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僕の一打

作者: 橋本紘
掲載日:2026/10/10

ご覧いただきありがとうございます!

本作は、背番号13番の補欠選手が迎えた高校最後の夏、チームのために泥臭く戦った一打を描いた青春野球小説です。

※本作はnoteにて先行公開した作品です。

 『打った!大きい!小林の当たりはホームランだ!』

 なんて甲子園で実況されるのが、僕の小学生の頃からの夢だった。

 しかし、現実はそんな甘くなかった。


 県立西浜高等学校、3年生の僕にとっての高校野球地方予選第一試合は来週に迫っていた。

 今週は試合前、追い込みをかける紅白練習をしていた。

 「小林、しっかり球見て当てに行け!」

 「はい!」

 僕は大きな声を上げて監督の激に応える。

 しかし、エースのピッチャーのきわどいインコース攻めで僕は三振した。

 「ドンマイ、ドンマイ。」

 ピッチャーの同級生の子は僕に向かってエールなのかやじなのか分からない声をかけてきた。

 僕はヘルメットを脱いで、ベンチへ戻っていく。


 そして、地方予選の第一試合の前日になった。

 今日は監督から一人ずつ背番号を手渡される背番号授与式が行われた。

 3年間この式には参加してきたが、今日で終わりかと思うと目頭が熱くなった。

 「小林。13番。」

 「はい。ありがとうございます。」

 一桁のレギュラー番号ではなかったけど、自分にとっては汗と涙が染み込んだ宝物だ。


 そして、試合当日を迎えた。

 監督からスタメンの発表が一人ずつ行われた。

 「1番・レフト……。」

 そして、呼ばれるはずのない名前が呼ばれた。

 「8番・ライト…小林誠。」

 僕は夢かと思ったが、これは現実だ。慌てて返事をした。

 その後、監督に呼び出されて声をかけられた。

 「小林の必死の守備と泥だらけの姿が、今のこのチームには必要なんだ!」

 僕は涙を流しながら、

 「ありがとうございます!必死に食らいつきます。」

 と答えると監督は笑いながら、

 「まだ泣くのは早いぞ。」

 と言い、僕の肩をポンっと叩いた。


 チーム全員で円陣を組み、監督は言った。

 「西浜高校は一回戦突破を何年も果たせていない!今年こそ一回戦突破して甲子園への夢へ近づこう!」

 「おーーーーっ!」

 と、男達の低い声が響き渡った。


 背番号二桁の僕が試合に出ることは相手校にとっては驚きだったようで、試合が始まる前に、

 「なんだあの2桁の8番は?」

 と笑われた。

 それを聞いたピッチャーは

 「小林、試合で見返してやれ!」

 と言ってくれた。


 試合は1点リードの3対2で西浜高校の有利に進んでいた。

 僕はここまで三振、一ゴロ、右飛と凡打ばかりだった。

 しかし、試合はリードしている。

 この調子なら何年か振りの一回戦突破も夢でもない、と思っていたら、7回表に相手の学校に2点返された。

 試合は3対4で最終回を迎えた。

 最終回、9回裏、西浜高校の最後の攻撃になった。

 西浜高校は驚異の粘りを見せつけた。

 そして、僕の打順が回ってきた。

 2アウトで1、3塁にランナーが出ている。

 大きな一発が出ればサヨナラのチャンスだ。

 しかし、いつものように三振や凡打なら試合は終了する。

 そういう時にはいつも打順が回ってきていた気がする。

 監督は僕に、

 「後悔のないようにフルスイングで帰ってこい。」

 と指示した。

 しかし、僕は決めていた。西浜高校を第二回戦へ連れていくと。

 

 バッターボックスに僕は立った。

 一週間前に監督から言われた、

 『小林、しっかり球見て当てに行け!』

 という言葉を思い出した。そして、ピッチャーの球をしっかりと見つめた。

 初球は変化球のボール。2球目はストレートでストライクだった。

 3球目、甘い球が中央高めに来た。

 そこを僕は狙った。

 ≪カッキーン……≫

 金属バットが球を打ち返す音が響いた。

 打球はピッチャー頭上を越えてセカンドとショートの間を抜けた。

 僕は走った。脇目も振らず。

 そして、判定はセーフになり、センター前ヒットを記録した。

 西浜高校は1点を返し、4対4の同点となった。

 

 次のバッターは三振で同点の延長戦へと試合は進んでいった。

 

 結果、試合は延長の末、相手校に1点返され、反撃することも出来ずに5対4で負けた。

 

 試合後のミーティングで監督やチームメイトからは僕を称える言葉が飛び交った。

 「それにしてもすごかったな!小林のあの執念のヒット!」

 興奮する監督の姿が僕は嬉しかった。

 「まあ、試合は負けてしまったけど記憶に残る試合になったよね。」

 ピッチャーの子も嬉しそうだ。

 これまでの試合に負けた後の反省会の様な雰囲気はこのミーティングではなかった。

 それが何より僕にとって嬉しかった。


 そして、僕の夏は終わっていった。

 最終回、逆転のチャンスで監督は、

 『後悔のないようにフルスイングで帰ってこい。』

 と言っていた。

 しかし、僕は確実に球を返し、塁に出る方を選んでしまった。

 僕の小学校からの野球人生で夢だった、ホームランを打つことは叶わなかった、そして、高校最後の試合でもフルスイングは出来なかった。

 後悔は1ミリもなかったかと聞かれると、否定してしまうかもしれない。

 しかし、僕の人生はこれで良いのだ。泥臭くとも塁に出て、チームを勝利に導く。そんな人生があってもいいのではないかと思った。

 

 これからは大学進学へ向けての受験勉強が始まる。

 (大学受験では少しだけフルスイングしてみてもいいかな……。)

なんて考えた。


 (了)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

華やかなヒーローになれなくても、泥臭くチームを繋いだ小林の一打と、爽やかな夏の余韻を感じていただけたら嬉しいです。

評価(★)やブックマークなどいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります!

【お知らせ】

10月14日(水)12:00より、連載小説『売れないっ!』(全51話)の毎日3回更新連載がスタートします!ぜひそちらもお楽しみに!

【注釈・補足】

※本作はnoteにて公開した原稿をベースに投稿しております。

※本作は乃木坂46の楽曲『Never say never』の世界観からインスピレーションを受けて執筆したフィクションです。

(とても素敵な曲ですので、気になった方はぜひ検索して聴いてみてください!)

※本作に登場する人物・団体・校名はフィクションです。(実在の学校・団体とは関係ありません)

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