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待っている間時間があったホシモリはイクシオーネに頼みレムザスの運用試験の問題を義眼に送ってもらい問題を解いているとようやく目的の人物が年の近い友人達とやって来た。
「ホシモリさん。お待たせしました」
「いえ。大丈夫ですよベルナお嬢様」と雇われているのでそう言うと言われた本人は少し怒った様にその言い方は止めてくださいと抗議する。
ホシモリとベルナのやり取りを見ていた裕福そうな女の子はその光景を見て上品に笑いホシモリに丁寧に挨拶をする。
「ホシモリ様。ごきげんよう」
「はいはいーご機嫌よー」
そしてしばらく三人で話しているとその女生徒にもお迎えの馬車が来たので女生徒や馬車の手綱を握った使用人はホシモリ達に丁寧に会釈をして帰っていった。
「あの娘さんは育ちの良い金持ちって感じだな」
「伯爵家の一人娘ですから、私以上にお嬢様だと思いますよ習い事なども多い様ですし」
「なるほどなー。ベルナちゃんは何か習い事とかしてないのか?」
「家が商家なので計算などの勉強はしていますが……習い事等は父も母もやりたかったやればいいという考え方なので私はいっていません。トルキャット商会の使用人は元の職業が様々な人が多いので色々と聞けますから」
「ベルナちゃんは人見知りってののもあるからな」
「……はい。それが一番の原因ですね」
それでも初めて会った頃に比べるとオドオドした様な感じも無くなっていたので、誘拐されて人の怖さを垣間見た事で普通の人なら怖くなくなったのかとホシモリは考えながら二人は魔導車に乗り込んだ。
そして発進使用とした所で周りにいた学生達が立ち止まりある一点を見始めた。
ホシモリとベルナも気になってその方向を見ると真っ白な馬車が迎えにやって来て皆の視線の中心には一人の男子生徒とその取り巻きが何人もいた。
「確か……この国の王子様だったよな?」
「はい。一つ上の先輩でアニエス・テン・フライス様でここからよく見える城の王子様ですね」
「ほー。王子様も来る学校だからけっこう凄い学校だよな」
「私が通えているぐらいなので何とも言えませんが……名門校なのは確かです」
「トルキャット商会のお嬢様が何を言ってるんだが……」
そんな冗談をいいながらも迎えに来た者や執事っぽい者を見ていると動きに無駄が無くホシモリから見ても強者と言うのが簡単に見て取れた。
「王子って言うぐらいだから護衛ぐらいはいるか」
「え?何処ですか?平和な街なのでそういうのはいないって聞きましたけど……」
「ホシモリのおいちゃんはこの国来て平和って思った事はそんなにないぞ。あの辺に見えてる使用人とか執事は全員強いな。たぶんシルバさんよりは強い」
そうなんですねーとベルナが感想を言っているとアニエス王子と目があったようで、何を思ったのか王子がベルナに手を振った。
その事でどうリアクションをしていいか困り固まるベルナにホシモリは笑いながら返事を催促させると顔を真っ赤にしながら丁寧に頭を下げた。
王子もそれで満足したのか真っ白な馬車に乗って城へと帰って行ったので、ホシモリ達も他の女生徒達からの視線が突き刺さるので家へと車を走らせた。
「青春してるなー」
「ホッホシモリさん!何を言ってるんですか!?」
「ベルナちゃんよ。人はおいちゃんになるとな若い子が輝いて見えるんだぞ?」
「いやいやいやいや……どう見てもホシモリさんは兄さんと変わらないか少し上ぐらいに見えますからね……」
おっさん化したホシモリのの話を反らす為にベルナはホシモリに自分ぐらいの歳の頃には何をしていたかの尋ねた」。
車を運転し特に気にもせず銃を持って戦場を駆け回っていたとホシモリが答えるとベルナは鳩が豆鉄砲をくらった様な顔をした後にもう一度聞き返した。
「ベルナちゃんが14とか15ぐらいだろ?俺がそれぐらいの時はがっつり武装して戦場を走ってたな~若かったな。アホだったから何回死にかけたか……」
「えっと……冗談ですよね?」
「どうだろな~。親の手を握る前に銃を握った様な奴だから、案外本当かもしれないぞ?嘘でも本当でも言葉に出したら相手を判断する材料にはなるからベルナちゃんが今の話を聞いて根っから兵士と思うかホシモリさんは嘘つきですね!って言うのは任せた」
「任されても困りますけどね!」
そんな話をしている内にホシモリの家を建てる予定地の前を通ったので家の話で盛りあがったりしているとようやくトルキャット商会へとたどり着いた。
ベルナを玄関で降ろし後の事は使用人達に任せ魔導車を車庫へと仕舞いにいく。
するとベスがやたらと元気になっており老犬とは思えない速度でホシモリを迎えに来た。
「……あれか。死ぬ前の兵士が元気なのと一緒か?」
「ばう!」
「冗談だよ。そう怒るな。それだけ動けるならシモンさんに頼んでお前と猟にいくもいいな」
「ばう!」
車庫に魔導車を仕舞い夕食までイクシオーネがいる倉庫にベスも連れて世間話などをしていると使用人が呼びに来たので夕食へとホシモリは向かった。
いつもの様にトルキャット商会の人達と豪華な食事を楽しんだ。
そして夕食が終わりシルバにも時間ができたので魔法の事等を教えてもらっていると使用人からシモン様がお呼びですとホシモリに呼び出しがかかった。
いつもなら用事があればシモンの方からくるので何事かと思いシルバもホシモリについて書斎へと向かった。
書斎に着くと誰かが来ている様で中から複数人の話し声したのでシルバが書斎の扉をノックし自身とホシモリが来た事をシモンに伝えた。
どうぞ入ってくださいと中から返事あったのでシルバとホシモリ中へと入る。
書斎の机にはシモンが座りその隣にはトリシュが立っており来客用のソファーには警備兵のガーランドとその部下でトルキャット家の親戚に当たるリセムが座っていた。
「ホシモリさん。お呼びしてすみません。二人がというよりガーランド様がホシモリさんに用事があります……」
シモンにそう言われたのでホシモリは二人を見て久しぶりだったので手を上げて挨拶をする。
「おー。ガーランドさんにリセムさんか久しぶり。王立都市に来るとは言ってたが、ようやくこっちに来たんだな」
リセムは丁寧に頭を下げて挨拶をしガーランドはホシモリの様に軽めの挨拶をする。
「久しぶりだなホシモリ君。運河でも大活躍だっそうじゃないか。数日に前に王立都市に着いて王族と話したがとても機嫌が良かったぞ」
「虹色真珠とかいうのをシモンさんが献上したって言ってたな……それはどうでもいいが、リセムさんはともかくガーランドさんがここにいるって事は人攫い貴族の処刑の事で来たんだよな?」
彼女と知り合って間も無いがホシモリが知っているガーランドは困った顔はしないと思っていたがそんな事はなかった様で顔の前で手を組んで大きくため息をついた。
「はぁぁ……ホシモリ君。先に謝らせて欲しいがいいか?」
「ゆるさん!って言って結果が変わるなら言うが、そんな感じじゃないんだろ?」
「ああ……先に結論から言うが明日、私達と城まで来てくれないか?」
一般人は城の中には入れないのでいつかチャンスがあれば城に入り配置されている王族使用のレムザスを見てみたいと思っていたホシモリは特に理由も聞かずにいいぞと返事をする。
「まだ何も言って無いがいいのか?」
「どうせあれだろ?人攫い貴族が何かして立会人とかなんかの証言をするのにいくんだろ?」
ホシモリの勘の良さに話を知っていた者は驚き、一緒に来たシルバも主のシモンに確認を取るとどうやら本当の事だった様で大きくため息をついた。
「罪を犯したらならその罪を償ってくれれば私達は楽でいいんですけどね」
「そういうのは置いといて生きたくて足掻くのは分かるからな。やる事はやるだろ。それで?城までいってどうするんだ?」
「ああ。君が言うように人攫い貴族があの洞窟でやっていた事を証言してもらいたい。リセムやベルナさんにはもう城塞都市で証言してもらいそれを城には提出したから問題はないが、人攫い貴族の身内どもが君がいたと証言しそれで少し話がややこしくなったからな」
「まぁ……住所不定の無職があんな所にいたらややこしいわな」
「そういう事だ。君の事を密偵だとか他国の使者だとか罠だ!とか叫んでいるよ」
「何の為の被害者の証言だって話になるけどな……その貴族が洞窟にいたのは間違い無いんだし」
「本当にそうだな……よほど処刑されたくない様で金をばらまき他の貴族達も大勢味方につけて無実ではないが王族に訴えてるらしい。王族の方もその貴族に今までの実績があるからな。はい。お前死ね!とはできないらしい」
「なるほどな。この国は王族が罪を裁くのか?」
「城で裁判をするからな。貴族や商人と言った社会的な地位が高い者の時は王族も裁判に出る。一般人が裁判される時は出ないな。と言うよりも嘘を見抜く魔法や魔道具があるから基本的に裁判と言うのは少ない」
「って事は……今回は嘘を発見する魔法を使われた奴が買収でもされたか」
「ああ。たぶんな」
行ったより行かない時の方がめんどうな事になり、それこそベルナが関わっていた事だったのでトルキャット商会にも迷惑がかかるとホシモリは判断した。
そして明日の昼前には迎えの馬車をトルキャット商会によこすとガーランドは言ってから立ち上がりホシモリにもう一度頭を下げた。
「本当に申し訳ない。ツグヒト・ホシモリ殿。手柄を譲ってもらい貴殿に迷惑はかけないと約束したはずだったが……」
「ガーランドさんも強いとは言っても一人の兵士だしそこは仕方ないだろ。権力と金持ってる奴が強くて偉いのは何処でも一緒だしな……ガーランドさんにも世話になったし、俺ができる範囲なら手を貸すさ」
「そうか……ありがとうホシモリ君。君はいい男だな」
「だろ?俺もそう思う」
それから少し話をした後でガーランドは明日の事で用事があると行って帰って行き、リセムが残りもう一度ホシモリに頭を下げた。
「ホシモリさん。本当にすみませんでした……ガーランド隊長も気をつけてはいたんですが……警備兵の中にも息のかかった者はいた様で……隊長やホシモリさんが言った様に城塞都市の牢屋にいる時に動いていた様です」
「組織が大きいと絶対に出てくる事だからな。まぁしゃあないだろ。王族の事も貴族の事も良くわからんからな。良くわからん事を否定するのも何か違うし……とりあえず明日行ってからの話だな。めんどうな事にならないといいんだが……」
「ガーランド隊長が言うには代理の者を立てて決闘に持ち込むのでは無いかと言っていました」
「決闘ね……どういう事をするんだ?」
その質問にリセムは決闘を受けた事もした事も無かったのでどう説明しようかと悩んでいるとシルバがお互いに命をかけて戦い勝った方が身の潔白を証明するというホシモリも知っている決闘とよく似た物だった。
「……変にぐだぐだと話すぐらいなら決闘の方が話が速いな」
「そうですけど……」
「あれだろ?相手を殺しては駄目とか殺さないと駄目とかそういう変なルールも無くてシンプルに勝った方が正しいんだろ」
「はい。文字通り命をかけて身の潔白を証明しますので、負けた方は生きていようと死んでいようと問題はありません。もし負けた方が行き残って後で恨みを晴らす為に勝者に襲いかかるともっと重い罪で裁かれますので」
「そういうの気にしない奴もいそうだから決闘になったらしばらくは気をつけないとな」
「勝てる事が前提なんですね……」
「あのな……リセムさんよ。戦争の末期ならともかく兵士が負けると思って戦場に行く奴はいないからな」
「そっそれもそうですね」
「とっ言う訳でシモンさん。極力迷惑はかけないつもりだが……もしもの時は申し訳ない」
ホシモリがシモンに向かって頭を下げるとシモンはあたふたしながら大丈夫ですよいった。
そして表だってトルキャット商会に対抗できない様な連中なので人質としてリセムやベルナを攫った貴族なので小さな問題はあるかも知れないが大きな問題は無いと話した。
そして悩むシモンに変わり気にしているのはホシモリの事だと言った。
「ガーランド隊長が言うように決闘になる可能性は多いにあります。そうなった場合はやはり色々な所に顔が効き財力もある貴族なのでかなりの相手を呼んでくると思うのでホシモリさんが心配で……」
「そこに関しては王族と話しをするより殴って解決する方が絶対に心配しなくいいぞ……丁寧には話せるが王族相手にどう話していいかとか全くわからん」
へんな事を心配するホシモリ相手に完敗したシルバが戦闘に関しては相手が可哀想になるので全く気にしなくていいと言うと皆が驚いた様にホシモリを見た。
「シルバさん……魔法に関しては真面目に警戒するからな?」
「いえ……警戒しているからこそ命を奪っていいと言われた戦いなら問答無用でしょう?」
「魔法とか超怖いからな」
心強いのか弱いのかイマイチ分からなかったが……皆の心配を余所にホシモリはいつも通りだったのでもしもの時の対応策は考え後の事はホシモリに任せる事になった。
そしてその日リセムはトルキャット商会に泊まりライグやリセムと話をしたりして過ぎて言った。