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ワイバーンの残骸と“創造の閃き”

ブライスがワイバーンを焼き払った、その直後。

圧倒的な力を手にした彼は、まだその意味を知らない。

この世界で何を成し、どんな道を歩くのかさえ曖昧なまま――

ただ風に押されるように、彼は歩き出す。


その中で、ほんの小さな分岐点が訪れる。


魔の視点を知り、空を翔け、

初めて“異世界の体験”を心から楽しんだ彼は、

やがてひとつの村へ辿りつく。


そこで出会うのは、

魔力でも戦闘でもない。

まして巨大な敵でもない。

――ただ、小さな優しさ。


生前、優しくしても返ってこなかった青年が、

初めて“優しくされる側”を知る瞬間。


この村は、ブライスにとって

光となるのか、呪いとなるのか。

その答えはまだ誰も知らない。

焦げた大地の匂いが風に流れていく。

そこだけ切り取ったように真っ黒く抉れたクレーター。

ブライスは、自分の右手をゆっくり握ったり開いたりしながら呆然と立ち尽くしていた。


「……な、なに今の……?」


あれは絶対、ただのファイアーボールなんかじゃない。

自分でも理解できない“何か”が出た。

それだけは分かる。


魔素の粒がまだ空中に揺れている。

熱も、震動も、風も、すべてさっきまでとは違った。


ブライス

(ほんとに……俺がやったのか……?)


信じられない。

でも目の前の景色は嘘ではない。


おそるおそる、クレーターの縁へ歩く。

底には、ワイバーンの……残骸がかろうじて残っていた。


といっても、肉片や焼けた骨がいくつか散っているだけだ。

ほとんど蒸発していた。


「……これ……“素材”になるのか?」


半信半疑で、ブライスは肉片のひとつに手を触れた。


ピコン、と透明なウィンドウが開く。



《鑑定結果:ワイバーン(残骸)》


分類:竜種・飛竜

魔核:高純度炎属性

骨格:高硬度

血液:高魔素濃度

DNA情報:複製可能



ブライス

「……DNA、って……異世界にもあるのか……?」


どこか現実味があるのに、同時に想像を超えていた。

“複製可能”の文字が妙に光って見える。


直後、胸の奥がひゅっと熱くなる。

脳の奥で、創造魔術∞が動き出す。


(……脳が勝手に考え始めてる……?

いや……俺の“創造魔術”が、反応してるのか……?)


気づけば手をワイバーンの残骸に触れたまま、

ブライスは呟いていた。


「……もし、このDNAを……俺の魔素で……再現したら……

ワイバーンの姿にも……なれたり……する……?」


思った瞬間、創造魔術が“確定”した。


――魔素が集まる。

――空気が震える。

――精神力と魔力が練り上がる。


ブライス

「ちょっ……! えっ、待って……!?」


思考より先に、魔術が発動した。



《創造魔術:新規スキル生成》


有機擬態オーガニック・ドッペル》を生成しますか?

→ はい

  いいえ



ブライス(内心)

(……いやいやいやいや、ちょっと待っ──)


指が“はい”に触れていた。


光の奔流が爆ぜる。



《スキル生成完了》


有機擬態オーガニック・ドッペル

対象:有機生命体

条件:DNAデータ保持

効果:対象生命体への完全擬態(肉体・能力の一部再現)



「…………マジかよ」


震えた声が漏れた。


ワイバーンの肉片に触れた途端、

身体の奥に“翼のある身体の構造”が流れ込んできた。

骨の形、筋肉の配置、鱗の強度、火炎袋の位置……

まるで説明書のように、自分の中へ情報が流れ込む。


胸が高鳴る。


(……これ……俺、本当に……?)


ブライス

「……よし、一回……やってみるか」


怖さより好奇心のほうが勝った。



ブライスは深く息を吸い、スキルを起動させた。



《有機擬態・対象選択:ワイバーン》


実行しますか?

→ はい



視界が揺れた。

地面が沈み、身体が重く、硬く、巨大になる。

背中が裂けるように熱を帯びたかと思うと──


ドンッ!!


巨大な翼が地面を叩いた。

鱗の感触が腕に、背に、全身に走る。


脚は太く、尾がしなる。

視界が高くなり、嗅覚が鋭くなる。


炎が喉奥で眠っている。


ブライス

「……うおおおおおおおおおい!!!?

なんだこの感覚!? すげぇ……!!」


生まれて初めて味わう“魔の身体”。


美しく、力強く、世界を見下ろせる。


そして──

ワイバーンの翼は、大空へ向かうために存在していた。


地面を蹴った瞬間、

ワイバーンの巨大な体は草原を離れ、空気を切り裂いた。


バサアッ!!


翼の一振りで、

今までの人生で感じたことがないほどの速度で空へと持ち上がる。


視界が一気に広がり、

草原が絨毯のように遠ざかる。


「……っ……すっげ……!!」


声を出したつもりだったが、

ワイバーンの喉から出たのは低く響く咆哮だった。


ガアアアアアアッ!!


その咆哮すら気持ち良かった。


風が全身を打つたびに、

鱗越しでも“世界の触れ方”が違うのがわかる。


人の身体では感じられなかった

重力、空気、水分、熱、魔素の流れ――

それらの情報が、すべて脳へ“色”として流れ込んでくる。


(……これが魔の身体……

こんなにも……自由で……強くて……綺麗なのか……?)


胸の奥が震える。


今まで読んできた

“魔族=邪悪”

“悪魔=忌むべき存在”

という物語の価値観が、

一つ一つ崩れていくのを感じた。


むしろ――

魔の力のほうが、美しかった。


(……俺、なんで今まで“人間”であることにこだわってたんだ?

これ、魔側のほうが……性に合ってるんじゃ……)


ほんの一瞬、

ブライスの心の中で“危ない芽”が芽吹いた。


だが同時に、

胸の奥にはまだ“素朴な善良さ”も残っている。


どちらに転ぶかは――

この先、誰と出会うか次第だった。



しばらく飛んでいると、

地平線の向こうに、

煙の立ち上る小さな村が見えてきた。


家は木造で、家畜の赤い屋根もある。

煙突から上がる白い煙が静かに風に揺れている。


(……村、か。)


ブライスは高度を落とした。


人目を避けるため、

村から少し離れた木々の間へ降り、

“ワイバーン擬態”を解除する。



《有機擬態解除》


対象:人間体に戻ります。



視界が低くなり、

身体が軽くなり、

いつもの自分の姿へ戻った。


「……ふぅ……すげぇ体験だった……」


息を整えながら周囲を見渡す。


服は…現代にいた頃のままだ。

元々事故後に転生して草原に倒れていたからだ。

木の幹にぶら下がっていたボロボロを手に取り、着替えた。

(……これでいいか。)


ブライスは、村へ向かうための“カバーストーリー”を考えた。

•遠くの村から出稼ぎに来た青年

•道中で魔物に襲われた

•逃げ延びた先で、この村に辿り着いた


「……うん、これでいこう。

村の人と関わるなら、嘘でも足場は必要だよな……」


そう自分に言い聞かせ、

村へと歩き出す。


日差しは優しく、

道の両脇には黄色い花が咲いている。


ブライス

「……本当に……異世界なんだな……」


胸の奥が少しだけ、温かくなった。



村の入り口へ近づくと、

畑で農作業をしている老人が、こちらに気づいた。


「おや……? 旅の若いのか?」


ブライス

「あ……すみません。

道中で魔物に襲われて……着の身着のままで……

しばらく休める場所を……探していて……」


噓は一つも言っていない。

ただ真実を全て話していないだけだ。


老人は驚いたように目を見開いた。


「そりゃ……大変だったろう。

顔色も悪いし、服もこんなに……!

ほら、うちに来なさい。水と食事ぐらい用意してやるわい」


ブライス

「……え?」


胸がぎゅっとなる。


どこかで聞いた、あたたかい声。

優しさを向けられたことのない人生だったからこそ、

この瞬間はあまりにも衝撃だった。


(……なんだ……これ。

優しくされるって……こんな……あったかいのか……?)


喉の奥が熱くなった。


老人は気にも留めず、

「ほれ、こっちだこっちだ」と笑う。


ブライス

「……はい……ありがとうございます……」


その言葉は、震えるほど小さくしか出せなかった。


こうしてブライスは、

異世界で初めて――

“優しくされた側”になった。


そしてこの小さな村が、

彼にとって たった一つの“心の拠りどころ” になるとは、

この時のブライスはまだ知らない。


老人の家は村の端にあった。

木の壁はところどころ古く、窓枠も少し軋む。

けれど不思議と、それが“懐かしい匂い”を感じさせた。


「そこに座りなさい。水を汲んでくるよ」


老人が桶を持って裏庭へ向かう間、

ブライスは家の中をそっと見回した。


木製のテーブル。

手編みの小さな敷物。

壁には家族らしき絵が飾られ、

暖炉のそばには椅子が二つ並んでいる。


(……なんだ、この感じ……

まるで……家みたいじゃないか……)


胸の奥から、言葉にならない温かさがじんわり広がっていく。


老人が戻ってきた。


「ほれ、飲みなされ。冷たくてうまい水だ」


差し出された木のコップ。

ブライスは両手でしっかりと受け取り、一口飲んだ。


冷たさが喉を通るたびに、生きている実感が湧いてくる。


ブライス

「……あの、ほんとに……ありがとうございます」


老人

「なぁに、困ったときはお互い様よ。

旅人なら、この村は初めてか?」


「はい……遠い村から出稼ぎに来たんですけど……途中で魔物に……」


「そりゃ災難だったなぁ。

だが命があって何よりだ。

助かったのは運が良かったんじゃねぇか?」


ブライスは言葉に詰まった。


助かった理由は“運”ではない。

彼はワイバーンを消し飛ばせるほどの力を持っている。


だが――

老人のその言葉に、妙に救われた。


(……俺の力じゃない……

この人の優しさが、俺を救ってくれてるんだ……)


そう思った瞬間、胸の奥が苦しいほど温かくなる。



その後、村の人々も次々と声をかけてくれた。


「旅の方? これ、焼きたてのパンだよ。受け取って!」


「着替えいるかい? うちの息子の古着があるよ」


「よかったらうちで夕飯を食べていきなさい」


ブライス

「……え、あ……その……

ありがとうございます……っ」


一つ一つが、刺さる。

痛いほど優しい。


今まで彼は“優しくする側”だった。

誰かに与えても、返ってきたことはほとんどない。

そのたびに、少し傷ついて、

少し疲れて、

でも表には出さなかった。


だからこそ――

この村の温もりは、涙が出るほど沁みた。


(……優しくされるって……

こんなに……嬉しいものなんだな……)


喉がきゅっと鳴り、

目尻がほんのり熱くなる。


「ありがとう」を何度言ったか分からない。

でも足りないと感じるほどだった。



夕焼けが村を赤く染める頃、

ブライスは老人の家の前で空を見上げた。


静かで、

穏やかで、

どこまでも平和な村。


ブライス

「……この村、好きだな」


その言葉は、

彼の心の奥底から自然と漏れたものだった。


(俺……ここで、しばらく暮らしたいな……)


それは決意に近い想いだった。


魔の力に魅了され始めている自分がいる。

この先、どんな道を歩くのかも分からない。

人間という種族が、どれほど醜く、どれほど愚かしいか――

それを知るのは、まだ少し先の話。


けれどこの村だけは、

ブライスの中で確かに特別な“光”となった。


“初めて優しくされた場所”。

“唯一、守りたいと思った場所”。


この村が後に、

ブライスという“災厄”を止められる

最後の希望になることを、

本人はまだ知らない。


胸の奥をそっと押さえながら、

ブライスは小さく微笑んだ。


「……ありがとう。

俺を……迎えてくれて」


その声は、夕空に溶けていった。

ブライスにとってこの村との出会いは、

“最強の力”の獲得よりも衝撃が大きかったかもしれない。


魔側の身体を喜び、

魔の力に魅了され、

本能の底で“自分は人間側ではない”と感じ始めていた彼が――

たった一握りの人間の優しさに触れ、

胸の奥で大切に抱えていた“弱い部分”を救われた。


ここで芽生えた温もりは、

この先のブライスの人生で

深く、静かに作用し続ける。


彼はこの村だけは決して捨てない。

守る。

たとえ世界を滅ぼす日が来たとしても。


これが後の

「ブライス、ただ一つの例外」

という矛盾した優しさに繋がっていく。


異世界での初めての居場所。

初めて与えられた優しさ。

初めて知った“守りたい”感情。


この村はブライスの闇堕ちの“歯止め”であり、

同時に“闇を深くする理由”でもある。

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