第2話|ランチとふたり、午後三時のきっかけ
「悠真くん、今日ってお昼どうするの?」
時計が12時をまわったころ、となりのチームから声が飛んできた。
声の主は、もちろん——**成海 まお**だった。
「あ、まだ決めてないけど。どっか行くの?」
「うん、パスタ食べたい気分だったの。でも一人じゃつまんないから……一緒に行く?」
そんなこと、言われたら断れないだろ。
「じゃあ、行くか。近くのあの店でいい?」
「やった〜、悠真くん、神!」
オフィスの外に出ると、午前の曇り空が少しだけ明るくなっていた。
外の風はまだ春の名残を残していて、歩いてるだけで少し気持ちが軽くなる。
「ここ、前から気になってたの。悠真くんって、けっこう食にうるさいタイプ?」
「いや、むしろ何でもうまい派。まおの方がこだわり強そうだけど」
「そう?でも私、好きな人と食べるごはんは何でも美味しくなるって思ってるから〜」
その“好きな人”って、どういう意味?
そんな疑問を飲み込んで、俺はメニューを開いた。
注文したのは、カルボナーラとサーモンサラダのセット。
成海はカメラを向けて、「インスタ用ね〜」と言いながら料理を撮っていた。
「悠真くんって、ほんとに彼女いないの?」
「……いないよ。しばらくそういうの、ないし」
「え〜、意外。絶対モテるでしょ。女子からのLINEとか、返さなそうだもん」
「それ、モテてないって意味だろ」
笑いながら、でもどこか探るような視線が、俺の横顔を見ていた。
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午後、オフィスに戻ると、**綾瀬 美月**の姿があった。
チームの資料をまとめていて、相変わらず姿勢も言葉も丁寧だった。
「瀬戸くん、ランチ行ってたのね。誰と?」
「成海と。同期だから、よく一緒に行くんですよ」
「ふふ、そう。仲がいいのね」
美月さんはそれ以上は何も言わなかった。けれど、その瞳は、ほんの少しだけ揺れていた気がした。
そのあと、いつものように自分の席に戻って作業を進めていると、背後からポンと軽い音がした。
振り返ると、**岩井 蓮**がアイスコーヒーのカップを2つ持って立っていた。
「午前中の会議、フォローありがとうございました。……これ、お詫びというか、まあ」
「お、気が利くな。ありがとう」
「べ、別に深い意味はないです。……あ、ストロー、そこにあるんで」
蓮は素早く目をそらして、自分の席に戻っていった。
でもその耳は、ほんの少し赤くなっていた。
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午後三時。
気がつけば、今日は三人それぞれと会話をしていた。
偶然かもしれない。でも、どこかで“意味”を探してしまう自分がいる。
仕事に集中しようと思うたびに、
ふと、誰かの言葉が頭をよぎる。
これは、ただの月曜日じゃない。
そんな気がしていた。