命で償え!!!
よろしくお願いいたします。
頬を張られた痛みでジンの意識が覚醒する。両手を後ろ手に縛られ鉄の柱に固定されていてビクともしない。
「ようやくお目覚めのようね?」
「イ……リン……」
ジンの目の前には真っ赤な唇を歪めているイーリンが居た。その横には黒装束を纏ったシノブ。後方には薄ら笑いを浮かべている如何にも雑魚な男達が数人居た。
(忍者のコスプレ? 恥ずかしく無いのか?)
ジンはシノブを痛い物でも見るかのように見ていた。
「何故生きているのかって顔ね? んふふ……ただ殺しても私の怒りは収まらないから此処で貴方に生き地獄とやらを味わわせてあげようと思ったの」
ジンは何で忍者のコスプレをしているんだと言う顔だが? と思ったが可哀そうなので言わないでおいた。
「甘くなったなイーリン、殺せる時に殺しておかないと後悔するぞ」
「それは、経験からの助言かしら?」
「チッ……」
舌打ちしたジンの両頬を掴んだイーリンの唇がジンの唇に押し付けられる。割って入ってきた舌が口内を舐め回す。ジンはイーリンの舌を噛みちぎろうとするも薬の影響か顎に力が入らない。
着ていたシャツが引き裂かれ肌が剥き出しになる。胸から首筋にかけて舐め上げられ……少し気持ち良くなってきたジンだった。
「ここからが本番よ」
「本番? 人前で? アンタそんな趣味があったのか?」
「何考えているのよ!? これよ、これ!」
イーリンはおもむろに取り出した棒状の鞭をポンポンと自身の掌に打ち付けている。その口元は下卑た笑いを貼り付けていた。
少し気持ち良くなっていたジンは落胆した。それもその筈ジンはいたぶられるのが嫌いなのだ。地味に痛い鞭はジンの嫌いな拷問器具ベスト3に入っている。
「泣き叫んで命乞いしても許してあげないから!」
パシンッ! パシンッ! と乾いた音が倉庫内に響き渡りジンの鍛えられた身体に次々と赤い線が刻まれた。
(ほんと、トドメはキッチリ刺さなきゃ後悔するな)
ジンは心で独り言ちた。
□□□
「ダーリンが居ない!」
突然嫌な予感に苛まれたリンカはマークの店から飛び出しジンのマンションへと押し入った。リンカはこう言った勘が鋭いのだ。帰った形跡の無いマンションを飛び出し微かに残るジンの匂いを辿る。
「あっちね!」
目の前を横切る自転車をガシッと掴んで停め、目を見開き怯える男を降ろし跨る。
「これで新しい自転車買って」
「ど……どうも……」
お金を渡し全速力で漕ぎ出す。数分も経たない内に早速パンクした。でも問題無い。道路に線を刻みながら火花を散らし走り抜ける。
(ダーリン無事でいて!)
リンカは心で強く願った。命を狙われているジンが無事でありますようにと……。
実はリンカは少し前に気付いた事があった。(相変わらず尾行していて気付いたのだが)ジンの隣を歩く男女が次の日には死体で発見されると言う事に……。
リンカはハッカーの仕事もしていると言うロウに素性を調べるよう頼んだ。ロウはハッカーとして優秀だった。
暗殺組織フォックスの幹部【冷酷な狐姫・ジン】
ジンが暗殺者だったと知ったのだ。
「恋人が暗殺者でいいの?」
「暗殺者の彼もステキ」
「言うと思った」
更に調べると敵対組織に命を狙われているらしい事も突き止めた。
「数週間前に私を襲った男達はきっとそいつらだわ!」
「えっ? リンちゃん襲われたの!?」
「恋人の私を人質にするつもりだったのね? きゃっ! 嬉しい!」
「相変わらず、人の話を聞かない女だな……」
数日前のやり取りを思い出しながらリンカはとある倉庫の前に着いた。
「此処ね……中からダーリンの匂いがする! 待ってて今助けるから!」
リンカは扉を蹴破り中に入った。突然の乱入者に口を開けリンカを凝視する悪党達。そしてその中央に項垂れるジンが居た。美しい顔とはだけた上半身に幾つもの赤い線が見えた。
「貴様ら私のダーリンに何をした!」
「「「だ……誰だ!?」」」
「美しい顔に傷を付けた報い……その命で償え!!!」
カッと見開いたリンカの目の瞳孔が縦に割れ金色に光った。ゆらゆらと蜃気楼のような熱気が立ち昇りリンカの身体を包み込む。
「通常モード解除。戦闘モード切り替え」
カチカチと腕に取り付けた制御盤を操作し徐々にリンカの姿が変わっていく。
「エンター」
最後にそう言うとボンと白い煙が噴出しリンカの身体を隠した。
「うわああああぁぁぁ!!」
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
「たっ……助け……グフッ……」
男たちの悲鳴が響き渡り白い煙が消える頃、イーリンは視界に捉えたものを見て目を見開く。
そこには、緋色の軍服を纏ったこの世の者と思えない美しい女が立っていた。
□□□
「これは……死に行く者の見る幻なのか?」
悲痛な叫び声と熱風で意識を取り戻したジンが目の前の光景を見て呟いた。緋色の軍服を纏った女が逃げ惑う男達の首に鋭い爪を立て切り裂き息の根を止めている。屍となった身体は女の掌から出る炎で消し炭と化していた。
白銀の艶めく長い髪。白く滑らかな肌。少し吊り上がった大きな目の中には水色の瞳が赤く縁取られ金色の瞳孔が縦に開いていた。その目がジンを捉え、赤い唇が緩やかな弧を描く。頭には髪と同色の尖った耳があり上半身の軍服の裾から幾つもの尾が伸びている。女はその尾をゆらゆらと揺らしながらジンに近付いて来て拘束されていたロープをいとも簡単に切断した。
(神の使いか? それにしても……)
「美しい……」
(人生の最期に見る光景としては申し分無い……このまま静かに眠ろう……)
そう思って瞼を閉じたジンは次の瞬間……口に何かを突っ込まれた。
「ブッフォ! ぺッ!」
「あああ! 吐き出しちゃ駄目よ!」
女は吐き出された瓶を口に含み液体を流し込むと、その柔らかい唇でジンの口を塞ぐ。差し込まれた舌からトロリとした液が流し込まれジンは有無を言わさず飲み下す。その甘い唇を暫くの間堪能していたジンの頬に白銀の髪がサラリと落ちてきた。
(その髪に触れたい……)
女の髪に手を伸ばした瞬間……。
「痛い! 痛い! 痛い! 何だこれ? 何を飲ませたーー!」
ジンは身体を硬直させ悶絶している。女はジンの身体を撫でながら説明した。
「傷の回復薬よ? 回復すると痛みも無くなるから安心して?」
「どんな薬だよ! 安心出来るか!」
「その乱暴な言葉遣いも嫌いじゃ無いぞ? ダーリン」
ダーリンと言う言葉にジンが固まる。その声と馴れ馴れしい口調に聞き覚えがあったからだ。
「アンタは……」
リンなのかと言う言葉は第三者の声で搔き消された。
「姫! 無事かーー?」
「「えっ?」」
二人同時に振り向く。そこには息を切らして駆け寄ってくるマークの姿があった。
「あ~マーク兄ちゃん、ダーリンも無事だよ」
(どこかで見た顔……マーク兄ちゃん? はっ! オカマバーのマー姉さん!?)
この異常な状況に付いて行けないジンは心で叫ぶしか無かった。
「ああもう! 正体晒して! この世界でその姿は受け入れられないって言ったろ! それに狐火使うから強い波動が出ていたぞ! 居場所が特定されてしまうじゃねーか!」
(偽イーリンの正体ってこの美しい女なのか? 頭の耳がピクピクしてる……えええ! 本物? 尻尾もフリフリ……えええ!)
ジンの心の叫びはまだ続いていた。若干キャラ崩壊していた。
「だってあいつ等が私のダーリンを虐めるから」
「こんなチンチクリン男、ダーリンとか呼ぶんじゃねーよ!」
(ほ~う? イイ男ね~って言っていたのは嘘だったのか! 密かに掘られるかと心配して損した!)
「何言ってるの? マーク兄ちゃん! こんなイケメン他に居ないよ?」
「いい加減、その発酵した脳みそ元に戻せ!」
「恋する乙女に何て事言うのよ!」
「恋する乙女は容赦なく丸焦げ死体量産しねーよ!」
「えへへ。つい、うっかり?」
「うっかり丸焦げにされた奴等の気持ち考えろ! で、お前達何者?」
ジンは心の底から声に出して叫んだ。
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