外伝2。ある冬、誘拐された修女様。(2)
ちゃぱん、ちゃぱん!
「......」
「きゃはっ! おぬしもやってみるのじゃ! 楽しいぞ!」
川辺で水遊びをしながら、修女様がそうおっしゃった。私は少し離れた岩の上からその光景を見ていた。こうして平和な日常をじっと見ていると、何かがおかしい気がしてならなかった。
「......全然理解できないな。」
その後、修女様は私に水をかけてふざけてきたが、考えることが多くてわざと相手をしなかった。正確に言えば、気にする余裕がなかった。
「だんな様……大丈夫なのか?」
いつの間にか私のそばに来た修女様が、心配そうに手を取ってくださった。
「どうしたのじゃ……わらわが何か悪いことでもしたのか? それとも、あれができなくて落ち込んでおるのか? わらわはまだ年が足りぬのじゃが、少し待てばよいのじゃ。それでもだんな様のためならいつでもしてやれるのじゃ。」
「......」
「今すぐでもな。」
その言葉に、私は修女様をじっと見つめた。
濡れた白い服が透けて、体のラインがはっきり見えた。修女様が女性だと言われたからか、胸がほんの少しだけ大きくなったようだった。それでも相変わらず平坦だが。
「いや……ただ、悪い夢を見ただけですよ。」
「どんな夢だったのじゃ、わらわが聞いてやるのじゃ。」
「ただ、修女様が誘拐される夢です。」
その話を聞いた修女様は微笑んだ。
なんだよ、なんで急に笑うんだよ。怖いんだけど。
「そんなことはないのじゃ、おぬしが守ってくれたではないか。」
「でも修女様、夢の中では守れませんでした。」
「構わんのじゃ。わらわがだんな様を守ってやるのじゃ。わらわ、力がとても強いのじゃぞ。」
そう言うと、小さな手で私の背中をぽんぽんと叩いてきた。思わず私も笑みをこぼした。
「でも修女様、それでも体は大切にしてください。修女様は死なないかもしれませんが、それを見るたびに私は胸が痛くなるんですよ。」
「ふむ……そうか?」
「だから、怪我しないでくださいね。わかりました?」
私が繰り返し強調すると、修女様は笑いをこらえようとしているのかいないのか、微妙な表情を浮かべた後、私の後ろにスッと回り、こう言った。
「だんな様、よいからこちらを見てみるのじゃ!」
「はあ、面倒くさいな、何ですか……」
チュッ!
私の言葉を修女様の唇が遮った。それもただのキスではなく、息もできないほど濃厚に。唇が離れると、私と修女様をつなぐのは長い銀色の糸だった。
修女様は目を細めて笑いながら、何事もなかったようにその場を立ち去った。ひひひと笑いながら去っていく姿を見ると、男として許すことはできなかった。
「では、もう家に帰らぬか。寒いのじゃあ! きゃあ! 何をするのじゃ!」
そうおっしゃった理由は、私が修女様をひょいと抱き上げたからだ。私の首をぎゅっと掴み、大きく見開いた目をした修女様に言った。
「帰りましょう。家に。」
時は流れた。3年ほど経ったが、修女様の姿はほとんど変わらなかった。胸も相変わらず……。
「こちらを見てみるのじゃ! もう紅葉が色づいておるのじゃ!」
.
「外に雪が降っておるではないか? 早く遊ぶのじゃ。」
.
「暖かい春じゃな。」
.
そして、
「……だんな様の子じゃ。」
子どももできた。私はそれを見て嬉しい気持ちもあったが、心のどこかが妙にざわついていた。
『元々こうだったっけ?』
毎日が楽しかったが、どこか暗闇の中にいるような感覚だった。その時、遠くから誰かが近づいてきた。修道服を着た修女様だった。
そして、その姿を見て心のざわつきの理由を悟った。これは全て夢だったのだと。
結局、夢から覚めた。
ベッドの上で目を覚ました私が最初に見たのは、白髪の中年紳士だった。椅子に腰掛け、本を読んでいるその姿を見た瞬間、私は激昂して言葉を吐いた。
「このクソ野郎が……!」
「シーッ。」
紳士は指を唇に当てて静かにするよう示し、カーテンの向こうを指さした。そこには、すやすやと寝息を立てている修女様がいた。
「やっぱり美しい母がいいのじゃ……むにゃむにゃ……ここは夢なのじゃから、何をしても構わぬのじゃ……。」
白髪の紳士が言った。
「外で一人で座っているのが哀れに思えて、つい連れてきました。ご心配をおかけしたのであれば申し訳ありません。」
そう言って、一枚のチラシを手渡してきた。上から下まで目を通してみると、
夢見る家。素敵な夢をお届けします。
「はは……実は昨日オープンしたばかりです。今後ともよろしくお願いします。」
「うーん……。」
「レディは良い夢をご覧になっているようですね。」
……実際には修女様はレディではありませんが、修女様がやかましく寝言を言う様子を見て、思わず笑ってしまった。
「やっぱり修女様は修女様である時が一番いい。」
「はっ、今何時じゃ! 坊や!」
「エイ、大して時間は経ってませんよ。もう少し寝てください。」
「ひいいん……もういいのじゃ。すっかり目が覚めてしまったのじゃ。」
「ええ、そうですか。それなら仕方ないですね。」
私は落ち込む修女様のぼやきを聞きながら、そばに寄った。
「修女様、夢がそんなに良かったのですか?」
「当たり前のことを聞くのじゃ! 良かったという言葉では足りぬのじゃ!! どれ、話を聞きたいか?」
「いえ、絶対に結構です。」
お母さんが出てくるのを見ると、どうせ内容はわかりきっている……。
---
さっきの修女様の夢
「よ、よ、よ……可愛い坊や……やっぱり美しい母がいいのじゃな?」
幼い私に修女様が言った。
「わらわが男であろうと構わぬのじゃ。今回は母親代わりをしてやるのじゃ。どれ、思う存分甘えるがよい。」
「……。」
「何か食べたいものでもあるのか? ここは夢なのじゃから、体に悪いものでも好きなだけ食べても構わぬのじゃ。何も気にすることはないのじゃ。」
修女様の胸に顔をぴったりとくっつけた。
「おっぱい……」
「この、 この…いやらしい坊やめ!!!!!」