007 ネコ耳パジャマ
「うお」
色素が薄く、華奢かつ引き締まった身体。なんと美しい身体付きだろうか。これを入れ物として使うことが惜しいくらいだ。
「ま、まぁまぁスタンダード?」
とはいえ、日本人と白人のハーフの姿に生まれ変わっていたのは分かっている。それに、何事もなければ毎日向き合う肉体。ここは慣れていかなければならない。
身体の洗い方は、前世とさほど変わらない。違う点は、デリケートゾーンと髪の毛くらいか。股間はどれくらい洗えば分からないし、髪の毛は一応ショートヘアだが、当然男性時代より長い。正直、面倒臭い。
そういうちょっとした愚痴が出てきそうではあるが、夢野は押し黙って身体を清めてしまう。いちいち驚嘆していたら、リトとイリナの計画に間に合わなくなる。シャワーだけなので、15分くらいで外へでていく。
「なんだ、これ」
洗面所には、気ぐるみパジャマみたいな服が置かれていた。ネコ耳付きだ。まさか、これで作戦に挑むつもりか? 可愛いほうが油断されないと? それとも、弾除け要員だったらこれで充分だろ、と?
「油断を買うにしちゃ、軽装過ぎない?」
結局ブーブーと文句を垂れながら、ネコ耳付きパジャマへと着替える。
「似合ってるじゃないか」
リトがニタニタと笑いながら、夢野を見てくる。近くにおいてある拳銃で撃ってやろうかと思ったが、どうせ撃ったくらいでは死なない人間だ。グッと堪える。
「で、次はなにするの?」
夢野は顔を赤らめ、恥ずかしさを感じながら、リタへ尋ねた。
「そりゃあ、作戦だよ。大丈夫。特殊防弾チョッキならあるからよ」
リタは、片手で持てるくらいの軽さと薄さの防弾チョッキを夢野へ渡してきた。この防弾チョッキ、アニメでも良く見慣れている。薄く、軽く、それでいて面積以上の防御力を誇る。
「これか」夢野はパジャマを開けてチョッキをつける。「対能力者の攻撃も防御して、当然ただの銃弾もカバーするっていう」
「オマエ、良く男の前でブラジャー出せるな……」リタは怪訝な表情になるが、続けた。「まぁ、ジェンダーレスってヤツだからな。ともかく、おめェの言う通りソイツはふたつの効能を持つ。それに、見えないバリアを張って上半身どころか下半身も防御できる。高いんだぞ?」
「なら、私も前線で闘う?」
「アホ、そんなマネさせるかよ」リタはきっぱり言い放つ。「おめェは子どもを救い出す役目。戦闘はおれに任せろ」
(そうか。アニメじゃ、最初から最後までリタは戦闘好きだった)
「でも、このデバイスで行けるんじゃないの?」
「オマエ、その身体付きでインファイト勝てるのか?」
「あ」
「そうだろうな。相手のギアや身体改造を無効化できるのは強力だが、仮にそれらを持っていない連中と対峙してみろ。ひとたまりもないぞ」
確かにその通りだ。この少女の身体で、格闘技の心得もないまま前線に出るのは無謀すぎる。
「分かった」夢野は素直に引き下がる。「でも、銃くらいは持たせて」
「そうだな」リタは小型の拳銃を渡してきた。「これは護身用な。基本的には逃げることを考えろ」
受け取った拳銃は、見た目からして威力は低そうだ。ただ、それで充分。この世界で素手というのは、あまりにも危険すぎる。
「さて、イリナ。最終確認しておくぞ」
「確認もなにも……、昔ながらのやり方でしょ」イリナは大あくびし、腕を伸ばした。「私が創麗の研究所の電源を無効化して、アンタが突っ込んで子どもを拾い、敵性がくたばったのを確認したらカグラが子どもたちを誘導する。異論、ある?」
「ねェ」
「ないよ」
「なら、行きましょう。時間はいつだって有限」
いつの間にか黒いスーツに着替えていたリタに引き連れられ、3人は初の大仕事へと挑んでいく。