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ホシモリがその字を見て驚いたのを勘違いしたのか……シモン・トムキャットは笑いながら答える。
「変わった絵でしょう?これは文字なんですよ。私の祖父が好きな言葉でした。読み方は」
「鋼心一艦」
まさかホシモリが読めるとは思わずシモン・トムキャットは鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をする。
「鋼心一艦…………プラネットの鋼とパイロットの心が一つになればその戦力は航宙戦艦さえも凌駕する……って意味で日本って国で製造されたプラネットが配備される時にコックピットに貼ってある言葉なんだが……」
それを遮る様にシモンがホシモリの腕を掴み質問する。
「もっ……もしかして鬼のホシモリ……ですか?」
「ちょっとまて……その言い方……まさか本当にランバルト大尉か!?」
「いえ!それは私の祖父です!しかしその名前を知っていると言う事は貴方がツグヒト・ホシモリさんですね!?名前を聞いた時にもしやとは思いましたが!」
「はぁ!?ランバルト大尉の孫!」
よく分からない内容に二人は軽くパニックになり始めたので執事の男性が少し落ち着くようにと二人の間に割って入った。
二人は深呼吸する事でようやく落ち着きを取り戻したが二人とも聞きたい事がありすぎて食事がどうこうと言う話では無かったのでシモン・トムキャットは執事の男性に指示を出す。
「シルバ。私はホシモリさんとお話する事がありますので食事の時間を遅らせる様に言って置いてください」
「畏まりました。旦那様」
「ではホシモリさん。私のこちらへ私の書斎で話をしましょう。シルバも皆に伝え終わったら書斎の方に来なさい」
シルバと言われた執事の男性が頭をさげ部屋から出て行ったのでホシモリはシモンの後ろを歩き部屋を出て行く。
お互いが聞きたい事はあるが頭の中を整理する事でいっぱいだったので一言も話さずにシモンの書斎へと辿り着く。
シモンが近くにあったソファーに座ってくださいと言ったのでホシモリはそこに座ると飲み物は紅茶か珈琲のどちらが良いですか? と聞かれたのでホシモリは珈琲を頼んだ。
すぐにできた様で飲み物を二つテーブルの上に置きてから厳重に鍵がかかった金庫の中から古びた写真の束を取り出した。
「聞きたい事もあるかと思いますが……まずはこの写真を見てください」
ホシモリは何も言わずその写真を受け取り一枚一枚とても丁寧に見ていく。
その写真はランバルト大尉がこの星に流れついてからの撮られており、最初の一枚目は粉々に大破したプラネットと森の中であろう場所が移っていた。
その写真の束はランバルト大尉の人生を映しているようで初めて立ち寄った村の様な場所やハンターになった事を証明する腕輪などが移っていた。
「まぁ孫がいるんだから結婚もするか……」
ホシモリが手を止めた写真には助けた少女にとてもよく似た美しい女性ととても幸せそうなランバルト大尉が写っていた。
何処かの街で店を開いた様で猫が銃を持つ絵が描かれた看板が写っていて写真を見進めていくとそこで従業員を雇い生活をしているようだった。
そして更に写真をめくっていくとレムザスが写ったり赤ちゃんが写ったりしていた。
そして一番最後の写真にはホシモリに肩を貸して貰い煙草を吸っているランバルト大尉の写真だった。
「そういやこんな事あったな……肺を撃たれたのに煙草吸うか?って聞いた記憶あるな」
「祖父もその時の話が本当に好きだったので私が子供の頃から良く話してくれました。上官の命令を無視して一人で突貫し敵を戦滅後に自分を救い出してくれた鬼がいると」
「まぁ……それから鬼のホシモリって言われたから仕方ないか……」
「降伏している敵兵を盾にしてと聞きましたから仕方ないかと」
「言い訳ををさしてもらえるなら……嘘で降伏して後ろから刺してくる奴とかいる戦場だから敵は信用できないんだぞ」
「それも祖父から聞きました……そのせいでホシモリさんに助けてもらった状況になったと……これでこの写真のホシモリさんと目の前のホシモリさんが同一人物である可能性が高くなりましたが合っていますか?」
「信じるか信じないかはお互い様だとは思うが……俺は一緒だと思う」
「はい。私は信じようと思います……ですが祖父は八十六歳で眠りにつきましたので……ホシモリさんが若いというのがとても不思議なんですが……」
腕を組み自分がワープした時の事を思い出しながら答える
「ワープした時に時間がずれたのか?……俺達がこの星に着いたのは一ヶ月と少し前になる」
「私にはそのワープ?と言うのが分かりませんが……祖父はこちらの世界に来る前に大きな戦いがあって動かなくなったプラネット?の中でいた時に爆発に巻き込まれ気がついたら森の中にいたと言っていました」
「簡単に言えば……砦にいたんだがそこを敵に強襲されて偉い人は逃がしたから逃げようとしたら失敗したって話だな……ランバルト大尉を巻き込んだんだな」
ホシモリが写真に向かって頭を下げるとシモンは笑いながら祖父のランバルトは兵士を辞めて商人として成功した事をとても喜んでいたので気にしなくいいと言った。
「そう言えば兵士辞めたら商船の船長やりたいって言ってたな……」
「ホシモリさんと祖父のランバルトは同期なんですよね?」
「ああ。若い時に色々あって兵舎に放り込まれてそこでルームメイトで同期だったな……まぁ聞いてると思うが良く喧嘩した」
「え?喧嘩って言うんですか骨折ったり折られたりしたんですよね?」
「この星はどうかしらないが医療が進んだ世界だったからな……折れたぐらいだとすぐに治る。俺もランバルト大尉も折り方が上手いってのもあったけどな」
シモンがなんとも言えない表情で乾いた笑いする。
そしてお互いに聞きたい事は山の様にあったので一つ質問しては答え、答えては質問を繰り返している内にお互いの緊張なども解けていった。
シモンも宇宙の事やプラネットの事などは祖父のランバルトから聞いていた様でとてもスムーズに話が進んでいった。
そしてお互いの聞きたい事を聞き終えるとシモンはホシモリの手を握って涙を流しながら娘を助けてくれた事の礼を言う。
「ホシモリ少佐……娘のベルナを助けて頂いて本当にありがとうございました」
「ランバルト大尉のひ孫だったとは思わなかったな……人助けはするもんだな。というか似ているのは髪の色ぐらいか?」
「はい。あの娘は妻似なので。息子の方は私によく似ていますよ」
「ん?さっき居なかったが今日はいないのか?」
「はい。息子は一人で任せられる程に働けますので魔導工業都市の店舗を任せているんですよ」
「なるほど」
シモンは思いだしたかの様に手を叩きホシモリに祖父からホシモリにはイクシオーネという相棒がいると聞いたがその方はどうしてるかと尋ねた。
「プラネットの事も聞いてるんだったな」
「はい。中型レムザス程の大きさと聞いています。祖父が乗っていた物は大破したので実家の倉庫にパーツだけだ残っている状態です」
少し待ってなといってホシモリはイクシオーネに通信を入れる。
『今までの話を聞いていてどう思う?』
『十中八九本当だと思われます。先ほどこの家にあるレムザスから面白いデータ取れたと言いましたがあれは関節部等にプラネットの技術が使われていと言いたかったのでその疑問が解けました』
『なるほどなんだが……未開の惑星で技術を流用して良かったのか?』
『細かい事を言えば駄目ですが、死人に口はありません。もしくは帰還する為に技術を使い発展させた可能性もあります。相棒やランバルト大尉の場合は未開の星に遭難という非常事態なのでかなりの事は許されます。生存第一ですので』
『それもそうだな……相棒。シモンさんと話してみるか?』
はい。お願いしますとイクシオーネは言ったのでフードの音量をシモンが聞こえる程の大きさに調整する。
「初めまして。シモン・トムキャット。私の名前はイクシオーネS3000RSです」
「おお!貴方がイクシオーネさんですか!貴方の事もホシモリさんと同じように祖父から聞き及んでいます。それでお姿を見たいのですか?どちらに?」
「そこの窓からそちらを見ていますが姿を消しているの見る事は不可能です。警備のレムザス等もいるので」
「分かりました。お会いするのはまた日を改めましょう」
「はい。それが良いと思われます。それで数点ほどランバルト大尉に関して質問があります」
イクシオーネからシモンに急に質問を投げかけるがシモンは嫌な顔一つせず私に答えられる事なら大丈夫ですよといった。
その事にイクシオーネも礼を言ってから質問を始める。
「この屋敷の庭にいるレムザスですが、各部にプラネットの技術を使われているのはランバルト大尉が伝えたのですか?」
「よくおわかりに……はい。祖父がトルキャット商会を始めた頃は元いた世界の石鹸やボードゲームを大量に作って売り財を得ていました。そしてその財を使い相棒のプラネットを修復しようと試みましたが……」
「上手くはいかなかった」
「はい。どうあがいても科学力が違いすぎるのとパイロットの技術は高かったそうですが、整備できるほどプラネットには詳しく無かったと言ってました」
「そういえばプラネットを整備できる奴ってパイロットではほとんどいなかったな。極地の任務で不具合出たら困るのにな」
「極地にいくのも相棒ぐらいですしプラネット整備の資格を全て取っているのは相棒ぐらいです」
「それで祖父のランバルトはプラネットの修復を諦めたんですがちょうどその時に祖母の部隊に配備されていたレムザスが壊れたので簡単に直してからレムザスの製造、修理、改修等もトルキャット商会でやるようになりました」
「分かりました。レムザスの主兵装は人が使う物に似たものが多いですが兵器に関してはどうですか?」
「凶悪な魔獣が多いので祖父に知っている事を教えてもらい兵装を作ろうと私と私の父も言いましたが……それが新たな火種を生むからと言って武器に関してはほとんど教えてもらえませんでした。後は……この新しい人生では人を殺める為ではなく人の役に立つ物を作ると良くいってました」
「大尉らしい。まぁ……俺もランバルトも嫌っていうほど……違うな。それが当たり前になるほど戦いの中にいたからこの綺麗な星が火に包まれるのが嫌だったんだろうな」
「兵士は他の惑星に技術を持ち込んでは行けないと教え込まれています。ランバルト大尉は真面目な方だったのでそれもあると思います」
「確かに変な所で真面目な祖父でした……」
「最後の質問ですがランバルト大尉の乗っていたプラネットのパーツは全て回収しましたか?」
「はい。かなり細かく分解したので組み直す事は不可能ですが私達の技術が上がった時に流用できる可能性を考えて残してあります」
「私からの質問は以上です。ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそありがとうございました」
イクシオーネとシモンの話が終わったのでまたホシモリとシモンが話し始めたのでイクシオーネの方からホシモリにだけ聞こえる様に話しかける。
『相棒。そのまま聞いて下さい。まだ会ったばかりなので全てを信用する事はできませんがかなりの高確率で信用して良いと判断します。私とランバルト大尉が乗っていたプラネットはほぼ同型なのでパーツに流用が利く可能性があります』
話に合わせてホシモリが頷くとイクシオーネが話を続ける。
『娘を助け祖父の知り合いなので上手く付き合っていけば譲ってもらえる可能性があります。シモン・トムキャットから頼み事などがあれば優先的に受けて良いでしょう』
しばらくその状態でシモンとホシモリが話しているとドアをノックする音がして執事のシルバが戻って来た。
シモンがシルバにホシモリの事を伝えて良いか?と尋ねたので、信用できる人物かと尋ねると祖父のランバルトが育てた孤児との事でこの屋敷の誰よりも信用できると言ったのでホシモリは分かったと言って説明を任せた。
『どこまでランバルト大尉のプラネットが壊れたかは気になるな……俺達はワープポッドに乗ってたから助かったんだな』
『ワープ中に搭乗者を守るのがポッドの役目です。ランバルト大尉のプラネットですがコアなどは壊れたと見て間違いないでしょう。コアが生きて意思疎通ができればその中に眠るデータは人間の記憶を遙かに上回ります』
『うーん。相棒にこの星と同じぐらいの事を教えてもらって商売でも始めようかね。金持ちになれそうだ』
『相棒が望むのなら協力します。ですが昇格を何度も蹴った相棒が今更、富や名声を必要とする理由がありません』
『……無いな。帰る為の富ぐらいか』
等と話ながらシモンとシルバを見ているとホシモリの説明が終わった様でシルバもホシモリの事をランバルト大尉から聞いていた様で主人と同じ様に涙を流し喜んだ。
そろそろ食事の時間になったので娘のベルナや親戚のリセムにはホシモリの父親がランバルトととても仲が良かったと言う設定が作られた。
「言葉とか通じなかったのは別の国で育ったからといっておけば良いでしょう。この写真を見せれば問題ありませんし」
「はい。旦那様もランバルト様によく似ていますので問題ありません」
「別の星から飛ばされてきたとか言ってもだしな……言葉使いだけは丁寧語の方がいいか。シモンさんもシルバさんも実際年上だしな」
「え?鬼のホシモリに敬語とか使われても怖いのでそのままで良いですよ?」
「はい。鬼のホシモリはご健在の様ですし」
ハンター組合の事はもうすでに伝わっていた様だったのでホシモリは誤魔化す様に笑い、秘密を共有する知人達と食事へと向かいその時間をとても楽しんだ。