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001 サイバーパンク2024というアニメの世界

 どうやら、夢野(ゆめの)神楽(かぐら)は『サイバーパンク2024』というアニメの世界に転生してしまったらしい。学生のとき飽きるくらい見たアニメの世界へと。


 なぜ確証を持てる? そりゃあ、『ベイサイド・バビロン』という街の天気予報を電光掲示板が流していれば、誰だって嫌でも理解する。


 そして、夢野神楽はなぜか少女の姿に生まれ変わっていた。アッシュヘアカラーのショートヘアと、青い目が特徴的な白人的な少女に。ベイサイド・バビロンは日本の横浜市だった場所。少し浮いて見られているのは、気の所為だろうか。


 それと同時に、夢野に両親はいないようだ。カネも1000円札が一枚。偽札が流行っている所為で、自販機ですらキャッシュレス決済を求めてくる始末。これは困った、とホームレス用の炊き出しに自ずと向かっていく。


 夜の炊き出しが行われる場所には、案外夢野と同じくらいの年代の子がいた。こういうのは年寄りのホームレスしか来ないと思っていたが、ここはベイサイド・バビロン。親がいない子どもなんて、あるいは育児放棄されている子どもなんていくらでもいる。

 それでも奪い合いになるどころか、しっかり並んでいるあたり、サイバーパンク化したとはいえ日本人も捨てたものではない。


「うまい」


 特段飾り気のないスープを飲み、この世界に来て初のエネルギー補給を済ませた。空腹は最高のスパイス、とは良く言ったものだ。


「なぁ、君は孤児か?」


 スープがなくなり、パンに手を伸ばそうとしたとき、

 いかにも小金持ちそうでスーツを着た壮年の男性が、声をかけてきた。膝に手を当て、こちらを覗き込んでくる。


「そうだと言ったら?」


 夢野は適当に答える。今の夢野は、手前味噌だが白人みたいな美少女。であれば、どうせ〝そういうこと〟を求めているのだろう。ホテル代別2万円とか。

 ただ、そんなのは真っ平ごめんだ。パンにかじりついているほうがまだマシである。


「だったら、オマエさんを引き取る場所がある。なに、悪いようにはしない」


 男は笑顔を崩さず、まるで商談でもするかのように淡々と言った。夢野はひるむことなく男の顔を観察する。小奇麗なスーツに整った髪型。普通に見れば真面目な中年男性に見えるが、目の奥には何か違うものが潜んでいる。


「悪いようにしない、と言ってその通りに進んだ例を知らないもので」

「辛辣だな。まぁ、オマエさんの言いたいことも分かる」男は手を広げた。「ベイサイド・バビロンじゃ、孤児は利用されて潰されるだけ。人智を超えた力が争いを呼び、争いに終止符は打たれない。ただ、それは致し方ないことなのだよ」

「政府、いや創麗(そうれい)グループが仕組んでいるから?」


 このアニメ、さらにアニメ世界のエンディングとは、〝正義の大企業〟創麗グループを打破することだ。薬物だったり脳へ電流を流したりなにも知らない子どもを拉致監禁したり……正直、滅びたほうがマシな企業を倒すことで、物語は終わる。


 ただ、今夢野がいる世界は創麗の力が最盛期を迎えている。日本政府どころか、アメリカの首根っこすら掴む大企業の権力は絶頂に達していた。


「随分頭が良いな、お嬢さん。その通り。創麗がいる限り、この状況は変わらない」

「さぁ、……、私は子どもだから詳しく知らないけどね」


 そんな問題に比べればたいしたこともないが、〝おれ〟と言えないのは少し窮屈だと思う。今だって一瞬言葉に詰まった。


「そうかい?だが、オマエさんの目は違う」男は夢野の瞳を見つめ、微笑んだ。「何かを知っている者の目だ。そういう子は大抵、生きていくのが難しい」


 男はポケットから黒い名刺を取り出した。『新世界同盟』と読める。創麗の対抗勢力として知られる組織だ。

 ただし、夢野はアニメの知識から、この組織も決して善良なものではないことを知っている。


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