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ホシモリが拠点を王立都市に決め土地を購入し家の建築費を払い終わってから約、一ヶ月の月日が流れていた。
言葉もイクシオーネのサポート無しで話せる様になっており仕事もシモンのトルキャット商会の護衛として雇われ家が完成するまではトルキャット商会の一部屋を借り今はイクシオーネが待機している倉庫で世間話をしていた
「魔導工業都市も行ってみたが……住むなら王立都市の方が楽だな。まぁ……シモンさんにもトリシュさんにもしてやられた気がするが」
「はい。王立都市に住むメリットの方が大きいですが……住むだけなら魔導工業都市でも問題ありませんでした。ただ、トリシュ・トルキャットが事前に王立都市の土地を探していたので外堀を埋められていましたね」
「立地的にも広さも問題無いからいいか。運河で知り合った建築とかやってる商人さんが家を建ててくれてるしな」
「あと一ヶ月もすれば完成するようです」
ワープポッドのコアモジュールやモニターたシモンから譲ってもらったプラネットのエンジンユニットは気温の変化等に晒したく無かったので拠点を作る際にかなり大きめの地下室を設計したので少し時間がかかっていた。
「まぁ完成する前にレムザス取り扱いの試験があるからそっちが重要だな」
「はい。現状は特に問題ありませんが……土地と家の建築費で人攫いの賞金や買い取ってもらったダイオウガイの賞金などは無くなりましたからある程度の資金は必要です」
「城塞都市より近くに狩り場というか採取ができる場所もあるから行かないと駄目だが……ベルナちゃんの送り迎えもあるからなー」
「雇われているのでベルナお嬢様と言わないと駄目です」
「本人嫌がってるけどな……さてと迎えに行くにしても時間あるし試験に向けて勉強しておくか」
「シルバ・トルキャットやトリシュ・トルキャットから頂いた問題集からランダムで問題を送信しましょうか?」
ホシモリは頼むといって義眼に送られた問題を解き始める。
そして一時間ほど勉強し問題を解いているとシルバがホシモリ達の所へとやってきた。
「ホシモリさん。今日は時間がありますので実戦形式で魔法の勉強をしてみますか?」
「おっ!やるやる」
「私が見える範囲でやって頂けるとデータが取れるのでお願いします。あと相棒今の点数ですが65点になりますのでもう少し頑張れば合格ラインです」
「上がってきたが……なかなか難しいな。普通の計算は何とかなるが魔力が各パーツに与える影響の計算が結構難しい……まぁまだ時間あるからいけるとは思うが……」
「よほどの時は教会にいって神に祈りましょう」
ホシモリがやっている辺りの勉強内容を聞いてもうそこまで理解できているのにシルバは驚きホシモリの準備ができるのを待った。
そして準備ができたのでホシモリは倉庫の前で向かい合った。
「ホシモリさん。少し復習になりますが前に教えた魔法属性について覚えていますか?」
「おう。火・水・風・土・光・闇・大地・海・空の九つが基本の魔法で別口で時魔法・空間魔法・精霊魔法・召喚魔法があるんだよな?」
「はい。正解です。あとホシモリさんも知っている様に魔術や魔法銃といった物も存在しますが基本的な対処法は同じなので追々勉強して行くと良いでしょう。
「火とか水とかかっこよく出したかったけど俺には無理っぽいしな」
そう言った様にその体では上手く魔力を練る事ができない様で火をおこしたり水を出したりという簡単な事もできないでいた。
ただ体の構造に関してはこの星の医者よりも遙かに詳しかったので短い時間の身体強化魔法や骨までは達しないぐらいの切り傷を治す回復魔法だけは使う事が可能だった。
「相棒の場合はそもそも戦闘能力が高いので回復魔法はともかく魔法の類いは使えなくても問題ありません。魔法銃もありますから」
「魔法銃は対人用の癖に防御魔法で封じられる意味分からん使用だからな」
「ホシモリさん。アースドラゴンが強いだけで他の魔獣になら通用しますし……魔法銃をあまり人に向けて撃たないでくださいね」
「はやく家ができたら魔法銃とか改良したいなー。直せる所とか多いし」
そんな話と準備運動が終わるとホシモリとシルバはお互いに何も持たずに無手で構える。
「ではまずは私自身を身体強化魔法で強化しますので人がどれだけ動ける様になるかを感じて下さい。その後に私が使える魔法を使い戦闘の幅を広げます」
「よし。相手はランバルト大尉の孫みたいな弟子か。ホシモリのおいちゃんがその実力見てやろうじゃないか」
「鬼のホシモリと恐れられた方でしたね……ご指導ご鞭撻のほどお願いします」
「相棒、悪いが適当なタイミングで始め!って言ってくれるか?」
「了解しました。始め!」
ホシモリがイクシオーネの適当な合図に文句を言おうとしたがシルバは自身に身体強化魔法をかけある程度の距離があったが一瞬でホシモリの後ろに周り込んでいた。
一瞬で後ろに周り込まれホシモリも油断しシルバは勝利を確信する。
だが頭が全てを認識する頃には大地に寝っ転がり空とホシモリの顔を見上げる形になり理解が追い着いていない様だった。
「投げ飛ばしてから聞いても遅いが……執事服なのに汚して大丈夫だったか?」
その言葉で自身がようやく投げ飛ばされて地面に寝そべり大空を見上げていると分かったシルバは何とか大丈夫ですよと声を出しホシモリに腕を引っ張られて起き上がる。
自身が投げられた事が理解出来なかったシルバはホシモリの戦闘能力の高さに恐怖を覚え提案を変えた。
「……ホシモリさん。私は全力でいかないとホシモリさんの勉強にならない様なので簡単な魔法を使っての実技でも大丈夫ですか?」
「おう。今のである程度のシルバさんの動きは分かったからな。どんどん来てくれて大丈夫だぞ。今みたいに胴体の一部が地面に着いたら仕切り直しでいいか?」
「はい。お願いします。ではいきます!」
その後シモンは土の魔法をメインに使用し補助で火や風の魔法で攻めるが魔法に関してド素人だが戦闘に関してはエキスパートのホシモリにはほとんどといって良いほど通用せずに何度も何度も空を見上げる形になった。
ただシモンが威力を抑えていたのもありくらえば足の骨くらいは簡単に折れる土の魔法で足を取られる事はホシモリにも何度あったので圧勝という事も無くホシモリにしてもシモンにしても一戦一戦が勉強になる戦いだった。
そして数え切れないほどシモンが投げ飛ばされ初老の体に相当鞭を打ったので立ち上がれなくなった事で魔法の勉強は終了した。
流れる雲を見ながら肩で大きく息をするシルバにホシモリは最近覚え自身で勝手に改良した回復魔法を唱える。
「ファテ・ヒーリング」
その魔法は怪我や病気を治す程の治癒力は無いが体に溜まった疲労物質を取り除いたり呼吸を楽にする効果がある魔法だったのでかけられたシモンは投げられたダメージは抜けなかったが呼吸等がかなり楽になったのでまたホシモリに差し出された手を握り立ち上がった。
「シルバさん。ありがとう。本当に勉強になった」
「そう言って頂けるとありがたいですが……私程度ではまともに相手にならなかった様で……」
「あの足を取られた魔法もまともにくらえば骨ぐらい折れるだろ?シモンさんも加減してくれてるし勉強なんだからこんなもんだろ」
「ありがとうございます。では魔法に関してホシモリさんはどう捉えましたか?」
「ああ。凶器以外なんでもないな。刃物や銃と一緒だな……魔法にもよるが見てから躱すのは不可能な所は銃に近いし……威力も調整出来るが人に向ければ刃物みたいに簡単に殺せると思う」
「人々は魔法になれてしまっているのでそういう感想は本当に出にくいですが……魔法は便利な反面、本当に凶器です」
「銃よりもホーミングするしな。大気から魔素を取り込んでいるから対策としては肺とか潰すのが速いのか?」
「はい。執事の私がこの様な事を言うのはおかしいですが……頭や心の臓を潰すのが確実です。喉や肺を潰した所で魔力は体内にある程度は溜まっていますし……高位の魔法使いになると詠唱しなくても魔法は使えますので潰した肺や喉は再生します。ですが心臓は再生する前に命が止まりますし脳は潰れれば再生しませんので」
「心臓とか脳って高位の魔法でも回復しないのか?死者も生き返るとか聞いたが……」
「死者が生き返るのにも魂が入る体が必要になりますからね。順番的には先に魂が入り体を再生させて死者は生き返りますので……極端な話燃やし尽くせば生き返りません。と言うよりも戦闘で綺麗に体が残る事は少ないので生き返るとは思わない方がいいですね」
「なるほどな……高位の魔法やポーションでほとんどの怪我は治るって教えてもらったがその時も生きていないと治らないって言ってたからそういうもんか」
「はい。ですから生きる事が一番大事ですね。生きてさえいればどうとでもなる事は多いですから」
「どこの戦場でも同じか……魔法の危険性は分かってきたから……こっちに向かって詠唱とかされたら刃物とか銃を向けられた時みたいに処理するか」
「私はそこではい。とは言えませんのでもう少し魔法の種類を覚えてからで良いと思います。頭に水をかける程度の魔法もありますからそれで命を奪われた方は流石に可哀想なのです……ですが魔法を人に向けては駄目なので難しい所ではあります」
「なるほど……シルバさんもかなり戦える口だから若い時とかなら魔法を向けられて腕ぐらい切り落としてそうだな」
それが図星だったのかは分からないが少し言葉に詰まった後に目を泳がせながらそんな事は無いですよ?とシルバ言った。
そしてそろそろ学校に通っているベルナの下校時間になったのでイクシオーネがホシモリに時間ですと教えた。
「よし。お嬢様を迎えにいくか。シルバさん今日はありがとう。今度は魔法が何処まで追いかけて来るとか知りたいからまた頼む」
「分かりました。使用人の中には戦える者も多いので訓練……いえ、ホシモリさんが様々な魔法を見る為にも沢山連れてきます」
頼んだーと言って手を振り魔導車が置いてある倉庫まで走っていくホシモリを見ながらシルバがイクシオーネに話しかける。
「もう少し善戦できるかと思いましたが……全く刃が立ちませんでした」
「いいえ。相棒を相手にあれだけ戦えたならシルバ・トルキャットの単体での戦闘能力の高さはランバルト大尉を越えています」
「そうでしょうか?ランバルト様の戦いを見た事はありますが……私ではまだまだと思いますが……」
「身体的な能力ならランバルト大尉の方が上ですが魔法を込めた総合的な能力なら貴方の方が上です。ただ魔法に相棒が慣れてくると投げ飛ばされる数は増えるとは思います」
「魔法に慣れていない状態で今ほどの強さですか……ランバルト様に聞いていたホシモリさんが可愛く見えますよ」
「体一つで無人のプラネットを相棒は倒します。連合国軍のマザーコンピューターが出したツグヒト・ホシモリの戦闘能力は私と互角ですからね」
「一人で大型のレムザスを倒す人間は確かに存在しますが……オヤツがてらにドッグフードをを食べる人がそこまで強いとは誰も思いもしませんね……」
「はい。ですからベルナ・トルキャットの護衛は安全です」
執事と相棒がそんな話をしている内にホシモリは魔導車が止めてある車庫へとたどり着く。その車庫の前には年老いてもう猟はしないが昔はシモンやシルバと猟によくいった猟犬のベスと言う犬がいる。
どういう訳かそのベスはホシモリにとても良く懐いておりホシモリがくると尻尾を振って立ち上がる。
「ベス。元気か?」
「わう!」
「元気そうだな。そうそうこの前言ってたキリンゾウガメの干し肉残ってたから食うか?」
「わう!わう!」
そう言って皿を小屋の中から持ってくるとその干し肉と交換と言わんばかりにドッグフードを差し出した。
悪食のホシモリは「お前も飼い主に似て美味い物食ってるよな」と言ってからそのドッグフードをオヤツがてらに全部食べ変わりに皿の中に欲しく肉を入れた。
「ちぎった方がいいか?ベスは老兵なんだろ?」
「わう!わう!」
「これは失礼しました上官殿。私はベルナお嬢様のお迎えに行きますので食事をお楽しみにください!」
会話になっているのかなっていないのかは誰にも分からなかったがホシモリはそう言ってベスに敬礼し魔導車に乗り込みベルナを迎えに学校へと向かった。
魔導車自体が自動運転なのだがもしもの時の為に人が運転もできる様になっていたのでホシモリがハンドルと握り街中を走る。
街のなかはホシモリと同じ様に魔導車が走っていたり馬車や鳥車や竜が荷車を引く竜車などが走っているが馬車や鳥車以外は高級品なので道路が混雑していると言う事は無かった。
トルキャット商会と学校の丁度あいだぐらいにホシモリが家を建てる場所がありそこには中型や小型のレムザスが資材を運び込み家を建てる準備をしていた。
その光景を見ながら運転していると運河で助けた商人もそこに来ていた様でホシモリに気がつき頭を下げたのでホシモリも手を振って挨拶をする。
そしてようやく学校にたどり着き駐車場に車を止めて正門の方へと向かい近くでベルナが出てくるのを待った。
護衛が生徒を迎えにくる事はとても多いようですれ違う生徒達に始めは驚かれていたが、今では生徒達もホシモリになれた様で挨拶もしてくる者もいた。