水没都市
今回の短編は、私があまり書かないSFチックなお話「水没都市」。
この短編にもオリジナル曲がついていますので、良ければTikTok、Instagramにて聴けますのでご覧あれ。
さあ、物語と音の世界へようこそ。
「水没都市」
2×××年。
謎の地殻変動により、地球は水没した。
全ての人間が海の藻屑となり、生き残った者はゼロ……
いや、1人いた。
たまたまヘリコプターに乗っていたため救われた、日本人の秦野海斗という男だった。
海斗は水没都市を見下ろした。
「これじゃあ着陸できないじゃないか」
当たり前のことを呟く。
と、ちょうどいいところに、ボートが浮いているのを発見した。
「小説並みに都合がいいな」
小説である。
彼はヘリを海に捨てて、ボートに乗り移った。
「…さて、これからどうするか……」
今のところ、どこにも上陸できる場所がない。
食料はヘリに積んでいたが、数日で尽きるだろう。
とりあえず彼は、生きる方法を考え始めたのだった。
数週間が経った。
地殻変動のせいなのか、12月なのに暑い。
もしかしたら四季がなくなったのかもしれないと、海斗は思った。
ふと浮いている花を見つけた。
「青い薔薇…花言葉は『不可能』。…いや、今は『奇跡』『夢叶う』だったか」
なんとなく青い薔薇を見つめていると、アネモネの花言葉を思い出した。
「確か…『見捨てられた』『見放された』」
海斗は幼い頃、両親を事故で亡くしていた。
育ててくれた祖父母も亡くなり、この世に親戚は1人もいない。
でも、実家が花屋だった彼は、"白い"アネモネの『期待』という花言葉を信じて生きてきた。
期待すればするほど苦しいのは分かっているが、期待せずにはいられない。いつか、自分が孤独から解放されると。そして、今の状況から脱却できると。
海斗は、青い薔薇を一輪手に取って、ボートに乗せた。奇跡を願って、そっと手に取った。
青い薔薇が枯れた頃。
海斗は空腹で、今にも死にそうだった。
ぼーっと空を見上げて
「…結局俺は、孤独なままだったのか」
世界中を見渡しても、地球には自分1人。
どこで誰かが助かっていて、その人と出会えるかもしれないなんて期待していたが、そんな希望の灯も消えていた。
彼はふらっ…と立ち上がった。
「…青い薔薇の花言葉が『夢叶う』なら、俺の夢を叶えてくれ」
海斗は青い薔薇を握りしめた。
そして、海に身を投げた。
どうか、孤独から解放されますようにと願って。
彼が飛び込んだ後、白いアネモネが嘲笑うように流れてきたのだった。
地殻変動が起きる数週間前。
文明の発展により、地殻変動で地球が水没することは予測されていた。
テレビでも報道され、地球人は皆、ある薬を飲むように指示された。
それは、水の中でも息ができる薬。
副作用で声が出せなくなるが、その薬が、水没都市で生きる唯一の方法だった。
ヘリで世界を旅していた海斗は、その事を全く知らなかったのである。
身寄りのない海斗の味わった本物の孤独は、誰も知らない。
ただ今日も、水に溺れた地球は、彼を置いて回っている。
水没都市には、魚のように自由に水の中を泳ぐ人間達が住んでいる。
地球の異常を確認し、地球に急遽不時着した火星人は、彼らを見て、自分たちと同じ姿をしているのになぜ水の中で息ができるのか疑問に思った。
後に彼らは、地球で再び文明を築き始めた火星人に、『人魚』と呼ばれることになる。