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 耳の長い種族の三人は馬車や鳥車とはかなり違うカタツムリにによく似た生物が荷車をひく生物の所まで戻って来ていた。


 ホシモリと別れた後すぐに気絶していた女も目を覚ましたのでフルプレートの者が少女を抱えて森を駆けたのでその場所へはすぐにたどり着く事ができた。


 五台ほど止まっている荷車の中でも一番作りが立派な荷車の手綱を握る者がフルプレートの主に声をかける。


「お帰りなさいませエリセル様。……兵の数が少ない様に思えますが……後からくるんですか?」


「……全滅だ」


 エリセルと呼ばれた者は国の中でも屈指の実力者で冗談を言うような事は無いと知ってはいたが姫を守る為に選ばれた精鋭達が全滅という事はただの冗談にしか聞こえなかったので手綱を握る男が間抜けな顔をしてもう一度質問する。


「エリセル様が冗談を言うとは思いませんが……冗談ですよね?」


 冗談だったら良かったなと言いながら兜を取ると緑に近い黄色のショートヘアの髪型に周りにいる者達と同じ長い耳をした中性的な顔つきが日の光を浴びた。ただその瞳の片方は眼帯をしており何も写してはおらずもう一つの目は憔悴しきった髪の長い女を捕らえる。


「レゾニア。お前は国に戻り宰相達に今回の事を伝えろ。全て自身が招いた結果だと言う事も忘れずにな」


「……分かりました……エリセル様。どうして仲間の仇を討ってくださらなかったのですか……」


「話を聞いていなかったのか?私は負ける戦いは嫌いだからな。私が死んだ後は姫様の守りはどうするんだ?お前程度では姫様を守りながらこの森を抜けるのは不可能だ」


「その時は私の命に替えましても姫様をお守りします」


「お前の命では壁にはならんよ……一つだけ警告しておくが……あの男に復讐を考えているなら姫様や国、それこそ私には迷惑をかけるなよ」


 自分より遙かに強いエリセルにそう言われレゾニアと呼ばれた耳の長い女性はカタツムリが引く車に乗り込み怒った様に扉を強く閉め、手綱を引く物に命令するとカタツムリの様な生き物が想像以上の速度で動き出し森の中へと消えていった。


 その光景を見ながらエリセルは大きなため息をつき姫と呼ばれた少女が乗った車を残し、先ほどのカタツムリの後を追わせた。


 そして自身も車に乗り込むと姫と呼ばれた少女も少し憔悴し涙を流していた。


「私を守る為にいてくれた兵達がいなくなるのはどれだけ経っても慣れませんね……」


「人の死など慣れて良い物ではありません。感覚が麻痺しているなら別ですが死になれた者はもはや人で無い何かです」


「……そうですね。エリセルの意見を聞きたいのですが……あの男性をどう思いますか?」


 自身が守るべき存在の姫にそう問われてエリセルは目を瞑り真剣に考えた後に答える。


「正直に申し上げますと……関わらないのが得策かと。外す様に狙ったとはいえ神槍による投擲を受け無傷。レゾニア達はともかく増援に送った精霊騎士達を問題無く撃破する程の強者です」


「……やはり誰も助かっていませんか」


「はい。後は後ろに控えていたレムザスも見た事が無いタイプでどうやらそれが神槍を受け止めたようです。私が知るレムザスであればそのような事は不可能なので人間側の新型かと思われます」


「それならば……お父様に事情を説明し密偵を送り調べた方がいいのでは?」


「それも考えましたが……レゾニアが国に戻り記憶を見せれば宰相達は私達が動かなくとも勝手に調べ始めるでしょう。ですから姫様は私と供に王立都市に戻り学問を学んでください。今回の事を忘れろとは言いません。ですが国の事は国に任せ姫様は自身が王になった時の為に学んでください」


「……分かりました。エリセルも王立都市に来て頂けるのですか?」


「はい。あの男ほどの手練れがいるなら私が国を離れ姫様の護衛をしても問題ありません。ありがたい事に私がいなくても良いぐらいには国は平和ですからね」


「そうですか……ありがとうございます。最後に一つ聞かせてください先ほどの男性と貴方が戦っていたら勝てていましたか?」


 その質問にエリセルは目を反らさずに伝えた……良くて相打ち。まともにやれば確実に負けると……


「そうですか……ありがとうございます。あなたにそこまで言わせるほどの人物なのですね……生きている事を幸運に思いましょう」


「いいえ……あれは人ではありませんよ。……人になろうとしている何かです。後は戦士した者の装備などを回収しその時に死体から記憶を読みどんな戦いをしていたか調べようと思います。一時間もしないうちに仲間が来ますので」


「分かりました。死者の記憶を読むのは必要な事ですが丁重に弔ってあげてください」


 自国最高クラスの騎士に人では無いと言わせる程の男性の事を考え、困った様に自分に話しかけた時に少しだけ見せた優しさの欠片を思いだしていた。





「これで全員か?」


「はい。戦死した者達はこれで全てになります。放っておけば獣達が食べ漁り土になると思うので弔う必要はないのでは?」


「ん?証拠隠滅もあるが……兵士の死を見るのはほとんどが兵士だからな。死んだら恨みもないから弔ってやるんだよ。余裕があればの話だがな」


「了解しました。ではハンドイオン砲で焼却し弔います」


 ホシモリが頷くとイクシオーネの手の平にエネルギーが集まり光が放たれた。装備を外され胸元に花を一輪だけ添えられた兵士の体が火がつき一瞬で炭へと代わり空へと舞った。


 その光景にホシモリが黙祷を捧げると戦闘が終わった事を察知して精霊達がイクシオーネの元に集まってきて何かを話しているようだった。


「なんかいってるよな?」


「はい。まだ未練のある魂がここに残っているそうです。それを放置すると死霊系の魔物になると言っています」


「……良くわからん存在になると言う事は分かった。解決策は?」


「はい。精霊達が魂を浄化して冥界に導いてくれるとのことです。私も正直わかりませんがお願いしてみました」


 イクシオーネがそう言った後に無数の精霊が集まり一斉に輝きだすと霧の様な物が現れてそれが生前の形を作り出して空へ上るように消えていった。


 そのよくわらない現象に二人は呆気に取られていると精霊達が終わったとイクシオーネに伝えた。


「……今のが魂とかいうのか?」


「結論づけるにはデータが少なすぎます」


 甲冑や弓といった装備も死者には不要と考え外していたのでそれも焼却しようとイクシオーネに頼みハンドイオン砲を放ってもらう。


 全ての物に火がつき跡形も無く消滅した様に見えたが……後から増援として現れた二人が身につけていた物は形を変えずに残っていた。


「イオン砲に耐える金属か……ちょっとまて。でも俺が蹴りを入れた所は凹んでるし、パンチで潰れたからひしゃげてるよな?」


「はい。とても不思議な金属ですね」


 イクシオーネも不思議がりその凹んだ甲冑を手に取り握ると確かに硬かったが形を変える事ができた。ただ手の平にのせたままイオン砲を浴びせても形状が変わる事はなかった。


 どういう事かとホシモリとイクシオーネが考えていると精霊が集まり出しその答えをイクシオーネに伝えた。


 どうやらその金属は精霊鋼と呼ばれる金属でエルフェス族が好んで使う金属との事だった。


 その金属は鋼鉄ほどの硬さだが生命力や魔力を帯びた攻撃でしか傷がつかず、精霊達に力を借りないと加工がままならないと言う物だった。


「……よくわからんな?傷がつくなら加工できるんじゃね?って素人意見では思うんだが」


「今はあまり難しく考えるのは止めましょう。私のナノニウム合金も帝国では製造できませんが帝国の兵器で傷はつきますので」


「……ありがとう。今のでわかった。って事はそんな特殊な物なら鎧や剣のまま持って帰るとまずいな」


「はい。調べられれば足がつく可能性があります。ですので精霊達にお願いするとインゴットの形状にしてくれるそうです」


「売ったりはしないが……相棒の強化やワープ装置を作る時に使えるといいな」


 イクシオーネは頷きモノアイカメラを何度か発光させると残った武具の元に精霊達が集まり光輝く。


 その光が収束するとそこにあった武具達は形を変え余計な皮や宝石を排出し美しいインゴットへと形を変える。


 そのインゴットぐらいなら背中のコンテナにまだ入ったのでそこに収納し残った宝石などを焼却すると精霊達からホシモリに質問があるとの事だった。


「相棒はどう見ても人間なので精霊鋼が傷つくのは分かるのですが、私のパンチで潰れたのは意味が分からないそうです」


「拠点防衛用のプラネットのパンチ力がどんだけあると思ってるんだよ……旧式なら巡洋艦の装甲でも穴が開くぞ」


「私達の世界ではそれは常識ですが精霊達は違う様なので悩んでいます。実際にレムザスの攻撃では精霊鋼に傷はつかないそうです。衝撃は別ですが……」


「と、言ってもな……まぁプラネットはロボットとかそういうじゃ無くて機械生命体って扱いだから精霊鋼も相棒を生物として考えてるのかもな?実際にナノニウム合金があるから生物みたいにゆっくり傷とか再生するしな」


「はい。自我もあり人間でいう脳にあたるコアもありますから作られてはいますが生命体と言っていいと思います」


 その事を精霊達に伝えるととても興味深そうにイクシオーネの周りを飛び回っていた。


 そしてホシモリが精霊使いとかに言うなよ。と冗談半分でいうと何度も発光し分かったという事をイクシオーネに伝えた。


「理解できるんだから凄いな……精霊とは揉めたら駄目だな」


「はい。人より賢く恐ろしい存在です。地球でいう自然の様なと捉え良き隣人である様にしましょう」


 それが良いなとホシモリは頷き精霊達に別れを告げてからイクシオーネに乗り込み城塞都市へと向かって走り始めた。


 だが精霊達も気ままなで暇な様で別れを告げたはずだったが、東の森の様な木々が進路から避けるような現象を発生させホシモリとイクシオーネをサポートする。


 その甲斐もあってかホシモリ達は二時間もしない内に森を抜ける事ができた。


「この自分が理解できない現象はマジで怖いな……」


「はい。ですが連合国軍の中に設置されてるテレポーターもほとんどの人達が仕組みを理解して使っている訳ではないので便利な物程度で良いかと思います。戦いになれば非常に危険ですがそれはどれを取っても同じかと」


「それもそうか……帝国が新兵器作っても性能を教えてくれる訳じゃないもんな」


街道を少し外れた草原をクローク機能を発動させ姿を消したイクシオーネが駆け抜けていく。そして城塞都市の北門が見えた所で街道から人が途切れたのを確認してからホシモリは街道へと出て都市へと向かう。


 無事に北門を抜け街に入った頃には日も暮れてたので、そのままトルキャット商会へと向かおうとしたが……見た目は美女の警備兵に呼び止められる。


「ホシモリ君ではないか。久しぶりだな」


「おーガーランドさんか。久しぶり」


 ガーランドの部下と思われる人物が自分達の隊長に親しげに話すホシモリに少しびびっているとガーランドから先に戻る様に命令され走ってこの場を離れていった。


「それで?何処へ行っていたんだ?数日前に北門から出たと報告があったが?」


 隠しても仕方が無いので山までは行ったとは言わずに森へ言っていたと伝えるとガーランドはホシモリに近づきその匂いを嗅いだ。


「ホシモリ君。街に入る時は気をつけろよ。なかなか匂うぞ?」


 驚きながら自身の体を匂うと確かに色々な匂いが混ざり変な匂いがしたが、その仕草を笑いながらガーランドは答える。


「体臭ではないさ。誰かを殺すと死者の匂いが生者の魔力にこびり付くんだ。15~20人近くか?」


 ホシモリは感心したように頷き隠す様な事もせずにそうだと答えガーランドに文句を言う。


「移動方法までは言えないが……人攫いのアジトまで行ったら生き残りか蛮族に襲われたからな返り討ちにしたんだが……ガーランドさんよ。この国って治安悪いのか?」


 その返答が面白かったのかガーランドは大きく笑いホシモリをげんなりさせる。


「美人なんだからもう少し上品に笑ってくれ……おっさんか」


「人攫いや蛮族がでる国など他国からきた君に比べれば確かに治安は悪く見えるな……貴重な意見だこちらも気をつけさせてもらおう。それでその死体はどうした?」


「顔見知り曰くほっとくとゴーストになるって言うから丁寧に弔った」


「なるほどな……君は面白い人物だが善人か悪人かわからないな」


 そう言われるとホシモリは軽くため息をついてガーランドに意見をする。


「兵士に悪人も善人もないからな。と言うかガーランドさんが一番分かってるだろ?」


 自分が考えもしない答えが返ってきたのでガーランドは目をパチパチを何度も瞬きをした後にまた大きく笑った。


 そして自身が身につけていた鞄のなから小さな小瓶をホシモリに投げて渡した。


「トルキャット商会に戻るならその小瓶の中に入ってる灰を体に振りかけておくといい。それは魔力にこびり付いた匂いを消すアイテムだ。死の匂いはよくない者を呼ぶ事もある。街に入る時のエチケットと思っておくといい」


 そう言って振り返り手を上げて去って行ったのでホシモリはその背中に向かって礼を言ってその灰を頭から振りかけた。


「めっちゃ鼻がムズムズする」


 イクシオーネは門を抜けた後に先にトルキャット商会へ向かっていたので今あった事をホシモリは伝えた。


『分かりました。シモン・トルキャットとシルバ・トルキャットが大トカゲの皮や牙をみて驚いているので速く戻る事をオススメします』


『お前……説明するの面倒だから速く戻れって聞こえるぞ』


『気のせいです』


 ようやく覚えてきた街を少し駆け足でホシモリはトルキャット商会へと向かった。


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