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他の警備隊の人達と一緒にいたリセムはガーランドの時とは違いリーダーであろう男性に頼み少し時間をもらいホシモリの近くにやってくる。
「ホシモリさんお久しぶりです。ベルナから聞きましたが落差の山脈に行っていた様でしたが大丈夫でしたか?」
「おう。無事だな。と言うか仕事の邪魔して悪い」
「いえ。平和な国なので問題ありませんよ」
平和な国と言う所に関してだけは本気で否定しなければいけない様な気はしたが、ここに住んでいるリセム達がそういうならそうなんだろうと色々と諦めた。
仕事中に長い間引き留めるのも悪いのでホシモリはポケットの中からブローチを取りだしリセムに見せる。
「そっ!そのブローチは……」
「人攫いの洞窟に寄った時に見つけた。ベルナちゃんにたぶんあんたのだろうって言ってたからな。会えて良かった」
頭を下げるリセムにそのブローチを渡し少し話を聞くと形見の様な物で探してはいたが、もうほとんどは諦めていたと言う事だった。
「ありがとうホシモリさん。いつか必ずこの恩は返します」
「おう。飯奢ってくれるぐらいでいいぞ。って言ってももうすぐトルキャット商会の護衛で王立都市とか魔導工業都市に行くからチャンスが有るか無いは知らん」
「でしたら大丈夫ですね。私もあの貴族を王立都市に護送する任務がありますので機会はあるかと」
「なるほどな。じゃあタイミングあが合ったら王立都市を案内して」
「分かりました。その時は任せておいてください」
なくなったブローチが戻ってきたのであきらかに機嫌がよくなったリセムが仲間達の所に戻るのを見届けてからホシモリもトルキャット商会の屋敷に戻りそのまま朝まで気持ち良く寝た。
そして起きて朝食を済ませイクシオーネが待機する倉庫へ向かうと、シモンとベルナがいてイクシオーネと話をしていた。
ホシモリとイクシオーネが落差の山脈い行っている間に、イクシオーネをレムザスに見せるハリボテの外装が仕上がっていたので全てのパーツが運び込まれていた。
「これを装備すれば大きな顔をして歩けるな」
「はい。イクシオーネさんは他の中型レムザスと作りが違い過ぎますから分かる人が見れば別物と分かりますからね。これを装着すれば遠目から見る分には中型のレムザスに見えます」
「お父様……それだと近くは分かるのでは?」
「見慣れてるレムザスを近くで真剣に見る人はそんなにいないから大丈夫です。せいぜい私かシルバぐらいのものですよ」
「相棒に設計図書いて貰ったとはいえ……この短期間で仕上げて来るんだからシモンさんもシルバさんも凄いよな」
「正直、レムザスをいじっている方が楽しいので息子か娘にトルキャット商会を任せて工房でも開きたいんですけどね……従業員も多いので難しいですけど」
「シモン・トルキャット。貴方は立派です。では外装を装着していきます」
そう言ってイクシオーネは自分のボディにシモンが作ったパーツをパチッパチッとはめ込んでいく。
その作られたハリボテの精度は本当に高く狂いが無いままイクシオーネのボディにフィットして行く。
「そのハリボテをつけてる時は乗り込まない方がいいよな?レムザスはサイズ問わずに人が乗る機構はないんだろ?」
「乗れる様には作れる事は作れますがレムザスの中は魔力の流れがとても複雑なので……乗ると人が狂うので搭乗する機構は乗せないのが原則ですね。研究は今もされてはいますが……」
「まぁ乗らなくても複雑な命令とか理解できるならいらないか。魔導車とか魔導船は乗れるのにな?」
「車や船は極端な話ですが道を覚えさせてその上を走るだけですからね。今の状態のイクシオーネさんにも搭乗する事は可能なのでホシモリさん乗ってもらえますか?」
「了解っと。相棒たのむ」
そう言うとイクシオーネは腕を差し出し背後の搭乗ハッチを開放する。その辺りのパーツが何処かに干渉していないかを確かめたが何処にも当たっておらずシモンの技術力の高さにまたホシモリは驚かされた。
そしてイクシオーネに乗り込みハッチを閉じて全てのカメラやセンサーといった認識する物をチェックしていく。
「視覚に関してはほとんど問題無いな。他のセンサーはどうだ?」
「はい。構造どうしても無理な場所があり大気ソナーの性能と集音装置の性能が一割ほど落ちています」
「了解。兵装は?」
「イオン系兵装以外は問題ありません。ハンドイオン砲やイオンレーザーカノンを使用すると熱でハリボテが溶けます」
「命の危険があるような非常時はバレても問題ないから、乗ってもイオン砲もぶっ放しても問題無いな」
「はい。少人数なら殺害し証拠隠滅を謀りましょう」
「物騒だな。おい!」
「冗談です」
もしもの時はホシモリの方がそういう事をやるタイプなので冗談といえば冗談だが冗談で無いといえばまったく冗談では無かった。
イクシオーネ内部の危機をチェックし外に出るとベルナが大丈夫でしたか?と少し心配そうにしていたので、あんたのとーちゃんは凄いなと褒めると嬉しそうにしていた。
そして次はイクシオーネの兵装で最も使用するクローク機能の実験を始める。
「よし。相棒クローク機能をを発動させてくれ」
「了解しました。発動させます」
するとイクシオーネの上にハリボテの外装がついてはいたがそのハリボテを含めてそこにあったイクシオーネの巨体が何もない様に消える。
「消えたりするレムザスや魔法も確かに存在しますが……別のパーツがついたそれまで消えるのは訳が分かりませんね……」
「シモンさん……今更過ぎないか?それだと借りたコンテナだけ街中を浮いてトルキャット商会に戻ってきたと言う事になるぞ」
宙に浮かぶコンテナを想像にそれもそうですねと色々と諦めた様にシモンは頷いた。
それからホシモリはイクシオーネがいた辺りを回り始め様々な方向から見たがイクシオーネの体は巧妙に隠され発見できなった。
恐る恐るベルナがイクシオーネがいた辺りに手を入れて触ると姿は見えないが硬い物を触る感触があった様だった。
「不思議な感覚ですね……完全に見えないのにここに有りますし」
不思議そうにだが興味津々にイクシオーネを触るベルナにホシモリは悪戯心が沸き何かをしようと考えていると……イクシオーネからサイレンの様な警報が鳴り響いた。
その警告音の様な物に自分が何かしたのか? とベルナが慌て始めたのでそれを見て満足したイクシオーネが言った。
「警報の試験運用です。気にしないでください」
「イクシオーネさん!急に鳴らされるとビックリしますよ!」
その光景をホシモリとシモンは笑いながら眺めている。
「あの隠れる機能はどういう物なのですか?」
「詳しい事までは言えないが……空間事隠れる様にする装置だな。だから何かが付着してもその機能を壊すまでは見えないままの装置だな」
「……ホシモリさんがいた世界の技術は凄まじいですね……イクシオーネさんも話していて思いますが人と変わりありませんし」
「相棒は俺より人だからな。俺と相棒はこの世界の魔法に驚かされまくりだけどな……スピリットイーターの羽とかウィッカーマンとか……気を抜けば俺も相棒も死ぬ物は本当に多い」
「ウィッカーマンを知っていますか……ホシモリさんは本当に勉強熱心ですね。皆、気軽に魔法を使っていますが本当に危険な物が多いですからね」
「だよな。俺も本当にそう思う」
イクシオーネの換装も終わったのでシモン達は王都へ向けて出発する準備をする。と言ってもホシモリ達がワープポッドの残骸を集めに行っている間にほとんどが終わっていたので、後は馬車に乗り込むぐらいだった。
「俺の方は特に何も無いが……シモンさんもベルナちゃんも何か普通だな」
「十日ぐらいは船の上になりますし。大型の魔導船なのでいる物があれば買えますからね。しかもトルキャット商会は王立都市フライスに本宅がありますからね」
「なるほどなー」
「今回の休暇で開発した物は先におくってありますから……イクシオーネさんを隠す様に中型レムザスを二台ほど連れて帰れば良いでしょう」
「何から何まで申し訳ない……」
「大丈夫ですよ。アースドラゴンの素材でこちらは儲けがかなり出せますからね。そういう訳で気にせずお乗りください」
とシモンが言うとタイミング合わせた様に中型のレムザスより少し小さな馬が二頭とそれを引くかなり大きな荷馬車がやって来た。馬車の後ろにはレムザスを積載できるキャリアカーの様な物が引っ張られる様になっており。シモンが中型のレムザスに指示を出すとそれに乗り込み自身をウィンチで固定した。
「馬でレムザスを車輪はついてるがレムザスを馬が引っ張れるんだな……魔法か?」
「正確には魔道具ですね。私達が乗る馬車やレムザスを積載する車には重力軽減の魔法がかかっていますから想像以上に軽いですよ。馬の疲れを取ったり筋力を増強させる物もあるので馬もかなり楽ですね」
「そういや……ベルナちゃんを助けた時に乗った鳥車のなんか色々ついてたな」
興味深く大きな馬を見ているとイクシオーネもキャリアカーに乗り込んだのでホシモリの馬に頼んだぞと声をかけて馬車に乗り込んだ。
乗り込んだ馬車の中はとても驚く程広く、他の部屋もあり寝られる様にベッドなども備え付けてあった。
その光景に驚いているとシモンはさぁどうぞと行って立派なソファーに座りベルナも続いて座ったのでホシモリも少し畏まり座る。
するとシルバが飲み物を用意し始めたのでホシモリが窓から外を見ると馬車はすでに動き始めていた。
「……ビックリするほど振動が無いな」
「トルキャット商会は魔導車や馬車の荷台なども作っていますからね。そんじょそこらの荷馬車にはまけませんよ」
紅茶を飲みながらドヤ顔をしてるシモンが面白かったが本当に凄い馬車なのは確かなのでホシモリは素直にその事を褒める。
『相棒の方はどうだ? 揺れるか?』
『いいえ。全くと言っていいほど揺れません。外にいるので風の抵抗で揺れますが地面からの震動はありません。凄い技術です』
『色んな事に応用が効いてそうだな』
『王立都市や魔導工業都市に行くのが楽しみです』
上機嫌なシモンにイクシオーネがそう言っていたと伝えると更に機嫌がよくなりシモンの鼻が伸びるならきっと伸びてるなとホシモリがベルナに耳打ちするとそうですねと苦笑いをしていた。
「馬車とか鳥車みたいに手綱を握る人はいないのか?別の部屋にいるとか?」
「いえ城塞都市から船着場までは道が整備されていますしほとんど一本道なので自動ですね。
この馬……キャリーホースと言いますが頭が非常に良いですので、よほどの事が無い限りはこの速度維持してもらえます。あと魔道具で速度などを調整したりできるので単純な道だと手綱を握る人は必要無かったりします」
「ほんとに魔法技術って凄いものだな」
ホシモリが馬車の作り感心しながら色々と調べているのを見てベルナが不思議そうにイクシオーネさんやホシモリさんのナイフの方が遙かにすごいのでは? と言った。
「ん?相棒は凄いが俺の装備は特注でも何でもないからな。普通に至急すればもらえるぞ。ベルナちゃんはあれだトルキャット商会の令嬢でそれが普通だから周りが凄く見えるだけだぞ」
「そっそうでしょうか?」
「そうです。と言うか……俺の兵装って銃とナイフぐらいなのにこの国の武具と違うってよくわかったよな?」
「はい。構造に詳しい訳ではありませんが……小さい頃から父や兄がレムザスを整備するのをよく見ていたので似ていても違う物なら見分けがつきます。ホシモリさんの服も離れていてもイクシオーネさんと会話ができる様ですし」
その言葉を聞いてホシモリは感心した様に言葉だした。
「息子さんの方は会ってないから何とも言えないが……トルキャット商会の未来は安泰だな」
そう言ってシモンの方を見ると先ほどまで元気だったのに急に元気がなくなり話し始める。
「息子も優秀ですし娘も優秀なのでホシモリさんの言う通りなんですが……二人とも優秀なのでそれに見合った結婚相手がいるかどうかなんですよね……息子はともかく。ベルナにはホシモリさんに勝てるぐらいの人と結婚と欲しいですし」
「なるほど……魔法無しで俺に勝つなら結構大変だけど魔法ありなら今なら楽だと思うぞ?魔法に関しては素人だから絶対に色々と引っかかるし」
「……ミスリルランクパーティーとハンター長を病院送りにしたホシモリさんが言う台詞ではありませんが……お嬢様のご結婚される相手は旦那様が言う様に強ければ良いのは間違いありませんので私も少しご助力します」
そう言ってシルバが前に言っていた様にホシモリの為に初級の魔法を教える為の本などを持って来たのでそのまま魔法の勉強が始まった。
「あの皆さん……私はまだ学生なので結婚など当分先ですが……それに強さと言っても武力の他に財力なども有ると思うのですが……」
「財力でベルナを欲しがる男が現れたらトルキャット商会より稼げばいいのですよ。それなら別に本人が弱かろうが私は何もいいません。ベルナには兄もいますし私もまだまだ若いですからね。ある程度は生きたいように生きても大丈夫ですよ」
将来だれと結婚するんだろうな? とベルナがふと隣を向くとそこにはホシモリが大きな体を丸くしシルバの抗議を受けていた。
城塞都市と出てから約一日ほど馬車の中ですごし夜のとばりが下りる頃に船着場へと到着した。