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魔王誕生

 あれから約一年が過ぎた。

 女神の塔で女神に追い返され、勇者に一言も文句を言えなかったあの日からだ。

 わしはあれから、東奔西走。

 まさに世界の西から東、北から南へと忙しく飛び回った。腹肉を揺らしながらだ。

 我が目的のため、資金作りのため、各地のカジノを荒らしまわった。

 やがて悪名みたいにわしの名は各地に広まり、カジノでは門前払いもくらったが。そこはわしの自慢のパーティー。

 警備網などライアとソフィアがいれば、くもの巣を散らすように容易い。

 はじめは小額からちまちまと。時にはでっかく勝負し、負けたときもあったが。とあるカジノの景品、運をあげる「竜のふんの化石」という臭そうな激レアアイテムのおかげで、ラックアップ!

 負けなしの富豪になることができた。

 そうして荒稼ぎした資金を元手に、わしは、自分だけの城を造ったのだ。

 そう、自分だけの、パラダイスだ。


 女神の塔の真反対。

 湖畔に広がる一等地を買占め、そこへ、これ見よがしに会員制の歓楽街を建造した。急ピッチで、建造してやった。

 年会費五百万Gという大金にも係わらず、会員数はすでに五千人を超えている。

 倍額払う会員には特別コースなんかも設けて……、いや、この話はやめておこう。生々しいことこの上ない。具体的には歓楽街に永住やらの権利、お気に入りの娘をうんたらするということくらいは話してもいいか。


 そしてコンパニオンには、女神の妹であるルミナス嬢を向かえ、その説得により、女神リュミエールもここで一緒に働いている。

 我が自慢の女子たち、ライアとソフィアはもちろんのこと、カジノ巡りの最中、各地で美女や美少女をスカウトしまくり、総勢三百名ほどがこのパラダイスキャッスルで奉仕に従事している。


 あの日、わしの提案を呑んでくれた二人には感謝してもしきれない。

 そんな感動に半身浴している脳みそに、なんの前触れもなくライアの声が響いてきた。


「おっさん! 大変だ――」


 見ればソフィアも一緒だった。

 わしは湯船に漬かりながら女子を両脇に侍らせ、乳を揉みこみながら訊ねる。

 小さく喘ぐ声が耳にこそばゆい。


「どうしたのだライア。風呂なら今晩一緒に入る予定だろう? もしかして待てなくなったのか?」

「バカ言え。あたしは一人で入るのが好きなんだ、誰がおっさんとなんか入るかよ」

「それは残念。それともソフィアが我慢ならなくなったのかな?」


 にやにやしていると、突然四角い紙のようなもので視界を塞がれた。


「そんな暢気に頭湧かせてる場合ではありません。これを見てください」


 言われ、顔に張り付いていた物を引っぺがす。


「なになに、魔王出現?」


 そんなバカな。

 あのつまらんことを仕出かした勇者が、魔王を倒したのが半年前だぞ?

 半年で魔王は復活するものなのか?

 いや、スライムでも、引きちぎってものの五分でくっつくんだ。魔王が半年で復活しても、別段おかしいことではない、かも。


「これがどうしたというのだ。もし本当だとしても、どうせまたあの馬鹿たれ勇者が倒すだろう。勇者の剣でな」


 皮肉を交えて吐き捨てると、これ見よがしにライアがため息をついた。


「おっさん、魔王の名前、見てみろよ」

「魔王は魔王だろう。あの魔王だ。見なくてもわかる。エルムとかいうヒョロそうな名前の、あの魔王だ」


 言われるままに目を走らせる。


「ッ!?」


 そこには、信じられない事が書かれていた。

 思わず我が目を疑った。魔王のプロフィールが書かれていたのだ。

 魔王は秘密のベールで包まれているからこそ神秘性が増すのではないのか?

 なぜこんな明け透けな……。

 両の眼が、はっきりとその名前を捉える。

 

「わ、ワル、ド……? わし? えっ、わし、魔王? ……えっ?」


 しかもご丁寧なことに、わしの所在地、その番地まできっちり書かれている。

 見紛うはずがない。添えてある写真は、湖を背にして女神の塔を望む、間違いなくパラダイスキャッスルなのだから。


「たぶん、あたしらが荒らしたカジノの店連中が勇者に頼み込んだんだろうな。ここは世界中の娯楽が一つになってる。女も粒ぞろいだ。あたし含めてな」

「いちいち自己主張の激しいアマですね、ライアさんは」

「なんだ、お前もせっかく含めてやってんのに、」

「そうなの? それは失礼」

「おっさん、最後を読んでみろ」


 最後、最後……。


「『魔王討伐の勇士を集う!! 共に立ち上がろう、囚われの姫君たちを救い出すのだ!! 武器は農具でも構わない、救い出すのは、君自身だ!』? なんだこれは、まさかこの城に、集められた戦闘狂が乗り込んでくるのか?」

「間違いないだろうな」

「私たちも準備をしなくては」

「いや、これはもはやただの妬みじゃないのか? 世界中の美女を手中に収めてハーレムを築き上げたわしへの……」

「なにはともあれだ。勇者がここへくるぞ、おっさん」

「どうしますか?」


 どうするとか……。

 いや、やることは決まっているが、なんでわしがこんな目に。

 わしはただ、むにむに屋に通っている時からの願望、夢を叶えただけに過ぎないのに。

 いつかこんなおっぱいたちをかき集めて、美女だけのハーレムを作る。

 だが――


「それもこれも、みんなあのド腐れ勇者が悪いのだ! わしの邪魔ばかりしおって! 今度という今度はもう許さん。その首根っこをへし折って晒し者にしてくれる!」


 幸い、世界の創造神である女神は我が手中にある。

 ルミナス嬢は多少、性に開放的だ。堅物のリュミエールを落とすには彼女の力が必要だった。

 二ヶ月ほどでリュミエールはわしに忠誠を誓うことになったのだが。快楽というのは、人を堕落させるに十分すぎる刺激なのだと改めて悟ったものだ。

 ……まあ、女神は人ではなく神だがな。


 女神たちや我がパーティーの女子はわし専用。独占。

 それを奪いに来るというのなら、一欠けらの容赦もしない。

 力なき王だった元似非勇者のわしだが、別の力を手に入れたのだ。

 『竜のふんの化石』。こいつを手に入れてからわしの運は好転した。

 そして、なぜかドラゴンとの遭遇率が増えた。レベルが上がった。ドラゴンを倒すと、それをペットにできる能力を手に入れたのだ。

 女神の塔とパラダイスキャッスルの周囲に、空陸そのどちらにも、ドラゴンを五十匹放っている。

 この鉄壁の竜の巣を突破できるのなら、


「かかってくるがいい、勇者。わしはこの世界を、いや、世界などいらん。女子はすべてわしの所有物にしてくれるわ。貴様は亡霊となり、惨めにその陳腐で矮小なマスでも地獄の隅っこでかいておれ! うはははははっ」


 そうしてわしは、魔王ワルドとなった――――。



『おお勇者よ、死んでしまうとは情けない』をお読みくださり、ありがとうございました!

評価を入れてくださった方、感想をくださった方、読んでいただいた皆々様に、感謝いたします。

ありがとうございました!

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