20
食事が終わり少し人見知りをするベルナと仲良くなったり、リセムと話している内に夜も遅い時間になっていった。
明日は朝からベルナが街を案内してくれると言い自分の部屋に戻っていったのでリセムも警備兵の宿舎へと戻っていった。
それからホシモリはイクシオーネの事もあったのでシモンに頼み何処か開いている場所が無いかを尋ねた。
「この建物の隣にレムザスを整備する場所がありますが?そこでどうですか。シルバが責任者ですので館の者は中には入りませんので」
「じゃあ、申し訳ないがそこに案内してもらえますか?」
まだイクシオーネのサポートが無いと話し方がおかしくなるがかなり話せる様になったのその事を話ながら倉庫へと向かう。
「ホシモリさんはもう言葉を話せるんですね。ベルナが言葉が通じない人に助けてもらったと言っていたので」
「ハンター組合で言葉の本と使い捨ての水晶を買って頑張って覚えましたね。まぁ……ほとんどが相棒のイクシオーネのおかげなんですけどね」
「あの微妙に高い本と水晶ですね」
「高いかどうかは分かりませんが……必要経費ですね」
目的の倉庫にたどりつくとホシモリが借りた小屋と同じ様な施錠がしてありそれをシルバが鍵を使いゆっくりと開ける。
そしてシルバが「照明」と何もない空間に向かって話すとその声に反応し倉庫内の灯りに光が灯る。
倉庫の中はコンクリート様な物で足場が施工されておりホシモリがしっている工具に似た物や全くしらない工具等もあった。
そのコンクリートっぽい足場をコンコンと叩きながらホシモリは質問する。
「コンクリートですか?」
「はい。祖父のランバルトが考えた施工方法ですね。祖父はセメントと言っていましたが元よりこの星にあった物を改良してコンクリートと呼んでいます。魔法を使って施工しているのでかなり頑丈ですよ」
倉庫の外と中で建物がちぐはぐなのが変だなと思いながら倉庫の奥に目を向けるとそこには中型、小型のレムザスが数機ほど壁に固定され整備されている途中の様だった。
「ここは新製品などを試したりする場所ですので。ここならイクシオーネさんがいても問題無いかと思われます」
「……部外者のトルキャット商会の機密事項を見せていいんですか?」
「大丈夫です。私やシルバの秘密基地の様な場所ですからそこまで重要な物はないですし、ホシモリさんがいた星に比べたらかなり劣る技術ですよ……それはそうとホシモリさん話しにくいのなら無理に敬語で話さなくても大丈夫ですよ?」
「普段から気をつけておかないと上官と話している時に普通に話して怒られるから……難しい所」
「なるほど……ですがまずは言葉を覚えて慣れるのが先だと思いますよ。慣れてしまえば私もシルバも職業上、言葉遣いには気をつけていますので教える事もできますし」
近くにいたシルバも頷いたのでホシモリはその言葉に甘える事にして普段の話し方に戻し話を続ける。
「ありがたい。……それで話を戻すんだが……確かにレムザスやこの星の技術は元の星より劣るんだが全部が全部と言う訳でもないんだよな」
「といいますと?」
「ああ。スピリットイーターの貴重な羽を手に入れたんだが……あれに関しては俺の知ってるよく似た物より数段上位の物になる。アレを作れと言われたら無理と思う」
シモンもシルバも驚いた顔をした後に今は別の部屋に置いてあるがホシモリを初めて見た時にスピリットイーターの足を持っていた事を思い出しながらホシモリの名前を聞いた時に思う所があったのでそれどころでは無かったっと笑った。
「祖父も言っていましたが……あの羽を含めてですが魔力が宿る道具は科学の追従を許さない物があると聞きました」
「魔力ってのも凄いよな。物騒な話になるがハンター組合で襲いかかって来た連中を殺るつもりだったが病院送りで終わったしな。怪我を治療する技術も高いと思う」
その話にシモンは苦笑いをするだけだったのでそういう事に詳しいシルバが会話を変わった。
「治療に関しての手段はとても多いです。薬草と言われる草などもありますしその効果を抽出し作ったポーションという物もありますね。あと、ホシモリさんが倒したハンターの中に白い服を着た女性がいませんでしたか?」
「いたいた」
「あの様な格好をした者は聖職者や神官が多く魔力を使い傷を癒やしたりもできます」
「ガーランドさんの部下がそんな事やってたな……あれが回復魔法か」
「薬草もポーションも非常に種類が多いので基本的に高い物ほど良く回復すると覚えておくといいでしょう。回復魔法は使用者の技量で変わりますから一律に同じと言うのは難しいです」
「って事は……そういうのを使われる前に倒せば言い訳か」
「そうなりますね。その為にパーティーを組んでいるハンター達がほとんどですね。前衛が敵を持ち後衛が倒し支援が回復」
ホシモリとシルバがそんな話をしている間に争い事があまり好きではないシモンは倉庫内のレムザスを動かしてスペースを作り始める。
元からそこまで物が多くなかった倉庫だったので慣れた手つきでシモンが片づけていくとすぐに倉庫の中は整理整頓された。
相棒のイクシオーネが余裕で待機できる程のスペースができたのでホシモリが連絡を入れるとすぐ外に待機していた様だった。
「シモンさんもシルバさんもそこにいると踏まれるぞ」
二人はイクシオーネの姿が見えませんがと慌てたが言われた通りにホシモリの近くにくると何もない場所から声が聞こえた。
「ありがとうございます。シモン・トルキャットとその執事さん」
そう言ってイクシオーネがクローク機能を解除するとマッドコーティングされたガンメタッリクで銀色で縁取られたボディが現れ、モノアイカメラが二人を捉え怪しく光った。
突如として現れたイクシオーネにシモンは腰を抜かし倒れシルバは慌てて転んだシモンを支えた。
「こっこれがイクシオーネさんですか……どうも先程ぶりです。シモン・トルキャットです」
「初めまして、トムキャット商会の執事を務めさせていただいています。シルバ・トルキャットです。ランバルト様から育てていただき私もトルキャットを名乗らせていただいています」
「分かりました。登録しておきます」
シモンもシルバもイクシオーネの事が気になる様で本人から許可を得てからその姿を凝視する。
二人が飽きるまで待っておくかとホシモリが近くの椅子に腰掛けると入口の方に人の気配を感じたので二人の邪魔をしないように話しかける。
『まぁ自分の家だから仕方ないよな。どうする?たぶんベルナちゃんだと思うが……会っておくか?』
『はい。しばらくはトルキャット商会と付き合いが続きますので挨拶は早めに済ませておきましょう』
『了解』
自身の戦闘服のクローク機能で隠れて背後に回ろうかと悪戯心が沸いたが……おとなしい女の子を驚かすのもどうかと思ったのでホシモリは静かに近づき話しかける。
「こーら。良い子も悪い子も寝る時間だぞ」
まさかバレるとは思っていなかったのか物陰に隠れていたベルナが驚いた後に声をあげゆっくりとホシモリの前に現れる。
「ごっごめんなさい。隠れるつもりは無かったのですがお父様とホシモリさんがこちらに来るのが見えたので」
「怒っちゃいねーよ。自分の家なんだからもっと堂々としないとダメだぞ」
少し恥ずかしそうにするベルナを連れて倉庫に戻るとシモンもシルバイクシオーネに夢中になっている様でベルナの存在には気がついていないようだった。
ベルナも自分が知っているレムザスとは大きさは同じだったが形が全く違うイクシオーネに妙な違和感を覚え質問する。
「あれはホシモリさんのレムザスですか?」
「似てるけど全くの別物だな。とは言ってもそんな様な者だから中型レムザスに似た何かぐらいでいいと思うぞ」
「そっそうですか?」
「はい。自身が分かれば何も問題ありません。初めましてでは無いですが初めまして、ベルナ・トムキャット。私の名前はイクシオーネS3000RSです」
レムザスが人の言葉を話すなどと聞いた事が無いベルナは急に話しかけられたので可愛らしい悲鳴を上げた後にホシモリの後ろに隠れる。
「ホッホシモリさん!レムザスがひっ人のことこと言葉を話しました!」
「詳しくは説明できるが……人格コアとか声帯モジュールとか説明しても仕方ないし……そういう者だと思ってくれ」
「ええぇぇ……」
「はい。試作の新型レムザスと考えれば解決します」
「試作機は凄いとお父様から聞きましたが……会話ができるのはその範疇を超えている気がしますが……」
イクシオーネと娘のベルナが話し始めた事でようやくシモンもシルバも気が付きベルナに話しかける。
「ベルナ……見てしまった仕方ありませんが他人にイクシオーネさんの事などを言いふらす様な事をしてはいけませんよ」
「はっはい。分かりました……でもお父様どういう事なんですか?」
「私にも詳しい事は分かりません。ですがこの方はイクシオーネさんと言ってホシモリさんの相棒です」
意味が分からずに頭の上に?マークを大量に浮かべるベルナにイクシオーネが見た目はこの様な形をしているが人格や心と言った物もこの中に存在するので見た目が違うだけの人と思えばいいと言うと色々と諦めてそれで納得した様だった。
「分かりませんけどわかりました……イクシオーネさんはホシモリの相棒でホシモリさんの国で作られた超凄いレムザスでいいですか?」
「それが一番わかりやすいな」
「はい。それでいいです」
微妙に納得した所でシモンがベルナを助けた時にもイクシオーネは隠れていたと伝えるとベルナはイクシオーネにも丁寧に頭を下げた。
自己紹介が終わり夕食の時にシモンが祖父のランバルトとホシモリの父親が知り合いだったという設定を使いもう一度ベルナにホシモリやイクシオーネの事を伝えた。
「そうだったんですね……」
「そういう事だからリセムにも内緒な」
「わっ分かりました!この事は誰にも言いません!」
そう言って小さくガッツポーズを取るような仕草をする少女にホシモリは笑い少しだけ信用する。
その場にいた全員の緊張感が無くなりかなり遅い時間まで話し込んでいたのでベルナが小さく欠伸をしたのでようやく遅い時間だと気がつく。
「お嬢様。もうかなり遅い時間ですのでそろそろ眠らないと明日が辛くなりますよ?」
「でっでも……」
ベルナはまだこの場でホシモリやイクシオーネと話していたそうだったが、シモンに明日はホシモリさんに街を案内するんでしょう? と言われると少し考えた後に諦めた様で皆にお休みなさいと言ってから部屋へと向かった。
シルバもベルナを部屋につれていくと言ったので夜の談笑はこれで終わりを迎えた。
「では、ホシモリさんの部屋はこちらになりますので私が案内しますね」
ホシモリはこの倉庫で眠ろうと考えていたがイクシオーネが先に忠告する。
「相棒。たまにはベッドの上で寝てください。ここの警備は厳重です。何かが起こる可能性はとても低いです」
「先に言われたら仕方ないな……おやすみ相棒」
「はい。おやすみなさい相棒」
シモンとホシモリが部屋を出ると倉庫の明かりは消えイクシオーネも待機モードに入ったのかゆっくりと明かりが消えた。
「見ていて思いましたが、ホシモリさんとイクシオーネさんには家族以上の繋がりがあるんですね」
「初めて会った頃は喧嘩ばっかりしてたけどな。まぁずっと戦場だったからな。あいつのおかげでかなり人間らしくなったとは思うな」
そう言って笑うホシモリにシモンも満足したように笑った。
かなり大きな屋敷だったので部屋につくまではもう少し時間がかかるようだったのでホシモリは気になっていた事を質問する。
「なんで?って言われても理由はそんなに無いと思うが……ベルナとリセムがさらわれたのは身代金とかその辺りが目的か?」
その質問にシモンは少し考え、優しかった顔つきが変わり答える。
「はい。トルキャット商会の技術を盗むのが目的でしょう。ベルナを人質にすれば私が折れると思っていたのでしょう……実際に息子も娘も大事なのでそうなってしまえば命には返られませんからね」
「可愛い娘だしな。しゃーない」
「ですが、トロメスタ侯爵の処刑の日も決まりましたので目立ってこちらに仕掛けてくる事は無いと思います」
「そんな名前だったんだな……まぁ後は命が尽きるまでは何かあると思って行動した方がいいな。ランバルト大尉の孫とひ孫だしな。俺もイクシオーネもできる限りで協力するよ。明日にでも聞きたい事もあるしな」
シモンはありがとうございますとホシモリに頭を下げた。
それ以降は話を変え冗談言ったりして目的の部屋へとたどり着きシモンは自分の部屋へと向かった。
部屋やベッドの大きさにホシモリが戸惑うというハプニングはあったがこの世界きて初めてのベッドを満喫した。