第14話(斉藤恵実が見たもの)
戸辺さんに連れてこられたのは、刑務所だった。
「戸辺怜です。こちらは付き添いの斉藤恵実です。電話で話したとおり、斉藤隆二と面接お願いします。」
「はい。案内します。ついて来てください。」
私は、戸辺さんがなにを企んでいるのか全く分からなかった。
しばらくして、警官に面接室へ案内された。
薄いガラスの向こうには、父の斉藤隆二がいた。
―バン!―
「「ヒッ!」」
私と父は、戸辺さんが机に手をついた音にビックリしてしまった。
「今から、言うことは事実です!よーく聞いてください!斉藤隆二さん、斉藤恵実さん!」
「「はい…。」」
「斉藤 藍那。旧姓は、垣ノ内。斉藤隆二の妻、斉藤恵実の母。
斉藤藍那は、恵実さんを産んだ後、体調が悪化。もともと、心臓のほうが少し悪かったから、だからだと思う。
体調の悪い妻を隆二さんは必死に看病した。隆二さんは朝から昼は必死に働き、夜は藍那さんの看病。そして、恵実さんが、27の時、大阪府の知事に立候補して、絶対に何をしても知事なってやる!と思ったことでしょう。
なぜかというと知事は給料がいい。生活に不自由しなくなる。恵実さんは知らなかっただろうけど、斉藤家の家計は、火の車だった。『え?そんな訳無い!』と思ったでしょ?恵実さん?
隆二さんは、火の車も家計を隠すために、恵実さんにこんな現状を見せないために、たくさん借金してた。そして、その借金を自己破産してから、知事に立候補。当選するはずだった。計画のおかげで。計画どおりにいけば。しかし、恵実さんが取材で事実を知り、取り乱した隆二さんは、暴力を振るってしまった。よって裁判になり、斉藤恵実の勝利。斉藤隆二は刑務所暮らしとなった!以上!………はぁ。…はぁ。」
喋り終えた戸辺さんは、息切れをしていた。一気に喋って疲れたらしい。私は、聞いた。今、言ったことは?と。
「今言ったことはすべて事…」
「事実!…わたしが…独自に調べた!…はぁ。」
「そうですか。」
「恵実。悪かった。俺が悪かった。すまない。」
父は、私に頭を下げた。
「私は、あなたを許さない!…でも、戸辺さんには感謝します。全て分かってよかったです。」
「…そう。…はぁ。」
「…戸辺さん。大丈夫ですか?」
「一気に喋って息、切れたんじゃ!!」
「そうですか。」逆ギレしなくても…。
「…ぷっ。」
こんなやり取りをしていたら、面会室の端にいた警察官の人が笑った。
「…戸辺 怜さんは、毎日ここに来ていろいろ、斉藤隆二さんに聞いてましたよ。なかなか言わない時は、なんとしてでも言わすぞ〜!って勢いで。そして、ここに23回目にきた時、1週間前かなぁ?全てを知った戸辺さんは、「自分で言ったらどうですか?」と斉藤隆二さんに言ってました。でも「言えない。」と斉藤さんが言ったんで、今日、言ったんだと思います。戸辺 怜さんは。」
「23回も来たんですか?」
「はい。私が見たかぎりでは。今日は24回目だと思います。記録が残ってます。思わず、この光景を見て、会話を聞いた私としては、言っておいた方がいいかなと。」
「でも、それ言って大丈夫なの?警官さん?はぁ。」
「いえ。言ったらまずいです。警官はこういうこと言っちゃいけないんですけど、思わず…。」
「大丈夫よ。言わないから。はぁー。直った。息切れ!」
「ありがとうございます。」
「いいえ。言うほどのことじゃないし。騒ぎ起こしたくないし。」
「戸辺さん。私、頑張ります。もう、意地張りません。心に誰も入れないなんて言ってられません!そしたら、誰の心にも入れないですし!感動がなくなっちゃいます!」
「そう!頑張りなさい!でも、仕事のスキルは今のままでいいのよ!それだけは戻さないで!」
「はい。」
「すいません。面会時間終了です。」
「はい。」
こうして、私たちは、面会室を出た。
「さぁ、原稿を書きなさい!編集長命令!企画書バッチシだったわよ!」
「はい。」
全て解決したとは、言えない。でも私は、これで明るい未来に一歩、近づいた気がした。
次回、最終話です!