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雨色パスク  作者: ちゃだえ
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電車のひととき


「君の名前は?」

「…はじめ」

「今死のうとしてたでしょ?」

女は視線を外さずずっと俺の顔を見つめている


「死んじゃったら悲しむよ?家族とか」

「…両親はもう、死んでいる。住む家もないし今日食べるご飯もない…」

数秒の沈黙が流れる中雨の音だけが響く


「ってことは帰る家ないの?」

「…まぁそういうことだな」

女はそれを聞くとほんのりと微笑んだ


「なら着いてきてよ」

「着いて来いって言われてもそんな急に」


「じゃあ…今度こそ死ぬの?」


そんな改まって「死ぬ?」って直球で言われても…

ていうかさっきからずっと真顔なのが逆に怖く感じるんだが


「そう言われると…」

「ならきまりだね」

そう言われ俺は言われるがままに手を引っ張られ反対の電車の中に入れられた。


「電車の中の方が暖かいね」

パンパンと服に着いている雫を払いフーフーと顔を温めている。


「俺この後バイトあるんだけど…」

「ふふふ。さっき死ぬつもりだったのにちゃんとバイトは行くんだ」


「まあ実際生きてるし」

「死んだことにしてサボっちゃえよー」

「サボると怒られ…」


「3…2…1…」

指を折り、俺の言葉をかき消すかのようになにやらカウントダウンを始めている

「いきなりどし…」


「扉が閉まりますご注意ください」

そうアナウンスは一言告げ無慈悲にも扉が閉まって言った


「閉まっちゃった」

「「閉まっちゃった」じゃねえよ」

「ふふふ。そんな怒んないでよ。ていうか怒られてしまうって理由で動いてたら人生損するよ」


「なぜかお前の言葉は一つ一つ説得力があるのが嫌だな」


「それはどうも。っていうかお前じゃなくてパスクね。年上だからパスクさんでもいいよ」

「年上?」

パッと見俺より1つ2つ下ぐらいに見えるような体格なんだが…


「俺がいくつか分かるのか?」

「17才でしょ?」

「…なんで分かるんだ?」

「感」


何故かバレてる動揺を隠しつつ質問を続ける

「…そういうパスクはいくつなんだよ?」

「女性に年齢聞くのは失礼なんだよ」

「はぁ、男女不平等ってやつだな」

「だね」


その後も会話が続いたが話疲れたのかいきなり電車ではお静かにとジェスチャーでシーとされたので黙ってスマホをいじることにした。


五分ほど経つと次の停車駅のアナウンスが流れた


「次の駅だよ」

「えっ意外と近いんだな」

「事務所があるからね」

「事務所?」


「そ。」

「なんで事務所?」

「まぁ後で話すよ」

話すのがめんどくさかったのかパスクはまたスマホをいじり始めた


着いてきてって言われて行く先が事務所?

もしかしてこいつヤクザか?


---17時18分---



駅を出ると運良く雨が止んでいたのでパスクの行先に身を任せ俺は事務所へと向かっていっている


「事務所はどこにあるんだ?」

「もうちょっとだよ。豪華だから楽しみにしててね」

「事務所に豪華とかあるのか?」

「まぁ多分あるんじゃない?知らんけど」

ほんとに全てに関して適当だな…


「そういえば事務所って何系の仕事の事務所なんだ?」

「んーっとね。だいたいなんでもやってるよ。道案内に人探し。介護、しまいには宅配まで」


「そりゃまた大変な仕事で」

「まるで他人事みたいに言ってるけど明日からはじめもやるんだよ」

「え?」

思ってた回答の斜め上だったから口から素の声が出てしまう


「そりゃあたりまえよ。働かざる者なんとかべからずって言うし」


「食うべからずだろ?」

「あーそうそう。それそれ」


さっきまで学校に通ってた高校生がいきなり働けるのかな。そもそもうちの高校バイト禁止だったような…


「見えてきたよ。あれが事務所」


パスクが目の前にある建物を指さしながら事務所と言っているが、実際にそこにあるのは全身灰色の質素な建物でありさっき言っていた「豪華」とは似ても似つかないような光景だ


「これが豪華か…無色のコンビニって言った方がまだ想像しやすい」

「まぁまぁ。中が凄いんだよ」

「どうだか…」


「ただいまー」入るパスクに続き中に入るとそこは社会の地獄のような場だった


部屋は狭く机椅子共に3つだけ。だがダンボールは山ずみになっていて中には大量の資料のようなものがぎっしり入ってい見るだけでも頭が痛くなってくる


「確かに凄いな…」

「でしょ」

「褒めてないぞ」


って言うかどんな風に過ごしたらこんなになるんだ?

資料の量だけでもすごい量あるし

まず机の上に何個もコップが置いてあったりと汚い。

もし俺がA型だったら今頃気絶してたな


「あーやっと着いた。疲れた疲れた」

大きく伸びーをして少し壊れかけた椅子に座っている


「1人で働いているのか?」

「いやもう一人いるはずなんだけど。靴はあったし多分お風呂じゃないかな」


「お風呂もあるのか?」

「そうだよ。ここは事務所兼家なのだ」

「なのだ…なのか?」


頭悪そうな会話を遮るように奥の扉が開き一人の女が出てきた


優しい緑色の髪に黒く綺麗なジト目。

細身でスラーっとしとしていて妹を思わせるかのようなスタイル

そして何より今現在服装が体と髪にタオルを巻いているだけである…


「あっやっぱお風呂だったんだ」


呑気なことを言ってるパスクとは真逆で目の前のロリっぽい女が鋭くこっちを睨んでいる


「……変態ロリコン…」


女の低い声がただ1つ事務所の中に響き渡った




---ある人達物語---


駅から出てすぐさっきから何回も歩くのが疲れたとパスクがほざいている


「はじめーコンビニ寄らない?」

体をダラーんとしながらだらしない体勢で歩いている


「何か欲しいもあるのか?」

「いや特にないけど寄りたいだけ」

「ないならそのままその事務所ってとこ向かうぞ」

「ちぇー」

口をとがらせ下を向いた


パスク。はじめ



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