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005 魔法の言葉

「名前は?」

「夢野神楽(かぐら)

「神楽? 珍しい名前してるな」

「そういう貴方の名前は?」

「宮崎リタだ」

「そっちも大概だよ」


 エレベーターに乗りながら、ふたりは屋上へと向かっていく。


「さて、神楽。オマエ、どうやってそのデバイス手に入れた?」

「くれた」

「誰が?」

「新世界同盟のヒトが」

「なら、オマエ新世界同盟に属してるの?」

「いや、色々あってデバイスだけくれた」

「アイツらが無償でヒトにデバイスをあげるなんて、あしたは大雪だな」


 そんな冗談とともに、ふたりは屋上へとたどり着く。


「広いね」


 アニメで見た通りだ。リタともうひとりのハッカーが住むにしては、あまりにも広い。窓からはベイサイド・バビロンを一望でき、30畳ほどの部屋には巨大テレビや座ったら寝てしまいそうなソファー、その他個別部屋が設置されている。


「そりゃ、いつかはこの街を変革する男の住む場所だ。これくらいでも足りんよ」リタはソファーに座ってノートパソコンとにらめっこする女の元へ向かう。「イリナ、ちょっと良いか? 今からコイツがおれらの仲間になった。同性同士、面倒見てやってくれ」


 白い髪、赤い目、華奢な身体付き、公式によると21歳のイリナは、


「あぁ、そう」


 取り付く島もない。


「そりゃひでェよ、イリナ」

「アンタが思いつきで仲間増やすのは、目に見えてたから」

「思いつきでもないさ。コイツのデバイス見てみろ」


 イリナは面倒くさそうに振り向き、夢野が左耳につけたデバイスを見る。


「……、無効化デバイスね。でも、アンタ女でしょ。普通右耳につけるものじゃないの?」


 あっさり見破られた。それに加えて、男性時代の習慣が抜けていないことも痛感させられた。


「ジェンダーレスですから」


 適当にやり過ごす。ジェンダーレスとは、こういうとき魔法の言葉になるのだなとか思いながら。


「ふうん」イリナは興味なさげに応じた。「でも、無効化デバイスなんて代物、どこで手に入れたの? それ、かなりの価値あるよ」

「新世界同盟のヒトからもらった」

 イリナの目が鋭くなる。「新世界同盟? アイツらがタダでそんなもの与えるわけないわ」

「言った通りだろ」リタが割り込む。「だから、コイツは面白ェ。神楽、イヤリング外してイリナに見せてみろ。無愛想な女だけど、ハッキングで右に出る者はいないぜ?」


 夢野は躊躇なくイヤリングを外し、イリナに手渡した。イリナはそれを受け取ると、作業台へと移動し、精密機器の数々でデバイスを調べ始めた。


「コーヒーでも飲むか?」リタが提案した。

「ありがとう」


 リタはキッチンへ向かい、夢野はソファーに腰掛けた。ペントハウスの内部は、アニメで見たとおりだった。壁には複数のモニターが設置され、様々な情報が流れている。それらは創麗の内部データや、街の監視カメラの映像だった。


「おめェ、良く驚かねェな」リタは不思議そうに首を傾げた。「普通なら、ここまでの設備に驚くモンだけど」

「テレビでよく見るから」夢野は咄嗟にごまかした。

「そうか?」リタは不思議そうに首を傾げた。「なぁ、正直に言えよ。オマエ、俺たちのことを知ってんだろ?」


 夢野は一瞬緊張した。やはり、主人公ということもあり、この男は鋭い。


「少しね」夢野は慎重に言葉を選んだ。「創麗に対抗している人たちがいると聞いて、探していたんだ」

「そうかい。だけどよ」リタは笑った。「なんでペントハウスに来た? エレクトリック・ドリームのほうが、見つけやすいはずだぜ」


 夢野は沈黙した。確かにその通りだ。『エレクトリック・ドリーム』は主人公たちがよく出入りする場所として知られている。わざわざ居住空間であるペントハウスを探したのは、アニメを知っている者の行動だった。


 緊迫した雰囲気の中、


「解析、終わったわ」


 ナイスタイミングで、イリナがデバイスを夢野に返してきた。


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