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「シモンさん。金って何処で手に入るかしっているか?」
イクシオーネのバッテリーの接続部の応急処置に使うので、少しならこの屋敷にもあると言った。
「何に使われるんですか?金は魔力を通しやすく加工も簡単なのでレムザスを作る時に使用するんですよ。その加減で昔は金貨もちゃんと金だったのですが今は黄銅になっているんですよ」
「貴重なんだな。簡単にいえば相棒へのエネルギー供給に異常があって、そこを修理するのは無理だか金があれば応急処置ができるからないかなーと思ってな」
少しまって下さいねと言って見た目以上に素早く動き廊下を駆け抜けていった。そして一分もしないうちに戻って来てその手には金色のインゴットを持っていた。
「こちらの店舗で余裕があるのはこれだけになりますが……足りますか?」
そうシモンに尋ねられたのでホシモリがイクシオーネに通信を入れて質問すると余裕を持って足りるとの事だったのでそれを譲ってもらおうと交渉を始める。
「シモンさん。それを譲ってもらいたいが……幾らだ?人攫いの中に賞金首がいたから多少は金があるが……」
「そうですね……お譲りしても良いのですが……ホシモリさんとはこれからも誠実に付き合っていきたいのでちゃんと交渉しましょう」
それがいいな。とホシモリは頷いてから少し待ってもらい借りている部屋に置いておいたリュックサックを持ってくる。
「ハンター組合へはもういくつもりも無いからここで買い取って欲しいんだが……査定してもらえるか?」
「分かりました。と言ってもホシモリが持っているスピリットイーターの足が欲しかったので交渉に持ち込んだだけなんですけどね」
「それ言わなくてもいいやつじゃないのか?」
「後で分かるとホシモリさんに殴られそうですからね。それでその足の相場ですが……片足とこの金のインゴットの値段が同じぐらいですね」
シモンのその一言に他人が見たら間抜けだと思われる様な顔をして質問を返す。
「はい?金と鳥の足が一緒なのか?養殖したら丸儲けにならないか?金は貴重なんだろ?」
「魔獣を養殖しようと考える辺りがこの世界の人ではないですよね……ものによっては可能でしょうがスピリットイーターは無理ですね」
「なるほどな……やっぱり無知はどこの星でも駄目だな。言葉はある程度覚えたから次は物の価値とか常識の勉強が必要だな」
そう言ってスピリットイーターの足を警備兵達にあげた事を思い出し少し後悔していた。
そして森で取れた物をシモンに査定してもらっているとシルバもやって来てホシモリが採取してきた物を興味深そうに眺め葉で根を包んだ花を手に取った。
「これは……妖精草ですね。これがあると言う事はホシモリさんは東の森をかなり奥まで入っていたんですね」
「ああ。見る物全てが新鮮だったから調子にのって採取したり生体調査とかしてたからな~」
「なるほど。という事は精霊なども見ましたか?東の森の奥深くには精霊の森に繋がっていて運が良ければ会えるらしいですよ」
ホシモリが見た見たと笑いながら言ったのでシモンもシルバも冗談を言っていると思い全く信用していなかったのでホシモリも信じてもらった所で意味は無さそうだったので笑ってその場を流した。
王立都市にいる娘にその妖精草をプレゼントするらしくシルバがその妖精草を買い取り、その他もイクシオーネが図鑑に乗っていた貴重な物だけを集めていたので割と良い金額でシモンが買い取った。
「ホシモリさんはこれだけ貴重な物を集めそれだけ戦闘能力がおありならハンターとしても十分にやって行けそうですね。もうミスリルランクのハンターですし」
「帰るのが目的だからな。ハンターとしてやっていこうとは全く思わんな。そもそもハンター組合でいざこざに巻き込まれたからハンター辞めるつもりだし」
シモンは驚いた後にホシモリに意見を伝える。レムザスの試験を受けるのであればハンターが待っている腕輪と言うのは個人証明になるので高ランクであればあるほど試験で少し有利だと語った。
「まぁ……兵器だし分からんでも無いが……ハンター組合が不正してるんだが?」
「言ってしまえば不正の無い組織は存在しませんからね。王立都市の教会があるんですが……そこに金貨百枚からお布施をすればレムザスの試験が受かりやすくなるという神のお導きがありますからね」
「ええぇぇ……それって只の賄賂じゃ……」
「神のお導きですね。聞いた所では千枚で確実に合格との事ですよ」
「なるほど……神様だからしょうがないな」
「後はそれで合格して自身で店を出したとしてもそこまで優しい業界ではないのでやっていけませんけどね」
「たしかにな……そういえばランバルト大尉はどのランクぐらいの強さだったんだ?ミスリルとはやり合ったが怖いのは魔法ぐらいだったしな」
「最上位のエンペリオンですね。そこまでいくと国からの使命依頼も来ますからかなりの金額が動きますね。その分危険な依頼ばかりですが……最上位ハンターとトルキャット商会でお金を稼ぎ店を大きくして行きましたね。自身が歩く宣伝の様な物なので」
「はー……凄いな。俺には真似できない話だな。俺の場合さっそく喧嘩してるからハンター組合のブラックリストとかにのってるかもな」
「かもしれませんね」
「そこはそんな事は無いと言うとこだとおもうけどな」
そんな冗談を言い合っているとベルナの準備が終わりホシモリを迎えに来たので譲ってもらった金のインゴットを相棒の元に届けてもらう様にシルバに頼んだ。
シモンはシモンでイクシオーネに用事があるようなので娘のベルナとホシモリに気をつけて行ってらっしゃいといって倉庫の方へと向かった。
「大事な娘をこんな訳の分からないおっさんに任せていいんだろうか?」
「わたしは一度ホシモリさんに助けて頂いているのでそれを信用してだと思いますよ?」
先を歩くベルナにホシモリが着いて行くと門を出た所に産業革命時代っぽい車の様な物が待っていたのでベルナはそれに乗り込み、ホシモリにどうぞと呼びかける。
中は木で作られていたが運転席の様な物はなく車の中央に水晶がおかれているだけだった。
「……構造が分からん。誰が運転するんだ?」
「昔は人が運転したようですが今は魔導車が目的地にまで運んでくれますよ。えっと……ホシモリさんは行きたい場所ってありますか?」
「何処でも良いというのが一番困るから……武器と売ってる所につれて行ってくれるか?」
「分かりました。人用の武具を売ってる場所に行ってからレムザス用の兵装が置いてある所に行きましょう。でもどうして武具店なんですか?」
「ん?基本的に一般人に出回る物は兵器から流用した物が多いからな。たぶんだがこの魔導車もレムザスの技術を使って作られてるはずだからな」
「そうなんですね。勉強になります」
ホシモリに感心しながらベルナがが水晶に向かって目的地を伝えると水晶が光った後にゆっくりと魔導車は走り始めた。
その速度は人が走るよりもすこし速い程度の速度だったがゆっくりと景色を眺めベルナに質問しながら進むには丁度良いものだったがイクシオーネから小言の様な通信が入る。
『女生とのデートで武器屋というのは頂けません。相棒はもう少し勉強する必要があります』
『お前な……女相手に油断してると刺されるからこれで丁度良いんだよ』
『ベルナ・トルキャットがそう見えるのあれば眼科に行く事を推奨します。では通信をきりますのでご武運を』
好き勝手に話し勝手に通信を切った相棒に大きくため息をつきその事を目の前の少女に愚痴る。
「女生とのデートで武具が売ってる店に行くのは駄目なんだとよ」
「デデデートですか!?」
「どっちかいうと親子の買い物か?」
「ホシモリさんがいくつかは分かりませんが……お若く見えるので兄弟かと思いますけどイクシオーネさんですか?」
「正解。今頃はシモンさんに本でも借りて読み漁ってるんだろうな」
魔導車がゆっくりと進んで行き障害物や人がいればそれを避けているがセンサーなども確認できない魔導車がどうやって避けているのか? とベルナに質問すると構造まで詳しい事は分からないが魔力探知という機能で魔導車が判断し避けているとの事だった。
ある程度はこの町も調べてはいたが人に聞いて答えが返ってくる事を楽しんでいると目的の武具が売っている店へと着いたのでホシモリとベルナが降りると魔導車はゆっくりと自動で駐車スペースへと移動した。
街の外観とそこにある道具の性能がマッチしてないと複雑な心境になったがベルナと供に武具が売ってる店へと入っていった。
店の中は思った以上に広く、剣や鎧といった武具やホシモリが背負っているダストレールガンに形だけがにた魔法銃と呼ばれる物まで本当に様々な物が並べられていた。
「なぁベルナちゃん。魔法銃ってどう言う物なんだ?魔力を燃料に使う武器とかは読んだが……」
「私も使った事が無いので詳しい事までは分かりませんが……魔法剣と作りは同じらしいですよ。今ホシモリさんが言った用に魔力を使って刀身に炎とかを発生させるのが魔法剣という物です。
「刀身に炎……自分に燃え移らないのか?」
「そっそういう話は聞きませんね」
「でも……炎って事だから熱は刀身に伝わるだろ?持つ所とか熱くなるよな?……ヒートナイフとかヒートマチェットみたいに全く熱を通さない合金みたいのがあるのか?」
「すっすみません……私はそこまで詳しくないので分かりません」
「あれだな……自分のオナラが臭くない様に自分が出した炎も燃え移らないんだろう。そういう事にしておくか」
よく分からない例えでホシモリが納得しているとその話を聞いていた店の店主が笑いながら魔法剣や魔法銃について説明しようか? と言ってくれたのでホシモリ達は礼を言ってからお願いした。
魔法で発生する炎は相手の魔力に引火し傷を負わす物でそれは魔法剣でも魔法でも同じ事だという話でホシモリが言ったように手元に伝わる熱は使用し続けない限りはそこまで熱くならず、仮に熱くなったとしても火に強い魔獣の素材などを使っているので大丈夫との事だった。
「って事は魔力を持ってない奴は魔法をくらわないのか?」
「いや。魔力ってのは言い換えれば生命力だから無い奴はいねーな。仮にいたとしても魔力切れみたいなものだから魔法を使った奴の魔力でそのまま焼かれるな」
「なるほどな難しく考えずに魔法の燃料が魔力って感じか」
「まぁそんなもんだな……というかにーちゃんはミスリルランクのハンターなんだろ?そんな事もしらないのか?」
「ちょっと前までブロンズだったんだがハンター組合のいざこざに巻き込まれたら口止めとしてあげられたからな」
「……それ言っていいのか?」
「広まった所で俺は困らないから問題ないな。それで魔法銃って言うのもそんな物か?」
「ああ。今は客もいないし暇だからな。教えてやるか……と言うかそこの嬢ちゃんは退屈だろ」
「いえ、大丈夫です。詳しい構造まではしらないので勉強になります」
なら大丈夫だなっと店の店主は言ってから立てかけてあった魔法銃を手に取り簡単にバラしてホシモリに構造を見せる。
ホシモリが知っている銃とは全く構造がことなり大昔の銃の様に火薬を使い弾を撃ち出す装置も無く魔力で爆発させて弾を飛ばすという作りになっていた。
その銃のバレルが大きかったのでどんな大きな弾を撃つのかと考えていると店主が弾を持ってきた。
「この弾に魔法を込めて撃つとバレルから弾が離れた瞬間にその魔法を弾が身に纏うんだ。炎だったら火玉だし氷だったら氷玉になるな。弾によっては着弾と同時に発動する物もあるな。爆発系はそういう弾を使う」
その銃を店主に触らせて貰い自身が持っている銃との違いを確かめていく。
「ほーなかなか使いやすくできてるな。この銃も魔力が無いと使えないのか?」
「銃の構え方が素人のそれじゃねーな……まぁいいか。魔力が無くても使えるぞ。弾に魔法を込めるだけだからな。うちみたいに銃が売ってる店なら専属の魔弾屋がいるから好きな属性を込めてくれるぞ。ただ魔力ってのは生物だから一ヶ月もしたら込め直した方がいいな。長いこと置いていると発動しない事も多々あるからな」
「火薬とか使った鉄の弾を飛ばすタイプの銃はないのか?」
「大昔はあったが……基本的に鉄ってのは魔力を流し難く弾き易いんだ。だから魔獣とかで結界みたいな魔法障壁を張ってあると鉄の弾じゃ弾くか流されるからほとんど意味ねーんだよな。その加減で魔法銃ができた感じだな。人によっては魔銃とか法銃っていう」
「高価な金属になるほど魔力を流しやすいと聞きました。金とかはかなり魔力が流れるとの事ですが柔らかいので武器には向かないと父が言ってました」
「嬢ちゃんよく知ってるな。あと金ってのは魔力を流すと柔らかくなるから武器には本当に向かないな。魔法使いの杖とかには使うがな」
「ほー勉強になるな……その魔法銃いくらだ?」
「おっ?買ってくれるのか?」
「ここまで長々と説明してもらってるのに買わないのもな。武器はあるが対抗策が知りたいから買ってみるわ」
「そういう理由で買う奴は初めてだな。弾はどうする?爆発系は駄目だが魔獣とかの柔らかい奴なら弾を回収すれば何回は使えるぞ。基本は消耗品だからな」
「そうだな……五十発ほどくれるか?属性は全属性欲しいんだが……」
「ああ。大丈夫だ。容易するのは時間がかかるからしばらくは他の所で買い物でもしてて帰りにでも寄ってくれ。デートだろ?もっと良い所連れて行ってやれよ」
店主にそう言われベルナは少し赤くなりホシモリは笑いながら先に銃と弾の購入金額を払った。
そして店をでて他に行きたい場所を巡ったり屋台で肉の串焼きなどを購入して食べる。
「ホシモリさんはそういう串焼きを食べるのが妙に似合ってますね?型は違いますがテーブルマナーの様な物ちゃんとできていますし」
「上官とメシを食う事もあったからなー。基本的にメシを食う時は戦場が多かったからこういう食べ方が馴染んでるんだろうな」
戦場と言うのがピンと来なかった様だったがシルバーランスウルフを焼いて食べていたホシモリを思いだしベルナは変に納得した。
そしてその後も街を案内して貰い日も暮れてきたので先ほどの店で銃を受け取り二人は家に向かって魔導車を走らせる。
「ベルナちゃん。今日はありがとな、凄い勉強になったわ」
「いえいえ。私も勉強になりましたしお役に立てて良かったです