表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

第11話|春の社内イベント、交差する視線

金曜日の午後。


オフィスの一角に、いつもとは違うざわめきが広がっていた。


今日は、半期に一度の**社内イベント**。


チームをまたいだ交流を目的とした「軽めの立食&表彰会」が、ビル内のカフェラウンジで行われる。


ビュッフェ台に並ぶ料理と、片手に収まるサイズのカクテル。


業務を離れて、みんなが少しだけ“素の顔”になる夜だった。



「悠真くん、来てた〜!」


会場に入るなり、**成海まお**がカナッペをつまみながら駆け寄ってきた。


「うわ、なんかいつもより華やかじゃない?」


「まおに言われたくないな。いつも通りだけど」


「え〜、ほんと?あ、ねぇねぇ、あとで写真撮ろうよ。今日ちょっと巻き髪頑張ったから!」


「わかった、巻き髪記念な」


ふざけながらも、その笑顔はどこか嬉しそうだった。



その後ろから、ゆったりと歩いてきたのは**綾瀬 美月**。


いつもと違うオフホワイトのワンピース。


その雰囲気に、数人の視線が吸い寄せられる。


「瀬戸くん、こんばんは。……今日は来ると思ってた」


「綾瀬さんこそ、まさかの登場ですね」


「ふふ。たまには、こういう場にも出ておかないとね。……それに」


美月はグラスを口元に運んで、小さく続けた。


「顔を見ておきたい人も、いるから」



そして、少し遅れてやってきたのは、


珍しくシンプルなワンピースに身を包んだ**岩井 蓮**。


「っ……べつに、浮かれてるとかじゃないです。たまたま、来る流れだっただけで」


「誰も何も言ってないけど?」


「言ってないけど、そういう顔してました」


「どういう顔だよ」


そんな掛け合いも、どこかいつもより近い距離だった。



そして、会場の空気が一段と変わったのは、彼女が現れた瞬間だった。


「お疲れさまで〜す。え、みんなオシャレしてるじゃん。私だけ普通だった?」


**西園寺アスカ**。


広報担当らしく、ナチュラルで軽やかな服装。


だが、周囲の目は否応なく彼女に向けられる。


「あ、瀬戸くん。来てた。……ねぇ、今日時間ある?ちょっと、例の資料の件で話したいことあるんだ」


「え、今ここでですか?」


「うん、ここ。今がいいの。……だめ?」


近くにいた3人が、ふとそれぞれ動きを止めた。


まおは、カメラを構える手が微かに揺れて。


美月は、ワイングラスの中で氷が静かに音を立てて。


蓮は、ピンチョスを掴んだまま、視線をアスカに向けた。



その数分後、瀬戸は会場の隅にアスカと立っていた。


少し近い距離。


そして、自然に交わされる笑い声。


けれど、その様子を見ていた3人の心には、


それぞれに違う色の感情が芽生えていた。


まおは、「このままじゃダメだ」と唇を噛んだ。


美月は、「やっぱり私は一歩、遠いのかもしれない」と静かにグラスを置いた。


蓮は、「……もう、知らない」と背を向けて飲み物を取りに行った。



社内イベント。


華やかで、にぎやかで、誰もが笑っているように見える夜。


だけどその中で、誰かの視線は確かに、誰かにだけ向いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ