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イクシオーネから入った通信は基本的にはホシモリ以外には通じないのでその事をシモンに伝え指示を仰ぐ。
「どんな魔獣までかは知らないが船底に何かデカいのが張り付いてるらしい。シモンさんどうする」
「わっわかりました。船長達もこの霧で何も見えないはずなので今の話を伝えます。少々お待ちください」
慌てながらシモンは壁に掛けてあった受話器をとり魔力を流すと何処かに繋がった様で誰かと話し始めた。
話が終わるまで待っていようと思いそこにいるとベルナの近くにいたシルバが少し難しい顔して腕を組み考えていたので何かを知っている様だったので話しかける。
「シルバさんが知ってる魔物か?」
「見た事はありませんが……普段はこの辺りの砂漠深くに住み数十年という周期で出てくるダイオウガイと巨大な二枚貝の魔獣がいるんですが……」
「それか?」
「いえ……大きいと言っても大型のレムザスぐらいの大きさなので船を止める程の力は無いはずですので……別の魔獣を考えていましたが海ならともかく……いくら危険地帯とはいえ、そんな魔獣がいたのかと思いまして……でもそのダイオウガイと魔獣は獲物を霧の中に閉じ込めると聞きましたので……」
「魔獣に関しては間違いないから少し待ちか……相棒。どうだ?」
『はい。今の話は聞こえていましたが船底にいる魔獣は貝に酷似しています。そこから触手の様な物を船体に突き刺し体を固定し引きずり込んだレムザスを溶かし捕食しています』
「レムザスって食えるのか……」
『仮説ですが精霊達と同じ様に魔力を捕食しているのだと思われます。溶かされているレムザスから魔獣へ魔力の流れが確認できました』
「……シルバさん。少し聞きたいが魔導船って言うぐらいだからこの船って魔力で動いてるよな?」
「はい。そうですけど……どうしましたか?」
「シルバさんの正解!シモンさん通話中に悪いしこれだけデカい声なら船長さんにも聞こえるだろ!船底にかなり大きい貝の魔獣が張り付いてる!そいつが原因だ!」
ホシモリの大きな声にシモンは驚き受話器を落としそうになったが、その大声のおかげで船長にまですぐに伝わり警報が鳴り響きアナウンスが船内に流れる。
「現在船底に大型の魔物が張り付いており船の進路を塞いでいます。機雷を放ち撃退を試みますが無理な場合は商人の皆様のレムザスで撃退にご協力ください。繰り返します……」
アナウンスが終わると同時に大きな閃光と供に巨大な水柱が上がったが倒せていない様でまだ船は動く気配は無かった。
「けっこうな威力だが……まともに当てたら船が沈むか」
「はい。倒すと言うよりは音と閃光で船から離すのが目的の機雷なので貝のような殻がある魔獣には効き目が薄いと思われます」
「流石に船が沈んだら話にならないからデッキ行ってちょっと手伝って来ようと思うが……シルバさん任せて大丈夫?」
「私は大丈夫ですが……レムザスと大型の魔獣の戦闘にホシモリさんが巻き込まれませんか?」
「その辺は慣れてるから大丈夫。霧も出てるしなイクシオーネの兵装使ってやれるだけやって来る」
お願いしますとシモンは申し訳なさそうに頭を下げるがイクシオーネに取り付けたハリボテはある程度は耐えられるが熱に弱いので気をつけてください。と忠告する。
そしてベルナもホシモリの事を心配したので大丈夫といって親指を立ててからデッキへと向かった
フードを被り戦闘体勢に入ると柔らかかったフードは鋼鉄よりも硬くなりホシモリを覆った。
通路かけ手すりに足をかけ甲板まで飛ぶ様に移動すると霧に覆われ視覚だけの情報は遮られていたのですぐに他の温度感知や大気感知といった物に切り替える。
甲板の上はホシモリが想像していた以上に激しい戦闘に発展しており手を無くしたレムザスや大破したレムザスが転がっていた。
動いているレムザスは魔法銃を構え襲ってくる触手に向いて発砲し抵抗している。
肝心のホシモリの相棒を探すと一緒に運ばれてきたレムザスを援護し触手が足に巻き付けばマチェットで切断し助けていた。
『どうだ相棒?』
『脅威になる攻撃は今の所ありませんが……こちらの攻撃では攻め手にかけます』
『船底だしな……下手をすれば船が沈むってやつか』
『相棒が一か八かにこだわるのであればショルダーランチャーをぶっ放してみますが……オススメできません』
悠長にはなしていると触手がホシモリめがけて襲ってきたがその触手が届く前にイクシオーネが簡単に切断する。
するとダメージは入っている様で少し暴れた後に短くなった触手がイクシオーネに向かって襲いかかったので次はホシモリがヒートナイフで切断し表面を焼いた。
『潜った方が速いか?応急処置は終わったから機密性はいけるとおもうがどうだ?』
『宇宙空間は無理ですが液体なら問題ありません。ただこの運河にどのような生物がいるのかが分からないので水中戦は避けた方が良いでしょう』
どうやって船底に魔獣を倒すか考えていると中破したレムザスの下敷きになり男が助けてくれと叫んでいた。
見捨てる必要も無いのと助けられる余裕があったのでイクシオーネにその場を任せてホシモリはその男の元へ向かった。
「大丈夫か?トルキャット商会に雇われた傭兵だ」
「あっありがとうございます!挟まれて動けません……すみませんがレムザスを連れて来てこれをどかして頂けますか?」
相棒を呼びに行ってる間に目の前の男が死んでも目覚めは悪いのとレムザスは自分が想像しているよりも軽いと知っていたのでホシモリがその男の近くに手をかけて気合いを入れると甲板が少しめくれる様な変な音がした後に隙間ができる。
「おい。まだ何処か引っかかっているのか?」
まさか目の前の男がレムザスを持ち上げられるとは思っていなかったのでその男はとても戸惑ったがホシモリの問いかけに我に返り素早く挟まれていた所から体を引き抜いた。
「怪我はないか?」
「はっはい……ありがとうございますが……人間の方ですよね?」
「あのな……どこからどう見ても人間だろ」
「私が知ってる人間はレムザスを持ち上げるとか聞いた事が無いので……それはそうと助かりました。私は建築系のレムザスを販売している……」
「自己紹介は後だ。あんたもさっさと船内に避難しててくれ」
その男の自己紹介を遮り船内に避難させようとした所でホシモリはふと思いつき、船内の方を向いた男の首根っこを掴む。
「ぐえっ」
「すまんすまん。建築様のレムザスって言ってたが……あのクレーンがついたレムザスはあんたの商会のか?」
霧でほとんど見えていなかったがデッキに上げられた時にベルナと話していた時の事を思い出し質問する。
「はっはい。あれは我が商会の新型で橋などを架ける時に使う大型のレムザスです」
「よし。このまま魔導船が船底にいる貝の餌になりたく無かったら協力してくれないか?」
「はい?」
いきなり話を振られた男がポカンとしているとまたホシモリ達に向かって触手が襲いかかって来たのでその男を守りなが触手を切り伏せる。
その光景を見た男は本能でホシモリに逆らったら死ぬと判断したようでお手伝いしますと何度も頭を下げた。
意味は分からなかったが男が協力的な事にホシモリも頷き相棒に連絡をする。
「そういう訳だ相棒。釣るか潜るだとどっちがいい」
『私はゴリラではありませんのでいきなり話を振られても困りますが……安全に行くならクレーンで水中に投下後に電磁スモークとショルダーランチャーを使用するのが最良かと』
「お前な……」
『釣るという案は魔導船の保有魔力のほうが大破したレムザスより遙かに上なので船体から魔獣を引き離すのは少し難しいと思います。ただそちらの案の方が引き離した後はイオンレーザーカノンやショルダーランチャーなど様々な兵装が使えるメリットがあります』
「だとしても倒立都市に行くまではまだまだかかるし……ハリボテの替えは無いから潜る方がいいか……」
はい。と返事が聞こえる頃のにはホシモリの近くまでイクシオーネは接近していたので、先程の商人に頼み、クレーンがついたレムザスの所まで移動する。
そしてその商人がクレーンのついたレムザスに話しかけるとレムザスは起動し立ち上がった。
イクシオーネのスキャンで船尾のスクリューの近くにへばり付いているのは分かっていたのでその商人と共に危険な船尾へと移動する。
船尾に近づくと雇われた傭兵やレムザス達が触手と戦っており傭兵達が少し押していたのでホシモリ達が動ける余力はあった。
「それで……商人さん。このレムザスはどの程度の重さまで引き上げられる?」
「私達の商会の全ての技術をつぎ込んで作った最高傑作なので足場さえしっかりしていればこの船でも引くことは可能です。流石に吊り上げるのは不可能ですが……」
「……まじか?」
「はい。詳しくは言えませんがフック部分やワイヤーといった物にかなり強力な魔道具を使用していますので」
『全部が全部信用できるわけでも無いが船底まで行かないと話にならないから吊っていいか?』
『はい。問題ありません。もしもの時は浸水しない程度に穴をあけ侵入しますので』
イクシオーネに了解を得てそのボディにフックを巻き付ける。
大型で建築タイプのレムザスと言う事をありイクシオーネの体は楽々と宙に吊られ降ろされていく。
その道中でも触手による攻撃があったがイクシオーネは簡単にそれを切り捨てる。
「中型のレムザスと侮っていましたが……とてもなめらかに動きますね。流石はトルキャット商会の新型ですね」
「……俺は傭兵だから分からないが。違いって分かる物か?」
「一般人の様にレムザスに興味が無いならそういう物だと思うので気にはならないと思いますが私の様にレムザスを扱っている商人なら違いは一発でわかりますね」
油断できる場所がないなとホシモリが考えていると今度はホシモリ達に向かって触手が攻撃を仕掛けてきたので、商人とレムザスを守る様に動き簡単に触手を切断する。
「……トルキャット商会は傭兵も一流な様で」
「腕が立つだけで総合的にみれば二流だぞ。あんたとそのレムザスは俺が守るから指示するまでここで待機しててくれ」
「わっ分かりました」
そしてイクシオーネが水の中に入り船底が見える位置でクレーンを止めモノアイカメラのライトを最大にすると大きな二枚貝が噛みつく様に船底にへばりついていた。
その映像はホシモリの義眼に送られたのでその大きさに流石のホシモリも少し驚く。
『でっかいな』
『貝だけにでっかいですね』
『あのな……まぁいいか。それだけ船にへばりついているとショルダーランチャーもイオンレーザーカノンも使えないな……』
『はい。船が沈みます。乗員の生死を気にしないのであれば問題ありませんがオススメはしません』
『気にするから相棒が言った様に電磁スモークグレネード打ち込んで離れたらショルダーランチャー打ち込むがいいな』
『それが良いと思われます。ちょうど私を捕食しようと触手を伸ばしてきたのでそのまま接近し口に電磁スモークグレネードを投下します』
ホシモリが了解と言ったタイミングでイクシオーネの体にいくつもの触手が巻き付きクレーンごと引き寄せる。
商人が慌てて巻き取ろうとするがホシモリはそれをやめさせフリーにする。
そして一定のとことまでイクシオーネを引き寄せると貝の口であろう部分が触手と同じ様に伸びてイクシオーネを飲み込もうと一気に広がった。
「レムザスの装甲を溶かし魔力を食べる生体は面白いですがここで排除します」
人間でいう太もも辺りからガコンと小さな砲身が現れそこから貝の口に向かってってドン!ドン!と二発ほどグレネードが打ち込まれる。
水の抵抗はあったが貝の口自体も吸い込む様にイクシオーネを捕食しようとしていたので撃たれたグレネードは体内へと吸い込まれていった。
そしてそれの位置をレーダーで確認し体内の奥深くまで入ったのを確認してからイクシオーネはそれを爆発させる。
トン!トン!ととても小さな音が二回ほど響いた後に貝の体内で煙が充満し始めた次の瞬間には凄まじい電撃が発生し巨大な貝を感電させる。
その電気は人間なら余裕で感電死させるほどの威力があったがその巨大な貝を倒すまでは行かなかった様だった。
「水の中とはいえまともに食らっている筈なのに……凄い生物ですね」
スモークグレネードの発電が終わり巨大な貝もかなりのダメージを受けた様で全ての触手を砂底から外した。
するとその巨大な貝はゆっくりと船からハズレ逃走を謀ろうとしたのでイクシオーネホシモリに連絡を入れる。
『相棒。船底に張り付いていた貝が外れ逃走を図っています。ショルダーランチャーによる討伐許可をお願いします』
『逃がして他の船が襲われたらやばいな……こっちは特に問題無いから使ってくれ』
了解しましたと言った後に船底に体を固定してからロックオンをする。
そして肩の部分から折りたたまれた小さな砲身が現れた後にすぐにミサイルは発射され殻の部分をうちわ様に仰ぎ逃げる貝に直撃する。
ミサイル自体は小さな物だったがホシモリ達がいた軍の中でも威力が高い方だったので爆発と供に凄まじい水柱があがり船を転倒寸前まで傾けさせた。
ただそれでも貝の殻は割れず身はほとんど吹き飛んだが生きていたのでイクシオーネを驚かせる。
「あの殻がどんな素材でできているかとても気になります」
そして止めを差す為に2発目を発射しようとするが貝もそれが分かり逃げられないと悟ったのか向きを変え触手を伸ばしイクシオーネに襲いかかった。
「ありがとうございます。貴方の殻の強度はとても興味深いので丁寧に調べさせて頂きます」