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天界観測室 〜消えかけた魂の観測録〜  作者: まっつぃ17@短編100本ノック実施中!


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魔法、ガチャ制になりました


 その日、空に巨大なポップアップが表示された。


《魔法システム Ver2.0 公開》

《公平性向上のため、全魔法はガチャ制になりました》

《※確率は公平です(体感には個人差があります)》


 世界は、一瞬で終わった。


 俺は中堅魔法使いだ。火球一本でここまで生きてきた。地道に詠唱を磨き、魔力制御を鍛え、命中率と威力を安定させてきた。努力型である。


 努力が、好きだった。


 その努力が、今日死んだ。


 森でスライムと対峙し、いつものように詠唱する。


「燃えろ、火球」


 視界の端に、無機質な文字が浮かんだ。


《N:シャボン玉》


 ぽこん。


 虹色のシャボン玉が、ふわりと飛ぶ。


 スライムは無傷だった。


 俺は、もう一度詠唱した。


《R:観賞用花火》


 パァン、と夜空でもない昼空に花火が咲く。近くの子供が拍手した。


 違う。そうじゃない。


 三度目。


《N:小鳥(春仕様)》


 ちゅん、と鳴いて、どこかへ飛んでいった。


 スライムが、にじり寄る。


 俺は、膝から崩れ落ちた。


 魔法は、鍛錬ではなくなった。


 ガチャになったのだ。



 世界は混乱した。


 勇者は十連詠唱を回し、戦士は「属性ランダム付与」に泣き、僧侶は回復か毒か五分五分という地獄に陥った。


 街の魔法屋には、新商品が並ぶ。


《魔石パック(初回限定増量)》

《SR確定詠唱券》

《期間限定ピックアップ:炎属性UP》


 勇者は迷いなく課金した。


「確率は収束する!」


 彼は目が据わっていた。


 俺は、無課金主義を貫いた。


 ――魔法は努力だろ。


 その矜持だけが、まだ俺の中で燃えていた。



 そして俺たちは、魔王城へ辿り着いた。


 魔王は、玉座に座っていた。


 黒髪の長い女だった。冷たい瞳、鋭い気配。いかにも魔王という風格。


「フフ……よく来たな勇者よ」


 彼女が手を掲げ、詠唱する。


 表示。


《R:ちょっと怖い霧》


 もわぁ、と薄暗い霧が出るだけ。


 勇者が咳き込む。


 俺は、危うく吹き出しかけた。


 魔王の頬が、ほんの少し赤くなった。


「……調整中だ」


 たぶん違う。


 戦闘は混沌だった。


 勇者の斬撃は《SR:そこそこ鋭い斬撃》。

 僧侶は《R:体力微回復(敵も)》を引き、魔王の体力も戻す。


 魔王も安定しない。


《N:闇の小動物》

《R:不穏なBGM》


 玉座の間に流れる不穏な音楽。威力ゼロ。


 お互い、決め手がない。


 やがて、魔力が尽きかけた。


 最後の一撃。


 俺は、深く息を吸う。


 詠唱。


 演出が変わった。


 画面が暗転し、虹色の光が弾ける。


《SSR確定》


 勇者が叫ぶ。


「来たァ!」


 魔王も目を見開く。


 同時に、魔王側も虹演出。


《SSR確定》


 重低音。神々しいBGM。世界が割れるようなカットイン。


 俺と魔王、同時発動。


 光が収束し、爆ぜる。


 そして、表示。


《SSR:終焉の演出(演出専用)》

《SSR:闇の祝祭エフェクトのみ


 凄まじい映像が流れ、玉座の間は神話級の光に包まれた。


 ダメージ:0


 静寂。


 瓦礫も傷も、何もない。


 風だけが吹いた。


 勇者が口を開きかけ、閉じた。


 魔王が、ゆっくりと玉座に座り直す。


 俺は、床に座り込んだ。



 しばらくして、勇者たちは撤退した。


「イベントまで待とう!」


 誰かが言った。


 玉座の間に、俺と魔王だけが残る。


 妙に静かだった。


 魔王が、ぽつりと呟く。


「……いくら回したと思う?」


 俺は、天井を見上げながら答える。


「……無課金でこれです」


 魔王は、鼻で笑う。


「私は、天井三回だ」


「それはつらい」


「確率、0.8%だぞ」


「表記より低く感じますよね」


 沈黙。


 目が合う。


 同時に、ため息。


 敵のはずなのに、妙な共感があった。


 魔王は小さく言う。


「……ピックアップ、来週だ」


「炎属性UPですか」


「そうだ。欲しい」


 俺は少し考え、言った。


「……協力します?」


「どうやって」


「割り勘で、十連」


 魔王の目が、ほんの少し丸くなる。


「勇者なのに?」


「魔法使いです」


 魔王は、くすりと笑った。


 初めて見る、柔らかい顔だった。



 空に、再びポップアップが出る。


《魔王討伐イベント延期》

《新キャラ:魔王(花嫁ver)実装予定》

《期間限定》


 俺と魔王、同時に空を見る。


 魔王の頬が、また赤くなる。


「……私、実装されるらしい」


 俺は、少しだけ間を置いて答えた。


「……引きます」


 魔王が固まる。


「な、なぜだ」


「限定は、逃したら後悔します」


 そう言ってから、少しだけ視線を逸らす。


「……それに」


「それに?」


「性能じゃなくて、見た目で引くの、初めてなんで」


 魔王が、顔を覆う。


「ば、馬鹿者……!」


 でも、その声は怒っていなかった。



 世界は、まだ救われていない。


 魔王は健在。勇者は課金中。


 けれど。


 爆死画面を並んで見上げながら、


 俺は、初めて思った。


 魔法は、もう努力じゃない。


 運でもない。


 たぶんこれは――


 誰かと一緒に引くためのものだ。


《次回確率UPイベント開催予定!》


 魔王が、小さく言う。


「……次は、当てるぞ」


 俺は笑った。


「天井覚悟で」


 世界は救われなかったが。


 俺は、初めて“引きたい”と思った。


 ――魔王を。


 それは、わりと悪くないガチャだった。

【観測後記録:第4観測】


「女神様はガチャとかしますか?」


「しますよ。ただ運命の女神は私の後輩なので、基本望みが叶うタイプです」


「それは……なんとも楽しいのか分かりませんね」


「ガチャの何が楽しいのか分かりませんが……そういうなら今度力を使わずにやってみましょうか」


「ガチャの文明は業が深いので怖いですね」


「……楽しいと感じることができたのですね。感情を取り戻しきれば多少は魂の回復も早くなるでしょう」


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