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第一話 お・し・ま・い

夢ってのは記憶の整理をする過程で見るものだと聞いた事がある。


そしてその大半が目を覚ませば忘れていたり朧気(おぼろげ)であったり記憶にはなかなか残らないものだろう


だが俺にはずっと忘れられない夢が一つある。


それは俺を名前を笑顔で呼びかけながら消えていく女性の夢だ。


いつ見たのか正直夢なのかすらも曖昧なものではあるが俺はその光景を見たと……忘れてはいけないと謎の使命感に駆られる程脳裏に焼き付いているのだった。


その夢のせいでずっと俺はこの世界に現実(リアル)を感じれずにいる。



(っな〜んちゃって!! ついポエミーでノスタルジックになっちゃったぜ 仕事終わりで疲れてるんだろうな俺)


(今いるバーガーショップのフライヤーの匂いも今食べているダブチ(ダブルチーズバーガー)の味も食感も咀嚼音でさえちゃんと感覚として伝わっているんだ現実じゃないなんて MATRIXじゃあるまいしw そもそもハンバーガー食いながら考える事じゃないんだわww)



なんでもない日常仕事終わりに立ち寄ったバーガーショップで俺はそそくさとそれを平らげて後片付けの為に立ち上がる すると丁度その時、向かいの席に大きなシルクハットを被った髭面のおっさんが座りつい目が合ってしまった


「何か?」


「あ……いやおしゃれな帽子だなぁと思って へへっ……よくお似合いです」


「それはどうも」



会釈をして平然を装いながらゴミ箱に容器やカップを捨てにいきその足で俺は店のトイレに篭り手で顔を覆う。


(はぁ……やっちゃった……つい見ちゃった……だって英国紳士みたいな格好してるんだもの 誰でも見ちゃうじゃんあんなの……出すもの出してもう帰ろう。)



出すものを出してトイレで気持ちを落ち着かせてから荷物を取りに再び席に戻る すると向かいの席に座っていた紳士は既に消えており、あまりにも早い退店を不自然に思った俺はつい店内を見渡す。



(テイクアウトの客だったのだろうか……にしてはわざわざ受け取り口から遠いこの席に座るのか?)



まぁ考えても仕方ないと半ば思考停止に近い切り替えを行い、俺はそのバーガーショップを出て帰路に就く事にした。なぜなら今俺は仕事帰りで疲れている上腹パン状態な訳で一刻も早く横になりたいから そして何より明日は休日で今日は1週間分の溜まったアニメを視聴しなければいけないから!



スマホでXを見ながら歩く非行が日常化している俺はいつもの様にスマホを右手に持ちゆっくりと歩き始めた。

(あっそうだ 今日APOのアルバムリリース日だ 購入前に一応試聴してみるか……)


俺はスーツのポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し耳に入れようとする……そんな何気ない動機に何気ない行動を取ろうとしたその時……


「そこの方枷鎖難(かさなん)の相が出ていますよ」


突然呼び止められた女性の声に視線を上げると占いの張り紙が張られた机とその奥に小さな椅子に座った綺麗な色白の女性がこちらに笑顔を向けていた。


「かさ……なん?」


聞きなれない単語に思わず聞き返すと彼女は手元の紙にペンでスラスラと枷鎖難(かさなん)と書いて俺に渡し説明してくれる


枷鎖難(かさなん)とは仏教の考えにおける七つの災難 七難の内の一つで投獄や不自由の身になる災難です そうですね……私からあなたに伝えるとするなら……好奇心は猫をも殺すといった所でしょうか」


そう言って彼女は視線を落としたので俺は視線の先をのぞき込むと彼女の膝の上で茶トラ模様の猫が香箱座りをしていた。


「なるほど……だから猫をも殺す……猫ちゃんを殺すなんてとんでもないな」


「えぇそうですね 猫……お好きですか?」


「大好きです 住処の事情でペット飼えなくって 時々猫カフェとかに行くんですけど」


「あらあら……この子大人しいので少し撫でてみます?」


「やったー!! それじゃあお言葉に甘えて」


俺は彼女に言われるがまま何も考えず膝の上の猫に手を伸ばし触れた……その瞬間周囲の見慣れた光景は一気に崩れ去り、ホワイトアウト化した事によって空間と地面の見分けが付かなくなったっというよりかは境目が完全に消えてしまった様だった。


「えっ?」


何が起こったのか理解できずフリーズしていると真っ白な空間の中で女占い師は立ち上がって先程の優しい口調から急変し淡々と冷血に話始める。


「好奇心は猫をも殺すと忠告したばかりだろう? NO.62484927 あぁ そうか今回に至っては猫に殺されたに近いかもね 焦りと困惑感情……やはり覚醒近い者の悪感情は美味い……」


「一体どこなんですかここ!! あなた誰なんです!? 何が目的で……」


そう彼女に問いただした時俺の右腕が彼女によって引き千切られた。


「は」


あまりの衝撃に口から空気が漏れて数秒後一気に右腕の耐えがたい痛みが脳へと駆け上がり、俺は大量に出血する右手の断面を叫びながら抑えた。


そしてそんな俺のもがき苦しむ姿を見てか彼女は恍惚とした表情で蛇の様な舌で舌なめずりしている


「恐怖、苦痛、後悔……やはりこの3種の悪感情は最高ね もっと私に味わわせてちょうだい」


(呼吸が上手くできない……脈も速くて耳鳴りがする………汗が目に染みて上手く目を開けられない……やばいマジで死ぬ……きっと血を流れ過ぎてるせいだ……)



未知の存在である彼女から必死に距離を取ろうとするが上手く歩けず派手に転倒した それでも俺は止まろうとはしなかったし思わなかった 恐らく生存本能からだろうがもぞもぞとまるで蛇の様に這いずり回るのだった。


「食い物で遊ぶんじゃねぇよ……それにコイツはもうウチの家畜だ 記憶を消すにしろ悪影響が出ちまったらどう責任取るつもりだ 性悪女 そもそもアンタは今日この場にいない筈だろ」


聞き覚えのあるその声を俺は這いつくばりながら見上げるとそこにはバーガーショップで出会ったシルクハットの英国紳士が見下ろしていた。


「私がいても困る事はないはずだけれどあえて答えるなら最終選別を兼ねた味見をね こいつは完全に()()だわ 早く連れて行きなさいな」


「………言われなくてもそうする」


英国紳士は俺の千切れた腕に手をかざす……すると先程までの出来事が無かったかのように腕と破れたワイシャツが復元し出血も無くなったがまだ相変わらず胸が苦しく息もしづらい。


「……安心しろお前の本体はずっと五体満足だ 今の辛さも思い込みに過ぎない 」


「ありがとう……ございます」


「礼なんか言うな 管理者としての義務だ」


彼が何者か言動含めて意味が全く理解出来なかったが少なからず彼女と違って敵ではない何かしらを感じ、安心感からか俺は次第に意識を失った。

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