【大炎上】勇者の裏アカが魔王擁護してた件
フォロワー数百万の「英雄」が、フォロワー三人の「本音」に殺されかけていた。
炎上は、魔王より速かった。
勇者アルトの聖剣は、王国公認の配信統合型武装だ。
戦闘中の映像・音声・心拍・位置情報――すべてを網羅し、王都の巨大スクリーンから路地裏の端末まで自動配信する。
登録者数、102万4,089人。
青い聖紋バッジ付き認証アカウント。
本日の配信タイトルは、
【生配信】魔王城最終決戦!! #世界を救う
同時視聴者数が一気に跳ね上がる。
「勇者様ぁぁ!」
「魔王ぶっ倒せ!」
「今日も正義!」
アルトは門前に立ち、訓練された完璧な笑顔を作った。
「皆さんの応援が、力になります」
いいね三万。
四天王を一人斬る。血飛沫が舞うたび、画面にはギフトの薔薇が降り注ぐ。
いいね七万。
そのとき、聖剣が淡々と、しかし残酷に告げた。
「お知らせです。本日よりTwither利用規約が改定されました」
「は?」
「透明性向上のため、配信者の全サブアカウント情報は自動照合・表示されます」
「……は?」
アルトは一瞬、背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。
しかし本垢で「英雄」らしい投稿をする指を止めることはできなかった。
「魔王城なう。今日も世界のために頑張ります」
投稿ボタンを押す。
――しかし。
通信エラー。強制ログアウト。
「規約改定に伴い、全アカウントの自動統合ログインが実施されます」
そして、再ログイン先は自分の「隠れ家」だった。
画面に表示されたのは、地味な初期設定のアイコン。
@冷静な一般市民
投稿内容は、さっきの下書きではない。
「魔王城なう。今日も茶番頑張ります」
数秒の沈黙。
そして、過去の呟きが走馬灯のように追撃表示される。
「王国の増税より魔王の税制の方がマシ。戦争続けたいのはスポンサー側だろ」
「勇者って結局、暴力装置だよな」
「魔王はだいぶ冷静」
そして高性能な聖剣が、無慈悲に確定させる。
「当該アカウントは勇者アルト様のサブアカウントと照合されました」
世界が、凍る。
そして次の瞬間、大気が震えるほどの勢いでコメント欄が沸騰した。
【Twither トレンド速報】
1位 #勇者裏垢
2位 #茶番発言
3位 #魔王擁護
4位 #スポンサー激怒
5位 #正義の仮面
「違う! これは!」
アルトの叫びさえ、マイクは高性能に拾い上げ、世界中に拡散する。
聖剣が実況を続ける。
「フォロワー急減中。マイナス一万五千。スポンサー通知三件。王国中央議会から『釈明なき場合は聖剣の使用権を凍結する』とのDMが届いています」
コメント欄は地獄だった。
「茶番って言った?」
「増税批判はアウト」
「スポンサー様に謝れ」
「勇者やめろ」
一方で。
「正論では?」
「戦争で儲けてるの王国だよな」
「魔王の方が生活安定してる説」
正義が、音を立てて分裂していく。
アルトの裏垢フォロワーは、わずか三人。
聖剣が淡々と読み上げる。
「フォロワー一覧を表示します」
一人目。
@本物の魔王
二人目。
@四天王_財務担当
三人目。
@母
敵と、その部下と、身内。
「英雄」の孤独が、全世界に晒された瞬間だった。
アルトは天を仰いだ。
―
魔王城の玉座の間。
魔王は水晶スクリーンを見ながら、愉快そうに肩を揺らした。
「ついにバレたか」
即座に、手慣れた手つきで投稿する。
@本物の魔王
「合理性を理解してくれて嬉しい。なお来週も戦います。視聴予約よろしく」
いいね四十八万。
トレンド更新。
#勇者くん見てる
#プロレス聖戦
#来週も茶番
アルトは呻く。が、元気はなかった。
「……煽るな……」
聖剣が冷静に補足。
「現在、同時視聴者数は過去最高を更新。皮肉にも『本音』への関心は、正義の演説の十倍以上です」
「……最悪だ」
アルトは裏垢を作った理由を思い出す。
王国は増税を続ける。
戦争名目の予算は拡大。
スポンサーは聖戦グッズを量産。
一方、魔王領は意外にも治安が安定していた。
税は一定。
労働時間も短い。
アルトは思ってしまった。
どっちが悪なんだ?
だが、勇者は“正義”でなければならない。
なぜなら、正義の方が数字が伸びるからだ。
―
アルトは表アカで、指を震わせながら謝罪文を出す。
「この度は軽率な発言で皆様を混乱させました。私は世界平和のために戦います」
いいね二十万。
だが炎は消えない。
「テンプレ謝罪」
「スポンサー文」
「本音言え」
魔王からDMが届く。
『どうだい、勇者くん。数字は伸びただろう?』
『あんたもな』
『我々は役者だ。彼らが望む物語を演じている』
アルトは門の向こう、不気味にそびえる玉座を見つめる。
「本気でやれば、終わる」
魔王のその一言は、配信には乗らなかった。
『終わったら、誰も見なくなる……か。』
聖剣が高らかに実況する。
「最終決戦、再開します!」
門が開く。
魔王と勇者が対峙する。
視線を交わし、わずかに笑う。
剣が交差する。
トレンド一位。
#勇者VS魔王
#今週も聖戦
#正義の消費
アルトは理解する。
本音は三人にしか届かない。
だが、茶番は百万に届く。
そして、百万の方が価値がある。
魔王が剣戟の火花の中で囁く。
「次回もよろしく」
聖剣が締める。
「チャンネル登録と高評価をお忘れなく」
いいね百万。
炎上は、鎮火しない。
それが一番、数字になるからだ。
世界は今日も、正義を消費している。
――そのとき。
アルトの端末に、物理的なバイブレーションとともに小さな通知が届く。
差出人:母より
「あんた、今度の休みは魔王さんと一緒に実家に帰ってきなさい。
三人でちゃんと話し合いましょう」
アルトは魔王を見る。
魔王も通知を確認し、こちらを見た。
わずかに肩をすくめる。
「……行くか?」
「……行くか」
「世界を救う」よりも困難な、家族会議の幕が上がろうとしていた。
聖戦の終わりは、まだ遠そうだった。
【観測後記録:第2観測】
「なんとも奇妙な世界でしたね。あなたはどうでしたか。」
女神様の問いに、私は苦笑した。
「……正義も、数字次第なのですね。本音は三人にしか届かないのに、茶番は百万に届く」
「何を思いましたか」
「孤独、でしょうか。英雄でも、裏では誰かの子どもでしかない」
女神様は淡々と頷く。
自信の胸の奥に、わずかな重みを感じた。
「次へ進みますか」
「はい、女神様」




