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伝説の剣……

 気持ち改め、まず求めたもの。それは、伝説の勇者の剣だ。

 まずは武器だろう。

 それも伝説と名のつくほどの名剣だ。これからの旅が楽になるかもしれない、そう考えたのだ。

 話に聞くと、それは女神が打ち鍛えたという。

 女神が汗水流して鎚を振るうその姿、とてもじゃないが信じられない。きっと、わしなんかよりも腕が太くて逞しいお姿をしているんじゃないだろうか?

 女神なら、もっと美しく華奢でしなやかでか弱そうな女子がいいな。と思うのは世の男の驕りだろうか。

 このご時勢、女が剣士、戦士になるくらいだから。女子供と馬鹿に出来なくなってきているのかもしれんな。


 そうして妄想もそこそこに、わしらは女神の塔と呼ばれるでっかい塔へとやってきた。

 ここへ来るのに、ウェンネルソンからは三日もかかった。途中、宿場町を転々として、旅の醍醐味を味わうことが出来たように思う。

 その名のとおり、ここの最上階には女神がいるらしい。

 周囲を広大な湖に囲まれ、その湖の中心。小さな浮島に女神の塔が建っている。

 親切なことに、桟橋に小船が繋がれていたため、わしらは苦労することもなく浮島へと渡ってこれた。

 塔の外観としては、白金のようにピカピカで背がかなり高い。下から上を見上げても……いや、頂上は見えるのだが、これが階段で上らなければならないとしたら、わしには苦痛以外のなにものでもない高さだ。

 アルノーム城の大階段、何往復くらいだろうか?

 今から気鬱で仕方がないのだが、言い出したのはわしだ。勇者たる責任は果たさねば……。

 ――と、突如として、塔の上のほうから声が響いた。


『よく来ました、勇者一行。待っていましたよ』

「もしや女神?」

『そうです、私が女神。美しき美神』

「美神で美しき神なんだから、最初の美しきはいらないだろ。意味が重複してんぞ」

『耳ざとい女剣士、あなたはこの塔への入場を許可しません』

「なんでだよ! 横暴な神だな。その前に姿を現せよ。魔王だって幻影で一度出てきたのに、卑怯だろ」


 女剣士のライアが女神に噛み付く。

 正論を言ったまでなのに出禁をくらってしまったことが悔しいのだろう。

 するとクレリックのソフィアが前へ進み出て言った。


「私はこの脳筋と違って分を弁えています。塔への入場を許可してくださいますか?」

「腹黒い猫かぶりはお断りします」

「なんですって!」


 演技じみたソフィアのセリフに、間髪入れずにライアが横槍を入れた。

 それがなければ行けたかもしれないのに、女神の答えは、やはりノーだった。


『今までのあなた方の旅は、私も見ていました。各々の性格は、把握しているつもりです。そも、この塔は勇者の称号を得ている者しか立ち入れない仕組みになっているそうです。私の力が及ばぬところでそういったシステムになっている。それはどうしようもないので、お二方はそこで大人しく待っていてください』

「なんだ、わししか入れんのか」

「それならいちいち軽口叩かず、さっさとそう言えばいいんだ」

「そうよ、こんな汗臭い女と口論するために割く体力は微塵もないっていうのに」


 各々、思い思いに口にする。

 だがここで脳裏に問題が浮上した。

 女神の塔。ここは魔物はいないのだろうか? いたとしたらどれくらいの強さなのか? 最強武器を取りにいくのに二週しなければならないとかいう話を、どこかで聞いたこともあるし。一度上っただけで取れればいいのだが。トラップは? 休憩できる場所はあるのだろうか?


「どうしたんだおっさん、そんな難しい顔して?」

「ライアよ、わしは名前で呼んどるんだが、名前で呼んではくれんのか?」

「いやーなんかこっちの方がしっくりくるからさ」

「わしはお前さんとしっぽりしたいんだがな」

「馬鹿言ってないでとっとと上れよ」

「いやだ」

『では、開門』

「えっ、ちょっと待って、もう少し仲間との会話を――」


 眩い光に目を瞑り、体が軽くなったなと思った時には、もう外界とは隔離された空間にいるとはっきりと肌で感じられた。

 目を開けると、案の定、塔の内部らしき場所に立っていた。

 こざっぱりとしていて、凝った装飾もないシンプルな広間だ。奥のほうに階段が見える。

 そこまでの道のりは、直線だ。


「……だからと言って、このまま直線の最短距離を行くのは愚の骨頂だろう」


 きっと幾重にもトラップが仕掛けられているに違いない。

 そう踏んだわしは、何本も伸びている柱を大きく迂回することにした。

 一歩踏み出す。

 すると、足元がなにやら光りだした。見れば、魔法陣が発生していた。


「うわっ、しまった!」


 これは、火炎のトラップだ。

 以前、街道に仕掛けられていたものと同じ色、仕掛け、仕組みだから間違いない。その時は、ソフィアが石ころを投げて解除してくれたから助かったが……。

 思ったとおり、次の瞬間には足元から火柱が上がる。

 咄嗟に前のめりで避けると、間一髪。お尻を焦がすだけに被害は抑えられた。

 が、一歩踏み出すたびに魔方陣が次から次へと発生する。


「なんだこれは! まさか馬鹿みたいに真っ直ぐ歩いていけば正解だったのか!?」


 慌てて直線コースに戻ると、さっきまでのトラップ群が嘘のように静かになった。

 無駄に知恵を身につけたから、きっと意味なく裏を読んでしまったんだな。城に引きこもっていた頃だったら、きっと罠に嵌ることもなかったろうに。

 こんな時になって、自身の成長を実感する。


「さて、気を取り直してどんどん行くぞ」


 わしは二階への階段を上った。


「……あれ?」


 おかしい。

 わしは二階への階段を上ったはず。なのになんだこの開放感は。

 柱も少なくなってるし。なにより、明らかにさっきまでとは感じる空気が違う。酸素がじゃっかん薄いのだ。見渡せば、壁面がなく、吹き抜けになっている。そしてその向こうには、雲が浮かんでいた。


「……んんっ??」


 わけも分からず前へと進む。

 前方には、玉座らしき椅子があった。

 しばらく歩くと、不意に玉座が輝きだす。発光体がそこに座し、それは実体となって現れた。


「よく来ましたね、勇者」

「…………」


 わしは開いた口が塞がらなかった。

 なぜなら、そこに姿を現した白いドレスを着た人物に、見覚えがあるからだ。


「まさか、まさかとは思うが、ルミナス嬢では……?」


 そう。アルノームに店を構える女主人ルミナス。女神は彼女にそっくりだった。


「私はルミナスではありません。私の名はリュミエール。ルミナスの双子の姉です」

「双子の姉ッ!?」


 それを聞いて驚愕した。

 なぜ、なぜだ! ルミナス嬢はあんなにも夢がいっぱいつまった胸をしているのに! 双子の姉である女神はなぜあんなにも残念なおぱーいを。

 洗濯板、まな板、補助板……うぅ。


「勇者、なにを考えていますか?」


 うな垂れていると、女神からお声が掛けられた。

 玉座を見やる。まぶたが重い。まるで水の中にいるみたいに視界が水浸しだ。


「なにを泣いているのです? いい年した大人がみっともないですよ」

「お前さんには分からんのだ、ほっといてくれ」

「では放っておきます。ところで、あなたがここへ来た理由、それは伝説の剣を求めにですか?」

「分かりきったことを聞くのだな。その通りだが、どうせただではくれんのだろう?」


 まさか一階の階段を上った先が最上階だとは思わなかった。

 こんなズルみたいなことをしたんだ。きっとここで試練が待ち受けているのだろう。


「では、一つ質問をさせてください」

「うむ」

「とその前に」


 女神が前方へと手を伸ばす。

 そのすぐ先で光が収束し、弾けるとともに一振りの剣が現れた。

 青い柄をした光の剣だ。


「古の大戦の折、勇者が魔王を倒した際に返却された勇者の剣です」

「これが……」


 まるで松明を百本束ねたように輝く剣は、確かに魔王でも滅ぼせそうなほどの神聖さを湛えていた。


「では質問に移ります」


 女神の言葉とともに視界が薄もやで遮られた。

 その中にぼんやりと浮かび上がった女神の姿。朝霧に包まれた湖に浮かぶ、童話の妖精みたいに美しい。


「あなたが欲しいのは、鎧を着込んだライアですか? ドレス姿のライアですか? それとも全裸のライアですか?」

「全部ほしい」


 順々に浮かんでは消えていく、それぞれのライアの姿。

 女神の言葉に、わしは間髪入れずに答えた。


「即答ですか。しかし一つだけです」

「一つ!? むむっ。それなら、わしはドレス姿のライアを選ぼう」

「それは何故ですか?」


 女神は大層不思議そうな顔をしている。


「鎧は普段見ているし、魔王なんてさっさと倒して平和になれば、女剣士もあんな暑苦しい鎧を着込まずに済む。女の子なんだ、お洒落を楽しんだっていいじゃないか」

「意外です。そんなまともな答えがあなたから返ってくるとは――」

「それにだ……。全裸なんて片腹痛し! 猿と人間の違いはなにか? それは衣服だ! 着ている物の向こう側を想像するのは男のロマンだ! 全裸はすでに結果でしかない。向こう側の想像と結果では、火を見るよりも明らかな興奮度に差異がある。脱がす楽しみがないのでは、それは猿を相手にしているのと同じなのだ! だがワシは決して全部は脱がさない。半裸が理想だと強く世に訴えたい」


 鼻息荒く力説してやった。

 場が凍り付いているのを肌で感じる。

 短い沈黙の後、突然、女神が失笑した。


「くすり。やはりあなたは、あの子が言った通りの助平ですね。だけどあなたらしい、実にいい答えです」

「それじゃあ――」


 思わず前につんのめる。

 女神はそれ以上の前進を拒むかのように、手をこちらへ向けた。

 制止された体が、一歩踏み出した形でポーズをとる。


「回答としては面白く、そういうユーモアは私も嫌いじゃない。けれど、あなたは王様なのです。勇者には成りえない。これは勇者のために打ち鍛えた剣です。よって、勇者以外には触れることすら叶わない」

「そんな……。ところで今の質問の意味は……?」

「そんなものに意味はありません。人間性を少しだけ見てみたかった。それだけです」

「……」


 開いた口が塞がらない。


「お疲れ様でした。あなたの役割はここでお終いです」


 そしてピシャリと言い切られた。それ以上の反論を許さないといった、納得することを強要された、まるで脅迫みたいな拒絶だった。

 さらに小さく息を吸い、女神は言葉をつないだ。


「勇者はあなたをけしかけて、自分の身に起こるであろう困難を、あなたに代わりに被せることで事前回避していたんです。あなたは知らないでしょうが、勇者はあなたの後ろをつけていたんですよ」

「なん、だと……ッ!?」

「勇者の剣を手に入れるまでの繋ぎ、そういうことみたいですね」


 それじゃあ、わしはとんだピエロではないか!

 今までの冒険は所詮、いわゆる『ごっこ遊び』だったのか! わしの苦労はなんだったのか。

 怒りとともに悔しさが内から滲み出てきた。それは、なんだか血の味がした。


「どうやら勇者が来たようなので、本当にさようなら。王様、よい残りの人生を……」

「いや、ちょっと待って――」


 うねうねと世界が暗転。

 気づいた時、わしは女神の塔の入口に戻されていた。

 勇者が来た。それに一言も文句も言えずに帰された。勇者の役目も終わり? それもこんないきなり。わしが剣を求めたのが悪かったのか。それとも冒険しようとしたことがそもそもの間違いだったのか。

 俯いていたら、不意に肩が叩かれた。

 振り返ると、ライアとソフィアの同情の眼差しがそこにあった。


「旅は、終わりなのか?」

「聞いていたのか……」

「聞こえたんですよ」


 悔しいのか、空しいのか。

 皆よく分からない顔をしている。冒険の主軸が折れ、途方に暮れているのかもしれない。

 そもそも、このパーティーはどんな理由で旅をしていたのだろうか。

 少し考えてみる。

 ライアは確か、愛刀を盗賊から取り戻したかった。そしてソフィアは、その盗賊を懲らしめたかった。

 二人とも、本来の目的はもう果たしているのか。

 ではわしは? 勇者になって、いい気になって。魔王を倒す?

 だがそれはもう終わった。いまさっき、終わったのだ。

 わしはこれからどうすれば……。

 途方に暮れているのは、自分だった。


「これからどうする?」

「どうしましょう?」


 二人がこれからの予定を話し合っている。

 わしはそれを意識の遠くの方で聞いていた……。

 喪失感が心に満ちていく。こんなにさびしい気持ちになったのは初めてかもしれない。

 そんな時、ふと脳裏を過ぎった、一つの夢。

 わしは、二人の話に割って入った。


「二人に、相談があるんだが……」

「なんだ?」


 きょとんとした顔をして、二人がこちらへ振り向いた。

 それは以前から、魔王を倒して(倒す必要はなくなったが)平和になり、旅が終わったら話そうと思っていたことだ――――。



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