003 フォーチュン・ストリートへ
彼らは3人組。普通に考えれば、逃げるが勝ちだ。ただ、この少女の身体でどこまで逃げられるか。正直、大の男相手に脚の速さでかなうわけもない。
「悪いですけど、予定があるので」
つまり、挑まなければ逃げられない。警察機関がまともに機能していないこの街で、夢野は3人組と対峙することにした。脳裏によぎるは、あの中年男性の言葉と彼がくれた無効化デバイス。これ以外に勝ち目は、ない。
それに、このアニメの知識だと、こういうチンピラの敵は自分の力を過信しがち。無効化がどこまで効くか分からないが、隙ならいくらでも作れると踏む。
「チッ、小生意気なガキだな。良いか? これはお願いじゃない。命令なんだよ!!」
そう口上を言い切ったあと、チンピラのひとりが夢野との間合いを狭めた。分かりやすいくらい脚を改造しているので、ブースターを使ってキスできるほどの距離まで詰めたのだろう。
そのとき、
イヤリングがわずか温かくなった。同時に、周囲が青色に包まれる。まるでオーロラのように。彼らは気がついていないようだが、夢野はしっかりそれを目で捉えた。
そして、
詰め寄ってきたチンピラの改造された脚から、ピピピという警告音が聴こえた。それが他のチンピラどもにも聴こえた頃、彼はその場にへたり込んだ。
「くッ!? 脚に、脚に力が入らねェ!!」
夢野はぼんやり考える。
(おそらく、このデバイスには創麗製の改造パーツを無効化する機能があるんだな。まぁ、新世界同盟の兵器なら当然か)
「な、なにが……!!」
慌て始めるが、これはチャンスだ。このまま逃げてしまおう。夢野はへたり込んだチンピラの横を素早く通り過ぎ、走り出す。背後から怒号が聞こえるが、構っていられる余裕もない。
「待ちやがれ!!」
が、所詮少女と成人男性。あっという間に距離感を縮められてしまった。腕を改造しているチンピラが、夢野の肩を掴もうとした。
だが、
夢野のイヤリングが再び温かくなる。どうやら、近距離へいるときにこのデバイスは効果を発揮するようだ。
(距離制限ありと……)
先ほどのリプレイのように、彼には見えていないだろう青い光が一部分を包み込む。リプレイというからには、当然ながらそのチンピラの改造腕も無効化されていく。
「な、なにが……!?」
「説明する義理、ある?」
バランスを崩してチンピラは転倒した。夢野は再び走り出したのだった。
*
人通りのある大通り。息切れを起こしながら、夢野神楽はネオン街で一旦立ち止まる。
(どうも、有効なデバイスのようだね。使い方もある程度分かった。ただ、これは創麗の身体改造者のみに通じるのか、それともギアへも使えるのか。はたまた……新世界同盟の連中にも使えるか)
それ次第で話がだいぶ変わってくる。もしかしたら、主人公側にも負けない力を手にしてしまったのかもしれない。
(……。さて、これからどうするか)
圧倒的な力を手にしたところで、今の夢野神楽は孤児であり、帰る家すらない。また路上生活、というのも致し方ないが、最前のチンピラどもに寝ているところを襲われたくない。となれば……。
(いっそのこと、主人公サイドに接触するか?)
別に、主人公たちと関わってはならないというルールはない。このアニメを良く見てきた身としては、彼らがどこに隠れているかくらいは分かる。『エレクトリック・ドリーム』というバーか、それともなければ、
(『フォーチュン・ストリート』のペントハウスだな)
アニメ第2話で、主人公たちの隠れ家として登場した場所。創麗の監視網が少ないことに定評がある。
なにせフォーチュン・ストリートは、反創麗側の巣窟だ。新世界同盟やその協力勢力が、ヤクザでいうところのシマとして保有している、と言えば分かりやすいか。