第12話|宣戦布告と歩幅の差
イベントが終わった帰り道の**成海まお**。
夜風がちょっと強くて、巻いた髪がばさばさになってるのが、なんか悔しかった。
……あの女、やっぱすごいな。
“西園寺アスカ”。
あの人、全然悪い人じゃない。誰にでも笑顔で、話もうまくて、仕事もできて。
むしろ、完璧。
でも。
その“完璧”が、自分の中にある小さな不安をやけにくっきり映し出す。
—
「ねぇ、瀬戸くん」
イベント翌日の月曜日。
ランチの帰りに、さりげなく話しかけた。
「この前の神楽坂さ、楽しかったね」
「うん、楽しかったな。いろいろ案内できてよかった」
「ねぇ、今週末もまた行かない?今度はもうちょっと歩幅合わせてくれるなら、だけど」
「……え?」
「前さ、ちょっと速かったんだよ。瀬戸くん。
せっかく一緒に歩いてるのに、前ばっか行っててさ。
こっちは追いかけてばっかだったんだから」
冗談っぽく笑ってるけど、
心のどこかでは、ずっと引っかかってた。
「……ごめん。そうだったか」
「ううん、でもさ。もし、次も誘ったら来てくれる?」
「もちろん」
「じゃあ決まり。今度は、ちゃんと隣で歩いてよね。
——そうじゃないと、次は誰かに取られちゃうかもよ?」
笑って言ったけど、それは私なりの“宣戦布告”だった。
—
その夜、ベッドに寝転んでスマホを握りしめる。
グループチャットに流れる何気ないやりとりの中で、
ふと、**西園寺アスカ**の名前が出た。
《アスカさんって、やっぱすごい人だよね〜》
《瀬戸くん、仲良くしてる?笑》
……やっぱ、誰もが気づいてる。
だからこそ、私は前に出る。
引っ込み思案じゃ、きっと勝てない。
—
週末の待ち合わせ。
今度は少しヒールのある靴を履いていった。
前よりも歩幅が合うように。
同じ景色を、同じ高さで見られるように。
「ほら、歩くよ?ちゃんと、となりにいてね」
手はつながなかった。けど、
“今だけは私の番”だと信じて歩いた。
その距離が、どうかもう少しだけ、縮まりますように——って。