赤鱗の翼と、森で出会ったエルフ
新しいキャラを出してみました。
魔族領の玄関都市で一夜を過ごした翌朝。
ブライスはまだ薄暗い道をひとり歩き出した。竜人が言っていた
“赤鱗系なら魔族領の方が暮らしやすい”
という言葉を、妙に信じたくなったからだ。
この日の心は、これまでの自分ではあり得ないほど静かだった。
あの街で過ごした短い時間が、確かにブライスの心を軽くしていた。
——人間でなくても、拒絶されない場所はある。
そう感じられたのは初めてだった。
歩を進めながら、ブライスはもう一度、自分の進む道を考え直した。
孤児を守れなかった後悔。
人間が他種族に向ける冷たい敵意。
その全てを知ってしまった今、人間として生きる未来はどうしても見えなかった。
「……俺は結局、逃げてきただけだったのか。」
呟きながら、背中に手を伸ばす。
隠していた赤い鱗の翼を、思い切って——
バサッ
と解き放つ。
鱗の感触、空気が通る感覚。
それはもう“人間としての身体”ではなかった。
けれど不思議と、嫌悪よりも安心の方が勝っていた。
「好きに生きればいい……それでいいよな。」
そう思った、その時だった。
森の奥から、甲高い叫び声が聞こえた。
ブライスは反射的に翼を収納し、木陰に身を隠す。
⸻
男の怒声と、少女の泣き叫ぶ声が交じり合っていた。
男1「見ろよ、このエルフ!小柄で傷もねぇ。こりゃ高く売れるぞ!」
男2「やめておけって……ここはリュミエルの大森林だぞ。エルフ種の縄張りだ。」
男1「うるせぇ!獲物がいるなら連れてくに決まってんだろ!」
エルフの少女
『やめて!離して!誰か……助けて!!』
思考より先に足が動き、ブライスは二人の前に躍り出た。
⸻
ブライス「その子を離して頂けないだろうか。」
男1「誰だテメェ。丸腰でこの森とか、自殺志願かよ。」
男2「……まずいですね。この場はお互い見なかったことに——」
男1「バカ野郎!見られた以上、こいつとエルフを消すしかねぇだろ!」
二人は剣を構え、一斉に襲いかかってくる。
その瞬間、ブライスは思い出していた。
道中、魔物に対して使おうとして、結局使えなかった“自作魔法”の存在を。
──《シャドウランス》。
孤児を守れなかった後悔と、人間への恐怖、
そして“自分の弱さを拒絶したい”という歪んだ気持ちが生んだ魔法。
「近づけないようにしたい」「遠ざけたい」
そんな願いが槍という形を取った、拒絶の魔法。
本来なら魔物相手ですら使えなかった。
生き物に痛みを与えることが怖くて、最後の最後に躊躇してしまった。
だが、今目の前にいるのは——
人を売り物として扱い、当然のように命を踏みにじる“人間”。
その事実を前にした時、胸の奥に押し込めていた怒りが、静かに解き放たれた。
不思議と、今度は迷いがなかった。
いや、むしろ魔法の方が勝手に動き出したようにすら感じた。
⸻
ブライス「——《シャドウランス》。」
地面が黒く染まり、影が波打つように広がる。
次の瞬間、闇の槍が何十本も突き上がり、男たちの身体を容赦なく貫いた。
毒が浸透し、彼らは声にならない呻きだけを漏らしながら崩れ落ちる。
初めて人間に対して放った攻撃魔法。
だが、不思議と胸に重い罪悪感は湧かなかった。
むしろ——
「これで、守れた」
そう思えるほど、心は静まり返っていた。
⸻
倒れた男たちの横で、エルフの少女が震えながらも丁寧に頭を下げる。
年齢に似合わない礼儀正しさだった。
少女の名は リエル。
ここはエルフたちの住処である リュミエルの大森林。
最近は奴隷狩りが横行し、行方不明者も増えているという。
ブライスは
「じゃあ、帰りは気をつけて」
と別れようとした。
だが、リエルはブライスの手を取って言った。
リエル
『待ってください……! あなたのようなお強い方が、なぜこの森に?
その先は魔族領です。詮索はしませんが……気になってしまい。』
少し迷いながらも、ブライスはこれまでの過去を語った。
孤児の死、人間の残酷さ、魔族領へ向かう理由。
リエルは静かに聞き終えると、深く頭を下げた。
リエル
『そんな過去が……では、あなたはこれから魔族領へ向かうのですね。
ご迷惑とは存じますが、どうか……私も同伴させてください!』
ブライス「本当にいいの?」
リエル『はい!よろしくお願いします!』
その瞳には、恐れよりも決意の光が宿っていた。
⸻
こうしてブライスはエルフの少女・リエルと共に、
再び魔族領へ向けて歩き出した。
孤独の旅ではなくなった道。
翼を隠さず、心も偽らず、前を向いて歩く道。
ブライスが人間に対して思っている事を、魔法として具現化させてみました。




