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朝になったはずだが薄暗い森の中ではあまり光が届かず夜と同じ様な明るさだったが体内時計とイクシオーネ目覚ましのおかげで朝だという事が分かり背伸びをしながらホシモリは起きる。
イクシオーネとホシモリはお互いに朝の挨拶をする。辺りを見渡すと数は減ってはいたがまだ精霊達はいるようで一晩中話していたとイクシオーネは言った。
「魔法の事でも話していたのか?」
「はい。それもありますが精霊の生態についての事がメインですね。精霊に近い者で妖精と呼ばれる小さい人型もいるそうです。そして大きさは人間と同じですが魔力が多く精霊や妖精に近いエルフェス族やドワフス族という種族もいるそうです」
「へー。街にも尻尾の生えた奴とかいたし本当に多種多様な人型がいるな……絶対に自分達の種族が史上最高主義の国とかあるだろうな。そういう所に人攫いが攫った人を奴隷として売りにいくんだろうな」
「それが人ですから仕方ありません。量産されたクローン人間でも製造元差別がありますから」
「確かにな……それで?お前の事だからゴリラを見たいんだろいるのか聞いたのか?」
「はい。猿の様な魔獣や獣はいると言っていましたがシモン・トルキャットが言う様な街に行って勉学を学んでいる者は知らないとの事です。ですがこの辺りの猿型の生物は賢いらしいので言葉は話せないそうですがこちらから手を出さない限りは襲ってこないとの事です」
「凄いな……自分達の事を理解して人と住み分けてるんだろ?チャンスがあれば見てみたいな」
「火をおこしたり魔法を使ったりする知恵はあるそうです」
「ほー。トカゲとか焼いて食ってたりするのかな?」
「目の前に一人いますが?」
「お前はどうしても俺をゴリラにしたいらしい」
「気のせいです。さて相棒。朝食の準備は終わっているので食べて森を出ましょう」
文句の一つでも言おうとしたがイクシオーネが言った方向に目を向けると焼けたトカゲ肉だけでは無く様々な山菜と果物が添えてあったので色々と諦めてから礼を言って朝食を楽しんだ。
その最中に山菜や果物はどうしたのかと尋ねるとホシモリが精霊の事を生体ドローンと言っていたので試しに精霊達に頼んで集めてもらったとの事。
「なるほどなー……使えそうか?」
「兵器として使うなら不安要素は多いので気の合う隣人程度の関係が無難です。例えは少し違いますがライターの様な物だと考えればいいです」
「と言うと?」
「はい。ライターは小さいですが火器なので雑に扱えば思いもよらない反撃を受けますが……赤子の様に丁寧に向き合うのは違うと言った所です」
「兵器と一緒で大事なのは距離感か……人付き合いと変わらんな」
「はい。見た目が違い意思疎通の方法も違いますが知能も高いですから私達は人の相手をしていると考えて問題無いでしょう」
「襲われない限りはこっちは何もしないしな。集まると眩しすぎるが」
ホシモリがそう言うと、その言葉をちゃんと理解出来た様で精霊達は自分達の光量を少し落としたのでホシモリは笑いながら礼をいった。
朝食を食べ終わり果物の皮や串などを焼却してからホシモリ達は出発する。
小屋を建てた場所からベルナ達が攫われていた場所まで距離はかなり近かったので人攫いの生き残りがまだいるかも知れないと考え少し寄ってみる事になった。
川を渡り崖を下りイクシオーネが走って行くと目的の人攫いの隠れ家にすぐに辿り着いた。
その場所はすでにガーランド達、警備兵達が調査に来ていた様で無数の人の足跡や小型のレムザスの足跡やそこで野営をしたような後が残っていた。
「とりあえず中も調べて見るか」
「分かりました。私は入れませんのでクローク機能を発動し待機しています」
「あいよ。富が欲しい訳じゃ無いが隠した財宝とかあったらいいよな」
「はい。浪漫がありますね」
イクシオーネはすでに地中のスキャンを終えていたのでそういうのは無いと分かっていたが楽しそうにしているホシモリには伝えずにいた。
ホシモリの義眼ではスキャンまではできないので口笛を吹きつつベルナを助けた洞窟にもう一度入っていった。
前に来た時と洞窟の作りは変わっていなかったが光源になっていた灯りなどは全て回収され、警備兵達の物と思われる足跡が大量に残っていた。
なかは暗かったがホシモリの義眼は暗くてもよく見えるので中に何かが残っていないかを調べていると数匹ほ着いて来た精霊達がホシモリの為に辺りを照らす。
「お?ありがとう。お前らが何を言ってるか俺には分からんが……俺達の距離感はこれぐらいがいいかもな。精霊とか良く分からんし」
そう言うと精霊達も頷く様に軽く点滅を繰り返し、洞窟の端の方に集まり少しだけ強く光った。
するとそこに何かがあったようで妖精の光に反射して小さく光った。
ホシモリが近づきそれを手に取るとそれはブローチの様な物で青い宝石がついている物だった。
「価値は分からないが宝が出てくると楽しいな。これだけでも寄ったかいがある」
手に入れたブローチを胸のポケットにしまうと急にイクシオーネから通信が入る。
『相棒。洞窟から出て下さい。木々を走る様に飛びこちらに向かってくる集団があります』
『数は?』
『18になります。装備は弓がメインになり未知の金属で作られた剣や短剣になります』
『了解。相棒はそのままクロークしててくれ。話に聞いた猿達なら話が通じそうだしな。まずは意思疎通を試みてみる。あと、もしもの事を考えて精霊達には離れる様に伝えておいてくれ』
『了解しました。戦闘モードへ移行後待機します』
ホシモリが急いで洞窟の外に出るとイクシオーネはモノアイのカメラを光らせて精霊達に待避する様に伝えていた。
そしてしばらくその場で待っていると思った以上にその連中は速かったようで木々の上でホシモリ達を囲み矢を構えた。
元より戦うつもりなど全くないのでホシモリは両手を挙げて少し待つと金色の長い髪と耳をした女性が弓を構え前に現れた。
「人間達が人攫いを捕まえたと聞いてはいたが……まだ生き残りがいたか」
「俺は人攫いじゃないぞ。人攫いが捕まったと言う情報を聞いたから何か残って無いかと寄っただけだ」
「それを信じる道理は我等にはないが?」
「信じなくてもいいが……無益な戦いにならないか?」
とホシモリが言うと木々の間から小馬鹿にするような笑い声がした後に目の前の女も笑った。
「たかが一人の人間が私達と戦いになるとでも思っているのか?」
「ならんだろうが……勘違いなら戦う必要は無いと思ってな」
「貴様は無知な様だから教えてやるがこの森は人間が一人で入って来られる様な場所では無い。それできると言う事はこの場所を元から知っていて魔獣共から隠れる方法を知っているかだ」
「もっと他にあるだろ……普通に警備兵の方々に聞いて興味本位で見に来たとか」
「ないな。この森の事を警備兵の連中から聞いたのならその恐ろしさも知っているはずだ。来るにしても数人のパーティーかレムザスを護衛につれてくる。だから貴様は人攫いの生き残りだ」
「なるほどな……言いたい事はよく分かる。が、俺は戦うつもりは無いから話し合いで解決しないか?」
「私達はお前達、人攫いに何人という同胞を攫われ奴隷にされたからな!お前達が助けてくれと頼んだ同胞を貴様は助けたか!?」
「だから……おれは人攫いじゃないと言ってるだろ……弁護士か城塞都市の警備兵を呼んでくれ」
「そう言って好き勝手言って逃げるのがお前達人間だから!同胞の敵だ!お前はここで死んでいけ!」
怒りあらわにし、弓を引く金色の髪の女性にホシモリの雰囲気が変わり最後の警告を送る。
「その矢に自分が死ぬ覚悟は乗せているか?その手を離したら俺はお前達を殺す。お前達がどういう境遇にあったかは俺は知らん。俺は俺と相棒が生きて帰る為に戦う。もう一度だけ考えろ、まずは話をしないか?」
その女性はホシモリの妙な気配に少し怖じ気づき力を緩めたが木の上にいる者達は笑った後に怒気を込めて矢を放った。そしてそれにつられてその女性もホシモリに向かって矢を放つ。
もうその場所には冗談を言い合う一人と一機はいなくなったのでホシモリは戦闘服のフードを被り戦闘体勢に入った。
矢は全てホシモリの元に届く前にイクシオーネが姿を消したまま弾道計算をし一瞬でハンドイオン砲で打ち落とした。
放たれた矢が一瞬で燃え尽きた事に女は驚いたが、すぐに次の矢を構えようと目の前の男はいつの間にか背の銃を撃ち終わっており、ドサドサと言う音が背後に響いた。
何の音か分からなかった耳の長い女が後ろを振り返るとそこには五人の仲間が倒れており、全員が眉間を何かで打ち抜かれ絶命していた。
ほんの数秒前まで生きていた仲間がたんなる肉塊になっていた事に頭が追い着かず叫びながら男の方を振り返る。
「貴様ーーーー!何をした!」
ただその叫びに答える者はそこには存在しておらず、右足の太ももに激痛が走った後にそこら火がつき燃え始めた。
激痛と熱さに耐え火を消していると同じ様に焼かれた者や風で首を刎ねられた者、圧縮された水を打ち込まれ体内から破裂した者が木の実でも落ちるかの様に木から落ちていった。
木の上が危険だと判断した者達が地面に降りると何か大きな物に叩き潰され、首には一本の筋が入り頭と胴体が綺麗に分離した。
あまりの惨劇に耳の長い女が小便を漏らすと先ほどの男が何も無い空間から現れ眉間に魔法銃を突き付けた。
「まっ待ってくれ……」
その言葉が聞こえていないのか、男が指に力を入れると何も無い空間から声がした。
「相棒気をつけ下さい。かなりの速度で接近する二人がいます。それの処理は後です」
「分かった」
ホシモリがヒートナイフと超振動ナイフを構えた瞬間に木々の隙間から銀色の鎧に身を包んだ者が現れた。
その素早い動きでホシモリの首を狙った様だったがホシモリは難なくそれを受け止め少し距離を取る。
「私の剣技をこうも易々と受けるとはな……人攫いにしてはよく戦える」
先ほどの耳長い女は大きな杖を持ち同じ様に耳の長い女に助けられほっと一息ついた様だった。
だが助けに来た杖を持った女は顔が青白く目の前の男に恐怖している様だった。
ホシモリに剣を向けた同族もいつの間にか蹴られた様で甲冑の脇腹辺りがハンマーで思いっきり殴った様にベコっと凹んでいた
今の一瞬で目の前の男の危険さが分かったのか剣を持った耳の長い者がため息をつく。
「助けに来た先が死地か……それほどの腕がありながらどうして人攫いなどしている?」
剣を抜いている者にホシモリが答える訳もないので無視すると「寡黙な奴だ」ともう一度ため息をつく。
そしてブツブツと何かを唱えた後に風が騒ぎ始める。
唱え終わると風が生き物ように動き舞上げた葉は刃物ようになり近くの木を切断する。
その事にホシモリは少し驚いたがすぐに距離を詰め対応する。
「お前が見えている葉は全て人間達の武器より切れるぞ!近寄るなど自殺行為だ!」
そうは叫ぶがホシモリからしてみれば、剣を持つ者の身体能力は目を見張る物があったが魔法と思われる現象の動きは単調でとても簡単に避ける事ができた。
ただ確かに単調ではあったが威力に関しても素晴らしい物があり軽く掠っただけでもノコギリで切った様な傷がホシモリの腕についた。
ホシモリが怪我をした事で剣を持った者は調子に乗りさらり動きが単調になった。
もうこれ以上は学べないと判断し自分の魔法に当たるとどうなるか? とホシモリは疑問に思ったので腕を掴んでそのままへし折り風と葉の刃がある方へ向かって投げた。
ホシモリが想像していた様な結果にはならずそのまま木に叩き付けられうめき声を上げた。
その後すぐに大きな杖を持った者が剣を持った者の名前であろう言葉を叫び魔法を唱え始めると大トカゲに回復弾を撃ち込んだ光が剣を持った者を包み込み始める。
それが怪我の回復だとホシモリは判断するとイクシオーネも同じ様に判断し姿を消したまま剣を持った者を文字通り叩き潰した。
回復させていた仲間が意味の分からない攻撃を受けたのでその光景を見ていた二人は半狂乱に大きな声を上げる。
そして杖をもった方がホシモリを睨み魔法を唱える。
「森に眠る神々よ!我等に仇なす者達に鉄槌を!ウィッカーマン!!」
詠唱が終わると杖を持った者の周りに巨大な魔方陣が現れると同時に周りに木々が動き始めた。
そしてそれは生き物の様に動き絡み合い杖を持った者を中心に組み上がっていき人型の巨大な人形へと作り上がった。
小便を漏らした女も人でいう腹の辺りで守られ杖を持った者は心臓辺りに立っていた。
そのウィッカーマンと呼ばれた魔法でできたそれは城壁都市でみたレムザスと同じ大きさがあり強さも未知数だったのでイクシオーネがホシモリに警告する。
「相棒。ウィッカーマンと呼ばれた敵機の性能は未知数です。私に搭乗して下さい」
「分かった。ささっと倒すぞ」
何も無い空間から初めて見るレムザスが現れ驚いているとその背中が割れそこにホシモリが入ったので見た事も無いレムザスに二人はとても驚く。
ただ逆にホシモリとイクシオーネも見た事も無い相手だったがお互いに力を合わせ死戦を幾度となく抜けてきたので人と機械が一つになる感覚に安心を覚え限界以上の性能を引き出していた。
「敵機。ウィッカーマン。魔法により製造された機体になります。兵装、性能全てが未知数ですが……私達が負ける要素は一つもありません」
「久しぶりの搭乗戦闘だ!本気でいくぞ!」
「了解」
自身の全長の倍は軽くある相手にホシモリとイクシオーネは何の迷いも無く向かっていく。