第5話
「戸辺さん!尾行してきました!」
朝9時。斉藤は私がデスクにカバンを置いた途端に『待ってました!』って感じで私のところに向かってきた。伝言回収の途中にだ。手紙カゴを編集部の真ん中の通路に置いたまま、私を見つけたと思った途端に来たらしい。
「手紙ガゴ、通路に置きっぱなし。とって来な。」
「はい。」
斉藤は取って来ると、
「あの、聞きたいことがあるんです!」
「なに?」
「昨日尾行してたら、おかしな点がいっぱいあったんです。」
「じゃあ、全部メモに書いて。」
そう言って私はメモを渡した。
「どうしてですか?私、口で言いますよ?」
「口で言ったら周りに聞かれてネタ、盗られるよ?」
「分かりました。」
そう返事をした斉藤は私の隣の自分のデスクに座ると聞きたいことを書き始めた。
私はその間にコーヒーを自分の分だけ注いできた。
「これです。書けました。」
私が帰って来たら斉藤にメモを渡された。
「分かった。読む。」
メモの内容は斉藤は純粋だと言うことが分かるもので、同時にとんでもないことが起こっていると言うことが分かった。
内容は下のとおりだ。
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昨日のおかしかった斉藤隆二の行動。その会話。
斉藤隆二『でさー、奥野さん、このお金で選挙の票をチョイチョイとイジッテくれない?』
奥野『こっちだって命がけでやってるんだから。バレたら間違いなく俺たちサツ行きなんですから。そんな簡単に言わないでくださいよ。』
斉藤隆二『やってくれないか?』
奥野『やりますよ。』
こんな会話をして大金の入ったカバンを斉藤隆二から奥野と言う人に渡していた。
上のとおりです。私は大金を不意に見てしまって思わず、叫び声が出るところでした。
でも頑張ってこらえました。
ところで質問です。
『選挙の票をイジッテくれない?』とか『サツ行きなんですから。』とかどんな意味か分かりますか?
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この文面からして、斉藤は事の重大さを知らない。そして純粋だ。
サツ行き=警察に捕まる。
選挙の票をイジッテくれない?=選挙の自分に入っている票を本当の数より多めにしておいてくれ。ってこと。要するに詐欺。
8割の可能性でこの可能性が高い。これは、斉藤隆二はどんな手を使っても知事になるつもりだ。斉藤にとっては人生で1番、最悪なことになることだろう。自分の父親がこんなことをしているなんて知ったら…。
私は困った。でも斉藤のことだろうから言わなかったら言わなかったで気にしない、なんてことはまず無いだろうから、私が言わない場合、言ってもネタを盗まれる心配が無い、編集長に聞くだろう。そうなったら、もう私が言うしかないのだ。
「戸辺さん分かりませんか?分からなかったら私、編集長に…。」
「斉藤。ちょっと外に出よう。」
「何でですか?まだ出勤してから10分しか、」
「いいから!」
私たちは、会社を出て外のカフェに入った。コーヒーを2つ頼んだ。
「斉藤。斉藤が世界で1番、信用している人って誰?」
「え?」
「いいから、何も言わずに質問に答えて。」
「よく分かんないです。時と場合によりますね。」そう言って斉藤は、さっき来たコーヒーを一口飲んだ。
「父親のことは?」
「ある程度は信用してます。」
「斉藤。お願いがある。」
「何ですか?」
「さっきのメモの内容、聞きたいなら斉藤隆二を他人だと思って聞いて。」
「はい。聞かせてください。」
「斉藤隆二は、どんなことをしても知事になるつもりだ。で、選挙の票を詐欺するつもりでいる。その協力人が奥野と言う人だ。サツ行きの意味は『下手したら、警察につかまる。』ってこと。」
「…そんな…わけ…。ないです!」
そう言って、斉藤は走ってカフェを出て行った。
その日、斉藤は会社には戻って来なかった。