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シモンから物々交換した金を使いホシモリはイクシオーネのバッテリーの接続部を修理していた。
形状などはイクシオーネが紙に書き写しホシモリが設計図を元にヒートナイフで金を溶かし超振動ナイフで加工していた。
「ひどいのはひどいが直せる範囲だからまだいいよな」
イクシオーネを整備する工具が無かったので似た物を加工しそれを使い本体の部品を外していく。
「相棒がプラネット関係の資格を全て取っているのが幸いしています」
「構造が分からんと整備のしようが無いからな。部品さえ集めてくれたら手組みで組める自身はある。まぁ重すぎるのもあるから難しいと言えば難しいけどな」
二人で話ながら整備をしていると奥からベルナが飲み物を持ってやって来た。
「ホシモリさん。どうぞ」
ありがとうと礼を言ってから手を一旦止めて外した座席の下から体を抜いて休憩する。
トレイの上に置かれた飲みのは氷が入っていてそれはとても良く冷えており少し火照った体に染み渡った。
「イクシオーネさんは……私が知っているレムザスとは違って人が乗れる所があるんですね」
「乗れるぞ。人が住めない様な過酷な環境でも任務があったりするからな」
宇宙空間にある小惑星の調査等の事を説明しようと考えたが、ベルナが火口とか雪山の様な所ですか? と言ってきたのでホシモリは便乗するようにそうだと頷く。
「乗る事と乗らない事のメリットはどっちもあるからな。俺は兵士だから相棒に乗って戦場に行くのが仕事だな」
「私に搭乗するメリットの一つとして会話によるストレスの軽減等があります。過酷な環境で任務を遂行する際に話し相手でもいれば心が安らぎます」
「お前の場合はゴリラとか言って煽ってくるけどな」
「相棒の場合は怒ると冷静になるでそれに合わせたジョークです」
二人のやり取りが面白かったのかベルナは口元に手を当ててふふっと笑った。
その笑いに釣られてホシモリも軽く笑ってから整備の続きを始める。ベルナはそのまま倉庫に居着いたのでホシモリは工具等を取って貰い作業を手伝わせた。
「相棒。トルキャット商会のご令嬢に工具を運搬させるのはどうかと思います」
「怒られたら追い出されるだけだろ」
「よく父がレムザスを触っているのみたり手伝ったりしているので大丈夫ですよ」
ベルナに手伝って貰い作業を進めていくと思った以上に段取り良くいき、外していたバッテリーをはめ込んでロックし座席をゆっくりと降ろしイクシオーネに確認をしてもらう。
「どうだ?ある程度はいけると思うが」
「確認します少しお待ちください……………………72……74……現状76%のエネルギーが出力可能です。無理をすると金を使った部分が融解する恐れがあります」
「兵装は何処までつかえる?」
「全て使える様になりましたがイオンレーザーカノンは発射に2分程度の溜めが必要になります」
「って事は現状はほとんど問題ないな……戦闘以外では外装のナノニウム合金の修復にエネルギーを回してくれ」
「了解しました」
ホシモリの義眼にイクシオーネからデータが送られそれをみながら不具合が無いかを調べているとベルナが終わりましたか? と尋ねる。
「イクシオーネさんは直りましたか?」
「ああ。4分の3は直ったな。応急処置って感じだから完璧って言うのは無理だが……よっぽどの事が無い限りは問題ないな」
「なるほど」
「後はトルキャット商会の護衛をして王立都市とか魔導工業都市に行ってからだな。もっと良い金属とかあればもっと良くなるかも知れないからな」
「王宮騎士が使役するレムザスにはミスリルやオリハルコンといった高価な金属が大量に使われていると聞きますよ」
「その辺りも調べて勉強しないとな。金属にも向き不向きがあるしなー」
イクシオーネに倉庫にいる間はナノニウム合金で構成された外装に自動修復させる様に頼んでいると奥から小型のレムザスにに何かを運ばせてシモンがホシモリ達の元にやって来た。
そしてイクシオーネに試作品のパーツができたのでつけてみてくれと頼んだ。
ホシモリがそれを何か尋ねる前にイクシオーネがそれを掴み型に被せるとプラモデルを作るかのようにパチっと綺麗にはまり込んだ。
「流石です。シモン・トルキャット。形状、サイズ供にこれならば問題ありません」
「お褒め頂きありがとうございます。ではこのまま制作を続けますね」
イクシオーネが肩にはめたパーツを取り外すのを見ながらホシモリはその形が何処かで見た事があったので少し考えててから質問する。
「あー……もしかして偽装か?それ中型レムザスの肩だろ?」
「正解です。相棒がレムザス運用の資格を取るまでは私はトルキャット商会のレムザスという形になりますのでその為の偽装です。昨日、シモン・トルキャットに頼みました」
「なるほどなー……そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫です、問題ありません。頑丈そうに見えますが発泡ウレタンによく似た物があったのでそれで形を作り塗装で誤魔化しているだけのハリボテです」
「それだったら重量的にも問題無いだろうし大丈夫だな。シモンさんありがとうございます」
「いえいえ。ホシモリさんやイクシオーネさんがいるだけで開発意欲が湧き上がるので何も問題ありません。ホシモリさん達が落差の山脈から帰って来るまでには仕上げておきます」
シモンにもう一度礼を言ってからホシモリワープポッドの残った部品を回収する為の準備を進めていると今度はシルバが倉庫の外に中型のレムザスに巨大な箱のような物を持たせて待機していた。
「ホシモリ様。パーツの回収に行かれるのならこのケースをお使い下さい。重力魔法が付与してあるのでかなりの物を入れても重さをほとんど感じる事はありません」
凄いなと言って魔法と言うものに呆れているとイクシオーネがその巨大なケースを背負い動きを確認する。
「多少の動きは制御されますが私が入るほどの大きさがあるのに重量は五十キロを切っています。これは素晴らしい物です」
「魔獣等に襲われた場合でもその中に入れておいてもらえれば腐敗しませんで、もし倒して頂ければこちらでトルキャット商会で買い取りしますので!」
シモンの語尾に力が入っていたので遠回しに倒して持って帰ってきて欲しいとホシモリにも伝わったのでパーツを回収して容量があまっていたら持って帰って来ると約束した。
「あと、ホシモリさん本当に気をつけて欲しいのですが……」と前置きし笑っていたシモンの顔から笑みが消えた。
「どうした?」
「落差の山脈の麓の森は本当に広大でその広さはこのフライス大陸の十分の一は締めています」
「自然豊かだな……」
「はい。その自然豊かな森には精霊や妖精といった方々も存在しその中でも森の賢者と言われる方々には本当に気をつけてください」
特徴を聞くと
肉などはあまり食べず
深い森を好んで住む
美しい心と精霊に好かれる
森の外から入ってくる者には容赦しない
最後まで特徴を聞く前にホシモリもイクシオーネにもそれが簡単に想像できたのでホシモリはため息をつきイクシオーネは喜んだ。
「こっちにもいるんだな」
「良かったですね相棒。仲間がいますよ」
「?ホシモリさん達も知っていましたか?」
「知ってる知ってる。滅多に人前には姿を表さないとかそんなのもある奴だろ?」
「はい。一昔前はそうでしたね。今は上の者が人間の街に出てきて交流を初めています。ちなみにベルナと同級生だったりするんですよ」
ベルナと一緒に勉強するソレを想像してホシモリはベルナの肩に手を乗せてお前も大変だなと同情する。
そして話も終わりホシモリはベルナからお腹が減った時にでもどうぞと言われてサンドイッチの様な食べ物が詰まったケースを受け取り街の外へと向かいイクシオーネはクローク機能を発動させその後を追った。
「ホシモリさん大丈夫でしょうか?……何か勘違いしてる様な気もしますけど……」
「まぁ……エルフェス族は森では見る事は無いので大丈夫だとは思います……」
ホシモリ達の背中を見送りながらトルキャット商会の人達が心配しているなかホシモリはイクシオーネに暢気に通信する。
『まぁ人がいるんだからいるか……』
『ですが人間と供に勉学に励むゴリラがいる事にとても驚きました』
『シモンさんが言った特徴がゴリラの特徴と一緒だしな。本物を見た事は無いが地球にいるに奴も相当賢いって聞くしな』
『はい。一度見てみたいものですね』
『ベルナちゃんの学校が始まったら紹介してもらうか、勉強するゴリラとか見たいし』
『プラネットを操縦するゴリラならいますが?』
『いません』
盛大な勘違いをしながらホシモリとイクシオーネは北門を抜け街道から少し離れた荒れ地で人目が無いかを確認してからクローク機能を解除する。
そして後部ハッチを開きホシモリはイクシオーネに搭乗する。
三六〇度すべての視界が開け空や大地が肉眼でみる以上に精密に正確に映し出される。
「やっぱここが落ち着くな相棒」
「はい。エアコンの修理は終えていますのでとても快適し過ごせます」
「それは良かった。よし!早速向かうか、無理の無い範囲で最短ルートで頼む」
「了解しました。スピリットイーターの特別な羽のおかげで私の運動性のはかなり上昇しているのでシートベルトを着用してください」
「了解っと」
シートベルトを締めるとイクシオーネはクローク機能を発動させた後に街道に戻り走り始める。
その速度はホシモリが知っているイクシオーネの速度よりかなり上昇して先を進む馬車などがいる場合はそれを簡単に飛び越えてまるで鳥になったかの様に先を急いだ。
魔導車が馬車の代わりにならないは長距離が無理だとかこの世界の技術について話し数時間が経つ頃には森へとたどりついた。
「人攫いが根城にしていた場所に寄ってみますか?」
「ガーランドさん達が調べるとか調べたとか言ってからもう何も残ってないとは思うが……帰りにでも寄ってみるか」
「了解しました。トイレ休憩などは無しで目的地まで進みますがいいですか?」
「お前な……旅客機じゃないんだからそういう時は止まってくれよ」
木々を縫う様にまたイクシオーネは走り出す。
途中で休憩の為に止まりベルナにもらった様々な具をパンを食べる。
「ベルナ・トルキャットは相棒に好意が有る様に思えます」
「どうだろうな?命を助けたってのがあると思うから好意と言うよりは新しい街で困ってる俺への厚意かなとは思うな。好きという形も様々だしな」
「なるほど」
「好きや嫌いと言うよりは熱病という気もするけどな。まぁ……男が好きな訳じゃないが女はもういいとは思う」
「流石に四回もハニートラップで死亡寸前までいけば懲りますね」
「そういうこった。でもまぁ……このパンが美味いのもいい娘なのは事実だから助けて良かったとは本当に思うな」
「はい。それは私も思います」
ケースの中に小さな水筒も入れてくれてありその中には珈琲の様な飲み物も入っていたのでそれを飲んで一息ついてからホシモリはイクシオーネにまた搭乗し走り出す。
浅い川を走り進んで行くとようやく森を抜け岩肌や空が見える場所までやって来た。
すこし懐かしいなと感じているとイクシオーネは足場が悪いのを特に気にもせずに山を上って行く。
「速度が出てるが大丈夫か?」
「問題ありません。重量が軽減されているので落ち所で体勢を立て直せます。試しに落ちてみますか?」
「信用してない訳じゃ無いから止めてくれ……」
そんな話をしながら途中、群れで襲ってきた山羊っぽい生き物に石を投げて退かしたりして先を急ぐとようやく地図に不時着した場所が近くに表示された。
その場所に向かってイクシオーネが速度を上げるとようやく目的場所にたどりついた。
その場所はホシモリがワープドからコアモジュールを取り外した時と全く変わっていなかった。
「これが何か分かれば欲しがる人も多いだろうが……危険な場所らしいしな」
「そうですね。不時着した時は運が良かったと考え素早く積み込んで撤退しましょう」
「そうだな」
イクシオーネが借りたコンテナを背中から降ろしその蓋を開ける。
そして入らない大きなものは使用可能になったヒートマチェットで小さく切断しコンテナの中に詰めて行く。
ホシモリもケーブルやモニターといった残った小さいものを丁寧に入れていく。
「……このコンテナなにげに空間固定する技術が使われているな」
「その様です。入れた物が振動等で動かない魔法がかかっているとシモン・トルキャットが言っていました。コアモジュールを入れたケースも似た様な物だそうです」
「……帰られる様になってもこの星には連合国も帝国も来られない様にしておかないと駄目だな」
「はい。確実に資源の奪い合いになる星間戦争になるでしょう。人が宇宙服を着用せずに生活できる惑星は本当に少ないですから」
この星の技術の高さやそれを兵器に応用された危険さ等を話し合いホシモリとイクシオーネはコンテナに残骸を詰めて行った。