004 主人公宮崎リタの登場
(ここからさほど離れていない。うまく会えれば良いけど)
このアニメの主人公たちは、基本的におおらかだ。ただ、敵対する存在には容赦しない。殺しすらやぶさかではない。
それでも、明確に敵対の意志を見せない限り受け入れてくれる。いきなりこの世界へやってきた、いわば〝モブ〟である夢野のことも、きっと受け入れてくれるはずだ。
雨は弱まり、霧雨へと変わっていた。夢野はフォーチュン・ストリートへ向かって歩き始めた。
ネオンサインが煌めく通りを抜け、トレンディなショップが並ぶエリアを過ぎると、急に雰囲気が変わる。建物はより高層になり、セキュリティの存在感が増す。民間警備会社のドローンが空を飛び、監視カメラが角々に設置されている。
(ここが『反創麗側の巣窟』か。案外、セキュリティが厳重だな)
それもそのはず。創麗に対抗するには、同等の警戒が必要なのだ。
と、考えていたら突然として、
「止まれ。この時間、未成年は外出禁止だ」
イヤリング型デバイスが反応を示した。またもや青い光が、その典型的な量産型改造兵士と夢野を包み込む。
(なんでここに創麗の兵士が? いやギリギリ、フォーチュン・ストリートに入っていなかったか)
夢野は立ち止まり、私兵の装備を観察する。創麗製の強化スーツに、神経接続型の武器。これらも機械の一種なら——。
「申し訳ありません。すぐに帰りますので」
そう言い、即座に創麗の兵士を無力化させる。
「し、システムエラー!?」
やはり青い光は、改造されたものを無力化させるようだ。ここまで来たら確証を得られた。
全身改造しているがゆえ、その場で壊れたロボットのようにギギギ、と機械音を鳴らしながら動けなくなった兵士を尻目に、夢野はついにフォーチュン・ストリートへ入った。
反創麗派の巣窟、という紹介にふさわしく、創麗側の兵士は誰ひとりいない。その代わり、新世界同盟の機械で武装した警備員がいるものの、彼らは特段夢野に興味を示そうとしなかった。
やがて、摩天楼の谷間に、ペントハウスが見えた。
(最上階にいるはず。さて、どうやって出会うか──)
そのとき、
デバイスが反応を示した。
青い光が、一目散にペントハウスの屋上へと向かっていく。
「おぉ、面白ェもの持っているな」
そもそも見えていないのか、青い光には触れもしない。
屋上に人影が見える。その人影は、飛び降り自殺でもするようにこちらへ落ちてきた。
が、その青年は全くの無傷。それもそのはず。このホストみたいな金髪の青年は、このアニメ世界の主人公だからだ。
「無効化デバイスか? まぁおれも改造はしてるけど、多分おめェのそれじゃ無効化はできんよ」金髪の青年は注意深く夢野の目を見る。「おれは世にも珍しい、天然覚醒者だからな。人間の作ったモンじゃ、おれを無力化できねェ」
自信たっぷりに、青年は言う。
当然、このアニメ世界を履修済みの夢野は彼の名前を知っている。ただ、それを自分から言ってしまえば、なにかと面倒だ。
「で、なにしにきた? 返答次第じゃ、生かして返すわけにはいかないなぁ」
夢野神楽は、ギラギラした目つきの青年相手に、平淡な声で返す。
「居場所がないから、ここで暮らしたい」
青年は、その端的な言葉にニヤッと笑う。
「嘘ついてるようにも見えないな。おめェ、親は?」
「いない」
「兄弟や姉妹は?」
「いない」
「よろしい。おめェが面白いヤツなのは良く分かった。ついてこい。甘美な夢を見せてやる」
青年こと宮崎利他は、ペントハウスに夢野を案内し始めた。