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File 0.愛しの君に出会うの

 雲1つ無い青空、日差しが地上を暑く照らす。

 海に面した山並みと挟む、多くの高層ビルが聳え立つかなり発展した地域の中、ビルや通り過ぎる野鳥を避けながら箒に跨って飛んでいる。1人の25歳ほどの女性。狐の尻尾と耳を強風で激しく揺らしながら、口元の八重歯は龍のように鋭かった。紅白の4つの菱形の布で形成されている髪飾りは「日の狐」から譲り受けた証であり、また白い上着にも「太陽の紋」が記されていた。黒い短めのスカートを片手で抑えつつ、高度を徐々に下げていく。

 龍神の波動を髪の毛いっぱいに受けた魔女のような女性は真っ白に輝き、行き交う車や人々の少し上を、暴風起こしながら空を切る。すれ違うように、逆方向に飛行船が高層ビルよりも高い位置で過ぎて行った。

 女性の名前は「白雪しらゆき 怜凪れな」と言い、これからこの世界での物語が始まる。

 それまでの物語と言えば、愛しの相手に裏切られて結末を迎えた。はずだった。

 遡ると、とある創作物の世界の話。

 ある金髪の女性と騎士の1人、恋に落ちていた。騎士は必ず帰って来ると言い、戦場に向かった。何ヶ月、何年経っても帰って来る事は無かった。ある日、イゾルデと名乗る女性は普段通り1人で買い物に出かけた所、別のお腹が膨れた女性と楽しそうに買い物をしていた。言い寄る事は無く、買い物もせず自宅へ戻った。悲しみに明け暮れたイゾルデのその後は。

 そこまでが怜凪の持ち合わせている古い記憶である。今は龍神や狐たちと交流を深めていく内、自分は過去に囚われる必要が無いと思い、たった今日この、海沿いの大都市に舞い降りた。生身1つで、ある男に会う為に一心で。

 1つの区域を過ぎ去った境界線、遠くに黒いモヤがドーム状にかかっているのを見る。白龍はくりゅう様という母親のような存在から、脳内に連絡が入る。近頃、大都市全域で色んな人間が悪夢や幻覚にうなされている現象が多くあり、その関連では無いかと伝えられる。白龍の理念その1、困ってる人間がいたらすぐ助ける! という考えのもと、ひとまず黒いモヤへ接近。

 拒絶されるかのように押し返された。マンションの屋上へ叩き付けられた。


「いたい! これじゃ近づけないよ」


 困り果て、ただ黒いモヤを見る。諦める事も過ったが、ある男の事を考えたら諦め切れず。箒で飛び立ちもう1回接近しようと試みる。数十秒は持ったものの、再び押し返された。今度は運悪く、地表の方向へ。


「しまった。やっぱりダメだったのね……」


 目を瞑って命を落とさないよう祈る。会いたかった相手の背中と後ろ髪を思い浮かべた。そろそろか。


「みーっけ!」

「……え?」


 ゆっくりと目を開く。鋭い目つきの狼の顔が見える。でも、怜凪の背中と膝裏には柔らかい毛の感触もある。まさか、人型の狼? と思った。


「嬢ちゃん、無謀はいけないぜ。それ!」


 狼のなすまま姿勢ごと変えられ、半ば強引に立たされた。予想通り、狼の頭をした人間だ。いわゆる獣人というものだ。全体的に灰色と黒の毛並み。上着はDの紋章が書かれたどこかの制服、鼻部分のノズルと眉間にかけて毛の色が白くなっている。片腕には紫色の宝石をつけた機械の腕輪がある。


「ここは俺たちに任せときな。それじゃ!」


 つけている腕輪の画面を爪で操作し、空中へ飛び立つ。見上げると、さっき通り過ぎていった飛行船が頭上で止まっていた。怜凪はほっとするなり、女の子座りになだれ込んで呆然となった。



 ひとまずは飛行船「ライメイ号」の団員たちによって黒いモヤの件は解決し、市民に歓迎されるままライメイ号は次の目的地へ飛ぶ。その市民の中で紛れて、夕焼けに向かって手を振る怜凪れなは、トボトボとコンクリートの上を俯いて歩く。学生たち、子供が楽しそうにする様が羨ましく、拗ねて石ころを蹴ってみる。何も変わらない。

 とりあえず寝床を探そうと思い、スマートフォンを取り出して宿を検索して、行き先案内を設定。そのまま歩き出そうとしたら、背後から荒い息混じりで「ここにいたのか」と怜凪にとって聞き覚えのある声がした。体ごと振り返る。


「白龍様!? この世界に来ないはずでは」

「いや、ある狼野郎に頼まれて……はぁ、呼びに来たのじゃ」

「あの時の?」

「もう会っていたのじゃな。奴の名前は逆雪ぎゃくせつ 怜李れいりと申す。ライメイ号の船長でもあるな」

「分かったよ。とりあえず無理しないで」

「うむ。それじゃあわしの瞬間移動で船までいくぞ」

「うん!」


 本当に瞬間移動で、見知らぬ部屋まで飛ぶ。乱雑にものが散乱していて、食べかけのお菓子や様々な漫画、機械修理に必要が工具や部品などなどで足の踏み場も少ない。


「すまんな白龍のばーちゃん! 恩に切る」

「人使いが荒い! あとばーちゃんではない」

「……先ほどは、ありがとうございます」

「いいのいいの! それが仕事だから。白龍に似て人使いの荒い狐にも頼まれてるから。そうそう、探している相手がいるんだろ? 調べといたぜ」

「ほんと! えっと、嬉しいです!」


 何枚かにクリップでまとめられた数枚の紙を渡される。すぐに拝見。場所は大都市第2区域のとある商店街の中、緑川探偵事務所にいる、緑川 すぐるという年齢的には大学生の男だ。


「ま、そんなとこだ。ばーちゃんは疲れてるから無理させれねえ。今日は適当なとこに船を停めて、俺たちもひと眠りだ。お前も好きな部屋借りてけ」

「分かりました!」



 翌朝。怜凪が起きた頃には既にライメイ号は出航していた。無意識に身だしなみを整える。寝ぼけまなこで個室の部屋を開けると、廊下があり多くの窓が強烈に光が差し込む。どこからどこに繋がるか分からず、とりあえず左手方向へ歩き1つ目の扉を開く。何名かの船員と、船員に指示を出している赤いふちの眼鏡をした赤毛の幼い女の子。的確に荷物が片付いていく。


「邪魔! 他あたって」

「はい!! お邪魔でした!」


 慌てて別の扉から出てまたしても廊下。しかも長距離。何個かある扉を過ぎてまた開けると、今度は自然豊かな木々、花や草が生い茂っていて、とても良い香りが漂う。何回か深呼吸すると、いかにもおっとりが見た目に出ている白いカチューシャをした、怜凪より少し年上の女性が寄ってきた。


「新入りですね。わたくしは緑川みどりかわ ふわりと言います。よろしくね。君は?」

「はい! 新入り……? 白雪しらゆき 怜凪れなです!」

「それでは、ガーデニングのお手伝いしてもらいましょー。そこにある可愛らしい、好きなジョウロ持ってくださいねー」

「みんな、人使い荒いなぁ」


 なーなーで花のお世話を1時間ほどやった所でようやく解放され、やや土に汚れたまま扉から出る。また長距離の廊下。次の部屋は、エレベーター以外は無い。とりあえずエレベーターに乗り……階数は大量にある。見ただけでも巨大な飛行船で、屋上の階数を押そうとする。張り紙があった。


『強風につき、キケン!!! 迂闊に押すなし!』


「雑だよみんな。えっと、じゃあその1階下でいいか」


 船長室兼、操縦室のようだ。狼男の怜李れいりが頬杖をついて、足を組んで外を眺めている。


「おう。案内してないのによく分かったな」

「勝手にごめんなさい」

「ここは適当がモットーだ。そう固くならなくていい。んで、第2区域に着くまでまだ時間がある。白龍のばーちゃんに代わって、我々の目的を話すぞ」

「気になってました」

「集団の悪夢、幻覚の事件解決を目指している。主犯は突き止めている。チーム・ダークホールの連中だ。聞いた事はないだろうが、いるのだ」

「そうですね。初です」

「ああ、そもそもこの世界が初だったな。やれやれ。ともかくそういう事で気をつけろ。ちなみに、お前の目的地まで着いたらそこでお別れだ。その、彼と仲良く暮らすといい」

「はい! 本当に、お世話になりました!」


 深く両手を下の方に合わせ、お辞儀をする。

 その後は迷子にならないよう、船長室で待機となった。

 時は流れ、館内アナウンス。第2区域に到着したというものが流れ、怜李の案内で船を降りる。ついでにと言い、怜李も緑川探偵事務所まで同行する事に。

 怜李と共に歩く怜凪は緊張していた。早くも探偵事務所に着いて、建物のインターホンを押す。1人のおっちゃんが出てきた。


「あの、緑川さん。ですか……?」

「いかにも。探偵依頼でしょうか」

「いや、ああ、あの。すぐるさんに、会いに来ました!」


 その言葉にカッと目を見開かれる。すぐに入るよう促され、怜李と一緒に上がり込んだ。

 そのまま、即席の珈琲を2つ淹れられ、出される。探偵は冷や汗をかきながら目を閉じた。


「その、意を決して聴いてくれ……非常に申し上げにくいのだが」

「おいおい」


 怜李はある場所に視線が行き、察した。

 探偵の両手が震え出す。


「3年前に他界した」

「嘘だ!!!」


 怜凪は一目散に探偵事務所を飛び出した。探偵の冷や汗が多くなる。


「良ければ、追いかけてやりなさい。狼の君」

「はい。あの、嫌な事思い出させて」

「いいから行け!! 男だろ!」

「あ、おう!」


 珈琲飲みかけのまま、怜李は怜凪を追いかけた。

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― 新着の感想 ―
全体的にキャラクターが立っていて濃くていいと思いました。 主人公が礼儀正しいけど、突っ込み役ぽくっていいなと思いました。個人的にはふわりちゃんが好きです。 最後の緑川事務所の探偵が真実を口にする時に、…
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