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教会にお祈りに言ってから数日が経ち、ホシモリはようやくレムザスの試験の日を迎えた。
イクシオーネから義眼に送られてくるテスト対策の問題集も全問正解とまではいかなかったが合格ラインには届いていたので簡単なミスに気をつける様にトルキャット商会の人達にアドバイスされホシモリも気をつけるといって頷く。
「持っていく物は書類ぐらいでいいんだよな?」
「大丈夫ですよ。その書類に書かれている事が間違っていれば書き直すぐらいですし、受付にいけば貸してもらえますからね」
「なるほど……試験なのに筆記用具の類いはいらないのか?」
とホシモリが尋ねるとシモンが少し笑いながらいりませんが行ってからのお楽しみですと答える。
この日はベルナも学校が休みだったので頑張ってくださいとホシモリを見送った。
試験会場まではシルバが送っていってくれるとの事などで二人は車に乗り込み出発した。
「只の試験なのにあそこまで丁寧に見送ってもらえるとは思わなかったな」
「それだけホシモリさんが皆様から好かれていると言う事ですよ」
すこし照れながらありがたい事だととホシモリが笑うと倉庫で待機中のイクシオーネから通信が入ったので運転しているシルバにも聞こえる様に音量上げた。
「どうした?」
「はい。試験の問題や内容といった情報を確認したいので義眼への接続許可をお願いします」
「別にいいが……相棒が問題を解くのは問題ありじゃね?」
「相棒と私は二人でレギオンなので私が答えても何も問題はありません。相棒が嫌がりそうなので余計なしないつもりです。ですが相棒は文字を全て覚えている訳ではないのでその辺りをサポートするつもりです」
「了解。まだ相棒のサポート無しだと読み書きは不安が残るからなー」
ありがとうございますとイクシオーネが礼を言うとその会話を聞いていたシルバが少し笑った後に恋人の様なパートナーですねと言った。
「相棒もパートナーも似たようなものだから良いけど恋人かー……恋人?どっちか言うと母親か?」
「分かりました。相棒の事はツグヒトと呼び合格した暁にはバナナケーキを焼きましょう」
「長年付き添った相棒をしつこくゴリラ扱いする恋人とかどう思うシルバさん」
「はっはっは。失礼しました。何というかホシモリさんもイクシオーネさんもそんな曖昧な物では例えられませんね。相棒と言うのが本当にしっくりきますよ」
「だっそうだ。まぁ相棒だしな」
「相棒は相棒ですから仕方ありません」
それからしばらくは三人で雑談をしようやくようやく試験会場が見えて来たのでホシモリはシルバに礼を言ってから適当な所で降ろしてもらった。
「正午過ぎには結果が分かり試験の合否も分かりますのでこちらでお待ちしましょうか?」
「その日に分かるのも凄いな……神様に祈ったしたぶん受かってるはずだからその足で商人組合の方に向かって店舗運営の書類とかもらってこようと思う。拠点の方も完成したって連絡があったしな」
「その書類ならトルキャット商会の方でも用意できますが……分かりました。自分の目で見て回るのも大事なのでホシモリさんにお任せします。夕飯はどうしますか?」
「それまでには戻るから用意していてくれるか?合否の方は分かったらイクシオーネから伝える様にしてもらうは」
「畏まりました。微力ながらホシモリさんの合格を祈っていますので頑張ってください」
ホシモリが礼を言い手を上げるとシルバは頭を下げた後に魔導車を発信させトルキャット商会へと帰って行った。その姿が見えなくなってからホシモリはイクシオーネに話しかける。
『相棒。SRCはどうしてる?』
『はい。ロチェット・ロエットは使用人達に仕事を教えてもらいながら東館の窓を拭いています。シルバ・トルキャットを帰らせたのもロチェット・ロエットが信用出来ないからですか?』
試験会場に向かって歩きながらホシモリはまぁなと答える。
『実際に俺個人で戦ったら負けるからな。SRCは魔法とか使えてたしな』
ロチェット・ロエットとの戦いの事を思い出しながらホシモリがそう答えるとイクシオーネが注意する様に意見する。
『相棒。ロチェット・ロエットは自身の事をSRCと呼ばれるのにかなりのストレスを感じています。現状は敵対する可能性は低いので無駄に敵を作る様な発言は控えた方がいいと思われます』
自分だけに敵対されるのであれば何も問題は無かったが先ほどホシモリの事を笑顔で応援し送り出してくれたトルキャット商会の人達の事を思い出した。
『……それもそうか。ありがとう相棒』
『どういたしまして。それと相棒は負けると言っていましたが装備による優劣は存在しますがロチェット・ロエットが相棒に勝っている部分は速度と魔法だけですので問題ありません』
『まぁ確かに速くて水の魔法が厄介だったな』
『はい。それだけです。もしロチェット・ロエットが何かを仕掛けてくるにしても問題を起こしてから処理しても遅くはありません。犠牲は出るかも知れませんが相棒が私に搭乗すれば障害にはなり得ないので放置して問題ありません』
『何の問題も起こさない可能性もあるもんな』
『はい。トルキャット商会の誰かが死亡するなどの可能性はかなり低いと思われます……ですが。相棒が本当にロチェット・ロエットを処理しようと考えるなら私は手伝いますし周りに悟らせない方法も多岐に渡ります』
『次に敵対したら潰すぐらいでいいな。ロロ子はともかくアンタレスが持ってる情報やら資料は俺達が帰るのに間違いなくいるしな』
『はい。アンタレスが持っているデータは確実に役に立つので間違いなく必要になります』
ロチェット・ロエットとそのプラネットであったアンタレス達の取り扱いを心に決めたので、ホシモリも大きく深呼吸した後に気持ちを切り替える。
『試験会場の前で深呼吸したから周りからは緊張してるんだなーとか微笑ましく思われてるんだろな』
『まさに人の気も知らないでと言うやつです。こちらは問題ありませんので相棒は試験を頑張ってください』
了解とホシモリは返事をしてから試験会場の大きな門をくぐり中に入ると同じ様にレムザスの試験を受ける人達でごった返していた。
その中には森でホシモリを襲った蛮族によく似た耳が長い人達やホシモリの身長の半分くらいしか無いが長い髭とかなりの筋力がついた太い腕の人達も混ざっていた。
そんな人達を縫うように避けてホシモリは受付に行き書類を提出すると、特に不備も無かったので受験番号が書かれたプレートを受け取った。
ホシモリはレムザス運用資格のテストを受けるのは初めてだったので受け付けの青年から丁寧に試験について教えてもらい筆記試験を受ける部屋へと向かった。
目的の部屋が見つかり中に入ると広く綺麗な部屋が広がっており中には百を軽く越える人達が席に着き試験を待っていた。
近くにあった机を見ると受験番号の様な物が書かれていたのでホシモリも受け取ったプレートと同じ番号が書かれた席へと向かった。
そして自分の番号と同じ席を見つけるとプレートと机の番号が点滅をはじめる。点滅が終わると机の上に「番号を確認しました。着席ください」と文字が出たのでホシモリは少し驚きながら着席する。
『魔法はアナログなんだかハイテクなんだかよく分からんな。命の危険が無いなら面白くていいけどな』
『はい。私もそう思います。ですが私が使用するイオン砲なども命の危険が無ければ綺麗な光なので似た様な物かと』
確かにと納得している間に全ての受験者がそろった様で机の上に文字が浮かび上がり、あと五分で試験が始まりますの文字が浮かび上がりテストの簡単な注意事項などが書かれていた。
そして最後に受付で受験番号が書かれたプレートを机の受験番号にかざしてくださいと書かれていたのでホシモリがその通りにすると光りはじめる。
光りはじめたプレートは親指ほどの大きさだったがみるみる内に形を変えA4サイズより少し大きな金属プレートへと変化した。
『すごいな……何の金属かわかるか?』
『はい。トルキャット商会で様々な金属を見せてもらったので確定ではありませんがミスティスが主体の合金だと思われます。ミスティスは魔力を流しやすく流すと硬度を保ったまま形状変化が簡単な金属だと聞きました』
『過去のテスト問題にもあったが……こんな色してたか?』
『合金ですから私が知らない金属も混ざっていますのでそれが原因と考えられます』
この金属プレート持って帰って解析したいなとか話していると今度はプレートの方に注意事項が現れテストが終わり次第このプレートは回収され無理に持って帰った場合は二度と試験が受けられないと書かれていた。
『だっそうだ。何に使えるか分からんから解析を頼んだ』
『了解しました。相棒はテストを頑張ってください』
ホシモリが返事をしたタイミングでテストでテストがはじまりプレートには問題が浮かび上がり指で答えを差したり書いたりする物だった。
制限時間は180分に渡りレムザスの各名称や運用法や法律に渡り多岐にわたった。
イクシオーネが時折回ってくる試験官の瞳に映る他の人達のテスト見るが確認出来る範囲では同じ問題は一つとしてなかった。
『合格は七〇点以上と言われています』
『普通に……くそ難しい。暗記系は大丈夫だが……計算がやべぇ。レムザスの動力コアから炎の魔石に伝達する魔力を求めよ……答えに知らんがなって書いていいか?』
『昨日に解いた問題に似た様な式があり、相棒の答えは合っていましたので頑張ってください』
『ケチらずに合格ラインまで教会に寄付しておけばよかった』
文句を言いながらホシモリは問題を進めていく、たまに読めない文字などがある場合のみイクシオーネがサポートはあったが特に大きな間違い等も無かった様で正解などを答える事はしなかった。
時間が進んで行き残り20分を切る頃には他の受験者達もテストも終了している様だった。ホシモリはまだ終わっておらず詳しい事は確認出来なかったがテストが終わった者達はその場で合否が分かる様になっておりほぼ全てのプレートが赤く発光し受験者達は肩を落として部屋を出て行った。
『ん?不合格だと赤く光るのか?』
『その様です。確認出来る範囲だと近くに座っていた小柄な人が青く光っていました』
『なるほどな。まぁまだ時間あるし時間いっぱいまで見直しとかしとくわ』
『はい。それで良いと思われます』
ホシモリもテストが終わり終了の五分前まで答えを見直す。そしてこれ以上は見直す所がないと判断し最後のページに進むと「試験を終了しますか?」の問いがあったのでホシモリははいを選択する。
すると少し間があった後に金属のプレートが青白く発光し合格の文字と違う部屋への案内が現れた。
『あー……良かった。プラネットの試験に比べれば簡単だった気もするが……自分の常識が通じない分こっちの方が難しかった気もする。教会に行ってよかったな』
『いいえ。私も義眼を介して採点していましたが相棒の点数は76点になりましたので合格ラインに達していました。おめでとうございます相棒』
『……神様が心に余裕をくれたから合格したって事にしとくか。相棒もありがとう』
そして二人で少しの間、合格した事を喜び合い合格の文字が書かれ青く光るプレートを持って次の場所へと向かった。
その場所に向かうと小型、中型、大型、建築用、工業用、玩具用等といった様々なレムザスが配置されている場所だった。
そして入口の近くに試験官の様な女性が立っておりこちらへと手を上げたのでホシモリはその人の所にいき持っていたプレートを手渡した。
「合格おめでとうございます……えっ?」
ホシモリのプレート受け取り内容を確認した後に驚いた様に何度も確認したのでその仕草にホシモリも不安になり尋ねる。
「どうした?……まさか不備があって実は不合格とか言わないよな?」
「すっすみません。不備はありませんが……一発で合格する人はほとんどいなかったのでかなり驚きました」
「なるほど。ほとんどいなかったって事はいるにはいるんだよな?」
「はい。有名所ですとトルキャット商会のシモンさんやその奥さんや息子さんが一発合格ですね」
「あー……俺はそこの傭兵で勉強教えてもらったからな。と言うかそう言うのって話して大丈夫なのか?」
「流石はトルキャット商会ですね……大丈夫ですよ。お店の宣伝にもなりますしご本人の許可も得ていますので……というか傭兵なのにレムザスの資格を取れるのも凄いですね……改めまして合格おめでとうございます。ツグヒト・ホシモリ様」
「ありがとう」と礼を言ってからこれからの事を尋ねると名目上は2次試験との事だが様々レムザスに対して整備方法が変わったとか法が少し改正された等の事を教える所だと教えてもらい他の合格者がいる場所へと案内された。