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何が原因かは不明だったか、老犬だったはずのベスがやたらと元気になり素人が見ても分かる程に身体能力も元気になっていたのでベルナがフリスビーの様な皿を投げる。
どうしてこうなったかは誰も分からないがベスと人間のホシモリは競争しその皿の奪い合いをしていた。
元気になったベスが遅いのか……ホシモリが速いのかは分からなかったがフリスビーを追いかけた一人と一匹はホシモリの方が超人的な跳躍力で先に空中でキャッチし全勝中だった。
「はっはっは!ベスもまだまだだな。トルキャット商会の犬も連合国軍の犬には勝てないようだな」
「くーん……」
落ち込む元猟犬の頭の頭を撫でてからフリスビーを指でクルクルを回しホシモリはベルナの元に戻ってくる。
「ベスは私が生まれる前からいて老犬なのでそんなに速くは動けないと思うのもありますが……ホシモリさん……足速くないですか?」
「そらまぁ……兵士が足速くて損する事ないしな。いくら技術が発達しても最後は身体って事は多いからな」
ホシモリの言っている事の意味が分からずはっはぁ? と何とも言えない返事をしているとベスがホシモリにリベンジを望んでいるようでホシモリの手からフリスビーを奪いベルナの元に持ってきた。
そしてホシモリもその再戦を受けようとしたタイミングで倉庫の主から声がかかる。
「相棒。そろそろ時間です。正門にアズスベルン・ガーランドが来ました」
「了解。いい運動になったからちょっと行って来る。ベス。再戦はそのうちな」
「ばう!」
ホシモリが何処へ行くか知らなかったのでベルナがその事を尋ねているとトルキャット商会に止まっていたリセムがホシモリを呼びにやって来たのでホシモリは簡単にベルナに説明する。
「……そうですか」
「まぁ思いだして怖いのもあるだろうけど気にすんなとしか言えんな。ベルナちゃんは子供だから仕方ないが、過去と死人には引っ張られるなって言葉があるから覚えておくといいぞ」
「わっわかりました」
「お話は終わりましたか?ではホシモリさん行きましょう」
リセムと二人でガーランドの所へ向かう途中でホシモリがリセムに提案する。
「リセムさん。悪いがベルナちゃんの所に行ってやってくれるか?前の事を思いだしたのと今日の事を気にしているっぽい」
「でっですが……」
「雇われてる所のお嬢様の体調を気にするのも傭兵の勤めだからな」
「そんな勤めは聞いた事はありませんけどね」
しばらくの間はホシモリの提案を悩んでいたが可愛い妹分と言う事もありリセムはようやくベルナの元へと向かった。
このまましらばくれたら面白いだろうとは考えたが後で色々と大変な事になるのは目に見えていたのでホシモリはおとなしく門へと向かった。
門にはシモン、シルバ、トリシュの三人も待っており少し話をした後に城からの迎えの白い大きな馬車へとホシモリとガーランドは乗り込んだ。
「ありがとう。ホシモリ君」
「どういたしまして。この白い馬車はお城のやつだろ?ベルナちゃんを迎えにいった時にたまに見るから中身とか気になってたんだよな。それに乗れただけで来た甲斐があるな」
「ふふっ……これからきっと面倒事になるのに君は面白いな」
「王族と話す事になったら大変だとは思うが……それ以外は特にどうも思わん」
「……分かった。もしもの時は私が本気で手を貸すから期待しててくれ」
「俺とガーランドさんの本気か……城が更地になるな」
「君は何を言っているんだ?私は可憐な乙女だぞ?」
「はいはい。狩れん狩れん」
妙に馬が合うホシモリとガーランドを乗せた馬車は何事も無く城へと到着する。
城の門をくぐった所でガーランドから降りる様に言われホシモリは馬車を下りる。そして着いて来てくれと言われたのでその後ろを歩き着いていく。
城という物をホシモリは見た事が無かったのでキョロキョロと辺りを見渡すとホシモリがデータとして見た事のある石でできた城にとてもよく似ていた。
石畳の上に挽かれた赤が鮮やかな絨毯の上を歩き進んでいるとイクシオーネから通信が入る。
『シモン・トルキャットから許可をもらい建物の屋上にクロークモードを発動させ待機しています。もしもの時はいつでもイオンレーザーカノンでの狙撃が可能です』
『了解。こちらの位置は把握できているか?』
『問題ありません。アズスベルン・ガーランドと供に確認できました』
『分かった。大丈夫とは思うが……義眼にも接続し精度を上げていてくれ。たぶん問題無いと思うけどな』
『了解しました。ただこちらはベスが元気になった事で問題が発生しているのでシモン・トルキャットが相棒の帰還を早急に望んでいます』
『そっちの方が大変そうだ……』
『はい。ですので無事に戻って来てください』
『了解』
本当になんとなくだが長年戦場にいたホシモリは戦闘までは行かないが戦いにはなるなと肌で感じていた。
だが滅多に入られないと言われる城に入れたので観光気分で様々な物をチェックし気になる物があればガーランドを引き留めてあれこれと聞く。
「君は……観光に来たのか?」
「そうは言われても悪い事してないし、滅多に城とか入れんらしいから観光してもいいだろ」
「まぁ……そう言われればそれもそうか」
ガーランドは城塞都市だが警備兵の隊長という事もあり城にはよく入っているので中の事には詳しく様々な事を知っていた。
ホシモリの質問にガーランドが答えながら城の中を進んで行くと目的の場所に辿り着く頃には呼び出された時間に何とか間に合った。
「ギリギリか……君のせいだな」
「自覚はある」
扉の前に待機していた甲冑をきた騎士の様な者達にガーランドが話しかけると、装備を渡してくださいと言われたのでホシモリもガーランドも自身の銃やナイフといった物を手渡した。
そしてその騎士達に礼を言われてた後にどうぞと言われ中へとホシモリとガーランドは通された。
中に入るとそこは裁判所の様な作りになっており中央にはホシモリが捕まえた貴族がたって下り部屋の奥には裁判官やこの国の偉い人達であろう人達が座っていた。
ホシモリとガーランドはそのまま左側へと行き席へと座った。
しばらく待っていると国王とよばれる人物が現れたのでその場にいた全員が立ち上がり頭を下げたのでホシモリも慌てて立ち上がり頭を下げる。
そして裁判が始まり処刑される予定の貴族はある事無い事のを語り、部屋の右側の自陣営の貴族達にも自分の無実を話させた。
そこまで話を作れる物だなーとホシモリが感心していると裁判長からホシモリに話が振られる。
「話には聞いていた。君がツグヒト・ホシモリ殿だな?」
はいと言ってから立ち上がり辺りを少し確認すると、城塞都市で見たような嘘発見器の様な魔道具が確認できたのでそれを発動させないように話を進める。
「君はどうして城塞都市に向かっていたのか聞いても?」
「はい。私の父がトルキャット商会のシモン・トルキャットの友人で、その父が生前に良くいた仕事に困ったらトルキャット商会に行けと言われていたので城塞都市を目指していました」
「その道中でトルメスタ侯爵が人を攫っているのを見つけたという事ですか?」
「はい。正確な人数までは覚えていませんが、この国入ったばかりの自分がおかしいと思える様な事をしていたので女性達を助けました」
「その中にベルナさんやリセムさんがいた事は知っていましたか?」
「いいえ。その助けた女性達の中にベルナお嬢様やその親戚のリセムさんがいるとは思いませんでした。私が生まれてからは父はトルキャット商会には行った事は無かったので、その二人が商会と関わりがあるのも知りませんでしたので」
ホシモリが質問に答える度に裁判官達は机の上に置かれた水晶を確認していたのでやはりそれは嘘発見器だった。
連合国軍にある超高性能な嘘発見器もホシモリは騙せる能力を持っていたのでその培った力で今回も自分が得をする様に嘘を並べやり過ごしていく。
全くといいほど嘘発見器が機能せず、自分が不利になっていくのでついにトロメスタ侯爵がキレて大声を上げた。
「その男は嘘をついている!」
「トロメスタ侯爵……お静かに。嘘を見破る魔道具は反応していませんし嘘を言っているのは貴方でしょう。彼はここに呼ばれ聞いた話に答えているだけですよ」
「いいえ!裁判長!そその男は何らかの方法を使い魔道具を無力化しています!他国からの間者で間違いありません!その男は強い力を持っており城塞都市のミスリルランクのハンターやハンター長を病院送りにできる戦闘能力を有しています」
そこ答えにガーランドは何処で調べてきたと驚き、ホシモリはどこから調べてくるのかと感心した。
今の会話で裁判長はホシモリの方に向き直りもう一度質問をする。
「今の話は本当ですか?」
「間者と言われれば違うと答えますが。ミスリルランクのハンターとハンター組合の組合長を病院送りにしたのは確かです。詳細はガーランドさんに聞いてもらえば分かりますが、こちらが無手の時に刃物を持って襲いかかって来たので反撃しその戦闘力を奪いました」
「なるほど……ではそのミスリルランクのハンターを倒せる程の戦闘能力は何処で身につけましたか?」
「はい。先ほど私の父がシモン・トルキャットの友人と言いましたが、正確にはシモン・トルキャットの祖父のランバルトの教え子という形になりその父から戦闘を学びました。何処かの国や都市で暮らしていた訳ではなく遊牧民の様に私と父は暮らしていたので戦闘を学ぶ機会はいくらでもありましたので」
ホシモリの戦友でシモンの祖父のランバルトの名前が出ると思った以上に有名人だった様でガーランドを含め周りは少し騒ぎ始めた。
そして一番食いついたのは国王でホシモリにランバルトについていくつかの質問をしホシモリも戦場で一緒に駆け抜けたランバルト大尉の事を思い出しながら答える。
ホシモリの答えに自身の記憶にあったランバルトと重なったようで国王はとても気分良くしトロメスタ侯爵に話しかける。
「トロメスタ侯爵。私はこのツグヒト・ホシモリが言っている事全てが本当だとは思わんが……貴殿とホシモリ殿のどちらかを信じろと言われたら私は間違いなくホシモリ殿を取るだろう。確かに君は優秀な貴族ではあるが悪い噂は絶えず、国の六防であるアズスベルン・ガーランドも君は悪だと言っているのでね」
また知らない言葉が出てきたので後でガーランドさんに聞くかと鼻をほじりながらホシモリが考えているとトロメスタ侯爵はとても悔しそうな形相になりホシモリを睨み言葉を発した。
「わっ私は自身の身の潔白を証明する為に!その男に決闘を申し込みます!」
ホシモリとガーランド以外の人達はその事にとても驚いたがそう来るだろうと予想していたガーランドに教えてもらったホシモリはその決闘を快く了承する。
裁判長が尋ねる前に決闘する事が決まったので城の中に古くからあり決闘などに使われる優所正しきコロシアムの様な造りの場へと皆で移動した。
そしてコロシアムに移動し国王や裁判長達は高台の見渡せる場所へと移動する。そしてホシモリがコロシアムの中央に出ると先ほど装備を渡した騎士が小走りでやって来て、お返ししますとホシモリに手渡した。
ホシモリも礼を言ってその装備を受け取り身につけて決闘の相手のトロメスタ侯爵を待った。
しばらくまっていると四人パーティーのハンターと思われる人物とトロメスタ侯爵がやって来てホシモリに大きな声で話しかける。
「私は決闘場に上がる!だが私自身は戦えない為に命をかけられる代理の者を立てるが良いか!」
特に何も考えずホシモリがいいぞ!と返事をするとトロメスタ侯爵はニヤリとと笑いその四人パーティーのハンター達と一緒に決闘場へと上がってきた。
全員倒す気満々のホシモリだったがガーランドと裁判長が少し待ったの声をかけた。
その内容は代理の者を立てるのは良くある事だが一対多数は神聖なる決闘場ではおかしいのでは無いかという物だった。
「ですが!裁判長。パーティーという物はそれ自体が一つの生き物であり命を分けた生き物です!それに私が先ほど彼に聞い時もいいぞ!と声を高らかに言いましたので問題ありません!」
確かにホシモリはいいぞ!とは言ったがそれを認めるのはおかしいと裁判長やガーランドは言ったが変な所から援護が入った。
「裁判長もガーランドさんも俺の為に言ってくれてるのはありがたいが俺の方は問題無いから大丈夫だ。そのおっさんが言う様に部隊ってのは血肉を分けた生き物だし。その生き物が主の為に命をかけるのが決闘だろう?だったら何も問題無い」
決闘する本人にそう言われてはどうしようもないのでガーランドと裁判長はそれ以上は何も言えなくなっていると貴族のパーティー内の青い顔をした神官の様な男が怯えながら声をだした。
「おっおい!俺はあんなのと命をかけて戦うとか聞いてないぞ!神聖な決闘の場かなんだか知らないがたかだか金貨数百枚で命なんかかけてられるか!俺は脱けさせてもらうぞ!」
そう言って仲間割れを始めたのでリーダーの様な男が神官の様な男の肩を握り無理矢理振り向かせる。
「おい!新入り勝手な事は許さんぞ!」
「許す許さねーの問題じゃねーよ!……なぁ……あんたはあれが本当に人に見えてるのか?」
その怯え方に怖じ気づいたのかリーダーの男が力を緩めると男は慌ててこの場から逃げる様に去っていた。
その場にいた全員が奇妙な物を見るようにホシモリを見るが当の本人はどっから見ても人だろ! 失礼な奴だな! と文句を言っている青年だった。
そして一人かけたがお互いに問題が無いという事で決闘が開始される事になり、裁判長が各自に最後の質問を投げかける。