第1話
斉藤恵実。
現在、彼女は同僚や部下、先輩たちにも恐れられている。
彼女は昔は明るい女性だった。私と同じぐらいに。
―あれは、3年前の夏のことだ。―
私はあの日も『来月の企画を早く書かねば!』と焦っていた。
そんな頃だ。斉藤恵実が私も働いているこの人気雑誌の編集室にめでたく移動となったのは。
「えー。今日からここに移動になった斉藤恵実さんです。」
大泉編集長が朝9時ごろに皆の前でそう言った。
隣の斉藤 恵実という女は大泉編集長がそう言うと、
「斉藤恵実です。『スポント!』の編集室から移動になりました。この度、この1番人気のある『芸能ポスト』の編集室に移動になってうれしく思います。よろしくお願いします。」
そう彼女が言い終わった後、またいつもの騒がしい空気にこの編集室は包まれた。
…スポント…。あー!うちの会社のスポーツ雑誌で4,5番目に売れてる雑誌か!
…っていうかウチの雑誌、一番売れてんだ!初めて知った!
「よろしくお願いします。」
話しかけてきたのは斉藤恵実だった。昨日まで空いていたデスクは彼女が座るためだったことが今、分かった。斉藤恵実は育ちがいいのか、あのベビードールの香りがした。私はこの香水の匂いに関しては分かるのだ。何故かは1回使ったから。ただそれだけ。
「あー。よろしく。」
私はそう言うとパソコンに向かって企画書をうち始めた。
お昼12時ごろ。締め切りギリギリの企画書がやっと仕上がったのでゆっくり1階のカフェで、昼ご飯でも食べようと編集室を出た。
「あのお昼ですか?」
背中から声が聞こえたので振り返った。斉藤恵実だった。
「そうよ。」
「一緒に食べてくれませんか?」
「いいけど。」
こんなことで私は斉藤恵実とご飯を食べることになった。
私はシーチキンパスタを食べながら聞いた。
「斉藤さんって親何やってんの?」
「え?」
「あ。いやね。朝、話しかけられたときベビードールの香水の匂いしたから。」
私は、後輩には陽子と違って失礼もクソもない人間なのだ。いじめはしないですが。
「あ。これは貰い物です。何で分かるんです?」
「1回使ったから。それだけ。ところで何やってんの?親?」
「政治家です…。」
「ふ〜ん。…ってすごいじゃん!で誰?!」私は少々ビックリ気味で聞いた。
「斉藤隆二です。」
「ふ〜ん。…ってマジで?!」
「は…はい。」斉藤恵実はどんどん困っていく。
ところで斉藤隆二って言ったら、かなり有名な政治家さんだ。
ちなみに民主党に入っている。
―これが私と斉藤恵実の出会いだった。斉藤恵実はこの業界に入ったことによって後に斉藤恵実の運命そして斉藤恵実の父の運命も変えることになるとはまだ思ってもみなかったことだろう。
1話(今回)の、追加の人物紹介です。
斎藤隆二
恵実の父親。政治家。