16
街に七日に一回ほど帰りその他は森の中で狩りをしたり採取をしたりして生活をしていた夜の事。いつもの様に取った魚や肉を焼いたり山菜を油で上げたりしてイクシオーネの小屋を借りた意味がありませんねと小言を言われているとホシモリ達の元に顔なじみとなった者が現れる。
「こいつら毎日くるな」
その生物はイクシオーネやホシモリのクローク機能を見破り接近してきたが特に害はなく只ホシモリとイクシオーネの周りを蛍の様に飛んでいた。
「精霊だったけ?」
「はい。本人達もそう言っていますし本にもそう書かれているので間違い無いでしょう」
ホシモリはまだ人の言葉を覚えるだけで精一杯だったがイクシオーネは精霊達との光によるコミュニケーションで意思疎通に成功していたのでこちらに危害を加えないのならこちらからは何もしないと伝えると夜になりたき火をしていると遊びに来る様になっていた。
「こっちが言ってる事は分かるんだからそうとう賢いよな。話せないだけか?」
「いえ。音は発していますが人間の耳には聞こえない音です。例えるなら犬笛の様な物です」
「光と音でコミュニケーションか……そういう宇宙人もいるな……クローク機能を見破るのは大問題だけどな……精霊使いとかいるらしいから隠れてもばれるな」
「精霊達の話では精霊使いは滅多にいないので大丈夫との事です。別の土地に行ったとしても精霊は基本的に怖がりなので人にはあまり近づかないそうです」
精霊の言葉を通訳するイクシオーネを見ると夜の自販機に群がる虫を想像させる程に群がっていたのでホシモリは嘘くせーと呆れた。
「怖がりだけど好奇心だけは旺盛ってやつか……光でコミュニケーション取ってるなら危険を教えたりする光り方とかないのか?宇宙人でも他の部隊が誤射して宇宙船に当たった時めっちゃ光ってたぞ」
「分かりました。聞いてみます」
イクシオーネのモノアイのカメラがチカチカと点滅を始め、それと同じ様に漂う精霊達も光始める。
初めて見た時は幻想的な光景にホシモリも心を奪われたが慣れて来ると光ってる虫と変わりがないので少しげんなりする。
しばらくすると会話が終わったようでイクシオーネのモノアイの光が止まりホシモリの方を向く。
「教えてもらいました。基本的にはこちらに来ない様に話せば通じるらしいですが。ここは危険。それより先に進めば敵と見なす。と精霊の歌という物を教えてもらいました」
「その最初の二つで通じるな。精霊の歌って言うのはなんだ?」
「はい。精霊達に古くから伝わる契約に似た物でそれを歌えば精霊達から力を借りられるとの事です」
「便利そうだが……無償で借りられる力とか無いだろうし使わなくても良さそうだな」
「私もそう思います。精霊達が嘘を言っているとは思いませんが、私達にはそれを嘘か本当かを判断する材料はそろっていません」
「今の所は困ってないし……話し相手で十分だな。と言うか何で俺達の前に姿を現したんだろうな?」
「はい。それは相棒がこの辺りの生物が食べないような物まで食べていたので興味を持ったとの事です」
「セミとかバッタとか揚げて食ってたのが原因か……お前も食うか?」
そう言って焼けたトカゲを差し出すと子供の様に騒ぎ出しイクシオーネにいらないと伝え、ホシモリがため息をつきながらトカゲを食べるとまた子供の様に騒ぎ出した。
「ゴリラゴリラと言って騒いでいます」
「お前が言ってるんだろ!というかゴリラは草食じゃないのか?」
「基本的には草食ですが昆虫も食べたりしますので雑食です」
へんな事をよく知ってる相棒に感心しながら焼いたトカゲを完食すると精霊達が少し騒がしくなりイクシオーネのセンサーにひっかかる者が現れる。
「気をつけてください相棒。大型の鳥類です」
「……鶏肉か。少し食い足りないぐらい何だが大型って事だから倒しても食べきれないよな?殴って追っ払うか?」
ホシモリがそう言うと精霊達は少し慌てた様にイクシオーネの周りを飛び始めた。
その言葉を聞いたイクシオーネはホシモリに通訳をする。
「精霊を食べる鳥との事なので弱らせるかできれば倒して欲しいとの事です」
「……まぁ意思疎通ができる者優先だよな。相棒もこの数日で魔法に詳しくなったし倒しても罰は当たらんか」
「はい。恩を返しましょう」
その鳥はホシモリ達が想像するよりも速く飛来したので精霊達は木の影などに隠れホシモリとイクシオーネはすぐに戦闘態勢を取る。
「図鑑にはのっていない生物です」
「その図鑑って街の近くに出る生き物だしな。また新しいの買わないとな」
「はい。よろしくお願いします」
その夜に溶け込む様な青黒い体毛でフクロウの様な鳥は知能もかなり高い様で自身を目の前に舐めた態度の二人に怒り翼を広げ威嚇する。
が……次の瞬間にはイクシオーネのヒートマチェットで首を刎ねられ絶命した。
「終わりました相棒」
「容赦ないな……」
「どんな能力を持っているかが不明なので敵対するの者は即座に倒します」
それが正解だよな。と言って戦闘態勢を解くと隠れていた精霊達が喜んだ様に現れ辺りを飛び回る。
「光ってるから解体するには丁度いいな。相棒悪いがどの辺りの肉が美味いか聞いてくれるか?」
「判りました。…………その生物を食べる所を見た事が無いとの事なので判らないとの事です」
「適当にバラして焼いて食うか」と言ってホシモリがヒートナイフで羽毛を焼こうとすると、刎ねた頭の上に精霊達が集まり始め光り出す。そしてイクシオーネと何かを会話している様でイクシオーネからホシモリにその内容が話される。
「精霊達がいる場所の下に特別な羽が有る様です。それをもらって欲しいと言っています」
ホシモリは頷き精霊がいる辺りを羽毛を調べると一本だけ色が違う羽毛が見つかったのでそれを丁寧に引っこ抜く。
これ何だろうな?と尋ねる前に自身の体がとても軽くなった事に気がついた。
「食べた精霊達の力が溜まった羽だそうです。その鳥は基本的に風の精霊を食べるそうなのでその羽には風の精霊ににた力が宿っているとの事です」
「これは凄いな……」とその効果に驚きながも地面を蹴ると体が羽になったように軽くなり地面や気を蹴るだけで軽々と木の上に上れた。
「重力制御装置の上位互換だな……体がマジで軽いわ」
木の上から飛び降りると着地の衝撃もほとんど無くすぐに動けたのでホシモリもイクシオーネの自分達が知っている科学力を凌駕する物があった事にとても驚いた。
「ただ所詮は羽毛なので火には弱いので気をつけてくださいとの事です」
「了解。羽毛だしな。相棒、悪いがコックピットの中に仕舞っておいてくれ。便利だが今の所は必要無いしな」
「了解しました」
背部のハッチを開きコアモジュールの横にその羽毛を入れハッチを閉めるとその効果はイクシオーネにも適用されたようで、ホシモリの様な動きはできなかったが自身の重量がかなり軽くなった事と移動速度が上昇した事を伝えた。
「……プラネットにも適用されるのかよ」
「下手をすれば戦況が変わるほどの物です」
自分達が飛ばされた世界に恐怖を覚えながらもホシモリは鶏肉を焼き心臓近くにあった石を取り出したりする。
精霊達に話を聞くと足も人間達が好んで持って帰るのでそれなりに価値があると教えてもらったので足を切り取った。リュックの中には流石に入らなかったので蔦で縛り持ち帰るこ事にす。
そして鶏肉が焼けたのでナイフで切り取り口に運ぶ。
「どうですか?」
「美味しいんだが……虫っぽいの食ってるからかセミっぽい味がする」
ホシモリに自分達の事を虫っぽいと言われたので精霊達は抗議する様にホシモリの周りを飛び回った。
ホシモリも負けじと食ってみろよ!と精霊達を煽ると精霊はその生物に宿った魔力を食べるようでイクシオーネが魔力の流れを感知した。
そして食べ終わるとホシモリの言った事が正しかったようで少し落ち込んだ後に静かになり夜も更けていった。
朝になり昨日焼いた鶏肉の残りを朝ご飯代わりに食べてリュックサックを確認するといい加減に街に帰らないと駄目だと言うほどに物が詰まっていた。
「流石に街に戻るか……未知の惑星を調べるのが楽しすぎるな」
「はい。その意見に同意します」
精霊達に街に戻ると言う事を伝えると道案内でもするかのように先を飛び始める。
そのルートはホシモリ達も知らない道でとてもスムーズに進む事ができた。ただ二人とも声に出さなかったが道と言うよりは木々が避けている様な印象だった。
「解らない事は魔法って言えば解決するよな」
「空間が湾曲して道を作っている可能性もありますが……言い出すとキリがないのでそれでいいと思います」
陽が真上に来る頃には森を抜ける事ができホシモリ達が街へと向かうと精霊達も森へと帰っていった。
「人間が苦手なのか?」
「そういう訳では無いようですが街が好きな精霊もいれば森が好きな精霊もいるとの事で彼等が後者だっただけです」といってイクシオーネがクローク機能を発動させ姿を消す。
今まではイクシオーネが怪鳥の足を持っていたので今度はホシモリがそれを背負い東門を抜け街へと入っていく。
いつもは朝の速い内に行動していたので街中の人の多さに少し戸惑いながらホシモリは小屋へと向かう。
その道中でハンターとも思われる一団に目をつけられた様でホシモリを観察し目が合うとハンター組合の方向へと消えて行った。
そしてホシモリは小屋を開けイクシオーネに待機してもらうと大きなため息をつく。
「ミスった。あんな能力を持つ鳥の足とか目立つのは当たり前か……捨ててきたらよかった」
「ですが相棒も片言ですが話せるようになったので、次の目標のレムザスの試験を受ける為にお金が必要なので問題ありません」
「……それもそうか。サクッと売ってくるか」
「はい。仮に喧嘩を売られてもハンターの実力が分かるので喧嘩して問題ありません。拳で語り合いましょう」
「それの方が俺らしいしな。行ってくるわ」
「はい。もしもの時はここから狙撃しますので安心してください」
頼もしい相棒の言葉を受けてホシモリはハンター組合へと向かった。
そして中に入ると入口の近くに先程の男達が隠れる様に立っておりホシモリはそれに気がつかない振りをして買い取りをしてもらう場所へと向かった。
そして買い取ってもらう場所へと行くとやはりホシモリが持っている鳥の足は目立つようで皆がホシモリの方を見ていた。
心の中で大きなため息をつき、昼なので人が多い受付で並んで待っていると大きな声が聞こえた。
「あいつだ!」と叫び街でホシモリと目が合ったハンターの一人がハンター組合の職員を連れてホシモリを目指し大声を上げていた。
「あいつだ!あいつが俺達が倒したスピリットイーターを奪った奴だ!」
あんなデカい鳥をどうやって奪うねんとホシモリが考えていると周りにいたハンターも警戒した表情でホシモリから距離を取る。
そしてハンター組合の職員がホシモリを取り囲み質問する。
「すみません……そのスピリットイーターを奪われたというハンターの方がいますので少しお伺い教えてもらいたいのですが……その足をどうしましたか?」
職員を連れてきた男の腕を見ると金色に輝く腕輪が見えたのでブロンズの自分が倒したと言っても嘘だと分かるなと考え少し嘘を付き答える。
「ああ。俺でも倒せるぐらい弱ってるのがいたから倒した……と言うかあんたは誰だ?」
「盗賊ほど嘘をつくってやつか?俺達を眠らせてその間に盗んでいった奴が良く言う!」
これは言い合った所できりが無いと悟りホシモリは話がまだ通じそうな職員に質問する。
「こっちに来たばかりだから詳しい事は知らないが……嘘とか見破る道具があるんだろ?それを使ってくれないか?」
とホシモリが言うと職員はゴールドランクのハンターにはもうすでに使い潔白が証明されたと言い公平性を保つためにもホシモリにも使わせて欲しいと言ったのでホシモリはため息をつきながら了承する。
(まぁ……人間ってこんなもんだよな。いくら握らされたんだろうな?)とホシモリが心の中で笑っていると職員が取り出した水晶が赤く光った。
周りがどよめきその男が勝ち誇ったような顔をした後にその男の仲間達も合流しホシモリを罵倒し始める。
「俺達、スターランスを騙そうってのが無理なんだよ!このブロンズの盗人が!」
その話を無視して近くにいた職員にホシモリは質問する。
「スターランスってなんだ?名前か?」
「こんな時に質問する事ではないですね……ハンターがチームとして登録された名前です。ブロンズの貴方では勝ち目はありませんしおとなしくしてください。初犯なら罪も軽いですから」
ホシモリは笑いながらリュックサックと足を置きその職員の顔面にパンチを入れる。
職員は吹っ飛ばされ気絶し周りは時が止まったかのようにホシモリ見るが等の本人は笑いながら答える。
「その喧嘩買うつもりだから売った奴は気合い入れろよ」