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失われた祝福、追放された勇者

眩しい光の残滓がゆっくりと消え、

一人の青年が王城の寝台で目を開けた。


「……ここは……?」


天井は金色の文様が施され、

部屋中に香炉の甘い匂いが漂っている。

分厚い絨毯、清潔な白布、気品ある家具。

どう見ても、庶民が一生で一度も触れられないような部屋だった。


「勇者様……お目覚めになりましたか!」


駆け寄る声。

屈強な騎士たちが整列し、恭しく頭を下げてくる。


青年――リオンは、しばらく状況を理解できずにいた。

彼は元の世界では、強くもなく、裕福でもなく、

ただ「もっと強くなりたい」という焦がれるような願いだけを抱えて生きていた。


そして突然、光に包まれ……次の瞬間にはここ。


「……俺が、本当に……勇者に?」


震える声に、老魔術師が穏やかにうなずいた。


「はい。女神の神託により選ばれた、我らが救世主――勇者リオン様です」


胸の奥が熱くなる。

人生を変える瞬間。

彼は間違いなく感動していた。


だが――

それは“祝福の空虚さ”をまだ知らない頃の話。


「では、儀式を。勇者様に授けられた祝福を確認いたします」


老魔術師が杖を掲げ、鑑定魔法の陣を展開する。

光がリオンの身体を包み、数秒間、静寂が続いた。


……。


…………。


老魔術師の額に、ひと筋の冷や汗が落ちる。


「……おかしい……な。もう一度……」


さらに魔法陣が二重、三重に重なっていく。

リオンは胸を高鳴らせながら、結果を待った。


数分後――老魔術師の顔は真っ青になっていた。


「王よ……信じがたいのですが……」


王の顔も緊張で固まる。


「勇者リオンには……スキルが……ひとつもありません」


「…………は?」


リオン自身が一番、理解できなかった。

すべての音が消え、視界が遠のく。


王が低い声を漏らした。


「おい。勇者がスキルなしということが、あり得るのか?」


「前例は……一度も……ございません……」


「では何故だ!? 神託は確かに“この男”を勇者として選んだはずだろう!」


怒声が響く。

リオンは震えたまま立ち尽くすしかなかった。


「……もう一度だ! まだだ、まだ……!」


老魔術師は涙目で鑑定を繰り返す。

しかし――


表示された結果は、何度やっても同じ。


【スキル:無し】

【加護:無し】

【称号:無し】


完全なゼロ。


王は沈痛な表情で言った。


「……我が国は、勇者に頼らねば戦に勝てぬ。

だがスキルゼロの者を勇者として抱える余裕もない。

すまぬが……出て行ってもらう」


「ま、待ってください……! 本当に俺が勇者なんです!

光が……女神が……!」


「女神は何も言わぬ。

ただ神託が曖昧だっただけだろう」


兵士たちがリオンの腕を取る。

彼の言葉を信じる者は誰もいなかった。


老魔術師は苦しげに目を伏せた。


(……なぜだ……なぜ祝福がひとつも授けられていない……?

神託の誤作動……?

いや、そんなものこの数千年一度も……)


「離せ!! 離せって!!

俺は……勇者なんだ……っ!!!

選ばれたはずなんだ……っ!!」


青年の叫びは、誰の心にも届かなかった。


王城の大門が閉ざされる。


リオンは薄暗い石畳に膝をつき、震える声でつぶやいた。


「……そんな……

何でだよ……

俺……俺が……勇者なのに……」


その背中に、夕日が何とも言えない影を落とす。


この瞬間、世界には

祝福ゼロの勇者と、祝福全部持ちの草原の青年

という前代未聞の歪みが生まれた。


リオンはまだ知らない。

すべての祝福が“見知らぬ誰か”に流れたことも、

その誰かが、いま草原で最強の力を抱えて目覚めようとしていることも。


運命の歯車は、もう止まらない。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

僕の好きなジャンル、ざまぁ系を書けたのではないかと思っております。

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