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イクシオーネのハンドイオン砲は女の動きを捉え、確実に躱せない一撃……のはずだったが直撃する瞬間に空間がねじ曲がったかの様に光線が動き女は即死を免れる。
ただ死ななかったと言うだけで女も無傷ではなく膝から先は焼失し腕なども黒く焼け意識を失っていた。
その光景を冷静に眺めていたホシモリは大きくため息をつきイクシオーネに話しかける。
「はぁ……また魔法か。俺でも躱せない攻撃だったのにどうやって避けたんだ?」
「はい。ハンドイオン砲が直撃する瞬間の映像を確認しましたが、強力なエネルギーフィールドが女の周りに形成された様です。映像を見ますか?」
ホシモリが頼むと言うとモニターに女にハンドイオン砲が直撃する寸前の映像がスローモーションで流れ始める。
光の塊が接近し服を焼き始めたタイミングで女の胸元にあった宝石が光った後に砕ける。その直後に女を守る様に光の膜が形成されハンドイオン砲のエネルギーが四方八方に分散して流されていった。
「砕けたペンダントが防御系の魔道具とかそんなのか……魔法って言えば何でもありとか思うとむかつくな。あの程度の障壁で防げるのか?」
「言いたい事はよく分かります。ですがまずは現実を受け止めましょう。技術は日々進歩していますがプラネットのイオン兵器を防ぐにはプラネットが装備できるイオンシールドしか無理です。人間がサイズまでは小型化されていませんので相棒が言うのが正解と思われます」
意識をなくしている女に止めを刺す為にイクシオーネは近寄っていく。
「やっぱりSRCはくそつえぇーな……俺だけだったら負けてたな」
「いいえ。SRCが強いのは認めますが私を操縦できる事、私が貴方の相棒である事その全てが星守継人の力です。ですので敗北はありえません」
「……じゃあ勝ちでいいか」
「はい。生きるか死ぬかなので勝ち負けはありませんが」
「よし。この辺りでいいか。下手に近寄って自爆とかされたら最悪だしな……ここからイオン砲を撃ってくれ」
「了解しました。様々な情報を持っているかと思いますが大丈夫ですか?」
「洗脳がとけた奴ならともかくSRCを拷問とかした所で話しはしないしな。時間の無駄だろう」
それもそうですね。とホシモリの意見を肯定した後にイクシオーネは女に向かって右手を突き出し確実に止めを差す為のエネルギーを収束させていく。
すぐにエネルギーが溜まり撃つぞと言うタイミングで犬の鳴き声がした後にベスが、その女の前に立ちイクシオーネに向かって吠え続けた。
流石にベスごと撃つ訳にもいかないのでコックピットの中からホシモリがベスに話しかける。
「ベス。遊んでるんじゃないからそこをどいてくれ」
「ばう!ばう!」
「犬語とか分からんからな」
「はい。私も分かりませんが……番犬が不法侵入を許したので責任を取って自分ごと焼けと言っているのでしょう」
違っても違わなくても雇い主が飼っててよくドッグフードを分けてくれる友人を焼き焼きする精神は流石のホシモリにも持ち合わせていなかったのでイクシオーネのハッチを開けてもらい外に出る。
腕はまだ完全にはひっついていなかったの補修用のテープでぐるぐる巻きにして外れないようにする。
無茶をしなければ取れる事も無かったのでそのままベスに近づき抱き上げる。
「おいベスよ。お前が何でこの女を庇うのかは知らんが、俺を殺しに来た事を忘れたら駄目だぞ?」
ベスは尻尾を下げてホシモリに何かを訴えかける様に小さく鳴いたがホシモリに犬語が分かるはずも無いのでベスを抱えたまま少し離れ再度イクシオーネに止めを差す様に頼んだ。
再度、イクシオーネが手にエネルギーを集め出すと今度は魔導車に乗ってシルバとシモンが近づいてきたのでもしもの事を考えてチャージをやめる。
「なんかタイミング悪くないか?」
「はい。私もそう思います。これからの流れを考えると相棒に少し待って下さいと誰かが言いこの敵対した女の寿命が延びる事が予想されます」
「俺もそう思う。話なら後でもできるからさっさと止めを刺すか?」
「その意見には賛成ですが、爆発するような魔道具を持っていた場合シモン・トルキャットやシルバ・トルキャットは巻き込まれる恐れがありますので私は一旦中断しました」
「流石にそれはまずいな……」
抱えていたベスを離してやりシモン達が到着するのを待った。
そして到着した後に倒れている女をシモンとシルバが確認すると知り合いだった様でイクシオーネが言った様に少し待ってくれという展開になった。
その事でホシモリは大きなため息をついてからシモンに質問する。
「知り合いか?」
「はっはい。友人とまでは言いませんが……知人の方です。数年前にベスが森で迷子になった時にこの方がトルキャット商会まで連れてきくれてから付き合いがあります。普段は傭兵をやっていてこの方が倒した魔獣等を私達が買い取っています」
「なるほどな。まぁ……俺からすれば知らんがなって話になるからシモンさんもシルバさんも止めを差すからどいてくれ」
ホシモリの言っている事が冗談でないと二人は察知し何度も何度もホシモリに止めを刺すのを待ってもらう様に頼む。
それでもホシモリは反撃を受けてこっちの誰かが死んだりしたらどうするんだ? と言う様な事を言い続けたが最後はシモンが責任を持つという形で決着がついた。
「いいんですか?相棒」
「全然良くないが……天下のトルキャット商会の会長が責任を取るって言うんだから雇われてる俺がこれ以上はいう必要は無いわな」
「ホシモリさん……脅さないでくださいよ」
「事実だしな。どこまでその女の事を知ってるかは知らないが……俺やランバルト大尉と敵対してた帝国のエリート兵だぞ?その女は」
「えぇぇ!?本当ですか!!」
「個人の戦闘能力なら俺と同じでそれ以上だからランバルト大尉より強いから本当に気をつけろよ?」
「この方が持ち込む魔獣はどれも貴重な物が多かったので……強いとは思っていましたがそれほどの方でしたか……」
「今なら楽にやれるから気が変わったら言ってくれ」
何かあった時の為にシモン達の側で待機しているとシモンとシルバは怪我を治して一度、話を聞こうという答えを選んだのでホシモリはそれを見守る事にする。
シルバが鞄の中から瓶の中に入った液体の様な物を二本取り出し一つはその女に飲ませもう一つはホシモリに渡し説明する。
「ホシモリさん。その薬はロードポーションと言って死ぬ寸前以外の怪我は全て治療する薬になるのでお飲み下さい……ホシモリさんも腕を切断されたのでしょう?」
よくわかるなーと感心しながら礼を言ってロードポーションとよばれた薬を一気に飲み干すとと体全体が少し発光した後に少しずれていた腕も綺麗にくっつきぐるぐる巻きにしたテープを取ってひっぱても完全に治癒したようで腕は外れる事は無かった。
メディカルナノマシンを一つ無駄にしたな……と考えながら襲ってきた女の方を向くと女も発光しており切り落とされた指や焼けた腕や無くなった足などがゆっくりと再生していた。
「……連合軍に戻っても報告できんな」
「はい。クローン再生された腕をつけるなどしての治療は可能ですが無くなった四肢が生えるのは異常ですのでこの薬を目当てで様々な銀河から人が集まり資源の奪い合いになります」
女はまだ目が覚める気配が無かったのでホシモリはそんな話をしながら待った。ただその女が目覚めた時に襲ってきてシモンの家族の命が奪われた時はどうするのだろうと考えたが……その質問は投げかけずにいた。
そしてものの十分もしない内に小さなうめき声を上げた後に女はゆっくりと目を覚ました。
空を見上げる瞳にシモンがゆっくりと映り込み話しかける。
「ロチェットさんこんばんは。良かったら少しお話しませんか?」
「シモンさんか……こんばんは。体が動かしにくいからこのままでよければ」
はい。大丈夫ですよとシモンが笑い話が始まりロチェットと呼ばれた女に敵意は無さそうだったのでイクシオーネの足にもたれかかりホシモリがシルバに先ほどの薬について質問する。
「なぁ……シルバさんさっきの薬って簡単に買えるのか?」
「はい。金貨十枚で白硬貨になり金貨百枚で黒硬貨になるのはホシモリさんも知っていると思いますが、その黒硬貨五十枚ほどあれば買えますよ」
「なるほど……そんな高級な物をくれたのか……ありがとう」
「いえ。シモン様はよくベルナお嬢様を助けてくれたのに恩が返せてないと嘆いていたので喜んでおられると思いますよ。ロチェットさんもベスが森で行方不明になった時に大怪我をたベスに使ってくれた様なので」
何処で購入できるか等を聞いているとシモンとロチェットの話が終わった様でその場にホシモリ、イクシオーネ、シルバが呼ばれる。
「ホシモリさん。もうロチェットさんと戦わなくて大丈夫ですよ。いくらトロメスタ侯爵からお金をもらって依頼を受けたと言ってもトロメスタ侯爵はいませんしホシモリさんを倒すとなるとその程度の契約金では足りませんからね」
「シモンさんがそれで良いならいいんじゃないか?俺は仕掛けてきたら殺すだけだから別にいいが……」
「ホシモリさんは本当に物騒ですね……それで話を詰めましたがロチェットさんには今後トルキャット商会で働いてもらう事になりました」
その事にまったく興味は無かったのかホシモリは鼻をほじりながらほーんと気の抜けた返事をする。
そしてロチェットは自分を殺しそうになった男の名前が分かったので驚きながら質問する。
「ホシモリ……まさか……連合軍のツグヒト・ホシモリ?」
「そのまさかだよ。で?SRCがどういう気の迷いだ?」
「私はもう洗脳は解けてる。その名で呼ばないのなら敵意が無い証拠として答える」
「で?ロチェット・ロエットがどうしてこの星にいるんだ?」
「……何で、私のフルネームを知っている?」
「質問が多い奴だな。連合軍がSRCを保護した時にお前を知ってる奴がいたからな。シモンさんが名前を言ってピンときたんだよ」
「そう……みんな保護されたって聞いたけど本当だった。良かった」
「それで?お前はいつからこの星に来たんだ?」とホシモリが尋ねると夜空を見上げながらロチェットがこの皮脂に来来た時の事を思いだし話し始める。
特に難しいはなしでは無かったがやく五年ほど前に暴走したワープゲートに飲み込まれこちらの世界に着いたとの事だった。
元から人と話すのは得意でなかったが戦闘力だけは人一倍高かったので傭兵として仕事を請け負い生活をしてシモン達と知り合ったとの事だった。
「なるほどね」
「それでどうしてホシモリはプラネットを持って来れた?」
「ん?お前ら帝国が強襲した時にワープ装置を誤作動させたのが俺だからな」
ホシモリの話を聞いてロチェットは長い時間考えた後に一言だけありがとうと伝えた。
「なんで礼なんだよ」
「ホシモリのおかげで帝国として戦わなくてすんだし、私はこの星が好きになってるから」
「そう本気で思ってるなら次からは襲ってくるなよ。次は無いぞ」
「分かってる。鬼のホシモリ相手に今がある方が奇跡に近い」
「それで?どうやってイクシオーネのハンドイオン砲を避けたんだ?どんな魔道具を持ってったんだ?」
一番気になっていた事を尋ねると胸元にかかっていた宝石が割れたペンダントを取り出しホシモリ見せる。
それは命守りのペンダントという物で確実に死ぬ攻撃を瀕死にまで抑えてくれる物で割れると今後は使えないが割れなければ魔法と言った物を軽減してくれる物だと説明した。
「というかかなり有名なペンダントなのにどうして知らない?鬼のホシモリならこれを買えるぐらいすぐに稼げるはず」
「俺がこの星に飛ばされたのは最近だしな」
「……そう。トルキャット商会のランバルトの事もあるし飛ばされてる時間がズレてる」
すこし時間が経ってロチェットが動ける様になりホシモリの部屋も鎮火したので魔導車に乗り込み屋敷の中で話をしようと言うことになった。
イクシオーネはロチェットが皆に危害を加えようとする意思が無い事が分かったので倉庫に戻ると伝え倉庫へと戻っていった。
倉庫へ向かうイクシオーネの背中を見ながらロチェットはホシモリに話しかける。
「私が知っている事は全を話すし必要ならプラネットのデータも渡すから私のプラネットを修理してほしい」
「はぁ?俺はお前を信用してないし嫌なんだが?それ以前に物を見ないと直せるか直せないかわからん」
ホシモリの言い方にロチェットはかなりイラッするが再度、ホシモリに頼むが断られたので喧嘩になりそうになったのでシモンやシルバが何とか止める。
車の中で四人が揉めていると屋敷のまえにベルナ、ライグ、トリシュとその他大勢がホシモリ達を心配し無事に戻った事を喜んだ。