真夜中のアリス
その世界への穴を見つけたのはアリスだった。
アリスはすぐに大好きなお兄ちゃんのオスカーに知らせた。
深夜の3時になると、子供部屋のカーペットの下に真っ暗穴が現れるのだ。
その真っ暗穴を二人で覗きこんだ時、オスカーは当然のようにアリスに中を確めてくるように言った。
よく訓練された犬のように、アリスはオスカーに従順だった。しかしオスカーが良き主だったかというと、そうとはいえない。オスカーは妹のことを本当に犬か何かくらいにしか思っていなかった。
アリスが恐る恐る穴に入ったあと、無事でいるのを確かめると、オスカーはようやく降りてきた。
暗闇を抜けると、そこは公園のようだった。突然明るくなって、目がチカチカした。
昼間の公園は閑散としている。雨が降った後のようで、石畳の道にはたくさんの轍があった。何の跡だろうと思っていたら、馬の蹄の音がしてきた。通りを見ると、馬車が通り過ぎていったから、アリスは面食らった。馬車なんて何かの行事やイベント、観光客用のものしか見たことがない。それに道行く人々の格好も、古臭くて動きにくそうなものだった。
不安でオスカーのシャツをしっかり握ったアリスに、オスカーはきょろきょろと周囲を観察しながら言った。
「ベッセマー先生が言っていた。僕たちの住む世界とそっくりなもうひとつの世界があるんだって。そこには僕たちとそっくりだけど、でも別の人格の人たちが住んでいる」
オスカーは魔法の力があったから、学校が終わると、隣のターコイズ通りに住んでいる魔法使いベッセマーさんの家に魔法を習いに行っていた。だからアリスの知らないことをたくさん知っているのだ。頭がよくて、運動もできて、それからクラスの誰よりも綺麗な顔をしているお兄ちゃんのことを、アリスは自慢に思っていた。
穴の中の世界は、アリスたちの世界とそっくりだけど、少し違っていた。文明や技術が、少しだけ遅れているのだ。たとえばまだロンドンの街並みはガス灯だったし、電子機器の類はないようだった。
その日は少し散策して、すぐに帰った。
そして次の日の3時にも、穴は現れた。アリスとオスカーは穴を見つけるとはしゃいだ。
穴の出口はいつも色々な場所に繋がっていて、二人は毎晩秘密の散歩を楽しんだ。穴の世界では、深夜の3時は昼の3時だったから、不思議な気分。飛行機で旅行でもしたみたいだった。それから、すぐに気づいたのだけれど、穴の世界の人々には、アリスたちの姿が見えないのだ!
どこかがちょっと違う、だけど見慣れてもいるロンドンの街で、オスカーは様々な悪戯をした。店先に並ぶ美味しそうなパンを好きなだけこっそり食べたし、立ち入り禁止の廃屋にこっそり忍び込んだ。アリスはオスカーのする悪戯をはらはらしながら見守ったり、たまに手伝ったりした。
優等生の仮面を脱ぎ捨てたオスカーは、アリスが考え付かない悪戯を次々に思い付くので、アリスは舌を巻いた。
「お兄ちゃん、今日は何をするの?」
毎晩のように遊んでいるので、このところいつも寝不足だ。アリスは瞼を何度も擦りながら、オスカーを必死で追いかけた。オスカーは学校へ行くつもりだ。
「この間のぞいたら、マイケルやジョンやバネッサとか、みんなにそっくりな奴等が授業を受けていただろう? 気に入らないやつらに、ちょっとしたプレゼントをしてやるのさ」
オスカーは薄い唇の端をつり上げた。そうするとオスカーは本当に意地が悪そうに見えるけれど、同時にすごく綺麗に見えるのをアリスは知っていた。
「アリスの嫌いな奴は誰だ? いつも意地悪してくる奴がいるって、言ってただろ」
「えっ、うーん」
アリスは同じクラスのリックが嫌いだ。いつもアリスを見張ってて、失敗したり間違えたりすると喜々としてからかってくる。
だけど、この世界のリックはあっちのリックじゃないから、アリスに悪戯をするリックじゃない。そのリックに悪戯するなんて、かわいそうじゃないのかな?
そう思ったけれど、上手く伝えられなかった。オスカーの指示で、校庭の隅の草むらに座り込んで、湿った枯れ草の下にいるミミズや昆虫をスコップでたくさん集めた。
「お兄ちゃん、これどうするの?」
「鞄の中から出てきたら、面白いと思わない?」
思わない、というのがアリスの意見だったが、黙っていた。オスカーは口答えされるのが嫌いなのだ。
アリスは、教科書を出そうと鞄に手をいれたら、ごそごそと動きまわる芋虫をつかんでしまうのを想像して、嫌な気分になった。
バケツに虫がたっぷりたまると、オスカーは意気揚々と、それから誰にも見えていないので堂々と校庭を突っ切って、校舎へと向かった。アリスは小走りでついて行く。時々バケツから虫が逃げ出した。オスカーの持つバケツの中は、阿鼻叫喚という言葉がぴったりだった。
その時、空から長い黒いドレスを着た女の人が、箒に乗って降りてきた。どことなく上品な魔女だ。貴婦人が馬に乗るみたいに横乗りで箒に乗っているし、金色の波打つ髪を優雅なシニョンにして、小粋に三角帽子を被っている。まるで女優のように美しい魔女だった。オスカーは相手から見えないことを良いことに、不躾に見ていた。アリスは、オスカーが魔女に見惚れていることに気づいた。
——ふうん。お兄ちゃんの好みって、こういうのなんだ。
魔女は箒から降りると、二人の前に立ちはだかった。アリスは驚いた。魔女は二人が見えているみたいだ。
「ここ数日、勝手にあっちの世界とこっちの世界を行き来しているのはあなたたちね?」
アリスは不安になって、オスカーを見上げた。
オスカーは悪戯がバレて不機嫌な顔をしていたけれど、挑むように言った。
「だったら?」
「いらっしゃい。甘いお菓子をあげましょう」
アリスはオスカーと顔を見合わせた。お仕置きや両親に言いつけるわけでもなく、お菓子をくれるだなんて、魔女はどういうつもりだろう。
夜通し起きていたせいで、お腹が減っていた。どこかのお店からちょっと貰ってきても良いけれど、魔女の誘いは魅力的に見えた。だってとても綺麗な魔女なんだもの。オスカーもそう思ったらしい。
アリスとオスカーは魔女につれられて、魔女の家まで歩いた。たどり着いた家は、鬱蒼としたイングリッシュガーデンで入口が半分隠れている。ステンドグラスが嵌め込んであるドアを開けると、カウベルが鳴った。アリスたちは、こじんまりとしていて物がたくさんあるのだけれど、綺麗に整った部屋に通された。それから布張りの椅子をすすめられて、濃い紅茶を貰った。机の上には、銀のティーセットと、山盛りのチョコレートとタフィ、それからクッキーにマシュマロ。
二人がお菓子を食べるのを満足そうに見て、ふかふかの椅子に座る魔女が言った。
「盗み、器物破損、不法侵入、いろいろやったのね」
アリスは驚いた。ほんのちょっとの悪戯だったけれど、そう言われると物凄く悪いことをしたみたいだ。魔女は罪悪感を引き出すために言ったに違いない。嫌な魔女だ。
だけど、次に魔女が言った言葉は、まるで一等賞にご褒美をあげるわ、とでも言うような賞賛が混じっていた。
「さあ、この世界への入り口を見つけたのはだあれ? どっちが最初に穴に入ったの?」
オスカーが胸を張って言った。
「僕です」
驚いてオスカーを見たけれど、オスカーはとても滑らかに嘘をついた。ここで真実を言うとあとでオスカーから酷い目に合わされるのを知っていたから、アリスはじっと黙って、魔女の整った顔を見つめていた。
「あなたにはとても強力な魔力があるのね。偉大な魔法使いになるに違いないわ」
『この子がいれば自由に世界を行き来できるぞ。そうしたら幾らぐらい稼げるだろう、ううん、きっともっとすごいことができるわ』
アリスは目を瞬いた。あれ? 今、何が聞こえたんだろう?
魔女は艶やかな赤い唇でにっこり微笑んだ。
「あなた、魔法は誰に教わっているの? 私が教えてあげましょうか?」
『この子と二人で世界を牛耳ることができるわ。素敵! 手元に置いておかなくっちゃ』
やっぱり! アリスはごくりと紅茶を飲み込んだ。魔女の本心が聞こえるんだ。
魔女はオスカーを手にいれて、悪いこと、オスカーがしたことよりも、もっと悪いことをしようとしている。だけど、アリスはどうやってそれをオスカーに伝えたら良いか頭を悩ませた。
「ありがとうございます。是非そうしたいです」
オスカーは、先生や両親に向ける完璧な笑顔を、魔女に向けている。アリスは唇を噛み締めた。どうしよう。
「でも、両親に別れを告げたいのですが……」
「心配ないわ。あなたがこちらの世界にいる間、あっちの世界には、こちらの世界のあなたたちが行っているのよ」
「えっ」
アリスは驚いた。でも、思い返してみれば、深夜にベッドを抜け出したことを一度もバレたことがないし、部屋の中の物の場所が変わっている気がした時もあった。
「だけど、能力は一緒じゃないの。性格も違うのよ。いいわ、では一晩、あちらで過ごしてきなさいな。穴を作ってくれたら、3時に迎えに行くわ」
『妹の方は、いらない。余計なことを言わないように、干して魔法の材料にしてしまおうか?』
魔女に見送られて、アリスたちは元の世界に戻ってきた。
子供部屋のカーペットをもとに戻すと、アリスはオスカーに魔女の本性を話した。しかし、オスカーは信じてくれなかった。
「嘘つくんじゃない。あの人はとても親切だったじゃないか。それにベッセマー先生は僕に初級の魔法しか教えてくれない。あの魔女は、僕を偉大な魔法使いにしてくれるって言った」
「だけど……だけど、穴を見つけたのは私だわ。本当は魔女は私が欲しいのよ! どうするの、お兄ちゃん? 魔力が弱い方は、干されて魔法の材料に刻まれちゃうわ」
アリスは自分に魔法の力があるとは思っていなかった。だけど魔女が言うようにとても強い力があるから、魔女の本心が聞こえてきたのだろう。
「なんだ、気づいてたのか。僕はね、ずっと前から気づいていた。お前が僕より強い魔力を持っているってね。今までずっと我慢していたけれど、本当はすごくムカついていたんだ。なんでチビで使えない妹なんかに、負けなきゃいけないんだってね。だから、よこせ」
ずい、とオスカーは手を差し出した。
「えっでもどうやって……」
「魔女の魔力は髪に宿る。よこせ」
アリスは後ずさった。ずっと綺麗に伸ばしてきた髪の毛は、パパが褒めてくれる自慢の髪だ。だけど、オスカーは無慈悲に手を突き出した。
「よこせ」
アリスはこれまでずっとそうしてきたように、仕方なくオスカーの指示にしたがった。ずっと伸ばしていた自慢の髪を、ハサミでばっさり切って、オスカーに渡した。オスカーは満足そうに巾着にアリスの艶やかな金髪の束を入れた。
次の日、母親に怒られたのはアリスだけで、オスカーは知らんぷりをしていた。
そしてオスカーはその夜、カーペットをめくって穴を出現させると、アリスの髪を持って、穴の中に消えてしまった。穴の中では、魔女が待ち構えているだろう。アリスは魔女の思惑を知っていたので、穴には入らなかった。ついて行ったら、切り刻まれて魔法の材料にされてしまうだろうから。
アリスは真っ暗穴の前で、途方に暮れた。
——お兄ちゃんはきっと、邪悪な魔法使いになるに違いない! だって、毎日あんなに意地悪なんだもの。きっと魔女と二人で悪いことをするわ。そうしたら、それは、私のせいだ!
しくしくと泣いていると、部屋で誰かの声がして、アリスは顔をあげた。目の前には、先程行ってしまったオスカーがいたから、アリスの沈んでいた気分はぱあっと明るくなった。
「あれ? お兄ちゃん、戻ってきてくれたの?」
しかし、当惑したようなオスカーの顔を見て、気分が沈んだ。オスカーがこんな自信なさげな顔をするはずがなかったから、アリスは『もうひとりのオスカー』だと気づいた。
「アリス、なんで髪の毛が短くなっているの? それに、またこの部屋……最近、いつも気づくとここにいる。今日は、ドアの外に出てみようか?」
アリスと一緒の金髪に、ブルーグレーの瞳。近所の人たちはみんな、オスカーを賢そうないい子だと言っていた。新しいオスカーは、顔立ちは全く一緒なのに、アリスからすれば、別人だった。オスカーはいつも自信たっぷりの高慢そうな顔をしているのに、今は春の陽射しのように優しげだ。
アリスはため息をついて、もうひとりのオスカーに事の顛末を話して聞かせた。
「じゃあ、もう僕は前の家に戻れないんだね」
もうひとりのオスカーは、やっぱり本当のオスカーと全く違う性格をしていた。ふんわりと困ったように笑って「それじゃ、アリスがかわいそうだ。君のお兄さんは酷いね」なんて頭を撫でるものだから、アリスは困惑した。
「お兄ちゃんは、そこまで酷くないわ」
思わず庇ってしまう。オスカーは首を振った。
「いいや、酷いよ。僕を勝手にこの世界に置き去りにした。君の魔力を強引に奪った。人のことを考えないところ、僕の本当の妹にそっくりだ」
「あなたの妹は、そんなに意地悪なの?」
「うん。とっても可愛いけれど、悪魔みたいな娘だよ」
「それじゃ、お兄ちゃんは今、その子のお兄ちゃんになってるのね」
アリスはもうひとりの自分を憎らしく思った。私のお兄ちゃんなのに。でも、その子のお兄ちゃんはここにいるから、おあいこだろうか? だけど、お兄ちゃんみたいな妹と、お兄ちゃんが仲良くできるとは到底思わなかった。
とにかく、アリスは眠ることにした。
明日になったら、右も左もわからないオスカーと一緒に過ごしていかなければならない。
もしかしたらオスカーはみんなに見えないのではないかと思ったけれど、そんなことはなかった。あちらの世界でアリスとオスカーが誰にも見えなかったのは、アリスが無意識のうちに力を使っていたのだ。
もう一人のオスカーはとても優しくて、宿題を押し付けないし、嫌いな食べ物を押し付けないし、嫌な命令もしなかったから、アリスは戸惑いながらも、新しいオスカーと仲良くやっていた。オスカーも新しい生活が気に入っているようだった。
だけどアリスは時々とても寂しくなった。今思えば、オスカーの宿題を代わりにやっていたせいで学校の成績は良かったし、オスカーはいじめっ子からよく助けてくれた。それにオスカーがいないと楽しくない。
——やっぱり、そんなに酷いお兄ちゃんじゃない。ううん、お兄ちゃんはすごく意地悪だけど、でも私のたったひとりのお兄ちゃんだもん。
学校の帝王だったオスカーが大人しくなってしまったので、アリスはまたいじめられるようになった。リックに短くなった髪の毛をからかわれたし、みんなの前でスカートをめくられた。だけど、アリスはそれどころじゃなかった。アリスはとうとう、とても寂しくなって、泣き出した。
「お、お、お兄ちゃん!!」
突然泣き出したアリスの前で、リックがあたふたしていた。騒ぎを聞き付けたオスカーが廊下を走ってきて、リックを睨みつけ、アリスの涙をハンカチでふいたけれど、あとからあとから涙が出てきた。
「アリス、可愛いアリス。僕の本当の妹になってよ」
アリスは首を振って、いっそう激しく泣いてしまった。
すると、不思議なことが起こった。真っ黒穴が現れて、その中からもう一人オスカーが出てきた。オスカーはアリスの泣き声を聞いて顔をしかめると、指をつっこんで耳をふさいだ。アリスは驚いて、ぴたりと泣き止んだ。
「お兄ちゃん!? 本当のお兄ちゃん!?」
オスカーはむくれた顔でこちらをじろっと見た。それから頷いた。アリスには、オスカーがちょっと気まずく思っているのだとわかった。
「どうして戻ってきてくれたの? 魔女に酷いことされたの?」
オスカーはバツが悪そうに言った。
「いや……せっかく力を手にいれても、あんな生意気な妹がいたんじゃ、面白くないと思って、帰ってきたんだ」
「お兄ちゃん……」
「僕だってびっくりだよ。泣き虫で邪魔な妹が恋しくなるだなんて」
アリスは感極まってオスカーに抱きついた。いつもだったらすぐに引き剥がされただろうけれど、オスカーは拒否しなかった。
アリスは嬉しくて仕方がなかった。
——お兄ちゃんも、もう一人の私じゃなくて、本当の私がいいんだ! これからは、私もしっかりしなくっちゃ。お兄ちゃんが悪の道に走らないように見張るのは、私の役目だ。
戻ってきたオスカーと、嬉しがるアリスを見て、もう一人のオスカーがため息をついた。真っ暗穴に吸い寄せられている。本当のオスカーが戻ってきたから、元の世界に戻るのだろう。
もう一人のオスカーは、アリスの横にいる本当のオスカーを睨み付けた。
「あのね、アリスを泣かしたら、許さないから。いつだって僕が代わるからね?」
オスカーはつんと澄まして言った。
「煩いよ。あんたはあのじゃじゃ馬のお世話をしてろ」
オスカーが言うと、オスカーが肩をすくめる。アリスはクスッと笑ってしまった。
もう一人のオスカーは、仕方がないと観念したようで、最後にアリスの頭を撫でた。
「あれはあれで、可愛いところもあるんだけどな。じゃあね、優しい方のアリス」
もう一人のオスカーも、実は、悪魔みたいだと言う妹が恋しくなっているのかもしれない。どこか安心したような顔でアリスに手を振ると、真っ暗穴に入っていった。
「アリス」
オスカーが一人だけになると、ポツリと呟いた。
「なに、お兄ちゃん?」
「その……ゴメン」
ほとんどアリスを見ずに言った謝罪を、アリスは受け入れた。オスカーが謝るなんて、初めてのことだったからだ。
それからアリスは、3時に子ども部屋のカーペットをめくることはやめた。魔女がこちらの世界にやってきたら大変だし、もうオスカーを悪い女には渡さないぞ、と思っていた。
オスカーはいつもの意地悪なお兄ちゃんに戻ったので、時々もう一人のオスカーに会いたくなるときもあった。だけど、前よりずっと優しくなった気がする。宿題を押し付けられることも、嫌な命令をされることもない。時々邪険にされるだけで、一緒に遊んでくれる時もある。もう一人のオスカーの言葉が効いているのかもしれない。
だけど、アリスはなんとなく気づいていた。オスカーはまだ、あの魔女と世界征服をする夢を抱いているのだ!
少し素行が良くなっても、オスカーの野心家で意地悪な本質は変わらないようだった。
次の年には、アリスはオスカーと一緒に、学校が終わるとベッセマーさんのところへ魔法を習いに行った。
アリスの髪は元どおり綺麗に伸びて、魔法はめきめきと上達した。オスカーが悪い魔法使いにならないように、アリスは強い魔女にならなければならない。きっと綺麗で偉大な大人の魔女になって、オスカーを真っ当な道に進ませるのだ。つんと唇を尖らせて悪巧みをしているオスカーを横目に、アリスはそう固く決意していた。