虹色の結界、そして“魔王側近”の影
一触即発は避けられ、ました。
冒険者の神官が詠唱を終え、
光の矢がブライスへ向かって突き刺さるように飛んだ。
ブライスは、抱えた孤児の亡骸を庇うように体を丸めた。
(……奪われたくない……
もう……失いたくない……)
それだけ。
その“願い”だけで魔力が反応した。
次の瞬間――
ぱぁああっ……!!
ブライスの周囲に、
七色の光を帯びた半球状の結界が瞬時に展開された。
無詠唱、無動作、無意識。
撃ち込まれた攻撃魔法は、
結界に触れた瞬間、
跳ね返る。
しかも威力は倍以上。
ドガァァァンッ!!
近くの木が一本、まるごと吹き飛んだ。
冒険者たち
「…………は?」
沈黙。
森の風の音だけが響く。
冒険者
「おい……今……
なにもしないで結界張ったよな……?」
別の冒険者が震える声で口を開く。
「……俺、昔読んだ文献で見たんだ。
黒い角に赤い二本線……
黒い瞳の中に、金色の縦長瞳孔……
あれは……」
レオン
「何を言って――」
冒険者
「魔王側近“四天王”の一人。
暴虐の――」
「ふざけんな!!」
仲間の一人が叫んで話を遮る。
「俺には嫁がいるんだ!!
四天王だか魔族だか知らねぇが――
絶対生きて帰る!!」
場の空気が一気に恐慌へ傾いた。
その中で、
パーティーのリーダーが、顔を引きつらせながら、
しかし必死に声を搾り出した。
「……ここは……
お互い、見なかったことにしませんか……?」
怒り、悲しみ、絶望に濁ったブライスの瞳が、
ゆっくりと冒険者たちを見た。
そして――
コクッ。
無言でうなずいた。
冒険者全員
「…………!!」
「に、逃げろッ!!」「急げ!!」「死にたくねぇ!!」
全員が小走りで森の奥へ逃げていく。
⸻
仲間
「エルド!!何してる!!早く来い!!」
レオン
「…………」
胸の奥がざわつく。
恐怖じゃない。
もっと嫌な感覚。
“失われた何か”が、目の前にあるような――
(……あの瞳……あの魔力……
どこかで……いや……
まさか……)
だが、直感が告げていた。
――勝てない。
あれは、人間が敵にしていい相手じゃない。
仲間が腕を掴む。
「死ぬぞ!!早く来い!!」
レオン
「……ああ。行く」
彼は、胸に刺さった違和感を押し殺し、
仲間の後を追った。
⸻
風が冷たい。
心も、世界も、もう何も信じられないほど冷たい。
(……僕は……
どうして……
こうなったんだろ……)
涙が落ちる。
それを拭う手は、
すでに“人間の手”ではなくなりつつあった。
ブライスは孤児の体をそっと草の上へ寝かせ、
その額に触れた。
「……ごめん……
守れなかった……」
赤い鱗が背中に浮かぶ。
角がわずかに光る。
そして、
赤い翼が広がる。
風が巻き起こり、木々が揺れる。
ブライスは、
守れなかったものを抱えて、
人間のいる世界から離れるように、
森の奥――
魔族領へ繋がる峠へ向かって飛び立った。
月光に照らされる赤い翼が、
夜空に溶けていく。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
虹色の結界を張れた理由は、
「人間として残っている最後の光」 であり、
魔族のような姿になっている理由は、
「魔素が肉体を上書きし始めている」 から。
つまり……
心は人間の光。
身体は魔族の影。




