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愛想の良い試験官と別れ、少しまっているように言われたのでホシモリは配置されているレムザスを見ながらアンタレスをどのように組み上げるか考えているとホシモリの背丈の半分で体は筋肉質で赤茶の髪と立派な髭を生やした男性が話しかけてきた。
「ここにいるって事はお前さんも合格したんだろ?小型と獣型を熱心に見てるがその辺の仕事するのか?」
「ん?傭兵だから個人で使える様にレムザスの資格を取った感じだな。まぁ武器の改良とかはすると思うが。後は知り合いに頼まれたから一機ほど組み上げない駄目だから小型か獣型で悩み所って感じだな」
「なるほどのー。傭兵で試験を受ける奴も珍しいが受かる奴はさらに珍しいのう。儂はニケルだ。工業都市でレムザスの整備、改良、鋼材の販売などをしているドワウス族だ」
「これはご丁寧に。俺はホシモリだ。トルキャット商会の傭兵をしている。……ドワウス族か」
ホシモリがニケルを物珍しそうに視線を上下させるとニケルが不思議そうに質問する。
「ん?ドワウス族を知らんのか?」
「こっちの大陸に来るまでは見た事は無かったな。知り合いにそういう種族はいると聞いたが街中で歩いてる知らない人に聞く訳にもいかないだろ?」
それはそうだなと少し笑い簡単にだが人間とドワウス族に違いについてや他の種族の事についてもホシモリに教えてくれた。
「なるほど。耳の長い蛮族がエルフェス族か……獣人族も猫っぽいのとか犬っぽいのも見たが……全部、獣人族でいいのか?」
「細かく分ければ違うらしいが耳とか尻尾があれば獣人族でいいぞ。と言うか蛮族ってなんだ?」
「ん?森に入ったら襲われた」
「がっはははは!連中は気が短いのも多い。よく生きてたな!」
本当の事を一から十まで言う必要も無かったのでホシモリが命辛々逃げて来たと言うと何が面白かったのか笑いながら大きく硬い手で何度もホシモリを叩いた。
「それでニケルは何でここにいるんだ?整備とか改良してるんだったらもう資格は取ってあったんじゃないのか?」
「そうなんだが……一年ほど前に仕事でミスって資格停止をくらったからのう。ようやく再度取れる様になったから受けに来た訳だ。合格してよかったわい」
「参考程度に聞きたいが何をやらかしたんだ?」
「魔石にかける圧力をミスってな工場を吹っ飛ばした。死人が出なくてよかったわい」
そんな話をしているともう一人だけ合格者であろう人物が現れた。その後に試験官が現れて今回の合格者は全員で二十名もいると言う事を伝えその合格を喜んだ。
数百人が試験を受け受かるのが数十人なら少なくね? とホシモリが呟く隣にいたニケルが何回受けてるが基本的にこれぐらいだと話す。
「もしかしてあんまり神様に祈らないのか?」
「お前さんな……トルキャット商会の護衛で金銭感覚が麻痺しとるかも知れんが、お布施は普通に高額だからな」
「……なるほど」
「今回は見た感じ実力で受かった者の方が少なそうな感じだがな」
試験官の話も終わり試験時のプレートによく似た物を合格者全員に手渡され、並べられたレムザスの元に行き改良がされた点や改正された法などをレムザスで確認しながら学んでいった。
そして正午を知らせる鐘がなったタイミングで2次試験も終わりを告げた。最後に試験官が何か魔法の様な物を唱えると合格者が持っていたプレートが手の平より小さなカードに変化しそこには合格者の顔や名前などが描かれていた。
「これにて試験は全て終了になります。そのプレートが皆さんがレムザス運用の国家資格に通った証明となりますので大切に扱ってください。仮に無くしたとしてもお金はいりますがレムザス運輸局に来て頂ければ再発行します。あと、レムザスに関する法律や整備方法の変更があった場合はそのプレートが赤く発光しますのでその都市の運輸局まで行って頂き内容をご確認ください。では以上になります本日はお疲れ様でした」
合格者達は試験官と同じ様にお疲れ様でしたと言いそこで解散となったのでホシモリもイクシオーネに通信を入れながら外へと向かった。
『聞いてたとは思うが改めて言うが。受かったぞ相棒』
『はい。おめでとうございます相棒。トルキャット商会の皆さんが相棒の合否をとても気にしていますが伝えても大丈夫ですか?』
その光景が容易に想像できたホシモリは少し笑った後に大丈夫だと伝え歩いていると後ろからドワウス族のニケルがドスドスと大きな足音を立ててやって来た。
「おーいホシモリ。お前さんはこれからどうするんだ?」
「ん?商人組合に行って店舗用の書類とかもらってくる感じだな」
「お前さんは見ためによらず真面目だのー。これから一盃飲みに行くがお前さんもいかんか?」
強化臓器の影響のせいでアルコールを摂取しても全く酔えない為に飲んだ所で仕方が無いのだが工業都市で働く目の前のドワウス族の話が聞きたかったのでホシモリは着いていく言った。
「酒は強いからなかなか酔えなくて良いなら行くぞ。昼飯も食いたいしな」
「ほう。それはドワウス族に対する宣戦布告と取っていいんだな?儂は種族的にも酒はかなり強いぞ?」
「じゃあ、あれだ手持ちが少ないから負けた方が奢るってのはどうだ?」
「その自分が勝てる前提で話を進める心意気や良し!乗った!」
闘志みなぎるニケルを余所に勝ち確だなーとホシモリが考えているとイクシオーネから相棒の合格祝いで夕飯が豪華になるのであまり食べ過ぎては駄目ですと通信が入る。
『了解』と返事をしてからホシモリはニケルに話しかける。
「ニケルの店舗は工業都市にあるんだよな?基本的にどういう物を取り扱ってるんだ?」
「ん?基本的にはトルキャット商会と同じだが……客層が少し違うのう。簡単に言えばトルキャット商会は造る物を売る商会だな。うちはトルキャット商会より小さいが壊す物を売る商会だ」
「って事は兵装とか売ってる感じか?そういやシモンさん所でガチガチに兵装したレムザスって見た事無いな」
「トルキャット商会は昔っからあんまり兵装は造らんからな。創立時からそういう方針って聞くな」
その話を聞いてもう会う事のないランバルト大尉の顔を思いだし苦笑いをする。その笑いを不思議に思ったがニケルは特に気にせずに話を続ける。
「それでうちは一からレムザスを造ったりもするがトルキャット商会とか他の商会が造ったレムザスを改造したりもしてるな」
「寒冷地仕様とかそう言うのか?」
「うむ。そういうのだな。砂よけの魔術を書き込み砂漠仕様にしたり、糞つまらん仕様だと貴族仕様に無駄に高性能なくせにド派手とかだな」
ホシモリが連合軍にいた時もお偉いさんのプラネットは無駄に最新機でド派手の金ぴかマントだったのを思いだし何処でも一緒だなと笑った。
「後は……武器開発や鋼材の開発なんかもやっている。平和な国だが街から離れると魔物の脅威があるからな」
「知人は平和な国と言うが……おれはこっちに来てから一度も平和とは思った事は無いんだが……」
「なんだ?お前さんは渡りの傭兵か?」
そんな話をしていると試験会場の外に出たのでホシモリはニケルに何処の店に行くんだと尋ねた。
ニケルはこっちだと指さしその方向を見た後にピタリと動きが止まった。何事かと思いその方向にホシモリが目を向けると何処かで見た事のあるような馬車が止まっており、ニケルを認識した途端にそのドアが開き中から数人の人が現れた。
こちらに近づくに連れニケルの顔は青くなり話せる距離まで来るとホシモリもその馬車の主を思い出す。
「ニケルさん?何処に行くおつもりで?ホシモリさんごきげんよう。ニケルと知り合いだったんですの?」
「おう。ごきげんさんごきげんよう。さっき知り合った所だな」
その人物の名前は忘れたがホシモリがベルナを迎えに行った時によく出会う伯爵の娘でクラスメイトの少女だった。ホシモリが頑張って名前を思い出そうとしているとニケルは少し顔を青くしお嬢様どうしてこちらにと話していてた。
「それはもちろん貴方が酒場に行かないように迎えに来たのですわ」
顔は笑っているが声が笑っていないお嬢様にニケルは行く訳無いじゃないですかーと頭を掻きながら答える。
「ですよわね。滅多に手に入らない酒が手に入ったからと言って職場で酒を飲み……酔って爆薬の類いを爆発させ工場を吹き飛ばし近隣にも多大な迷惑をかけた貴方が試験の合否もお父様に伝えず酒場に行こうなどという愚行はあり得ないですわよね?」
「アリエマセンヨ……アリエマセン」
「ではどうして酒場の方に向かっていたんですの?」
面白い事になってるなーとホシモリは心の中で笑い目の前の惨劇を見守る事に決めていがニケルからいきなり話を振られる。
「……はっはい。少し旦那様のお屋敷の方向とは違いますが、友人のホシモリが昼食を食べるのに何処か良い場所は無いかと尋ねたので儂のオススメの店を紹介しようとした所でございますです」
お嬢様の綺麗な瞳はあきらかにニケルを信用しておらずホシモリに確認を取るように本当ですの? と尋ねたのでニケルに後で頼む事があったので助け船を出す。
「ああ。本当だ。ここに来てからベルナちゃんの護衛とかで忙しくて街の事が詳しくないからそこのニケルに少し飲めて食える所聞いてた訳だ。商人組合に行くんだが昼飯時だしな」
「なるほど……ホシモリさんを疑っているわけではありませんが、どうして商人組合にご用事があるんですの?」
ホシモリはレムザスの資格に受かったからな。と言って先ほど手に入れた資格証を見せる。
まさか傭兵とクラスメイトから聞いていたホシモリがレムザスの試験を受けているとは思わずあまつさえ受かっているとは考えすらもしていなかったので年相応の女の子の様に驚き目をキラキラさせていた。
そして少し経ってからゴホンと咳をしてから資格証を見せてくれたホシモリに礼を言った。
「流石はトルキャット商会の護衛ですわね……これでニケルが落ちていたら笑えませんがそうでも無いようですし帰りますわよ。ホシモリさんではまた」
お嬢様の有無を言わさない態度にニケルは力なく頷き馬車の方に向かって歩き始めたのでホシモリはお嬢様に許可をもらいニケルを呼び寄せる。
「すまん。ホシモリ助かったわい」
「おう。俺が工業都市にいったら飯でも奢ってくれ。それで悪いが鋼材とかレムザスのパーツのカタログと言うか……値段とか載ったそういう本みたいのってあるか?」
「スペックとかそういうのが載ったやつだよな。いるのか?というかトルキャット商会と付き合いがあるから送ってあるはずだぞ?」
「自分の店があるからな。個人で持っておきたい」
「分かった。かなりの量になるが……どれがいる?」
「一通りほしいが……鋼材や素材と獣型レムザスと後は中型レムザスの追加武装とかその辺りだがいいか?」
「おう。問題無い。お前さんの店の場所は知らんからお前さん宛でトルキャット商会に送っておくわい」
ホシモリが助かると礼を言うと少し話が長引いた様で馬車に戻ったはずお嬢様がいつの間にか話を聞いており話が終わったタイミングでホシモリに質問する。
「話が終わった様なのでホシモリさんに聞きたい事があるんですけど……」
「ん?なんだ?」
「ベルナさんはお休みの日は何をしていらっしゃいますの?一緒に出かけようと学校で誘っても何かに理由をつけて断られるので……」
その話を聞いたニケルの目がお嬢が嫌われてるだけなんじゃね? という目をしていたが余計な事は言っては駄目と知っている様で何も言わずに聞いていた。
『ちなみに今は自室のベットでゴロゴロしながら恋愛小説を読んでいます』
いつから話を聞いていたか分からないイクシオーネからのいらない情報を加味しつつ伝える。
「基本的にはシモンさんの手伝いしたり勉強したりしてて忙しいって感じだな。メイドさんとかと一緒に掃除したり花壇の手入れしたりしてるし」
「応用的には?」
「かなりの人見知りだからお家でゴロゴロして本読んでるな」
「確かに……びっくりするほど人見知りですわね。トルキャット商会の御令嬢なんですからもっと自信を持って欲しいですわね。それでホシモリさん。ベルナさんとお出かけする方法は何かないですの?」
「ん?お互いにまだまだ子供なんだから家に行ってベルナちゃん遊びましょうでいいんじゃないか?」
「流石にそれは…………と思いましたがありですわね。では明日も学校がお休みなのでカタログも持ってトルキャット商会に向かいますわ」
「まじか!助かる。明日は特に何かあるって聞いてないからたぶん大丈夫と思う。帰ったら伝えとく」
「ありがとうございます。次こそ帰りますわよニケル。ではホシモリさんまた明日に」
「ホシモリ。またのー」
もう呼び止める用事も無かったのでホシモリも手を振り知人達を見送った。
お昼ご飯を食べる所を聞き逃したが食べないと死ぬ訳でもないので、そのまま商人組合に向かい必要な書類を揃え帰宅するとトルキャット商会の人達がホシモリの合格を祝い皆が喜んだ。
そして時間が進み合格を祝い用意された豪華な食事を楽しみ少し落ち着いた所で思いだした様にベルナに今日の事を伝えた。