疑心暗鬼、公園デート
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ひとりの男が黒光りする革張りの椅子に座り葉巻をくゆらせている。
彼の名前はカルロ。暗殺組織ウルフの幹部だ。敵対するフォックスの狐姫ことジンに散々コケにされたウルフのボスが暗殺命令を出して数ヶ月が経過していた。そのボスに八つ当たりされていたカルロは命の危険を感じていた。
「くそ! 何処へ隠れやがった! 狐姫!」
そこへ各国に散らばっている諜報員のひとりが密かにやって来た。
「カルロさん! ジンと思われる奴が見付かりました」
中々尻尾が掴めないジンに対して焦りを感じていたカルロは諜報員によってもたらされた情報に浮足立つ。
「何処だ!? 奴は何処に居る!?」
カルロの剣幕にたじろいだ諜報員だったが「東の島国のフォックスのアジトにジンに似た男が出入りしている」と、なんとか報告出来た。
「よくやった! 俺が直々に奴を始末する」
「えっ!? カルロさん自ら出向くのですか!?」
「当たり前だ! 怒り心頭のボスの機嫌を取るのもそろそろ限界だ! いつ頭に風穴が開けられるか……ゴホン! 決して逃げる訳では無いけどな!」
カルロはすぐさま数人の組織の人間を伴い東の国へと飛び立った。
「奴がジンと思われる人物です」
カルロの目の前には地味な恰好のジンがリンカと腕を組みマンションに入るところだった。
「フフフ、間違いない。地味な恰好をしているようだが眼鏡の奥のギラリと光る眼は暗殺者のソレだ」
(ふぅ~命拾いしたぜ!)
「……気にするな、独り言だ」
カルロはうっかり心の声を声に出していた。
(逃げ回っているくせに美女を侍らせていい気なもんだ。人が命の危機に晒されてる間、美女と乳繰り合ってたのか! 許せん! 別に逆恨みでも羨ましいだけでも無い! 断じてな!)
間違いなく(最近女と乳繰り合えないカルロの)逆恨みである。
(ん? あの女何処かで見たぞ? そうだ! 某国マフィアの殺し屋、イーリン! 間違いない! 上手く化けているようだが、この俺様を欺けられると思うなよ!)
カルロも欺くリンカの整形だった。
(しかし何故イーリンが? ジンはマフィアからも狙われているのか? くそう! 横取りされて堪るか!)
「先ずはイーリンから始末するとしようか……」
□□□
「これは罠か?」
ジンはボソリと呟いた。
ジンがリンカに呼び出され向かった先は緑豊かな公園。二人は今ベンチに座り弁当を広げている。
(夜の逢瀬は重ねてきたが今は真っ昼間。突然の誘いに何を企んでいるのかと来てみればこの状況……何が目的だ! イーリン!?)
「愛妻弁当作ってきたの」
色々突っ込みたいジンだったが苦笑いで流す。
「美味しそうだね」
(毒か? いや……人目の多い昼間の公園で毒殺は考えられない。それに俺はどんな毒にも耐性がある。イーリンも知っている筈だ。それにこの弁当……ブタの餌か? ん? 何だこのデジャヴ。取り敢えずこの唐揚げみたいな物体を………くそ不味い!)
ペッ! ジンはリンカに気付かれないように吐き出した。
(毒は入って無いようだ)
「子供は三人欲しいな」
(何の話だ? 遠回しに誘ってるのか? その時はお前の最期だぞ?)
「子供好きなんだ?」
「いいえ全く! あいつ等容赦なく襲ってくるから嫌いよ!」
(だから何の話だ! 何故三人欲しいと言った?)
「俺との子供でも嫌いになるの?」
「溺愛レベルで愛します! 実はもうお腹の中に貴方の子が……」
「指一本入れてねーよ! 殺すぞ!」
(ん? デジャヴ?)
一方、その公園のベンチの後ろに隠れてマークが二人を監視していた。そして目の前で展開されている出来事に、はらわたが煮えくり返る思いを強靭な精神力で抑えていた。
(愛妻弁当だと~!? 食うなよ! 食うんじゃねーぞ! よし吐き出した)
ジンの吐き出した現場を見て喜ぶマーク。
(しかし、何時の間に仲良くなったんだ? 昼間に公園で弁当とか恋人みたいじゃねーか! 店で会ってる時は甘い雰囲気は見られなかったが……きっとアイツが強引に誘ったに違いない! こっそり始末するか……)
ペシペシ!
(痛いな、誰だ俺の尻を蹴る奴は? クソガキか、シッシッ邪魔すんな! お前から先に始末するぞ! ん? 誰か来た)
マークの視線の先にはロウが居た。
「あれ~リンちゃん? 奇遇だね」
「ロウ君! どうしたの?」
「掛け持ちしている会社の営業途中だよ。幸せになる壺売っているんだ、買ってくれる?」
「要らない! 恋人がいるから幸せだもん」
リンカの言葉に憤慨するマーク。
(恋人がいるから幸せだとぉ? 今すぐその口黙らせようか! 姫の恋人と呼ばれて良いのは俺だけだ!)
トントン。
「しつこいガキだな! ああ……お巡りさん。……覗いていませんよ? そうだ! 用事を思い出しました、ではさようなら。えっ? ちょまっ、放せよーー!」
一方、その光景を見ていたロウが目を瞬かせていた。
(あれ? さっき目を付けた男がお巡りさんに連れて行かれてる。壺買って貰おうと思ってたのに、残念!)
「どうしたの? ロウ君」
「ううん、何でもない。それより彼がリンちゃんの恋人?」
「んふふ、イケメンでしょう?」
「えっと……この方はリンさんの知り合い?」
「同僚のロウ君よ?」
(この人が曰く付きの彼か……イケメンて言うけど結構地味で普通だな。あれ? 何か警戒されてる気がするけど気の所為かな? 大丈夫ですよ? リンちゃんには手を出したりしませんよ? お金積まれてもね!)
そんな事を思っているロウにジンが微笑み掛ける。
「初めまして、リンさんとお付き合いしている者です」
挨拶を返すジンにリンカは歓喜していた。
(ジンが私の同僚に挨拶している。同僚と言えば家族も同然。将来を考えて私の家族と仲良くなりたいと思っているって事よね? これはもう結婚まっしぐらって思っても良いよね? 若干、目が笑って無いように見えるけど……?)
「初めまして。リンちゃんの同僚のロウと言います」
(はっ! まさかロウ君との仲を疑っているんじゃ!? 嫉妬? きっとそう! 今まさに冷たい視線を送られたもの! 俺以外の男と仲良くするんじゃない! そんな目だ!)
十中八九ジンはそんな事は考えていない。
(安心してジン! 私は貴方以外の男を愛する事は無いから!)
一方、ジンの視線はロウに向いていた。
(恐らく同業者。俺の暗殺者としての感がそう言っている。イーリンの仲間か? 成る程、偶然を装って変装した俺の顔を確認させるのが目的だな。人の良さそうな顔をしているが……殺した相手は両手でも足りないな。二人同時だと厄介だ! 早い事イーリンを始末しなくては……)
ある意味合ってはいるがジンは見当違いの結論を出してしまった。
「僕はこれで」と去って行くロウの後ろ姿を見つめるジンにリンカが話し掛ける。
「邪魔者もいなくなった事だしデート再開しましょうか? ダーリン」
「ダーリンって呼ぶな!」
(ん? デジャヴ?)
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