森の中、最悪の再開
本来の勇者であるレオンと主人公ブライスの遭遇を書きました。
森は深く、沈黙していた。
ブライスは、孤児の亡骸を胸に抱えたまま歩いていた。
翼と角は、魔素が落ちていくにつれて薄く消えていく。
だが変化は完全には解けず、背中には赤い鱗の跡がうっすら残っていた。
足元の草は濡れていて、
歩くたびに冷たい水が靴に染み込む。
(……人間のいる場所から、離れたい……
もう……誰の声も聞きたくない……)
道など分からなかった。
ただ、本能のまま“人間から遠ざかる方角”へ進んでいた。
その先が魔族領へ続く深層の森だと知らないまま。
⸻
偽名「エルド」を名乗る男。
本来の勇者──レオン。
勇者召喚の儀式でスキルを持たず、
王国に失望され、
無能力者として追放された男。
彼は今、帝国側の辺境で冒険者として生計を立てていた。
パーティー仲間
「おいエルド、そろそろ引き返すぞー!」
「今日のノルマは終わりだ!」
レオン(エルド)
「ああ……今行く」
無理に笑って返しながら、
胸の奥には重い空洞がある。
(勇者として呼ばれたはずなのに……
力は何もなかった。
あの瞬間……何かが消えた。
誰かに……奪われたような……)
その得体のしれない喪失感が、
彼の足取りをいつも曇らせていた。
⸻
仲間のひとりが、前方を指さした。
「なあ……おい……
あれ……誰か倒れてないか……?」
木々の隙間から漏れる月光に照らされ、
ひとりの少年が浮かび上がる。
ボロボロの服。
焦点の合わない瞳。
その腕には、ぐったりとした小さな亡骸。
レオン
「……大丈夫か……?」
その声に、
ゆっくり顔を上げたブライス。
金色の縦長の瞳孔がきらりと光った。
レオン(息を呑む)
(今の……目……?)
仲間たちの反応は早かった。
「おい!! あいつ角が……見えたぞ!」
「背中に翼の跡が……!」
「魔族だ!!」
「構えろ!殺られる前に殺るぞ!!」
レオン
「待て! まだ決めつけるな!!」
ブライスは震えていた。
腕の中の孤児の体は冷えきって重い。
胸が痛すぎて呼吸もできない。
(まただ……
また“魔物”って言われた……
どうして……僕は……)
涙の跡が頬に残る。
孤児の亡骸をぎゅっと抱きしめながら、
かすれる声で呟いた。
ブライス
「……来ないで……
お願いだから……来ないで……」
レオンは確信する。
(この子……泣いている。敵じゃない。
むしろ……守ろうとして……)
だが仲間は聞かない。
「エルド!何してる!退け!!
あれは魔族のガキだ!!」
レオン
「違う! 落ち着け!!」
冒険者が剣を抜く。
仲間の神官が浄化魔術の詠唱を始める。
森の空気が一気に張り詰めた。
ブライスの呼吸が荒くなる。
孤児の体を守るように抱きしめ直す。
(やめて……
もう奪わないで……
お願いだよ……)
胸がギシッと軋む。
黒い瞳の中心がパキンと割れ、
金色の縦長瞳孔が完全に現れる。
レオン
「待てぇぇッッ!!」
だが、
遅かった。
冒険者一行が一斉にブライスを囲む。
最悪の再会が、ここに成立した。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




