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爆煙があがりその炎で夜空を赤く染める中、ホシモリは一人のフードを被った者にナイフを構え対峙していた。
お互いに動けば死ぬような状況の中でフードを被った者がホシモリに話しかける。
「恨みは無い。けど貴方が殺したトロメスタ侯爵から貴方を殺す様にお金は受け取っただから殺す……けど一つ質問いい?」
その顔は見えなかったが声は女の者だった。油断するつもりは無いがどうやって爆発させたかも気になるホシモリは話にのりどうぞと言った。
「いつから私の視線に気づいていた?襲われるって分からないと今の襲撃には対応できない」
「かなり場所までは特定できなかったが……城を出た時から見られてるのは分かってたからな。それで対応できたって話だな」
「嘘って言いたい所だけど……そうじゃないと説明がつかない」
「どういたしまして……まぁ加減できる感じじゃないが……お前一人だけか?」
「信じるか信じないかは知らないけど私だけ。居ても邪魔」
「標的が俺って話だし居ても居なくてもどっちでもいいか」
そう言って小さくため息をついた後にホシモリはフードを被った者との距離を一気に詰め、その首めがけてナイフを一閃させる。
だがホシモリが感じていた様に本当の強者だったようでフードを切り裂きその素顔が晒される。
髪は薄い金色で透き通る様な青い瞳が特徴的な女だった。
年齢に関しても他の星と言う事も分かりずらかったがホシモリ感覚的にだがベルナより年上でリセムよりは年下という印象だった。
ただその女の持っている気配は同格かそれ以上に相手に思え、歓喜か恐怖か分からなかったが全身が震えた。
そしてそれが戦いの合図となり戦闘が始まった。
ホシモリの攻撃に臆すること無く女は羽織っていた服の中から剣での一撃を仕掛ける。隠された攻撃で危うく頸動脈を切られそうになるが皮を一枚切られた所で体をひねり女に向かって蹴りを放つ。
だがそれを女は呼んでいた様で剣の腹で受けるがそれだけではホシモリの蹴りの威力を殺しきれなかった様で手に鈍い痛みが残った。その怯んだ隙がチャンスだったはずだが蹴りを打ち込んだ足から血が滲んでいたので接触した瞬間に切られていたのでそこで仕切り直しとなる。
(油断してるとこっちが死ぬが……この戦い方は……)
『相棒。聞こえるか?この女の戦闘データを解析してくれ。シモンの様に巻き込まれた人間の血縁の可能性がある』
『了解しました。こちらもトルキャット家の安全が確保され次第援軍に向かいます。気をつけて』
『少し嫌な感じがするから速めに頼む』
イクシオーネが返事をする前にその女はホシモリに劣らない接近し短めの剣でホシモリの目を狙う。寸での所で避けたが完全には避けきれなかった様で額を少し血が伝う。
その女の戦い方や気配がホシモリに戦場を思い出せ、その心の中からは目の前の生き物を倒すという以外の選択肢は消えた。
先ほどまではホシモリの動きが変わりその女を攻め立てるがその女もホシモリと同じ様に途中から動きが変わり、常人では見切れない様な動きに対応し反撃する。
女に左手がコートの中に隠れ何かの攻撃の予兆を見せる。右手にもっとショートソードを心臓に向かって投げつけてきた。躱しても避けても次の攻撃がくるのを予測していたホシモリはそのショートソード真っ二つに切り裂く。
次の攻撃はかわすのが不可能だった事を覚悟していると乾いた音がした後に、左腕に激痛が走った。
致命傷を避け左腕に負った銃傷でホシモリは目の前の女の正体が分かった。
(ランバルト大尉がいるぐらいだしな。敵兵がこっちの星にいてもおかしくは無いか……ただまぁSRCが行き残ってたとは思わなかったな)
SRCとはstar,robbed,childrenの略でホシモリが出会った最悪の兵士達の事で、そのすべてが見た目だけは子供だけで構成された帝国軍の兵士達だ。
その実体は地球から赤子を拉致し有能な兵士のクローン脳を制作後にその赤子の脳と取り替え十数年かけて最高の兵士を作り上げると言う物だった。
帝国軍のその計画は成功し連合国に大ダメージを与える事になるが、一人の兵士を作るのに十数年とクローン脳が適応しない者も多く、SRCを増やす事ができなかったので戦闘中に死亡したり連合軍に保護されたりして計画は頓挫し消えていった。
ただSRCは兵士としては本当にに戦闘能力が高く、保護された者も連合軍の考え方に賛成し戦争に手を貸す者もいたがその全てがホシモリと同じレギオンの称号を手に入れられる程の人物達だった。
(確実に俺を殺すならプラネットに乗ってくるはずだが……それをしないと言う事は侮ってるか、プラネットが壊れてるか?だな……狙撃してくるならチャンスはいくらでもあったからな……)
ホシモリの体内にあるナノマシンが集結し撃たれた場所から弾丸を吐き出し血をすぐに止める。自身の腕の痛みが小さくなったの確認してからホシモリは女との距離を詰める。
右手の超振動ナイフでコートの下に隠した銃を必要以上に狙い注意をそちらに向けさせる。注意が右手に向いた瞬間にホシモリの左足が女を狙う。
ただそれも女は呼んでいた様で蹴りの勢いを殺し両手で受け止める。
ホシモリも蹴りが受け止められるのは呼んでいたので撃たれた左腕に必要以上に力を込めて血を吹き出させ女の目を狙った。
ホシモリの血は上手く女の右目に入り視界を奪った。そしてその死角から追撃を隠していた銃と指を数本切り落とす。
ただその程度でSRCが止まる事が無い事はホシモリが一番知っているので休憩させる時間を与えない様に追撃を仕掛ける。が、女の口が何かを唱える様な動きをした後にホシモリは驚愕し距離を取る。
「ウォーター」
女が唱えた物は魔法で自身を守る様に水が現れた後にホシモリに向かって打ち出された。
ギリギリの所でホシモリは躱したが近くにあった庭石にその魔法が当たるととても簡単に庭石を切断した。
自分と同じ別の星の人間がここまで殺傷能力の高い魔法を使えるんだ! と文句の一つでも言おうとしたが放たれた魔法は意思を持っているかの様にホシモリを襲い始めたのでそんな余裕はとても無かった。
魔法がホシモリを襲っている間に女は別の魔法で目を洗おうとする。だがホシモリを黙ってチャンスを潰させる訳も無いのでダストレールガンで女を狙う。
ただ弾は水によって軌道を反らされ女には届く事はなかった。
女はダストレールガンを見てホシモリがどういう人間か悟った様で少し距離を取って更に警戒し目に入った水を洗い流し話しかける。
「その銃、背負っていた時から思ってたけどまさか連合軍がいるとは思わなかった」
「こっちの台詞だ。余所の星で帝国に会うとは思わなかったな」
「トルキャット商会のランバルトがそうだとは思っていたけど……」
「さぁ?どうだろうな他の帝国兵はいるのか?SRC」
「その名で私を呼ぶな」
ホシモリが発した言葉で女の雰囲気が一気に変わり冷静だった感情が一気に沸騰し爆発する。それは攻撃ににも出ており、水が斬撃がホシモリを襲い防戦一方となった。
ホシモリも女の攻撃と魔法にも少しずつ慣れてゆき真上からヒートナイフを振り下ろす。
女は腕を交差させそれを受け止める。ヒートナイフは骨を貫通し肉を焼くがその事で一瞬だけだがホシモリの動きが止まる。
女にsてみれば腕を犠牲にしてもホシモリを止める一瞬の時間が欲しかった。
その止まった一瞬の中でホシモリの死角から先ほど銃傷にに水が突き刺さり、腕を切断し宙を待った。
ホシモリが油断したと思ったがそれ以上に女は腕が飛んだ程度で勝ったと油断した表情をホシモリに見せる。
ホシモリは宙に舞った左腕を右手で掴み女に向かって振り下ろし何度も何度も叩きつけた。
自身の左腕か?女の腕の音かは分からなかったが何かが折れる音をがした後に女の蹴りを腹に受けて少し距離を取られる。
使えなくなった左手をその辺に捨てて右手で構えを取ると女も変な方向に曲がった腕を水の魔法で無理矢理に方向を正して構える。
ただ女は回復魔法を使える様でヒートナイフで貫通し焼かれた場所に水がまとわりつくと本当にゆっくりだったが怪我が治っていった。
そして女が魔法が四方八方からホシモリを襲い始めた瞬間に通信が入る。
『相棒。伏せてください』
その聞き慣れた声が届いた瞬間にホシモリはその場でしゃがむと後頭部の髪を数本焼いた後に光の筋が女を襲った。
ただ女も上手く躱した様だったが魔法で作られた水は全て蒸発し消えた。
そしてその場に現れたイクシオーネを見て女は少し驚くが戦意は喪失していなかった。
「火力はそれなりにあるみたいだけど……たかだかレムザスが来た程度じゃ貴方の死は変わらない」
「言わしてもらうが……元からお前が行き残る未来なんか無いからな?」
「魔法も使えない只の一般兵がレギオンに勝つのは無理」
「案外……おしゃべりな女だな?黙って死ね」そう言った直後にイクシオーネから電気を伴う煙が発射され女の視界を奪い行動を制限する。
そしてその間にイクシオーネはホシモリと切断された腕を回収しコックピットに収納する。
「相棒。こっぴどくやられていますね」
「悪い油断したSRCの生き残りだ。魔法も使ってくるぞ」
その台詞に普段は驚かないイクシオーネも驚いた後にもう少し早く行って下さいと抗議する。
「そういう事はもう少し早く言って下さい。トルキャット家を放置してでも援護に来たので」
「悪いな。次回に行かすよ。それで?皆は避難したか?」
「はい。問題ありません。相棒。切断された腕を傷口に当ててください。切断面は綺麗で時間が経っていないのでメディカルナノマシンを投与すればくっつく可能性があります」
分かったと返事をし腕を切断面にくっつけるとコックピットからホシモリに注射針が突き刺され体内に医療用のナノマシンが注入されていく。
「相棒。SRCの生き残りの相手は私がしますのでシートベルト着用した後に腕が落ちないように固定していて下さい」
分かったと。ホシモリが返事をした瞬間に体に水を纏って電磁スモークグレネードを無効化した女がイクシオーネに向かって飛びかかって来た。
イクシオーネもその攻撃をよんでいたので簡単にその攻撃を受けて少し距離をとる。
ただその女は偽装されたイクシオーネをプラネットとは思っておらず辺りをキョロキョロしながらホシモリに話しかける。
「少しは性能のいいレムザスの様だけど……隠れているのは時間の無駄、出て来い」
その様子をホシモリはモニターで眺めながら声に出す。
「ん?SRCって俺より高度な義眼が両目に入ってるんだよな?相棒がプラネットって分からないのか?」
「はい。先ほど相棒から連絡が後にこの女をスキャンしましたが……他のSRCに比べて歳を取っているのでこの星にきて数年が経っていると思われますので義眼の充電が切れ普通の目としてしか機能していないようです」
「なるほどな……プラネットがいないと充電もできないしな」
「はい。知りたい情報も多いですがSRCの生き残りとあれば逃してしまえば脅威となりますのでこちらに気がついていない今がチャンスなので倒します」
「ああ。それがいい」
そして煙が晴れ辺りをキョロキョロしていた女が逃げたか……と呟いた後にイクシオーネに標的を決めて呟く。
「はぁ……逃げられたか。まぁこのレムザスを潰してから探すか。あれだけの大怪我じゃ遠くには行けないだろうし……次は勝てるか分からないから」
「いいえ。私のパイロットは逃げていませんし負けてもいません。それに貴女に次は存在しません」
まさか返事が返ってくるとは思っていなかったので女は驚愕し動きが止まりイクシオーネから繰り出された右手からの剛拳に反応が遅れ少し腕に掠ってしまいボロぞうきんの様に腕が吹き飛んだ。
「こっこいつ!レムザスなんかじゃない!プラネットか!」
その問いかけにイクシオーネが答える訳もなく右手で攻撃を放った後に左手のハンドイオン砲をチャージしていたので逃がさない様に丁寧にロックオンし逃げようとする女の動きにエネルギーが溜まった左手を追従させる。
そして……確実に当たるというタイミングで左手から光が走った。