翔はそれなりに鋭いと自称しているだけに、今日は何かあるなと予感を抱きつつあった。
この日は妙に頭が冴えているのに、痛みもまた抱いていた。
保健室で寝たい気持ちが先立ち、少年はいつもより早めに家に出た。
風邪を引いていたらこんな症状にならない。いったいなにが原因なのか、自転車を漕ぎながら考えていると、通学路の公園で翔は奇妙なものを見た。
感情としては、『美しい人』の方が正解だろう。
朝の太陽は黄金色の長髪を輝かせ、見たことのない制服には気品も感じる。しかも制服の上からでもスタイルがいいとわかってしまう。
容姿は最高のパティシエが芸術的に作ったジェラートスイーツのようである。だが、ジェラートなだけに、彼女から近寄りがたい冷たさもある。間違いなく日本人ではないだろう。そんな顔立ちだ。
そんな大人らしい彼女を、なぜ翔は『美しい人』よりも『奇妙な人』と先行してな認識したのか。
本を読む姿が奇妙なのだ。
彼女はフラミンゴのように一本足で立ち、手には分厚い書物を持って読んでいる。
「あれが厨二病か」
なるほど、社会の片隅で問題視されるわけだ。あんな人と関わればよろしくないことになりに違いない。
阿満翔とは極力平凡を望む学生である。颯爽と去ろうとする翔は、次の瞬間、驚いて足を止めることになる。
公園にいたはずの少女がいたのだ。しかも片足立ちで分厚い本を読なみながら。
この現象に戸惑い、驚く翔。
少女は、分厚い本を音を立てて閉じた。そして翔を見下ろす。
その視線に、翔は屈辱に近い念を抱かずにはいられない。
なんと冷たい目か。心ない権力者が貧民を見下す古典的な目である。
「きみは、こう思ったはずだ。一本足で立って聖書を読むこの私に関わりたくない、と」
「・・・・・・・・・」
「ふふふ、言葉にならないか。それでいい。今日見たことは忘れ―――――――」
「綺麗だ・・・・・」
それは、無意識の中で放った言葉である。
人は、極上な物質を前に感想を述べたくて仕方ない生き物だ。
最高の映画ならば「面白かった」、最高の料理ならは「美味しかった」。故に、美しいの枠に当てはまらない彼女の美貌を前に、翔の反応は当然と言える。
「・・・・・・・・・はぁっ!?」
だが、少女の反応は翔とは大きく異なったものであった。
どこからかポフンとかわいらしい爆発音が聞こえ、その発生源らしき人は白い肌を真っ赤に染めている。水をかければ蒸発してしまいそうだ。
「と、とにかくも・・・・・・・今日見たものは忘れて、一刻も早く――――――――」
刹那、翔が抱いた違和感は実にシンプルだった。
すべての毛が逆立つような悪寒。
遥か昔から伝わる『恐怖』に対する事故防衛が作動したのだと、翔は知らない。
か、少女は意味不明は『恐怖』を理解したように、小さく舌打ちした。
「来たか!」
少女が視線を向けた先に、一人の男性がいた。ホームレスと思われそうな身形であるが、髪の隙間から見えた眼光は、ホームレスの虚しさとは違う。獲物をとらえた獣の目だ。
「ほう、面白い。現世にて私を倒せると思っている人がいるようだ」
また悪寒。
指をバキバキ鳴らし、少女は不敵に笑って見せた。心なしか、金色の長髪は雷のように輝いたように見えた。
「おいおまえ。おまえは目撃するぞ。世界はどんな偽りに護られているかを」
少女は笑っていた。しかし、その笑顔は本当の笑顔ではないとわかる。
彼女の笑顔を見てみたい。そんな思いは、次の瞬間に吹き飛ぶことになる。
世界は偽りに護られていて、平凡なはずの学生は、世界の真実を知る。
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